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注目される背景・情報開示・人的資本を高める方法を有識者が解説


「人的資本経営」の実現に向け、企業が考えるべきこと【前編】

2022.06.13

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リクルートは、企業の人事担当者3,000人以上を対象に行った調査から、昨今の人的資本経営の潮流や人的資本経営の全体像、人的資本の価値を高める戦略などをレポート「人的資本経営の潮流と論点 2022」をにまとめた。
3月に行われたレポートの発表会では、学習院大学教授守島基博氏やリクルート研究員の津田郁氏が登壇し、人的資本経営がなぜ人事担当者だけではなく、経営者自らが取り組むべきアジェンダなのか、また個人の働き方はどう変化していくのかについて講演やディスカッションを行った。

今回、リクルート社より寄稿された発表会のレポート(以下、本文)を通じ、人的資本経営がなぜ注目されるのか、その背景や企業が人的資本を高める方法などを紹介する。

目次
  1. 人的資本経営の実現のためのポイントを解説
  2. 人的資本経営の定義と、注目されるようになった背景
  3. 日本の企業は、まだまだ人材を活かしきれていない
  4. 人的資本経営の実現に向けて、企業がやるべきこと

人的資本経営の実現のためのポイントを解説

近年の企業課題として「人的資本経営」の議論が活発化してきました。
2020年8月、米国証券取引委員会(SEC)が上場企業に対して人的資本開示の義務化を発表。日本でも本年6月の改訂コーポレートガバナンスコードで企業の取り組みと開示が強化されます。
ESG/SDGsを背景に、人材を「コスト」ではなく価値創出の原動力である「資本」として捉え、その価値を高めることで持続的な企業価値向上につなげようとする考えが急速に広がりつつあります。

画像:クルート HRエージェント Division リサーチグループ  マネジャー/研究員 津田 郁と氏(写真左)と:学習院大学 教授 守島 基博氏氏そのような中、創業以来“個人と組織の在り方”に向き合い続けてきたリクルートでは「人的資本経営の潮流と論点 2022※」のレポートを作成し、発表会を開催しました。
本レポートの作成に助言いただいた学習院大学教授・守島基博氏もゲストにお招きし、人的資本経営の実現のためのポイントを解説。その内容をダイジェストでご紹介します。
リクルート「人的資本経営の潮流と論点 2022」

ゲスト:学習院大学 教授 守島 基博氏【写真右】

専門は人材マネジメント論。イリノイ大学産業労使関係研究所博士課程修了(Ph.D.)。サイモン・フレーザー大学(カナダ)経営学部Assistant Professor、慶應義塾大学総合政策学部助教授、同大大学院経営管理研究科教授、一橋大学大学院商学研究科教授を経て、2017年より現職。厚生労働省労働政策審議会委員などを兼任。2020年より一橋大学名誉教授。著書に『人材マネジメント入門』『人材の複雑方程式』『人事と法の対話』『全員戦力化 戦略人材不足と組織力開発』などがある。

解説者:リクルート HRエージェント Division リサーチグループ マネジャー/研究員 津田 郁

2011年リクルート海外法人(中国)入社。グローバル採用事業『WORK IN JAPAN』のマネジャー、リクルートワークス研究所研究員などを経て 21年より現職。現在は労働市場に関するリサーチ業務に従事。専門領域は組織行動学・人材マネジメントなど。経営学修士。

人的資本経営の定義と、注目されるようになった背景

守島基博(以下、守島):「人的資本経営」の議論が盛んになってきました。「人的資本経営」とは何かというと、さまざまな定義があります。例えば、経済産業省のHPでの定義は次のとおりです。

「人材を『資本』として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方」

今回のプロジェクトでは、いくつかのワードを加えてこう定義しました。

「人材を経営上の最も重要な『資本』と捉え、すべての人的資本を活かし、その価値を持続的に向上させる人材戦略の実践を通じて、経営目的の実現と企業価値の向上をはかる経営のあり方」

津田 郁(以下、津田):国際統合報告評議会(IIRC)では、企業経営の資本として6つの種類を挙げています。
「自然資本」「社会・関係資本」「財務資本」「製造資本」「知的資本」「人的資本」です。
このうち「人的資本」の特徴は「心を持つ資本」であることです。同じような投資をしても同様の効果が得られるとは限りません。働く人のパフォーマンスはモチベーションや人間関係によって変化します。期待し、信頼すること、協働する人の組み合わせや関係性――こうした要素で価値が高まったり低くなったりすることが人的資本の面白さであり、難しさでもあります。

守島:人的資本経営の捉え方はさまざまですが、共通しているのは「人材は重要な経営資源であり、活用・獲得することで企業成長を促す」ものであること。
しかし、日本企業はこれまでも「人を大切にする経営」をしてきたのではないでしょうか。
「人的資本経営」が今注目されている背景には何があるのでしょう。

1.企業経営において、人的資本がこれまでよりも重要になってきた

企業価値を向上させるためには「企業変革」「イノベーション」などが必要です。これらは人から大元のアイディアが出てきますので、人がいなければ生み出せません。

2.人的資本の確保が困難になってきた

少子高齢化や働く人の価値観の多様化などにより、人的資本の確保は昔のやり方のままでは難しくなってきました。長期雇用や安定した給与の上昇を提供するだけではエンゲージメントを持って働いてもらえなくなっています。

