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「人的資本経営」の実践のポイント 第4回 


人的資本経営の実践に向けて――マネジャーのリスキリング

2023.08.10

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人的資本経営の実践の要となるミドルマネジャーの「リスキリング」に注目

本連載では、人的資本経営の実践のポイントとして、「人的資本の情報開示」「人事部の役割変化」「ミドルマネジメントの再定義」「マネジャーのリスキリング」などのキーワードに注目し、4回にわたってお伝えします。

前回は、人的資本経営の実践に際して重要な「ミドルマネジメント」に注目し、ミドルマネジメントを再定義するための4つの観点などをお伝えしました。
第4回目となる今回は、人的資本経営の実践の要となるミドルマネジャーの「リスキリング」についてお伝えします。

参考:
第1回 人的資本の「情報開示」のポイント――2つの軸・4つの観点で考える
第2回 人事部門の役割が変化している――「管理」から「戦略策定・推進」へ
第3回 人的資本経営の実践に向けて――ミドルマネジメントの再定義

解説 リクルート HR横断リサーチ推進部 マネジャー/研究員 津田 郁

リクルート HR横断リサーチ推進部 マネジャー/研究員 津田 郁氏2011年リクルート海外法人(中国)入社。グローバル採用事業『WORK IN JAPAN』のマネジャー、リクルートワークス研究所研究員などを経て2021年より現職。 現在は労働市場に関するリサーチ業務に従事。専門領域は人的資本経営、リーダーシップ、人材マネジメントなどの組織論全般。経営学修士。

目次
  1. これからの時代に必要とされるマネジメントスキルは「個を活かす」
  2. 普段のコミュニケーションから「強み」を見い出す
  3. メンバーの「強み」をつかんだら、本人の自覚を促す
  4. 強みを活かせる&伸ばせる仕事をマッチングする
  5. 仕事の実践を側面支援し、学習サイクルを回す
  6. 仕事の振り返りでは、達成したことの「再現性」に注目する

これからの時代に必要とされるマネジメントスキルは「個を活かす」

マネジメントとは本来、面白くてやりがいのある仕事です。しかし、現在のミドルマネジメント層は多重責務を担い、日々の業務に忙殺されていて、この仕事の面白さ・やりがいが感じにくい状態になってはいないでしょうか。前回お伝えしたように、「ミドルマネジメントの再定義」が人的資本経営の実践に向けたポイントになります。その中の重要な要素の一つが、マネジャーに時代に即したマネジメントのスタンス・スキルを装着すること。すなわち「マネジャーのリスキリング」を行うことだと考えています。企業はマネジャー個人に自発的な学習を求めるだけでなく、組織として積極的にリスキリングに取り組むべきと言えるでしょう。

では、現代で活かせるマネジャーのスタンス・スキルとはどのようなものでしょうか。
スタンス(心構え)としては、「人材」に対する捉え方を見直す必要があります。労働力人口が減少している日本においては、特定の人だけを活かすのではなく、「すべての人を活かす」という人材観をもってマネジメントを行うことが重要となります。たった一つの評価軸で優秀な人とそうでない人を区別するのではなく、多様な評価軸をもってその人の可能性を見い出していく。誰もが必ず「強み」を持っていることを前提に、それを引き出して活躍を支援していくスタンスで臨んでいただきたいと考えます。

そしてスキルとしては、「多様な個を活かすマネジメントスキル」の重要性が高まっています。
従来は明確な経営戦略に基づき、同質な人々を管理し、決まったやり方で、計画通りに進めることが是とされてきました。しかし、変化が激しい近年のビジネス環境では、次々と発生する機会と脅威に対し、現場レベルで課題設定を行い、これまでにない手法を考えて課題解決を図らなければなりません。だからこそ、多様な価値観・強みを持つ人々の存在が必要であり、個々のメンバーを最大限活かすことが現場マネジメントの生命線となります。多様な人たちが単に職場に存在しているのではなく、一人ひとりが強みを活かして価値を発揮している状態を目指しましょう。

