優秀な人材を酷使していませんか?
高校野球、佐々木と奥川に学ぶ。エースと心中しないタレントマネジメントの心得
2019.08.22
2019年夏の高校野球は履正社(大阪)の初優勝、星稜(石川)の準優勝で幕を閉じました。今年話題になったのは、投手の球数制限論争。勝利のためならエースと心中か。控え投手を駆使して選手生命を守るべきか。世代間で考え方が対立したのは、モーレツ社員かバランス重視かという今の働き方改革の世代間ギャップと同じようにも見えました。
優秀な人材(エース)に業務が集中し(投げさせすぎて)、次世代の人材の育成ができていない企業は多いのでは? 高校野球の監督にあたる、経営者や人事トップが担う人材管理とは? 大船渡・佐々木問題と星稜の戦いぶりから、スポーツ記者として高校野球を取材していた@人事編集部のライターがタレントマネジメントの心得を探りました。【2019年8月22日、@人事編集部 飯塚陽子】
大船渡・佐々木騒動。球数制限の裏にある「人事的」問題点
昨今話題になってきた「エースの投げすぎ問題」が、今年はいよいよ本格的な論争に発展しました。最速160キロ超を投げる大船渡(岩手)の佐々木朗希投手が、甲子園まであと1勝と迫った岩手大会決勝で監督の判断によって登板を回避。プロ野球界から「英断だ」と声が挙がった一方、「ありえない」という采配批判もあるなど真っ二つに割れました。登板翌日には同校へ「なぜ投げさせないんだ」といったクレームが150件以上届いたことも、世代によっての考え方が違う点を表していたと思います。
一つには「球数制限」に対する考え方の違いがあるでしょう。ただそれ以上に、決勝から数日後の報道で増えた「監督と選手間でコミュニケーションが取れていたのか」という点が気になりました。さらに、コミュニケーション不足に関連して「人事的」問題点で見てみると、「甲子園出場」というチームにとって唯一無二の夢に対して、果たして監督が「適材適所で人材を起用できていたのか」という疑問が浮き上がります。
初の甲子園切符をかけた一戦で、実績があった控え投手ではなく大会初登板の投手を使い、大量失点しても投げさせたこと。4番打者でもある佐々木を打席にさえ立たせなかったこと。報道の範囲でしか知りえないとは言え、チーム全体の夢や目標が、「大エースを守る」という別の大義にすり替えられていたようにも見えました。
「人材の酷使」「コミュニケーション不足」「不適切な人材配置」
企業内で起きている問題にも似ていませんか?
優秀な人材なら利益追求のために酷使してもいいのか
筆者はスポーツライター時代に10大会以上甲子園大会を取材していました。佐々木問題で思い出したのは、ある強豪校監督の「選手を育てるのは、会社で人材を育てるのと同じ」という言葉です。
春夏連覇の実績もあるこのチームは、常にエースと同時に控え投手を育てるだけではなく、レギュラーや準レギュラーを補佐する選手も育てていました。「僕が企業のオーナーなら、間違いなくこいつが社長だ、と思う選手は必ずしもレギュラーじゃない」と言い、私が取材していた当時のチームで「社長」に抜擢された選手は二桁背番号ながら、絶妙な指示出しで主力組のモチベーションを上げるという重要な任務を全うしていました。
いま振り返ると、チームを指揮する監督(企業なら経営者や人事トップ)が、タレントマネジメントのポイントを押さえて選手(社員)を育てていたことがわかります。
タレントマネジメントのステップ
①目的の明確化
②タレントを把握
③タレントの活用、適材適所の配置
④適切に評価する
働き方改革において終身雇用や年功序列システムが崩れ去ろうとしている今、求められているのはこういった経営目標の達成に向けた「タレントマネジメント」であり、評価制度です。
高校野球で酷使された投手が後に投げられなくなってひっそりと引退しているように、企業内でも人材の酷使によって、人知れず(もしかして経営者が気付くことなく)過労やうつ病などによって離職に追い込まれたり、組織内の分裂が起きているのではないでしょうか。
「エースと心中」時代は、もう終わりなのです。
互いの夢を共有する。すると助け合いが生まれる
今大会を沸かせ、準優勝した星稜には、佐々木投手と並んで称されるドラフト1位候補の奥川恭伸投手がいました。佐々木問題もあって連戦での起用法が注目される中、印象的だったのは監督を含めたチーム全体の「エースを壊さない」という共通意識です。
奥川投手が165球を投げた次戦の準々決勝では「奥川を投げさせるわけにはいかない」と打線が奮起して大量得点し、準決勝では奥川本人の「投げたい」の気持ちに監督が応えて先発を託し、味方が先行した上で二番手投手にスイッチ。目的はただ球数を減らすことではなく、ここ一番の舞台でエースを投げさせてチームの夢である全国制覇を成し遂げるため。結果、決勝では先発を志願した奥川が9回11安打浴びながらも完投。敗れはしたものの、完全燃焼できたのは佐々木と対象的でした。
アメリカで注目の「ドリーム・マネジメント」というコーチングプログラムは、社員に夢をもたせ、夢のために自己管理を促すという管理術だそうです。それによると、社員同士で夢を共有することが助け合い文化につながり、エンゲージメントの向上や離職率の改善にも貢献するとのこと。「究極のマネジメントは夢」という言葉が、高校球児たちのまぶしい姿を見ていてスッと入ってきました。
→「究極のマネジメントは夢!」歯科女医が語る、企業の離職率低下と業績アップに有効な「ドリームマネジメント」とは?
「エースを壊す=ドラマチック」はもう時代遅れ
経営者や人事トップが旧来の概念から脱皮できていない企業がまだまだ多いのも現実です。先日、取材したある中堅企業では社長自ら、こんな「残業賛歌」発言をして社員を呆れさせていたそうです。
「Aさんは会社に利益をもたらしてくれている人。いつ寝ているかわからないほど、みんなのために早朝から深夜まで働いている」
優秀な人材だから、仕事が集中するのは仕方がない--。この考え方を捨てない限り、いつまで経っても次世代のリーダー候補は見出せないまま。「エース偏重主義」は、定着率低下につながり、社員のモチベーションを低下させ、結果的に未来の利益を損なうことになります。
効果的なタレントマネジメントを実現するためにはツールの導入もオススメですが、その前に見直したいのは昭和~平成で止まっているその思考をアップデートすること。「肩が痛くてもう投げられない」というシーンがドラマチックに語られたのは平成の時代まで。一部の人材だけに頼ることはそろそろやめて、いま目に見えていないタレントをいかに発掘できるかに注力すべきではないでしょうか。
【編集部より】スポーツ界、芸能界から組織づくりやコミュニケーション術を学ぶ記事はこちら。
- 吉本闇営業騒動。芸人を敵に回した社長会見に学ぶ企業崩壊の落とし穴
- ラグビーU20日本代表元監督が語る、悩めるリーダーへのアドバイス方法
- 中日ドラゴンズ「お前騒動」。与田監督がバッシングを受ける本当の理由
人事評価のアップデートや組織エンゲージメントの高め方、タレントマネジメント導入に役立つ記事とサービスはこちら
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