グローバル人材の要諦と輩出(1)
真のグローバル人材とは、カメレオンのような人?
2017.05.09
「グローバル人材」育成の実情
「我が社はどうしてグローバル化できないのでしょうか?」と問われるようになって久しい。手を替え品を替えいろいろ取り組んでいるのだが、どうも「グローバル人材」が多数生み出され、世界中で活躍しているという実感がないという声を聞く。
全社売上は海外の割合の方が多いし、拠点の散らばり具合を見ても既に「グローバル」だ。しかし、グローバル企業として一枚岩という感じが無い。組織的な乖離も大きく、「国内」「海外」という意識の差を未だに感じる。
「海外志向が低い」「人事部自身に海外経験がない」という現実
現地法人マネジメント層の顔ぶれはここ十数年ほとんど一緒。もう20年近くも世界の主要拠点をぐるぐる回っている彼らは、その多くが外国語大学卒だ。英語公用語化をすべきだという声も耳に入ってくるが、「社内文書が全部英語になるよ」と言うと多くが尻込みする。そもそも経営層でも英語ができない人が半分で、大きく世代交代しない限り公用語化は難しいだろう。
それでは若手層に期待できるかというと、彼らはTOEICの点数は高くても海外志向は意外に低く、「日本が一番。これほど安全で暮らしやすい国は他に無いから出たくない」と異口同音に消極的だ。人事部としても、「そんなこと言わずにグローバルにガンガン活躍してくれよ!」と言いたいのだが、当の自分にも海外経験は無く、英語もおぼつかない。自信を持って「グローバルっていいぞ!」と言えないのが実情なのだ。
こういったグローバル人材関連の悩ましい問題に関し、本稿ではその基本的考え方から具体的解決策まで、幅広く考察していきたい。筆者の20数年にわたるコンサルタント・経営者・教師としての経験からご参考になるお話しができれば、とも願っている。
グローバル人材を考える上で必要な2つの軸
さて今回は、そもそも「グローバル人材」とはどういうものかについて考えてみたい。巷にグローバル人材の話は溢れているが、「論理思考力がある」「自分の意見を明確に表明できる」「エネルギッシュ」「明るい」「困難な環境でくじけない」「高いコミュニケーション力」「変化対応力」「EQが高い」など、「それってグローバルでなくても必要だよね?」と首をかしげたくなるものも多い。そんななか、文部科学省は平成23年に「産学官によるグローバル人材の育成のための戦略」ペーパーにおいて、以下を提唱した。
『世界的な競争と共生が進む現代社会において、日本人としてのアイデンティティを持ちながら、広い視野に立って培われる教養と専門性、異なる言語、文化、価値を乗り越えて関係を構築するためのコミュニケーション能力と協調性、新しい価値を創造する能力、次世代までも視野に入れた社会貢献の意識などを持った人間』
包括的な定義、さすが文科省、といった感じだが、私はもう少しシンプルに、「プロフェッショナル」と「インターカルチュラル」の2軸で捉えている。(図参照)
「プロフェッショナル(P)軸」は、ビジネスパーソン、あるいは企業人でなくても特定の専門領域における行動レベルの高さを表し、「インターカルチュラル(I)軸」は自国の文化圏を越えて活躍するための資質やスキルを表している。「P軸」は低いレベルから、
・Routine(こなす):自分の守備範囲の仕事を十分にこなしているレベル
・Manage(管理):事業・組織のマネジメントが必要十分にできるレベル
・Lead(リード):リーダーとして事業・業容の拡大と組織変革を主導できるレベル
の3段階に分けられ、同様に「I軸」も、
・Interest(興味):外国語や海外事情に興味を持っているレベル。海外で一人で立ち回るにはまだ壁を感じている段階
・Knowledge(知識):自分の専門領域として、当該国に関するある程度の体験と語学力を有しているレベル。出張ベースで行動することに抵抗はない
・Insight(洞察):当該国に長く住み、言葉・文化・ビジネス慣習を高いレベルで理解しているレベル。海外ローカル市場に独自の人的ネットワークも構築している
に分けることができる。グローバル人材とはP軸・I軸ともに高いレベルにある人だが、逆にそのどちらかでも低いと、海外市場で満足に活動し成果を出すことはできない。
「ドメスティック・リーダー」の特徴
P軸が高くてI軸が低い人材を、「ドメスティック・リーダー」と呼ぶ。自国内の文化やビジネスプロトコルには詳しいが、国境を一歩またぐと途端に動きが鈍くなる人だ。通訳を使い満面の笑顔を含むボディーランゲージを駆使してなんとかやっている感じはあるが、現地市場の十分な理解はおろか、ローカルスタッフとの密なコミュニケーションもできないし、ましてや事業・業容の拡大に向けたリーダーシップを発揮することなどとても期待できないだろう。
「国際派」「英語屋」の特徴
逆にP軸が低くI軸が高い人材は、「国際派」と称されたり「英語屋」などと揶揄されることもある。外資系企業の外国人上司受けがいい人にこのパターンが多いが、基本的に語学力で勝負であり、プロジェクトの管理やビジネスをリードすることは期待できない。
「グローバル人材」「グローバルリーダー」の特徴
やはり目指すべきは「P軸」「I軸」共に高い「グローバル人材」であり、その定義は「グローバルな市場環境でローカル市場に溶け込み、組織を巻き込みながら活動する人材」である。そして究極に目指すべきは、両軸が更に高く経験豊富な「グローバルリーダー」である。「グローバル人材の中でも、特に高いマネジメント力と国際的に通用するリーダーシップを発揮しながら、世界レベルで高い成果を出すことのできるリーダー」と定義づけている。
真のグローバル人材は、無国籍な感覚で文化に溶け込む
ちなみに上述の文科省の定義には、「日本人としてのアイデンティティを持ちながら」とあるが、私は日本人であること自体には拘っていない。組織の一員として、正しいやり方で目的を遂げることができるのであれば、国籍も背負っている文化も関係ないと思う。むしろ「日本」を意識することが、現地で活動するうえで精神的な障害となることもある。真のグローバル人材とは、カメレオンのような人だ。無国籍な感覚でローカル文化にスッと溶け込み、現地の「ドメスティック・リーダー」として縦横無尽に活躍する。私の理想は、「ジェームズ・ボンド」かな。
執筆者紹介
松浦恭也(まつうら・やすなり) プライスウオーターハウスクーパース(ロンドン&東京)でM&A戦略および事業再建業務に従事した後、株式会社グロービスで組織開発・人材育成コンサルティングに従事。ディレクター兼大阪オフィス代表を務めた後独立し、現在グローバルアーク・コンサルティング株式会社代表取締役。JOHNAN株式会社社外取締役。京都大学経営管理大学院客員教授。同志社大学国際教育インスティテュート嘱託講師。米国リーハイ大学「Global Village」プログラム日本代表兼招聘講師。 グローバルアーク・コンサルティング株式会社
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