ここからは、多様な個を活かすマネジメントを実践するためのポイントを順番にご紹介します。

普段のコミュニケーションから「強み」を見い出す

メンバーの強みを見い出すためには、日頃からメンバーに関心を持ち、どのような強みがあるか観察し続けることが欠かせません。昨今では、1on1を導入する職場も増えてきています。そういった場も活用しながら、個々のメンバーにどんな持ち味があるか、どんなことに働く喜びを感じているかを知っていくようにしましょう。
メンバーのことを知ろうとするなら、まずはマネジャー自身の自己開示から始めることもポイントです。マネジャーが仕事上で大切にしている価値観・こだわり・失敗・弱さも含めて開示することで、メンバーにとって話しかけやすいようにしていきましょう。

お互いに話しやすい関係性を築いたうえで、仕事の場面や普段のコミュニケーションから、個々のメンバーにどのような強みがあるかを探っていきます。このときのポイントは、推察によって強みを特定するのではなく、「根拠となる事実」を基に考えることです。うまく仕事を進められた場面、多様な関係者から合意形成を得られた場面、他メンバーとの違いなど、事実をベースに「なぜそれができたのか」を考えることで、その人の強みを把握しましょう。

それに加え、「対話」の場面でも、その人の強みや持ち味を探ります。表面的な発言や行動だけで判断せず、その人がなぜそのような言葉や行動を選んだのか、どう考えたのか、どう感じたのかを掘り下げて聞いていきます。そのように思考するようになったきっかけや原体験を知ることが、深い人材理解につながります。

メンバーの「強み」をつかんだら、本人の自覚を促す

メンバーの強みや持ち味をつかんだら、「自分は把握できている」というだけにとどめず、「本人に伝える」ことが重要です。「あなたにはこんな強みがある」と、ストーリーにして伝えることで、メンバーの「自己効力感」を高める効果が期待できます。

自己効力感とは、ある行動を遂行できること、自分の可能性を認識していることを指します。心理学者のアルバート・バンデューラが提唱した概念です。バンデューラは自己効力感を高める要因を4つ挙げています。

自己効力感を高める4つの要因(バンデューラ)|株式会社リクルート

このうち、メンバーが自分1人ではできない要素が「言語的説得」です。これが、マネジャーが介在価値を発揮するポイントとなります。次の内容を一連のストーリーにして、メンバーに伝えていくといいでしょう。

●仕事の場面において、具体的にどのような良いアクションや発言・発想があったのか
●マネジャーの視点から、なぜそれらを良い行動と捉えたのか
●そのような行動ができることを、スキルやスタンスで言語化すると何に該当するのか

メンバーの強みや持ち味を未使用・未開発状態のままにせず、潜在能力を見い出して開放していくことがマネジャーの役割です。せっかく強みを持っているのに、それが仕事の場面で使われていないのはもったいないことです。メンバーを客観的に見ることができるマネジャーだからこそ、積極的に強みを発見し、本人に気付かせ、存分に発揮させていきましょう。

強みを活かせる&伸ばせる仕事をマッチングする

強みを理解するだけで終わらず、強みがしっかりと活かせる、そしてさらに伸ばしていけるような仕事を任せます。通常メンバーは複数の仕事を担当しますが、その中の一つに強みを伸ばしたり引き出したりしていくようなテーマ設定をするイメージです。

働く人々を対象としたアンケート調査結果によると、「自分の知識・スキル・経験を活用するうえで最適な職務内容を任されていると感じている」と回答した人は3割強にとどまりました。多くの人が納得できていない現実を踏まえ、仕事のマッチングをしっかりと行っていく必要があります。

働く人1万人の調査結果|リクルート

出典:リクルート「人的資本経営に関する働く人の意識調査(2022)」

実際に仕事を任せる際には、「複眼的な意義付け」を行います。「組織におけるその仕事の重要性」と「本人のキャリアや成長における重要性」をセットで考えてください。全体を俯瞰して見ているマネジャーだからこそ、一つの仕事がどのようなつながりを持ち、最終的な顧客価値につながっているかを説明することができます。さらに、その仕事を経験することは本人のキャリアや自己実現の観点ではどのような意味を持つか説明し、期待と一緒に仕事を任せましょう。

