人材採用に成功する企業事例や課題解決策を専門家が解説
コロナ後の求人回復期における飲食業界の雇用動向~人手不足にどう対応するか
2023.01.12
約3年におよぶコロナ禍。現在、第8波への懸念もあるものの、社会生活は通常へと戻りつつあり、採用活動も再開・活発化している。
リクルートは、コロナ禍で多大な影響を受けた「飲食業界」について、現在の雇用動向をまとめた。
年末年始シーズンの人手不足、そしてその後も続くと見込まれる人手不足・採用難にどう対応していけばよいのか――成功している企業の事例も交え、課題解決策を紹介する。
- 目次
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- 飲食の求人は回復傾向。年末年始に向けて採用意欲が高まる
- 「給与」「労働負荷」のマイナスイメージの解消が課題
- 「シフトの未充足」を解消する、3段階のアプローチ
<事例-1>業務の切り出しにより、夕方・早朝の人材不足を解消――コンパスグループ・ジャパン株式会社 - デジタルツールを活用
<事例-2>DX により人手不足解決+サービスの質の向上を実現――株式会社まんてん - 長期的視点で「キャリアパス」を描けるように
- 多様な人材に「自分らしい働き方」の提供を
1.飲食の求人は回復傾向。年末年始に向けて採用意欲が高まる
まずご紹介するのは、リクルートグループのひとつ 「Indeed(インディード)」のもつ研究機関「Indeed Hiring Lab」の データです。
下記グラフは、2019年1月~2022年10月の飲食業に関する求人トレンドです。飲食業界の求人数は、職種全体と比較すると遅れているものの回復傾向にあります。
飲食求人件数の推移(2019年1月~2022年10月)
ただし、回復後の求人数に対し求職者数が追い付かず、需給ギャップが生まれています。
リクルートのシフト管理サービス『Airシフト』の シフト充足率に関する調査においても、飲食業界におけるアルバイト・パートのシフト充足率は他業種に比べて低めとなっています。
なお、求職者による飲食求人の検索割合は、コロナ禍前と比較し減少しました。とはいえ、年末年始に向けて検索割合は増加しています。
飲食求人件数の推移(2019年1月~2022年10月)
年末年始の宴会シーズンを控え、人手不足感はさらに高まり、採用意欲も継続。全国旅行支援の後押しで活性化している観光業界、クリスマスなどのイベント商戦に臨む小売業界などとも、人材の争奪戦が激化しています。
飲食業界で人手不足感が高まっている背景には、コロナ禍以降のオペレーションの変化もあります。
飲食店予約の機能も備える「ホットペッパーグルメ」によると、忘年会の組人数は大きく変わりました。
コロナ禍以前は、11人以上の宴会が全体の4割を占めていたところ、2021年12月は約6%へ、現在も11%程度にとどまっています。
大人数の宴会に代わり、4人程度・個室型の忘年会が増加。以前のような大皿での料理提供が減り、オーダーの頻度が高まったことで、従業員の負荷が重くなっているのです。
解説者:Indeed Japan株式会社 Hiring Lab エコノミスト 青木 雄介(あおき ゆうすけ)
外資系コンサルティングファーム等でエコノミスト・データサイエンティストとして政府・民間・司法機関に向けた経済統計分析及び報告書作成に従事。
2022年8月より現職。Indeedのデータを活用してOECD及び日本の労働市場を分析し、外部関係者に向けて分析結果・インサイトを発信している。
2.「給与」「労働負荷」のマイナスイメージの解消が課題
リクルートの「ジョブズリサーチセンター」では2022年、飲食業での働き方の実態・イメージ調査を実施しました。
対象者は、飲食業で現在就業している「就業者」、過去に就業経験がある「離職者」、飲食業での就業経験はないが就業に興味関心はある「意向者」、飲食業での就業経験がなく就業に興味関心もない「非意向者」です。
飲食業の仕事に対するイメージ調査では、「多くの人と交流できる」「人から感謝される」「仕事にやりがいがある」「未経験でも仕事ができる」といった点が魅力と感じられています。
しかし一方では、「体力的にきつい仕事が多い」「給与水準が低め」「新型コロナウイルスで経営が影響を受けやすい」といった点が課題視されています。
就業者が辞めたいと思った理由や離職者の離職理由も、「給与」「労働負荷」に関する項目が上位。人材を確保するためには、これらの魅力を高め、課題に取り組み、イメージアップを図ることがより重要となるでしょう。
飲食業のイメージ、離職理由
3.「シフトの未充足」を解消する、3段階のアプローチ
短期的な人材確保のために重要なのは、「従業員の業務負荷を低減し、シフトのミスマッチを解消する」ことです。
具体的には3段階のアプローチがあります。
1)人手不足の要因を構造分解する
いつ、どのような業務があり、それを実行するためにはどういったスキルを持った人員がどれだけ必要か――という店舗側ニーズを可視化します。 このとき「頭数」ではなく「時間単位」で考えます。
2)繁閑差に着目し、超短時間勤務(=プチ勤務)の仕事を切り出す
「この曜日・時間帯には人員を厚めに配置したい」といったニーズを基にシフトを募り、必要に応じて「超短時間勤務」の仕事を作り出すなど、シフトのミスマッチを解消できるようにします。また、売り上げが期待できる際には、新しく雇用を作り、全体における適材配置を行っていきます。
3)業務の切り分けでは、「簡単な仕事」と「難易度が高い(育成が必要)仕事」に分ける
簡単な仕事は、採用後すぐに活躍してもらうことも可能であるため、シニア・主婦・ダブルワーク希望者といった潜在労働力を活用するなど、柔軟なシフト作りを行います。
一方、難易度が高く育成を要する仕事については、「マニュアルを動画にする」などの工夫により、短時間での育成を図ります。
