@人事ニュース解説ぷらすvol.2
就活セクハラ防止義務化へ。企業に求められる対応と残された課題
2025.01.24
就活セクハラ問題は深刻化しており、企業や法制度の対応が進んでいる。1月8日には就職活動中の学生に対し猥褻な行為をしたとしてNEC社員が逮捕されたのは記憶に新しい。最近の動向と課題をまとめた。
目次
法改正の動きと企業の義務
2024年12月、厚生労働省の労働政策審議会は、就活生へのセクハラ防止を企業に義務付ける建議をまとめた。来年度以降、正式に法整備されたのちは、企業は以下の対策を講じる必要がある。
- OB・OG訪問など面談時のルール策定
- 相談窓口の設置と周知
- セクハラ発生時の適切な対応(行為者の謝罪や被害者への支援など)
参照:労働政策審議会建議「女性活躍の更なる推進及び職場におけるハラスメント防止対策の強化について」を公表します|厚生労働省
就活セクハラの実態
厚生労働省が、昨年実施した労働政策審議会の中で提出された資料(女性活躍推進及び職場におけるハラスメント対策についての参考資料)中で、就活セクハラの実態が報告されている。
インターンシップ中にセクハラを経験した者は30.1%、就職活動中にセクハラを経験した者は31.9%
過去3年間に就活等セクハラを受けた経験があると回答した労働者の心身への影響について、インターンシップ中とインターン以外の就職活動の両場面で 「怒りや不満、不安などを感じた」、「就職活動に対する意欲が減退した」、「眠れなくなった」が上位3つを占める。
男性からの被害報告が全体の4割
就活セクハラの被害は広範囲に及んでいる。日本ハラスメント協会代表理事の村嵜要氏によれば、「全身後ろ姿を見せて」など面接時の不適切な発言、内定後の懇親会におけるセクハラ行為、OBによるプライベートな場面への誘い込みなどの事例が報告されているという。
また、被害者は女性だけでなく男性にも及び、全体の4割が男性からの相談であるという。
参照:「2次面接は部屋着で」「全身後ろ姿を見せて」「ホテルで面接指導してあげる」…4人に1人が被害 男子大学院生が一番キケン? “就活セクハラ”の実態|ABEMAタイムズ
最近の事例と企業の対応
2025年1月、NECの社員が就活生に対する性的暴行の疑いで逮捕された。この事件を受け、NECは以下の対応を行っている。
- 謝罪声明の発表
- 採用活動指針の見直しと厳格化
- 警察捜査への全面協力
- 逮捕された社員への厳正な処分の検討
参照:
・当社社員の逮捕について|日本電気株式会社
・NECが社員逮捕で謝罪、就活生に性的暴行の疑い。採用ルール見直し「飲酒禁止」発表|BUSINESS INSIDER
現状の課題
就活セクハラ問題は、就活パワハラ同様に企業の採用活動や社会的評価に直結する重要課題だ。人事担当者や経営者は、法令遵守だけでなく、学生の権利を尊重し、安全で公平な採用環境を整備することが求められている。現状の課題を下記にまとめた。
就活パワハラへの対応
法整備の動きは加速しているが、現状では企業の防止義務対象外である。また、パワハラ(セクハラ)の定義や線引きの難しさがある。
参考:セクハラ防止指針における「就活等セクハラ」
7 事業主が自らの雇用する労働者以外の者に対する言動に関し行うことが望ましい取組の内容
3の事業主及び労働者の責務の趣旨に鑑みれば、事業主は、当該事業主が雇用する労働者が、他の労働者(他の事業主が雇用する労働者及び求職者を含む。)のみならず、個人事業主、インターンシップを行っている者等の労働者以外の者に対する言動についても必要な注意を払うよう配慮するとともに、事業主(その者が法人である場合にあっては、その役員)自らと労働者も、労働者以外の者に対する言動について必要な注意を払うよう努めることが望ましい。
こうした責務の趣旨も踏まえ、事業主は、4⑴イの職場におけるセクシュアルハラスメントを行ってはならない旨の方針の明確化等を行う際に、当該事業主が雇用する労働者以外の者(他の事業主が雇用する労働者、就職活動中の学生等の求職者及び労働者以外の者)に対する言動についても、同様の方針を併せて示すことが望ましい。
また、これらの者から職場におけるセクシュアルハラスメントに類すると考えられる相談があった場合には、その内容を踏まえて、4の措置も参考にしつつ、必要に応じて適切な対応を行うように努めることが望ましい。
「 事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(平成 18 年厚生労働省告示第 615 号)」(抄)より
SOGIハラスメント対策
就活生へのSOGIハラも措置義務の対象外だ。
ホモ、レズ、オネェ、オカマ、「うちの職場にはLGBTなんていないから関係ないよね」「少しは男らしく」「女らしくしろよ」など「SOGI(ソジ)」は、性的指向(Sexual Orientation)と性自認(Gender Identity)の頭文字をとったもの。性的指向・性自認に関連して、相手への差別的な言動や嘲笑、精神的、肉体的ないじめ・暴力・無視、当事者が望まない性別での生活の強要、不当な異動や解雇などがSOGIハラスメントにあたる。
参考:人事が知っておくべきLGBTQ+の採用・雇用Q&A|@人事
法改正のスピード
