コラム

社労士・北村庄吾が語る、働き方改革の裏側


働き方改革の裏で起きるサービス残業の実態 3つの手口と対策を解説

2018.08.09

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「年金博士」として広く知られ、社会保険制度や労務の問題に関する評論家としてもテレビ・雑誌で活躍する社労士・北村庄吾氏が、働き方改革の裏側を解説する連載コラム。第3回となる今回は、「サービス残業」やそれを是正するための法案について解説していただきます。

目次
  1. 働き方改革法案の成立と今後の労働時間に関する影響
  2. 「サービス残業の強制」を行う3つの手口
  3. 今後はますます適切な労働時間管理が求められる
  4. サービス残業を無くすことが、人材定着にもつながる

働き方改革法案の成立と今後の労働時間に関する影響

働き方改革法案が2018年6月29日に成立しました。労働基準法や労働契約法との法律を束ねて一括して改正する法案です。時間外労働の上限規制の導入、フレックスタイム制・年次有給休暇制度の見直し、高度プロフェッショナル制度の創設、同一労働同一賃金の実現に向けた法整備などが盛り込まれています。

この法案の成立によって、今後、労働時間に関する規制が強化されることになります。しかし、残念なことに、サービス残業を強いる会社は依然としてあります。未曽有の求人難の時代に、貴重な人材を失いかねない「サービス残業の強制」は、企業経営にとってもマイナスです

これまでの2回の連載では、振替休日や裁量労働制の不適切な運用、変形労働時間制の落とし穴などを指摘してきました。

第3回となる今回は、一般に蔓延している「サービス残業の強制」の手口を紹介していくとともに、この手口に対する防衛手段・対策を併せて紹介していきます。

「サービス残業の強制」を行う3つの手口

手口1 残業時間の切り捨て・残業時間の単位設定・上限設定

前提の労働時間を、9:00始業、18:00終業 12:00~13:00がお昼休憩として考えてください。「サービス残業の強制」と捉えられかねない手口1つめは「残業時間の切り捨て・残業時間の単位設定・上限設定」です。古典的な手法ですが、依然として多くの会社で行われています。

残業時間の切り捨て

9時出勤、18時10分退出のケースで、30分未満の時間は切り捨て処理をされるというケースです。切り捨てる時間は15分や30分などのバリエーションがあります。

残業時間の単位設定

「残業時間を15分単位や30分単位で申請させ、それを管理者が許可する」というタイプです。これ自体が違法というわけではありませんが、許可された30分を超えて残業した場合の処理で、問題が起こる可能性があります。申請された時間を超過した労働を黙認していたような場合には、実質的に延長の許可があったとして、超えた分の時間に対して残業代の支払いが必要になります。

残業時間の上限設定

月20時間までしか残業は認めないというパターンです。これも、厳格に運用されていれば問題はありませんが、業務量が20時間ではこなせないような場合に、20時間を超過した労働に対して黙認していたような場合には、その時間に対して残業代を支払わないのは違法です。

残業時間をコントロールしたいという会社側の思惑も理解できますが、実際に残業を放置・あるいは黙認していたとすれば、それは使用者の指揮命令の下での労働とみなされます。

端数処理は、1日単位では認められていない

行政側の解釈で認められている端数処理は、1月(1カ月間)の時間外、深夜、休日労働それぞれのトータル時間に対して、30分未満の労働時間を切り捨て、30分以上の労働時間の切り上げ処理をすることです。1日単位で30分未満の労働時間を切り捨てることは認められていません。この点は十分に注意してください。

そもそも、労働時間とは

「使用者の指揮命令により管理されているか」という基準において、客観的に認められる時間帯を労働時間といいます。

明示の残業命令があっただけではなく、黙認しているような場合でも、客観的に指揮命令下にあれば、労働時間と認められることになります。

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手口2 持ち帰り残業

残業規制が強化されたころから、20時に会社内の電気を消灯するなど、会社内での残業ができない環境を作る会社も増えました。しかし実際には、会社近くのカフェや自宅などで仕事をしているといった持ち帰り残業が多く行われている会社もあります。

会社は社員の「仕事量」と「労働時間」を管理する義務があります。「仕事量」が多いまま、強制的に終業時間を早め、または、会社内で仕事ができない環境を強制的に作ることにより、表向きは残業のない会社のように見せかけて、実態は“会社の外で”残業をさせている会社は少なからず見受けられます。

