吉本新喜劇 酒井藍さん特別インタビュー(前編)
リーダー論は小籔千豊さんたちが教えてくれた。新喜劇初女性座長のモットー
2019.10.07
大阪のお笑い文化を支え続け、今年3月に60周年を迎えた吉本新喜劇。ぽっちゃり体型を生かしたボケで人気の酒井藍さんが2017年、当時30歳の若さで「新喜劇初の女性座長」に就任しました。芸歴50年以上のベテラン座員もいる中、歴史ある組織に初の女性リーダーとしてどう向き合っているのでしょうか。酒井さんのリーダー論は、小籔千豊さんをはじめとする先輩座長たちから学んだものでした。【取材:2019年9月12日 @人事編集部 大西里奈】
酒井藍(さかい・あい)
1986年9月10日生まれ。奈良県出身。奈良県警に就職後、幼い頃からの憧れだった吉本新喜劇への夢を断ち切れず、2007年に吉本新喜劇のオーディションを受験、入団。2017年に吉本新喜劇初の女性座長となる。ぽっちゃり体型を生かして「そうそう、ブーブー、ブーブー。私、人間ですねん」とノリツッコミするギャグが人気。
父親にキレられたから、新喜劇に入れた
――まず、新喜劇に入るまでの経緯を教えて下さい。
保育園のときにテレビで新喜劇を見て、めっちゃ大笑いしたんです。悲しいシーンもあるのに、最後にまた大笑いするみたいな。「私もこの中に入りたいな」と思ったのが最初のきっかけでした。
高校卒業後の進路を決める時に、私は吉本の養成所(NSC)に入りたいと思っていたんですけど、両親に「絶対だめや」と猛反対されたんです。固い家庭だったんですよね。大学に行くか、就職するかどっちかにしなさいと言われたんですが、大学に行ってもやりたいことはないし、「それだったら就職します」と。
働くんやったら公務員になろうと思って、奈良県警に入りました。心の中では、公務員の仕事で両親を安心させて、いつか新喜劇に行きやすくなったらいいなと思っていたんです。
高校時代から、新喜劇の新人座員のオーディションを受けるタイミングをずっと見計らっていました。
県警で働いて1年くらい経ったときに受けようと思い、家のパソコンでオーディションのサイトを開いて、パソコンをすぅーっと移動させて両親に見せて(笑)。お父さんは「まだそんなこと言うとんのかい!お前なんか絶対だめだから1回受けてみい!」とブチギレられました。そしたら受かったんです。お父さんがキレてくれたから、ラッキーなことに新喜劇に入れたという(笑)。
オーディションに合格しても、家族は全員、新喜劇に入ることに反対で「そんなんやったら家出ていけ」と言われて。私は昔から家族が大好きだったので「えっ、出ていかなあかんの?」と不安に思ったんですが、「それなら出ていきます」と答えました。私の決意が伝わったのか、「本気なんやな、じゃあ頑張りなさい」と認めてくれました。
新喜劇の道を教えてくれたのは、小籔兄さんだった
――ついに念願の新喜劇の座員になりましたが、入団したときからずっと座長を目指していたんですか?
いや、私はもう新喜劇に入れただけでめっちゃうれしかったんです。
入団したときに、川畑兄さん(川畑泰史座長)に「いじられるデブじゃなくて、自分から攻めていくボケになった方がいいよ」と言われて。小籔兄さん(小籔千豊座長)にもボケ方を教えてもらいました。「こんな風にボケたらこんなにお客さんが笑ってくれんねや」と身に付けていくのがうれしくて。私もいつか一番ボケる人(一ボケ)になりたいと思ったんです。
昔は女性で一ボケをやっている人ってほんまにいなかったんです。男性が一番ボケて、男性がツッコむ。それをやっている小籔兄さんとかが、どんどんお客さんを笑わしてるんですよ。それがすっごくかっこよくて。
ありがたいことに、私も5年くらい前から一ボケをやらせていただける機会が増えて。もちろんうまくいかなかったこともあるけど、「うれしい」気持ちの方が大きかった。一ボケがしたい。そして大好きな新喜劇をずっとやりたい。そのためにはいつか座長になりたいなぁ……と、やんわり思い始めました。もし座長になったら配役を決めて、一ボケもできて、新喜劇全体も作れるので。
新喜劇の恩師はたくさんいるんですが、「新喜劇の道」を教えてくれたのは小籔兄さんでした。新喜劇の基本からロケの基本まで、めっちゃ色々教えてもらいました。小籔兄さんはボケ方もうまいし、芝居もうまい。すごい先輩です。
プレッシャーを感じるのは、自分を過大評価しているから
――座長就任を知る前に、何か予感はしていましたか?
