フリーランス女医が本音で語る女性活用
生理休暇について、職場と働く女性が知っておきたい基礎知識
2018.05.28
働く女性の権利である「生理休暇」。女性特有、しかも人それぞれに事情が異なるため、取得する側はもちろん、この制度を管理し運営していく企業側での苦労も多いのではないでしょうか。
今回は、「ドクターX~外科医・大門未知子~」(テレビ朝日系)など医療ドラマの制作協力に携わり、医療の世界の第一線で働く女性である筒井冨美氏に、生理休暇についての基礎知識と職場での対応について解説していただきます。
生理休暇の基礎知識
生理休暇とは「生理日の就業が著しく困難な女性が休暇を請求したとき(中略)就業させてはならない」「拒否した使用者は30万円以下の罰金」と、労働基準法に68条に定められた権利である。しかしながら、平成27年雇用均等基本調査によると、「生理休暇を取得した女性労働者は0.9%」「請求された事業所は2.2%」と、活用されている制度とは言い難い。
本人の訴えだけで請求可能
生理休暇の請求は本人の主観的な訴えのみで可能であり、医師の診断書などの証明義務はない。生理休暇の日数に法律上の制限はないので、「私、生理がすごく重いんです!」と主張して、毎月10日間の休暇を行使しても違法ではない。そもそも、戦後のナプキンすらなかった時代に制定された法律なので、現代の医療水準やライフスタイルにそぐわないのも否めない。ゆえに、「働く女性の大切な権利」であると同時に、悪意を持った労働者が過剰に請求したら、職場が大混乱するリスクも大きい制度である。
JAL破綻の一因?
かつての日本航空は、客室乗務員が10/25と11/5に生理休暇を申請しても「月が違うのでOK」と難なく取得できたそうである。また、生理休暇を申請するフライトは国内やアジア近距離の日帰り便に集中し、人気のステイ先でもあるミラノ・パリ・ローマ便は稀だったらしく……そういうユルユルの人事管理が各方面で積もった挙句、2010年の経営破綻を招いたことは想像に難くない。
参考:JAL崩壊 (文春新書)
生理休暇は無給でもかまわない
という訳で、実際に部下に生理休暇を請求されたら、管理職はどのように対応すべきなのだろうか?
まず、管理職として知っておくべきは「生理休暇は無給でもよい」ことである。過剰な請求や同僚との軋轢を予防するためにも、予め無給と定めて就業規則に明記しておくことをお勧めしたい。
二人きりの話し合いは避ける
生理休暇に関する話し合いの場を設ける場合、「密室で中年男性上司と若い女性の二人きり」というのはお勧めできない。相手の希望に添えなかった場合、後で「生理や性経験について興味本位で根掘り葉掘り訊かれた」「セクハラ!」等と告発された場合、上司や会社が身の潔白を証明することが著しく困難になるからである。
そのため、生理休暇について話し合う場合には、ぜひとも立会人を含めて3人以上での話し合いをお勧めする。立会人としては産業医がベストだが、困難な場合にはベテラン女性職員もベターである。話し合いの内容は、直後にメールなどで共有して文書化しておくことをお勧めする。
同時に婦人科受診を促すべし
また、生理休暇を認める場合には、同時に婦人科受診も促すべきである。「仕事ができないぐらいの頭痛や腹痛」ならば病院を受診することが一般的なのに、生理痛に関してはなぜか日本は「生理なんだから仕方がない」と鎮痛薬などで誤魔化してガマンすることが多い。しかし、重い生理痛の裏には、子宮内膜症やガンなどの病気が隠れていることが多く、また子宮内膜症を放置しておくと重症化し、将来の妊娠・出産の障害になる可能性も高いので、これを機会に定期的な婦人科受診をすべきである。
避妊だけではない、ピルのメリット
ここからは、働く女性側が知っておくと有用な知識について紹介しよう。
重い生理痛の場合、婦人科では漢方薬と並んでピルを処方されることが多い。ピルとは本来は丸薬という意味だが、ここではエストロゲンやプロゲステロンなど女性ホルモンを含む錠剤のことを指す。女性が生理周期に合わせて服用することで排卵を抑制し、100%に近い避妊効果を得るだけではなく、「生理が軽くなる」「規則正しく生理が来る」「生理前のイライラが減少する」「ニキビが減る」「将来の卵巣がんや骨粗しょう症の確率を減らす」などの効果が報告されている。
ピル服用スケジュールを変えて生理日を移動させることも可能になるので、旅行や試験日と生理日をずらすことも可能である。デンマークの研究では「長期間ピルを服用して中断した女性は、服用しなかった女性よりも妊娠率が高い(10年間の服用で1.23倍)」という報告もある。女性の晩婚・晩産化が進行した現代では、とりあえず使わない卵巣はピルで休ませておく方が、イザという時に活躍するようである。
当然のことながらピルにも副作用はある。最も懸念されるのは、喫煙者の血栓症のリスクが高まることだが、そもそもタバコは美容にも妊活にもお財布にも百害あって一利なしなので、これを機会に禁煙すべきだろう。
その他、「ムカムカする」「むくみ」などのトラブルを自覚するケースもあるが、ピルにも種類があるので自分に合った製品に出会うまで何種類か試してもよいだろう。現在では、「第四世代」と呼ばれるホルモン量を抑えた極低用量ピルも発売されており、母親世代のイメージするような重い副作用は軽減している。
オンライン診療を活用せよ
2018年4月より、ネット診療の範囲が大幅に拡大された。「ネット経由であらかじめ医療機関を予約して問診票に回答しておき、予約の時間になるとパソコンやスマホ経由で医師の診察(動画もしくはチャット)を受け、登録したクレジットカードで決済し、後で処方箋や薬が自宅に配送される」というシステムである。
ピルの処方でも、2回目以降の外来はオンライン診療を受け付ける医療機関が増えている。その他、花粉症、糖尿病、高血圧、ED、AGA(薄毛)などオンライン診療を始める医療機関や疾患は日々増加中なので、社員の仕事と健康管理の両立に活用したい。
産み終えた女性はIUS(ミレーナ)を
既に子どもがあり、今後の出産予定のない女性にはIUS: Intra-Uterine System(商品名:ミレーナ)がお勧めである。いわゆる避妊リングに黄体ホルモンを添加したものであり、子宮内にリングを装着するとジワジワとホルモン剤が子宮内膜に作用するので避妊と同時に生理が軽くなり、一度挿入すれば約5年間は有効である。事情が変わって再び子供が欲しくなった場合は、摘出すれば妊娠可能になる。
働く場所にこだわらない制度が、社員の健康管理にも効果的
とはいえ、「職場で生理休暇と口に出すのはちょっと…」という抵抗感が働く女性にあることは仕方がないことである。
女性活躍の項でも述べたが、職場側は、社員の健康管理という意味でも、男女を問わず利用できるフレックス勤務や在宅勤務制度、そしてネットによる業務合理化を整えてゆくのが良いだろう。「結果を出せば、働く場所や時間にこだわらない」制度を整えてゆくことが、根本的な解決方法なのである。
執筆者紹介
筒井冨美(つつい・ふみ) 1966年生まれ。地方の非医師家庭に生まれ、某国立大学を卒業。米国留学、医大講師を経て、2007年より「特定の職場を持たないフリーランス医師」に転身。本業の傍ら、メディアでの執筆活動や、「ドクターX~外科医・大門未知子~」(テレビ朝日系)など医療ドラマの制作協力にも携わる。近著に「フリーランス女医は見た 医者の稼ぎ方」がある。
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