コラム

大学教員・後藤かずやの「働きかた」研究室 Vol.6


「オロナインをつけたソイジョイです」問題から面接の意義を問う

2019.04.26

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経団連のルールによる採用活動が解禁した。人事担当者にとっては会社説明会や採用面接などを順次こなさねばならず、最も多忙なシーズンが始まったことになる。
そんな中、採用面接におけるある自己PRがTwitter上で話題となっている。面接官からの「あなたはどういう人間ですか?」という問いに対し、応募者が「私はオロナインをつけたソイジョイです」という答えが正しい回答例と断言したものだ。

この回答は本当に「正しい」のだろうか。さらに言えば、そもそも採用面接に「正解」はあるのだろうか。人事担当者の皆さんも「採用面接の意味を誤解している就活生」を見聞きしたことがあるのではないだろうか。
筆者は前職で新卒採用を担当し現職では短大でキャリア支援を研究している。今回は、このような奇策が広まる背景と採用面接の意味などについて、人事担当者の取るべき対応策を交えながら考えてみたい。

目次
  1. 「オロナインをつけたソイジョイ」問題の経緯
  2. 就活本に学生がすがるようになった背景とは
  3. 人事担当者が行うべき「正しい面接の意味」を伝える2つの方策
  4. 教育者の立場から提言したいこと

「オロナインをつけたソイジョイ」問題の経緯

冒頭の回答例は以下の通りだ。これを掲載した就活本は主に面接での一問一答を指南する内容だが、筆者から見て明らかに問題がある。

話題になった面接での回答例

『Q:自分を物にたとえると何ですか
OK例(大塚製薬・合格者の場合):‘‘オロナイン‘‘をつけた‘‘ソイジョイ‘‘です。私はサッカーが趣味で、筋肉をつけるために、よくソイジョイを食べます。この足の筋肉は、ソイジョイの大豆たんぱくのおかげです。しかし、激しい練習で擦り傷が絶えず、いつもオロナインのお世話になっています
工夫のポイント:常識を打ち破る発想で言葉を考えないと、その他大勢から抜け出せない
イッキに内定! 面接&エントリーシート[一問一答] 2021年度版 (「就活も高橋」高橋の就職シリーズ) 坂本直文 高橋書店』

人事担当者であるあなたが面接官であったら、この発言をした就活生に内定を出せるだろうか。言い換えれば、上司である人事部長や役員に自信をもって紹介できるだろうか。

採用活動における「面接」の意味とは

勿論、採用面接はコミュニケーションの場であり「生もの」だ。もしかするとこの発言をした就活生は「非常にユニーク」と評価されたのかもしれない。

しかし、上記を「正解」と考えた就活生がこぞって「オロナインをつけたソイジョイ」を自称し始めたらどうだろうか。それは単なる「奇策にすがった痛い人」であり、コミュニケーションの場である採用面接を軽視していると言わざるを得ないだろう。
面接は就活で唯一といってよい人事担当者と就活生が対面でコミュニケーションを交わす場だ。人事担当者は面接で会話のキャッチボールを繰り返しながら必死に目の前の就活生の人となりを判断している。
一方で、上述のような就活本のニーズが高いのも事実だろう。なぜ就活生は「奇策」を推奨する内容の就活本にすがってしまうのだろうか?

就活本に学生がすがるようになった背景とは

ここでは、就活生が面接対策において就活本にすがるようになった背景に迫っていきたい。実は、就活生が面接における「奇策」を使用するのは今に始まったことではない。

「私は納豆人間です」という自己PR

過去の就活でも「私は納豆人間です(=何事にも粘り強く挑戦する)」や「ここでリクルートスーツを脱いで帰ります(=その会社に就職する強い意志を示す)」という自己PRが「正解例」とされたことがある。いずれも同旨の自己PRをする就活生が多く軒並み評価を下げてしまったというオチ付きではあるが…。

面接にも正解があると信じる就活生

面接のような対人コミュニケーションに「こうすれば絶対合格」などと唯一絶対の解を示すことは不可能なのだ。コミュニケーションが深まるのには複雑かつ固有のプロセスが必須である。前掲書の正解例も、「~ソイジョイ」という発言に至るまでの文脈や関係性があってこそ生きるものなのだ。

しかし、就活生はこれまでの入試などの経験から、採用面接にも正解があると考えがちだ。就活本や就活セミナーなどの就活ビジネスはその優位性をPRするため「奇策」や「正解」を煽ることとなり、結果として冒頭のような「正解例」が推奨されることとなる。

人事担当者が行うべき「正しい面接の意味」を伝える2つの方策

採用面接には「正解」がある、と就活生が誤解しているとすれば由々しき問題だ。人事担当者が面接で測りたいのは就活生の素の姿(人柄など)であり、自社へのフィット感だからだ。「正解」を求めて過度に自分を取り繕うことがあれば人柄がつかめず、結果的に自社へのフィット感も分からなくなってしまう。

では、就活生の飾らない素の姿を見たいと考えるならば、我々人事担当者はどうすればよいのだろうか。まずは、就活生に対し可能な限り面接という場の意味を含めた正しい知識を提供するという方策が考えられる。

