地域活性株式会社・木村由希氏インタビュー
「保活」をなくす糸口に? 企業主導型保育を活用した先進事例
2018.04.05
(きらり保育園・ほしぞら保育園を運営する地域活性株式会社代表取締役・木村由希さん)
「働きたいのに、子どもをどこにも預けられない」。待機児童の問題は、ワーキングマザーにとっては特に切実な問題だ。政府は待機児童問題の解消に向けて保育の受け皿を拡大する政策に取り組むが、その中で2年前に新設されたのが「企業主導型保育事業」だ。
企業主導型保育とは何なのか、そして待機児童解消への新しい選択肢になるのか。この春新しく開園予定の保育園を取材した。
「企業主導型保育」って何?
話を聞いたのは、この春から新しく開園する企業主導型保育の「ほしぞら保育園」(宮城県仙台市)。「企業主導型」の保育園といっても、特定の企業の施設内に保育園があるわけではない。企業がこの保育園と利用契約を結ぶことで、自社の受け入れ枠を確保することができる仕組みだ。同保育園は開業前の現段階で、すでに複数の企業と契約している。
「女性の職場をちゃんと準備していきたいという企業に声がけをしています。『提携保育園がある』ということは、子どもを持つ女性にとっては応募の際の安心につながりますし、企業にとっても、出産や育児を機に仕事を辞めていく女性従業員の離職を防ぎ、定着しやすい職場環境を整備できるというメリットがあります」(保育園を運営する地域活性株式会社の代表取締役・木村由希さん)
政府は2016年、待機児童解消のための政策の一つとして「企業主導型保育事業」の取り組みを始動した。これまで企業が自社の施設内などに保育園を設置することはあったが、設備や運営に大きな資金がかかるため、自社で保育園を立ち上げることができる会社は限られていた。今回の企業主導型保育事業では、企業が保育園を新設すると、運営費・整備費について認可施設並みの助成が受けられる。また「ほしぞら保育園」のように、他の企業と共同で利用することができたり、従業員でない地域住民の子どもを受け入れたりすることもできる。費用面の補助と柔軟な制度設計で、企業側から保育の受け皿を拡大するねらいだ。
認可保育園入園の「ポイント制度」の壁を超える
都道府県知事に認可された「認可保育園」への入園を希望するとき、多くの人の前に立ちはだかるのが「ポイント制度」の壁だ。認可保育園では、募集人数を超える応募があった場合、保育を必要とする程度や家庭の状況を点数化し、ポイントの高い子どもから優先的に利用施設が決まる。人口が密集する都市部の地域では競争率が高くなるため、たとえ両親ともフルタイム勤務であっても認可保育園に入れないケースは多々あり、フルタイム以外の形態で働く都市部に暮らす親たちにとっては、より入園へのハードルが高いということになる。
「企業主導型保育では、各市町村の窓口へ申し込む必要がなく、認可保育園のように点数で決めるということはありません。ほしぞら保育園でも、入園条件を満たしていただき、空きさえあれば先着順で受け入れることが可能です」(木村さん)。同保育園では、勤務先の企業側が保育園と契約して枠を確保していれば、認可保育園の応募ではポイントが低いアルバイトなどの勤務形態であっても、子どもの入園が可能になるという。
地域活性株式会社が運営する、きらり保育園の子どもたちの様子
さまざまなメリットのある「企業主導型保育」だが、制度自体に課題もある。元々、企業で正社員として働いている人はポイントが高いため、「保育所に子どもを預けられない」という悩みを持つ人が少ないのだ。認知度の問題もあり、企業主導型保育制度を利用して建設された保育園の中には、空きがあるところも少なくないと言う。
子どもを持つ女性のうち、特に困っているのは、
1.職場が見つからない
2.職がないため、認可保育所の利用調整基準(ポイント)が低い
3.子どもを保育所に入れられない(1に戻る)
このような悪循環に陥っている人々だ。こうした課題を解決するために、ほしぞら保育園を運営する地域活性株式会社では、企業契約のない、地域の共働き世帯にも門戸を開き、入園できる仕組みを各保育園に導入している。例えば、ポイントが低いため保育園に子どもを預けられずに、夜勤中心に働く父親が日中子どもの面倒をみている家庭や、応募時点では働いていないため、ポイントが非常に低くなってしまう「求職中」の状態でも、条件を満たせば入園可能となっている。
木村さんは「認可保育園の基準では点数が低く、保育園自体を利用せずになんとか共働きを続けているという家庭も少なくない。そういった困っている家庭を助けることができれば」と話す。
「利用者に選ばれる保育園でありたい」
地域活性株式会社は、既に宮城県内に都道府県知事認可の小規模保育園を3園運営している。企業主導型の保育園は「内閣府」の認可のため、木村さんは「市町村を通す必要がなく、利用者にとっては役所に行く手続きや『保活』(親が保育園の入園を有利に進めるためにする活動)をしなくてすむ」ことや、「保育園側が自由に制度設計できること」などをメリットとして挙げる。「保育料についても企業主導は設定が自由なので、パート勤務なのにほぼ全額が保育料の支払いになってしまうなどといったことがないようにと、できるだけ出産後復帰がしやすい価格設定にしています」(木村さん)
多くの人がこれまで認可保育園を希望してきたのは、高すぎない利用料金や、園の規模や園庭の広さ、保育士の層の厚さなどが主な理由だっただろう。企業主導型保育では、内閣府と立地自治体によって監査が行われるため、保育の水準は認可保育園と同等またはそれ以上のものが求められ、安心が担保されるという。料金も安く、また徹底した保育方針と保育士教育のもとに運営されている魅力ある保育園があるとすれば、今後、認可・無認可にあまりこだわる必要はなくなってくるかもしれない。
木村さんは、外部講師による職員の研修や職員同士の話し合いなど、自ら考える力を備えた独自の保育士育成にも力を入れている。モットーは、保育士、保護者、子どもたち、保育園を取り巻く環境のすべての人が輝けるようにすることだという。企業主導型という新しい制度を用いて、保育園を利用できずに困っている人々のためになること、そして「将来待機児童がなくなって、どこでも自由に園が選べるようになった場合でも、利用者の方に第一希望で選んでいただける保育園でありたい」と、目標を語った。
※この記事は合同会社イーストタイムズと協力して作成しています。@人事ONLINEでの公開後、同社が運営する「TOHOKU360」に記事が転載されます。
執筆者紹介
渡邊真子(わたなべ・まさこ) 合同会社イーストタイムズ/TOHOKU360編集部 コンテンツデザイン担当。TOHOKU360の通信員として、地元宮城のローカルニュースも執筆。重度知的障害を抱える一児の母。
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