これらの「持ち帰り残業」も、その時間を把握し、残業代の支払いをしなければ違法となる可能性があります。

持ち帰り残業などに対する防衛策

社員が持ち帰り残業などをした場合に、その労働時間分の残業代を請求する証拠として用いられるのは、次のようなものです。

① 職場のパソコンのログインとログアウトの時刻の記録
職場のパソコンの持ち帰りは原則禁止という会社もありますが、その場合は、社員のパソコンでの作業時間のログなども参考にされます。

② 残業時に作った「仕事のメール」の保存履歴
持ち帰り残業で作成したものを会社のメールに送った際などの送信時刻

いずれにしても、会社は、個々の社員の業務量と労働時間を適切に把握する必要があります。

手口3 社内で強制的に行われている行為を労働時間に含めない

労働時間とは、使用者の指揮命令下にある時間です。直接担当する仕事以外でも、労働時間に該当する可能性のある行動もあります。

以下、該当する可能性が高いものと、場合によっては労働時間になるものをまとめておきましたので、これらの行為を労働時間にみなしていない企業は注意してください。

①朝礼
強制参加なら労働時間

②準備体操
強制参加なら労働時間

③着替え
制服や作業服・防護服など仕事に必要な被服が指定されているような場合は労働時間

④休憩時間の来客当番
お昼休憩中の電話番や来客対応などを依頼された場合は労働時間

⑤仕込み時間
開店前の準備、ランチタイムとディナーの間の仕込み時間は労働時間

⑥準備時間
店舗などで開店前の準備をする時間などは労働時間

⑦待機時間(手待ち時間)
作業と作業の合間の時間、トラックの荷待ち時間などは労働時間

⑧研修
会社からの指示で参加した研修で、参加が強制されている場合は労働時間

以下、最近の裁判例から、労働時間性が問題となった事例を紹介します。

自己研鑽の時間【NTT西日本事件】(大阪地裁 平成22年4月23日)

従業員が時間外に行ったWEB学習の時間が労働時間か否かが争点となりました。

結論として、「当該WEB学習は、その教材が会社の業務と密接に関連し、従業員にもその知識修得の必要性があり、上司がチャレンジシートにおいて明示的にWEB学習によるスキルアップを求めていることなどからすると、当該WEB学習は労働時間と認められる」という判決が出ています。

今後はますます適切な労働時間管理が求められる

働き方改革法案の中でも、労働時間関係は重点項目となっています。長時間労働からのメンタル疾患に対する規制を強化してきています。以下、働き方改革法案での、長時間労働に関する改正の内容と施行日をまとめておきます。

2019年4月1日から施行【労働時間等設定改善法の改正】

・事業主は、前日の終業時刻と翌日の始業時刻の間に一定時間の休息の確保に努めなければならないこととする。
・事業主の責務として、短納期発注や発注の内容の頻繁な変更を行わないよう配慮する努力義務規定を創設。

2023年4月1日から施行

2023年以降は、月60時間を超える時間外労働に係る割増賃金率(50%以上)について、中小企業への猶予措置が廃止されます。

サービス残業を無くすことが、人材定着にもつながる

会社としては、長時間労働をしない体質を作ることが喫緊の課題とされています。また、現在は、求人難の時代です。

今回ご紹介したような、「サービス残業を強制」する姑息な手口を取っている会社は、「人が来ない」、「いる人も辞めていく」といった、会社経営にとって重要な「人」の問題でつまずくことにもなりかねません。残業時間の削減は、努力すればできます。ぜひ、人が集まり、定着する会社作りに取り組んでください。


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執筆者紹介

北村庄吾(きたむら・しょうご) 1961年生まれ。熊本県出身、中央大学卒業。社会保険労務士・行政書士・ファイナンシャルプランナー。ブレイン(株式会社ブレインコンサルティングオフィス・総合事務所Brain)代表。 1991年に法律系国家資格者の総合事務所Brainを設立。ワンストップサービスの総合事務所として注目を集める。 近年は、週刊ポスト紙上での「年金博士」をはじめ、年金・医療保険等の社会保険制度や名ばかり管理職・サービス残業等の問題に対して鋭いメスを入れる評論家としてもテレビ・雑誌で活躍。実務家としても全国の社会保険労務士のネットワーク(PSRnetwork)を主宰。助成金や労務管理・人事制度のアドバイスを精力的に行っている。

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