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コラム

大学教員・後藤かずやの「働きかた」研究室 Vol.3


台風直撃でも内定式は行うべき? ~元人事担当者の大学教員が「内定者のハートをつかむ方法」について考えてみた~

2018.11.09

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2018年10月1日、経団連が定める内定の解禁日に、多くの企業で内定式が行われた。そのタイミングで台風が発生し、交通網は大混乱に陥った。その結果、内定式を中止した企業、「台風ニモマケズ」内定式を行った企業など対応が分かれることとなった。内定式は、最もメジャーな内定者フォローの1つである。台風などの災害時には、果たしてどのような対応が望ましいのだろうか。元人事担当者であり、現在は大学教員として学生を社会に送り出す立場から考察したい。

参考:【人事担当者のキャリアを考える】人事担当者から大学教員へ転身した件について。

内定式は内定者フォローのクライマックスである。

2018年10月発表の厚生労働省「新規学校卒業者の就職離職状況調査」によれば、大学新卒者のおよそ3割が最初に勤めた企業を退職している。同じく高卒者は5割、中卒者は7割程度の離職率であることから、「七五三現象」と呼ばれている。

この割合は少なくとも1980年代以降大きく変動しているものではないが、昨今の売り手市場により、早期の離職や内定辞退について心理的なハードルが下がっているのでは、と多くの人事担当者は危機感を抱いていることだろう。

内定後、内定辞退をいかに防ぐかが人事担当者の重大なミッションだ。かくして人事担当者は、折に触れてのメールや電話連絡、ホテルで行う内定者懇談会の企画、内定者専用のWEBサイトの作成など、あの手この手で内定者のハートをつかみにかかることとなる。

内定式は、そんな内定者フォローのクライマックスと言ってよい。社長や人事担当役員から内定者への熱い訓示を行い、内定証書を手渡す。その後は若手社員との懇談や現場の管理職からの業務説明などを実施することで内定者の不安を解消し、入社前から愛社精神を刺激する内容を展開するのが一般的だ。

その裏で、人事担当者は幹部社員の日程調整や参加者の宿泊の手配、参加する社員との打ち合わせや名札の作成までさまざまな業務に忙殺される。かつて内定式を担当した筆者の経験則上も、正直に言って多少の悪天候なら予定通り開催したい、ましてや延期は避けたいというのが人事担当者の実感ではないだろうか。

従来より軽い「内定」の価値。

一方、先に述べた通り売り手市場の今、「内定」や「採用」の価値が従来より下がっているということは意識しなくてはならない。内定後にも就職活動を継続するケースや、採用後間もなく転職活動を開始するケースが例年に比して多いという。

また、内定が労働契約とほぼ同等とされ企業側に強い拘束力が発生する一方で、憲法の職業選択の自由の観点から、学生に対する拘束力は極めて限定的である。そのため、良い悪いは別として内定受諾後にそれを辞退する学生が続出することになる。企業側に何か粗相があった場合、内定辞退のリスクは限りなく高まるのだ。

災害時に内定式を行うべきではない理由。

上記の状況を鑑みれば、筆者は災害時に内定式を強行することは合理的でないと考えている。

昨今は、災害時に何が何でも出社させる行為自体が「ブラック企業」と批判されてしまう。災害時に外出する人が増えれば、交通渋滞を引き起こし、二次・三次被害を誘発する恐れもあり、内定者がけがをした場合、会社には労災や賠償のリスクも発生する。

MS&AD 基礎研究所株式会社の「働き方に関する意識調査」では「ブラック企業のイメージ」として、50%の人が「精神論(やればできる、気合で 何とかするなど)が語られることが多い」と回答した(「多い」「やや多い」の合計値)。

また、株式会社マイナビの「2018年マイナビ新入社員意識調査」によれば、仕事への期待と仕事に対する夢の有無について、今年は一転上昇したという(「仕事への期待がある」と答えたのは74.1%で過去最高(”どちらかといえば”を含む)、「仕事を通じて叶えたい夢がある」も71.8%で前年比4.5ポイント増)。

上記の調査結果を見れば、「台風が来ようが内定式には参加せよ」という命令はブラック企業と言われかねず、内定者の前向きな夢を摘み取ってしまう行為となる。愛社精神を植え付ける式典が、かえって逆効果となるのだ。

内定式にこだわらず、内定者のニーズを把握する

内定者フォローの方法は内定式に限ったものではない。また、会社を好きになってもらう方法も、内定証書の交付だけではないだろう。たとえ内定式が中止になったとしても、採用前研修の実施や諸々の連絡を通して個別にフォローを行うことは十分可能だ。このような人事担当者のちょっとした気遣いや工夫次第で内定者のニーズにこたえることができるのだ。

一例として、筆者が人事担当者時代、内定式で内定者と採用時に面接官を務めた人事部幹部職員の面談を企画した。面接官から内定者のどこを評価し内定に至ったのかを率直にフィードバックすることで納得感を担保し、内定式から採用までの不安感を逓減するのが目的であったが、「面接での評価を直接伺えるとは思わなかった」と好評を博することとなった。もちろん、面談のやり方としてはスカイプなどを用いれば遠方の内定者とも実施可能だ。結果として内定辞退に一役買うという効果も見込めるだろう。

以上のことから、台風などの災害時は「あなたの身の安全が心配なので自宅で待機してほしい。今後のことは会社で考えるから」といった身の安全を最優先する対応が望ましいと考えている。代わりの内定者フォローについては、手を変え品を変え、改めて実施すべきではないか。

株式会社マイナビの「2016年卒マイナビ学生就職モニター調査 10月の活動状況」によれば、内定者フォローを受けたい理由として「入社後の仕事内容について深く知りたい(57.0%)」が最も多く、次いで「内定者同士の人間関係を深めたい(55.9%)」となった。また、内定者フォローとして希望するものは「内定者懇親会(39.2%)」「勉強会・グループワーク・研修(36.6%)」「先輩社員との懇親会(32.0%)」が上位である。この結果からも、内定式に限らず、先輩社員を交えて内定者懇親会を行うことや、通信教材を用いた採用前研修を行うことなどについても一定のニーズがあることが分かる。さらに言えば、それらは10月1日のにこだわらず実施可能なものばかりだ。

特に理工系の学部に属する内定者は卒業研究で多忙だ。文系の内定者も、卒論作成などで決して暇なわけではないだろう。10月1日が平日の場合、1日とは言え内定式への参加を強制することで、学業に対する負担感や会社に対する不信感を与えかねない、というのは考えすぎではない。また、10月1日に多くの学生が講義を欠席することについて快く思わない大学関係者が非常に多いというのが実感である。

10月1日の内定式実施にこだわり過ぎず、内定者のニーズを把握すること。そしてニーズに合致した企画を柔軟に実施すること。基本的な対応かもしれないが、それこそが各企業ならではの「内定者のハートをつかむ方法」となり得るのではなかろうか。

【編集部より】
「災害時の対応」に関する記事はこちら。

「内定式」に関する記事はこちら。

執筆者紹介

後藤かずや(山形県立米沢女子短期大学講師) 人事部門で勤務する傍ら、産業カウンセラー、キャリアコンサルタント等の資格を取得。その後、人事・採用・社内研修講師等の実務経験を活かして現職に転身。 専門はキャリア教育、人材マネジメント、人事・労務政策。修士(人間学)。 ビジネスマン向けウェブメディアであるシェアーズカフェオンラインに記事を多数寄稿する他、ブログ・Facebookで「働くこと」に関する論説を展開している。
ブログ:http://goto-kazuya.blog.jp/
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執筆実績: http://sharescafe.net/author/gotokazu

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