ほんまに何の予感もないです!(笑)単独イベントの打ち上げの後に社員さんから「話がある」と呼び出されて。「単独やばかったのかな、怒られるのかな」と思ってたんですが、座長の話を聞いて「えっ?私ですか?」と頭が真っ白になりました。もう、めっちゃでっかい大男に後ろからどつかれたみたいな感じでした。
――「座長」になってプレッシャーは感じませんでしたか。
プレッシャーは、自分のことを過大評価しているから感じるんだと思うんですよ。これも小籔兄さんに教えてもらったんです。
私がある先輩座員の代役をしたときに、初めてセリフがめっちゃ多い役で、緊張してしまって。小籔兄さんに「みんな、お前に何も期待していないと思いや。うまくやらなきゃいけない、よく見せたいと思うから緊張すんねや。なんぼ噛んでも、なんぼ間違えてもいいからな」と言われました。とはいえ舞台ではめっちゃ緊張したんですけどね(笑)。小籔兄さんの教えで、私も自分に過大評価はしないようにしています。
「私がこんなすごいところの座長で、大丈夫かな」というプレッシャーはありますけど、目の前のことを一生懸命するだけやなと思います。
――「初女性座長」と言われることについてはどうですか?
確かに「女性初座長」なんですが、そこに甘んじることなくやりたいです。「女やから」というよりも、先輩座長のみなさんがどう新喜劇を作っているのかを見て、いいところをちょんちょんと盗んでいます。
先輩座長のすっちーさんは、ボケるときのパワーが本当にすごいので、自分が一ボケをやるにはこれくらいのパワーが必要やと思う。小籔兄さんは「静」と「動」の笑いが両方できる。川畑兄さんは芝居もうまい。私も、「静」の笑いも「動」の笑いもできて、芝居もできるようになりたいんです。
もちろんみなさんに「初女性座長」と言っていただけてうれしい気持ちもありますが、その分、新喜劇の名を汚さないように頑張ろうって思います。
周りへの感謝、面白さ、謙虚さを常に備えている座長には、必ず人がついてくる
――30歳の若さで座長になり、大変なことはありませんでしたか。
今は私より先輩の座員の方が多いんです。私は座長として周りを引っ張っていくというよりも、師匠クラスから見ても私はえらい後輩なので、逆にみんなが助けてくれました。「藍ちゃん、ここはこうしたらええんとちがう?」「いや、私はこうしたいんですが…」「ほんならこう変えてみるわ!」と、みなさんが私の思いも聞きつつ、もっといい方法を考えてくれます。後輩も「何でもやります!」と協力的で。
先輩座長を見ていると、周りへの感謝、面白さ、謙虚さを常に備えている座長には必ず人がついてきているので、そういうところは盗めたらいいなと思います。
小籔兄さんは常に平身低頭で。私が座長になってからは「上になったからえらくなったんじゃないよ。みんなに『ありがとう』の気持ちを増やさなあかんよ」と教えてもらいました。
小籔兄さんは、座長に求められる姿勢だけではなくて、新喜劇の作り方そのものも教えてくれます。私のいいところはすごく褒めてくれるし、だめなところは「あそこのセリフはもう一個あったほういいやろ?」と、ニュアンスだけで指摘するのではなく、分かりやすい文章で具体的にLINEで送ってきてくれて。
なので、私も座員にはなるべく早く良いところを褒めてあげて、改善するべきところも噛み砕いて伝えるようにしています。「あのタイミングで笑わんほうがいいやろ」と頭ごなしにニュアンスで怒られても、座員は「私だっていろいろ考えているのに……」って腹が立っちゃいますもんね。私が「なぜ笑わない方がいいのか、じゃあどうすればいいのか」をちゃんと粒立てて言えば伝わると思うので。
小籔さんから学んだ「いつでも謙虚でいること」
今回の取材は、吉本新喜劇の大ファンである筆者(27歳。以前関西に住んでいた)の個人的な思いで実現しました。歴史ある吉本新喜劇で、若くして、しかも女性リーダーとして組織をまとめる立場になった酒井さんに、今のリアルな思いやリーダーシップ論を聞きたかったのです。
周囲に丁寧に思いを伝え、いつでも謙虚でいること。酒井さんは先輩座長から学んだ「リーダーとしての姿勢」を実直に体現しています。記事後編では女性リーダーとして心掛けていること、女性だからこそできることについて語ります。多くの女性リーダーや新喜劇ファンに、酒井さんの声が届きますように。
吉本新喜劇 酒井藍さん特別インタビュー(後編)
母性を持って接する。新喜劇初の女性座長・酒井藍が語るリーダー論
酒井藍さんも出演する「吉本新喜劇ワールドツアー ~60周年それがどうした~」が11月からは海外にて公演!
詳細はこちらから。
https://shinkigeki-60th.yoshimoto.co.jp/
【編集部より】
組織のリーダーの在り方について考えた記事はこちら
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