5年ごとの見直しでは不十分との指摘。より迅速な対応の必要性が指摘されている。
企業が就活生へのセクハラ防止にどのように取り組むべきか
すでに、厚生労働省や地方労働局などで対策情報を展開している。これらを参考にしつつ、対策を講じていくのが良いだろう。
参考:
・就活ハラスメント対策リーフレット|厚生労働省
・就活ハラスメント防止対策企業事例集を作成しました!|厚生労働省
・NO!就活セクハラ|東京労働局
ハラスメント防止の方針明確化
- 全従業員、特に採用担当者に対し、就活ハラスメントを含むすべてのハラスメントを禁止する方針を明確に示す。
- 就活ハラスメントを行った場合の処分を社内規定や規則に明記し、周知する。
ハラスメント防止体制の整備
- 研修の実施
●採用担当者を含む従業員に対し、ハラスメント防止に関する研修を定期的に実施する。
●セクハラとなる具体的な事例を共有し、従業員の意識を醸成する - 採用プロセスの見直しと採用活動のルール策定
●学生との面談やオリエンテーションは複数名で対応するなど、明確なルールを設ける。
●リクルーターの行動指針やマニュアルを策定し、活用する。 - 相談窓口の設置
●学生向けに就活ハラスメント相談窓口を設置し、周知する。
●匿名で相談できるシステムを構築する。外部の専門家を含めた対応チームを編成する。
企業の取り組み事例
企業の就活セクハラ対策の最新事例として、以下のような取り組みが行われている。
行動規範とガイドラインの整備
- 大林組:リクルート活動における行動規範を策定し、面談ルールを明確化するなど、採用活動の仕組みを見直している。
- ニッポンハムグループ:ハラスメント防止規程に就活ハラスメントの禁止を盛り込み、違反時の懲戒規定を設けている。
- ジャックス:就職対応ハンドブックを作成し、学生と接する際のルールや規範を採用担当者へ伝えている。
- 住友生命保険:リクルーターハンドブックを改定し、就活生との面談時の留意点などを盛り込んでいる。
- キリンHD:飲酒および、19時以降の面会禁止
- ソニーグループ:飲酒及び、21時以降の面談禁止
- 住友商事:OB・OG訪問のy布袋は社内で公開。飲酒禁止。
- ベネッセコーポレーション:OB/OG訪問実施の後の報告書提出をルール化
- 資生堂:プライベートな質問禁止
- 味の素:1対1の直接面会を避ける
研修と教育
- 大林組:就活ハラスメントに関する研修を実施し、リクルーターや採用担当者にルールを周知している。
- JT(日本たばこ産業):全従業員を対象にした就活ハラスメントeラーニングを実施し、知識の土台を構築している。
相談窓口とアンケート
- 大林組:社外相談窓口の設置やハラスメントアンケートの実施を通じて、職場環境の改善に努めている。
- 三井物産:オワハラ相談ホットラインを開設し、相談受付を実施している。
これらの事例は、2024年11月時点での情報だ。企業が就活セクハラ防止に向けて積極的に対策を講じていることがわかる。今後、2025年の法改正に向けて、さらに多くの企業がこうした対策を強化していくことが予想される。
参照:就活セクハラ、企業が対策 社員との対面減らす オンライン面談徹底/飲酒禁止|日本経済新聞
一方で気になるデータも
i-plug(大阪市)が、新卒採用を実施する企業を対象に実施した調査によると、2024年10月にに厚生労働省が公表した時点では、企業側の対応はまだ本格化していない。
厚生労働省の公表によって、「対策やルール作りを検討している」と回答したのは11.7%、「開始した」(3.2%)、「法改正が正式に行われたら開始する予定」(14.3%)で、これらを回答した企業を合わせると29.2%だった。
現在進行中の26年卒の採用活動には、正式な法改正を受けての施行は間に合わない想定のため、注意が必要だろう。
参照:約3社に1社が厚生労働省の公表によって、就活におけるセクハラ防止対策やルール作りを検討・開始〜採用活動におけるセクハラ防止対策に関する調査を発表〜||株式会社i-plug
まとめ
就活セクハラ問題は、採用活動の健全性や企業の社会的評価に直結する重大な課題である。法改正の動きが進む一方で、企業側の対応が本格化していない現状や、法の対象外となる領域(就活パワハラやSOGIハラスメントなど)も多く、課題は依然として山積している。
これからの企業には、単なる法令遵守にとどまらず、採用プロセス全体を見直し、学生の権利と尊厳を守るための環境整備が求められる。具体的には、採用担当者への研修強化や明確なルールの策定、相談窓口の設置、OB・OG訪問のルール化など、多角的な取り組みが必要だ。
また、企業文化としてハラスメントを許容しない風土を醸成することも、就活生にとどまらず、従業員やステークホルダー、顧客に対して長期的な信頼の構築につながる。
法改正に伴う施行は間近に迫っている。今後、企業が早期に対応を進めることで、学生が安心して就職活動に臨める環境を整備したい。企業のコンプライアンス、ガバナンスに対する世間の目が厳しい今だからこそ、こうした問題に向き合う企業の姿勢が、採用競争力やブランド価値を左右する時代が来ている。
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