1:自社の求める人物像についてより明確に示す

3月以降、人事担当者は合同企業説明会や自社の企業説明会で多くの就活生と接点を持つ。その場を活用して自社の求める人材像についてより明確に示してはどうだろうか。

例えば自社が求める人材について「アットホームな職場なので異年齢異性別の同僚と良好なコミュニケーションが取れる人」や「挑戦的な社風なのでなるべく早期に自立して仕事を完結できる人」など、社会で働いたことのない就活生にも分かるようかみ砕いて説明してはどうか。自社の雰囲気や風土とリンクさせて説明することで採用後のセルフイメージが湧きやすいというメリットもある。早期離職の抑止にも一役買うかもしれない。

何を当たり前な、と思われる人もいるかもしれないが、人事担当者の採用活動は「自社の魅力を強調して伝える」ことが大前提だ。それゆえ、自社に関する話題も「奇麗な説明」に終始しがちで、結果として自社に関する「リアルな声」が共有できないケースが多い。意図的・計画的に求める人材像を掘り下げて語ってはどうか、という提案だ。

2:自社の面接のスタイルと目的を伝える

また、あくまで面接はコミュニケーションの場であるという示唆も必要だ。これまで述べたように就活生は「就活には正解がある」と思いがちで「自分の優位性を伝えてしまえばそれでよし」と誤解していることも想定される。これについても企業説明会や個別相談の場で「我々は面接でこういう姿を見たいのですよ、わが社における面接はこういう場なのですよ」と具体の例示をしながら語ればよい。

さらに言えば、採用広報は自社サイトや就活サイトを介して行うことが圧倒的だが、筆者の経験則上、さまざまな事情から「社員のリアルな声」は掲載しがたい場合が多い。就活のプロセスの中で複数回対面する人事担当者が、フェイストゥフェイスの機会を活用して就活生に直接情報提供するのが合理的なのだ。

奇をてらった受け答えに「フィット感」は感じない

面接は「コンテスト」や「オーディション」ではない。自社にフィットする人材、さらに言えば自分の部下として使えそうな人材を求めているのであって、決して奇をてらった人材を欲しているのではないはずだ。あくまで「この人だったら一緒に働ける」と判断した就活生を採用する仕掛けであり「優秀な人」や「目立つ人」から順に採用するのではない。この面接における考え方を就活生と共有すべきなのではないか。

教育者の立場から提言したいこと

最後にキャリア教育研究者として「オロナインをつけたソイジョイ」問題について、面接の本来の目的に立ち返り提言したい。就活生を送り出す大学サイドが留意すべきこと・できることとは面接の「基本」に徹することである。

「面接に正解はない」ことを学生に理解させる

まず就活生の支援全般を担うキャリアセンターは、ガイダンスや個別の支援の際に「面接はコミュニケーションの場」であることや「奇策や唯一絶対の解は存在しないこと」を口酸っぱく周知すべきだ。

特に就活に不安を抱いている場合、ESや模擬面接で就活本の受け売りの答えしかできないことも多い。その不安を受け止めつつ、対人コミュニケーションにおける基本的なアドバイスに徹するべきだ。その上で、OBOGの体験談や個別にコネクションのある企業の面接情報など、地に足の着いた情報提供を行うのが良いだろう。

奇策ではなく「基本」に即したアドバイスが有効

昨今は卒業生の就職率が大学選びのメルクマールとなっている。ただし、「面接に唯一絶対の解はない」という原則に立ち返れば、就活生が受け売りの奇策に走ることの無いよう支援が必要だ。むしろ、「就活が解禁されたら合同説明会に出かける」「合同説明会の前までに自己分析をしておく」など、スケジュール管理などの基本に即したアドバイスが有効であり、そうした地道な支援の繰り返しが結果として就職率の向上につながるはずだ。

ゼミの指導教員や担任についても基本的な対応は同様だ。大学の教員は必ずしも就職活動の経験を有しているわけではないが、目の前の就活生が社会人とコミュニケーションができるかという視点での指導やアドバイスならば社会人の先輩として対応可能だろう。大げさなものではなく、例えば「人の話を聞けるか」「ちゃんと自己主張できるか」というレベルの示唆で良い。

「奇策」に頼らない学生を育成する方法

このように、大学サイドとしては冷静に、社会人としてのコミュニケーション力を向上させるような指導が望まれよう。就職ガイダンスで外部講師を招へいする際も、内容の検討段階でそうした方向性を重視することで、相当程度奇策に走る学生は逓減できるのではないだろうか。

就活に必勝法があるという姿勢は、コミュニケーションを軽視することにつながる。そのような行為がはびこらないよう、人事担当者や大学サイドが留意して社会人としてのコミュニケーションをサジェスチョンする必要があるのだ。就活生を立派な社会人として育成するという意味では、両者の目的は合致するはずである。

【編集部より】
「学生の本音を引き出す面接術」に関する記事はこちら

執筆者紹介

後藤かずや(山形県立米沢女子短期大学講師) 人事部門で勤務する傍ら、産業カウンセラー、キャリアコンサルタント等の資格を取得。その後、人事・採用・社内研修講師等の実務経験を活かして現職に転身。 専門はキャリア教育、人材マネジメント、人事・労務政策。修士(人間学)。 ビジネスマン向けウェブメディアであるシェアーズカフェオンラインに記事を多数寄稿する他、ブログ・Facebookで「働くこと」に関する論説を展開している。
ブログ:http://goto-kazuya.blog.jp/
FB:https://www.facebook.com/profile.php?id=100009066121606
執筆実績: http://sharescafe.net/author/gotokazu

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