実際の成功事例をご紹介しましょう。
<事例-1>業務の切り出しにより、夕方・早朝の人材不足を解消――コンパスグループ・ジャパン株式会社
社員食堂・教育関連施設・病院・高齢者施設・などでのコントラクトフードサービスを展開するコンパスグループ・ジャパンでは、調理補助として雇用していたアルバイト従業員の約 9 割が40代~50 代女性。夕方&早朝の時間帯の人員不足に悩まされていました。
そこで、夕方の時間帯の人数を担保するため、調理業務の中でも「包丁を使用しない調理」「盛り付け」「配膳」などの業務を切り出し、大学生にも向けて募集を行ったのです。
求人では、学生の4時限終了(16:30)に合わせて「17時からの勤務可」とし、「少人数・接客なし」という働きやすさを訴求しました。
結果、2週間の募集で55人の応募があり、その約7割が10~20 代でした。
このほか、早朝の時間の業務も切り出し、採用ターゲットを「シニア層」に絞って募集。「朝の時間の有効活用」「身体にも良い」「同年代が活躍中」といった魅力を訴求した結果、応募数が3倍に増加しました。
解説者:ジョブズリサーチセンター センター長 宇佐川 邦子(うさがわ くにこ)
リクルートグループ入社後、一貫して求人領域を担当。
2014年4月よりリクルートジョブズ ジョブズリサーチセンターの
センター長を務める。
各々の業界の特色を踏まえ、求人・採用活動、人材育成・定着、さらに定着促進のための従業員満足のメカニズム等、「雇用に関する課題とその解決に向けた新たな取り組み」をテーマに講演・提言を行う。
4.デジタルツールを活用
コロナ禍においては、各業界でDX(デジタルトランスフォーメーション)の取り組みが加速。飲食業界においても、対面接客を避けるため、「モバイルオーダー」などデジタルツールの導入が進みました。
これが、人手不足解消、さらにはサービスの向上につながっているケースも見られます。
<事例-2>DX により人手不足解決+サービスの質の向上を実現――株式会社まんてん
「炭火焼ホルモン まんてん 中目黒高架店」での成功事例です。
コロナ禍では従業員の拡充が難しく、必要人数5名のところ3名で回している状況。店内席とテラス席を設けており、オーダーが重なると接客時間の確保が困難に。特にテラス席に対応しきれず、お客様が追加オーダーをあきらめるケースもありました。
そこで、デジタルのオーダーシステム『Airレジ オーダー』を導入。操作が簡単でミスが発生しにくいオーダーテイクに加え、お客様のスマホからのオーダーも可能にしたことでクレーム減少につながりました。
オペレーションに余裕ができた結果、各テーブルでメニューを説明したり、肉を良い状態まで焼いてあげたりすることも可能になり、サービスの質が向上。従業員にとっては、お客様からの「すいませーん!」の頻発に対応するストレスがなくなり、接客による達成感・成長感が持てるようになっています。
また、システム導入により削減できた8%分の人件費を従業員に還元。これらの結果、従業員満足度(EX)の向上にもつながっています。
従業員が「やりたい仕事ができない」と感じている労働環境においては、この事例のように、デジタルツールも活用して本来やるべき仕事に従事できる時間を捻出できる環境を作ることも視野に入れていくべきでしょう。
5.長期的視点で「キャリアパス」を描けるように
短期的な人手不足の解決策をご紹介してきましたが、雇用をいかに長期継続させるかを考えることも重要です。
飲食業の従業員の離職理由の一つには「キャリアパスがない」「成長感を感じられない」といったものが挙げられています。
従業員自身が「今後のキャリアパスを考えられる」環境を作り出すことが大切。採用段階で「将来的にどのような仕事を希望しているか」といったキャリアプランもヒアリングし、入社後も「キャリア」をテーマとしたコミュニケーションを継続していくのです。
このためには、個人を適正に評価する必要があります。店長の感覚で評価するのではなく、その人のスキルを可視化して評価するための指標を設けるといいでしょう。
飲食業界で働くことによって「成長感が得られ、キャリアパスも描けるようになる」と感じてもらうことが必要です。
6.多様な人材に「自分らしい働き方」の提供を
年末年始の繁忙期に限らず、今後も人材確保の難易度はよりいっそう高まると考えられます。
デジタルツールの導入も一定の効果はありますが、それだけでは不足。現在の業務を可視化し、「質」と「量」に切り分けて考え、従業員の頭数ではなく時間単位で捉えて必要な人員を配置していく考えに切り替えていく必要があると考えます。
コロナ禍を機に、求職者が求める働き方も変化しました。従来のように「週 5 日・フルタイムで働ける人」「あらゆる業務をこなせる人」だけを求めていたのでは、人材確保は難しいといえます。
従業員の属性やニーズも多様化。家事・育児・介護・学業をはじめ、さまざまな活動と仕事との両立が必要で、働ける時間に制約があるケースも少なくありません。
求職者に選ばれるためには、「自分らしく働ける」「やりがいや働く喜びを感じられる」ような働き方を提供していくことが必要です。
この機に「人的投資」の大切さを改めて見つめ、中長期を見据えた採用・育成計画も検討し、多様な人材一人ひとりが活躍できるような飲食業界へ変革していくことが求められているといえるでしょう。【おわり】
解説者:株式会社 リクルート赤嶺 征志(あかみね せいじ)
リクルートグループ入社後、一貫して飲食領域を担当
飲食店の新規開拓や大手チェーンの販促支援に従事。
現在は全国チェーン店担当の営業および
カスタマーサクセス部署のマネージャーを務める。
編集部注:この記事は画像含めリクルート社から提供の寄稿レポートです。2022年12月7日時点の情報をもとに作成しています。
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