複眼的な仕事の意義づけを行う|株式会社リクルート

また、仕事を任せる場面では「適切な権限移譲」もポイントの一つです。モチベーション高く自律的に働いてもらうためには、その人の今のレベルと任せる仕事の難易度を見極めたうえで、適切なレベルの権限移譲を行いましょう。権限移譲と聞くと、その仕事に関する意思決定の全てを任せるようなイメージを持つかもしれませんが、実は権限移譲にもレベルや段階があります。その仕事についてスキルフルで経験豊かなメンバーであれば、権限移譲はある程度高いレベルで設定します。例えば、その仕事に関する意思決定について、必要に応じてメンバーが決定することを認めて、その内容を事前にマネジャーへ報告してもらうといった具合です。
この権限移譲のレベルをもう少し低くすると、メンバーに複数の案を検討してもらい、最終決定の承認はマネジャーが行うということになります。もしそのメンバーが、初めてその仕事に取り掛かるような場合は、このように少し低い段階の権限移譲から始めるほうが良いでしょう。

仕事の実践を側面支援し、学習サイクルを回す

メンバーに仕事を任せたら、マネジャーは基本的には状況を見守り、側面支援に徹しましょう。
当初から手厚い支援や介入をすることは避け、メンバーが自律的に仕事を進められるよう、マネジャーからの関与のレベルを調整します。メンバーのコンディションや進捗状況を踏まえ、段階的に支援を行いましょう。またその中で、メンバーが仕事を通じて学び、学習サイクルを加速することを心がけます。

●順調に進んでいるとき……「見守り」
良い行動があればリアルタイムでフィードバックする

●課題を抱えているとき ……「側面支援」
課題の原因を一緒に考え、阻害要因を取り除く。マネジャーがすぐに解法を授けるのではなく、メンバーに考えてもらうことを重視し、「自分で考え、自分で乗り越えた」という経験になるように伴走する

●完遂が困難なとき ……「軌道修正」
マネジャーが責任を持って改善や仕事の引き取りを行う。学習機会やアンラーニングのきっかけにする

日常の仕事の中でメンバーの強みを伸ばすためには、経験学習のサイクルを活用することも有用です。

経験する(具体的な経験)→振り返る(内省的な観察)→教訓を引き出す(抽象的な概念化)→応用する(積極的な実験)

このサイクルでは、メンバーが得意な部分は自走させ、苦手な部分をマネジャーが支援するイメージでします。
例えば「経験する」「応用する」といった行動は得意だけど、立ち止まって「振り返る」ことは苦手なメンバーであれば内省を促す。「振り返り」はできるが、「教訓を引き出す」ことに時間がかかるメンバーの場合は、何がポイントなのかを一緒に考える――このような支援を、1on1などを活用しながら行うことで経験学習のサイクルがうまく回っていくでしょう。

仕事の振り返りでは、達成したことの「再現性」に注目する

メンバーの仕事が完了したら、振り返りを行います。到達レベル・インパクト・効率などの観点で評価し、強みを伸ばすことができたかを確認します。このときのキーワードは「再現性」です。

いい仕事ができたとしても、「なぜそれができたのか?」をメンバーが自覚できていないと、強みが伸びたとは言えません。「今回はたまたまできた」ではなく、「今度同じレベルの仕事を任されても自律してできる」となるように、メンバーに「強みの再現性」を言語化してもらいましょう。
その仕事ができた要因・プロセス・メカニズムを、メンバーが自分なりに説明できる状態を目指し、マネジャーが言語化の支援をします。

神経言語プログラミングでは、学習には5段階のレベルがあると言われます。このうちレベル3の「意識すればできる」が目安になります。意識をすればできるなら、別の場面でもその強みを再現できる可能性は高いと考えられます。下に図で示した5段階モデルで、レベル2の「知っているができない」からレベル3の「意識すればできる」へのステップアップを目指していただきたいと思います。【連載おわり】

編集部注:この記事は画像含めリクルート社から提供の寄稿です。2023年5月23日時点の情報をもとに作成しています。

 「人的資本経営」の実践のポイント(連載)

第1回 人的資本の「情報開示」のポイント――2つの軸・4つの観点で考える
第2回 人事部門の役割が変化している――「管理」から「戦略策定・推進」へ
第3回 人的資本経営の実践に向けて――ミドルマネジメントの再定義
第4回 人的資本経営の実践に向けて――マネジャーのリスキリング

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