3.人的資本投資とそのリターンに、投資家・株主などが関心を持ってきた

人的資本が経営にとって要になり、かつ獲得が難しくなるにしたがって、投資家や株主にも注目され、人的資本関連の情報開示が要請されるようになっています。

日本の企業は、まだまだ人材を活かしきれていない

守島:現状、日本の企業は人的資本を大切にしているのでしょうか。
実は、日本企業の人材育成への投資は諸外国に比べて後れをとっていることが明らかになっています。
私の同僚である宮川先生と滝沢先生による推計では、GDPに占める人材投資の割合――いわゆるOff-JTによる人材育成にかける金額は他の先進国と比べて極めて低く、かつ2000年初期から現在にかけて減っているのです。

画像:GDPに占める人材投資の割合(主にOFF-JT投資)の割合

守島:また、労働生産性が外国に比べて低いというデータもあります。
日本生産性本部が公表した「労働生産性の国際比較 2021」では、日本の一人あたりの労働生産性はOECD加盟38カ国中28位となっています。
これらのデータから、日本では人的資本を効率的に生産性高く活用できていない可能性があります。

津田:企業が人的資本経営に転換していくためには、人材の捉え方から見直す必要があると考えています。「特定の人だけ活かすのではなく、すべての人を活かす」。この点を基本的な考え方とすべきだと私たちは考えています。
「優秀な人とダメな人がいる」と人材を区別するのではなく、すべての人が強みと弱みを併せ持つ存在と捉えて強みに着目し、強みを引き出して活かしきる。それが、本当の人的資本経営を実現していくために重要だと思います。

画像:「人的資本経営の潮流と論点2022」(株式会社リクルート)

「人的資本経営の潮流と論点2022」(株式会社リクルート)より

津田:今回、このテーマで企業の人事担当者3,007名にアンケート調査を行いました。
「人的資本経営を実践していく上での課題は何ですか」という問いに対し、突出して多かった回答が「従業員のスキル・能力の情報把握とデータ化」でした。
2番目に高いのが「従業員の学び直し・スキルのアップデートへの投資」です。つまり、育成や能力開発への投資以前に「自社の従業員のスキルや能力がどのような状態であるかがわかってない」という課題が浮き彫りになっています。すべての人を活かしていくために、まずは「人に関心を持つ」「人に向き合う」ことから始める必要があるのではないでしょうか。

画像:「人的資本経営の潮流と論点2022」(株式会社リクルート)

「人的資本経営の潮流と論点2022」(株式会社リクルート)の画像を一部加工

人的資本経営の実現に向けて、企業がやるべきこと

守島:私は、人的資本経営の実現のためには、大きく分けて3つのポイントがあると考えています。

【1】経営者の認識

「カネ」があれば経営ができる時代から「人材」がいないと経営ができない時代へ移り変わってきています。
企業価値を創造し、向上させるためには人的資本がカギであると、特に経営者の皆さんに本気になっていただくことが必要だと思います。

【2】戦略人事

経営戦略と人事戦略や人材マネジメントを連動させる。戦略目標を実現する人事を行っていかなければ、企業成長、企業価値の創造は極めて困難な時代になりつつあります。例えば、経営戦略にあわせた「人材ポートフォリオ」の構築と活用が必要です。

【3】情報開示

投資判断にあたり、人的資本の価値を重視する投資家が増えてきました。それに応えるために、人的資本と人的資本投資に対するリターンに関する情報の公開が必要となります。

====

守島:このように、企業は自社の人事戦略や人材マネジメントを戦略と連動させ、戦略に沿って人的資本に投資をし、人材価値の向上を図り、そうした人材を活用していく必要があります。

特に「人材育成」への投資は、先ほどデータで挙げたとおり、日本は諸外国に比べて遅れています。
変化の時代、「OJTで育てればよい」ではなく、フォーマルな育成プログラムを作成してキャリア形成の支援をしていかなければ、人材価値は高まらない時代なのです。

そして、「人材価値向上」への投資に加え、「人材価値活用」への投資も必要です。
例えば「適所適材」の支援。期待される成果や仕事の性質などをみながら、現在の能力、過去の経験、将来への期待などを考慮した適切な人材を当てはめ、それによって価値を生成していくプロセスを踏むことが重要です。
そのためには、人材データベースの構築、公平な評価制度や処遇、さらにワークライフバランスの充実施策にも投資していくことが重要でしょう。

津田:我々が考える「人的資本経営」をモデルで表したものが下図です。先ほど言ったように、「人材を最重要の資本と捉え、すべての人材を活かすこと」が基礎になります。その土台の上に「人的資本の価値を高める戦略」「人的資本の情報開示」を置いています。これをワークさせることによって、人的資本の持続的な価値向上を実現し、経営目的の達成・企業価値の向上につなげていきます。

>>>「人的資本経営」の実現に向け、企業が考えるべきこと【後編】につづく 

編集部注:この記事は画像含めリクルート社から提供の寄稿レポートです。2022年5月11日時点の情報をもとに作成しています。

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