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コラム

社労士・北村庄吾が語る、働き方改革の裏側


裁量労働制の問題点とは? 知っておきたい、2つの制度の正しい運用法

2018.05.23

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働き方改革において、話題を集める「裁量労働制」。「時間に縛られない自由な働き方」という見方もある一方、「長時間労働の温床になっている」との指摘もあり、2018年5月16日には、裁量労働制を適用されていた男性が、過労死で労災認定されたことが報道されました。

今回は、「年金博士」として広く知られ、社会保険制度や労務の問題に関する評論家としてもテレビ・雑誌で活躍する社労士・北村庄吾氏に、「裁量労働制」と「変形労働時間制」の2つの労働時間制度について解説していただきます。

目次
  1. 「働き方改革関連法案」で再注目されている裁量労働制
  2. 裁量労働制の3つの問題点
  3. 問題の多い裁量労働制、見直しのポイントは?
  4. 間違いだらけの変形労働時間制
  5. 変形労働時間制で、賃金の割増が必要な場合の具体例
  6. 1年単位の変形制の場合は、特別の規制も

「働き方改革関連法案」で再注目されている裁量労働制

「働き方改革」で拡大・規制緩和に向けて法改正を行う予定であった「企画業務型裁量労働制」は、厚生労働省のずさんなデータ管理などの問題も起き、断念されました。

参考:“裁量労働制の拡大”削除した働き方改革関連法案、残る3つの柱とは

そもそも、裁量労働制とはどんな仕組みなのでしょうか。

裁量労働制とは

裁量労働制とは、裁量が与えられる一定の業務に携わる労働者について、実際に働いた時間に関わらず、一定の時間働いたとみなして賃金を支払う制度です。

たとえば、専門業務型の対象業務であるプログラミングに従事する労働者がみなし労働時間を9時間と設定された場合には、実際の労働時間が12時間であっても9時間労働したことになります。ただし、給与の支払いについても通常の8時間ではなく、9時間分の支払いの設定が必要です。

労働者に一定の裁量が認められているため、みなした時間と実際に働く時間が大きく乖離することはないとして始められたこの制度ですが、実際は、長時間労働の温床となっています。そこで、裁量労働制では、制度が設けられた以後、労働者の健康に配慮する改正が行われています。しかし、実情としては、上手く機能していない会社が多いのではないでしょうか。

裁量労働制の3つの問題点

裁量労働制の主な問題点は、以下の3つです。

1.みなした時間と実際の労働時間が乖離している

1日9時間とみなし時間が設定されれば、実際に働いた労働時間が11時間であっても2時間の残業とはなりません。みなす時間を実際にかかる平均時間より短めに設定すれば、結果としてサービス残業を生み出す仕組みになってしまいます。

2.対象業務外の仕事もしているのに、裁量労働とみなされることがある

専門業務型裁量労働制が可能な業務は19業務に絞られていますが、この業務に当てはまらない業務であっても裁量労働制の対象者とされているケースや、業務の一部は該当業務に当てはまらないケースでも、すべての業務が裁量労働制とされているケースが目立ちます。

たとえば、専門業務型裁量労働制の業務の一つであるプログラミングの仕事が全体の6割程度で、これ以外の時間は営業の仕事も行っている場合でも、すべての仕事が裁量労働制としてまとめられてしまうというケースです。具体的には、政府が「裁量労働制の拡大」を断念した後に、野村不動産が裁量労働制の不適切な運用で、過労自殺を招いた事例がマスコミで報じられました。

参考:野村不動産:50代社員が過労自殺 裁量労働制を違法適用 (毎日新聞)

3.休日出勤がも発生した上に、その分の賃金が払われていないことがある

裁量労働制ですから、いつでも働いて良いという認識かもしれませんが、休日まで働かせる仕組みではありません。しかし、現実には、仕事量が多すぎて休日も出勤するようなケースもあります。

裁量労働制は「労働日の労働時間を一定時間とみなす制度であるため、休日に働いた分の賃金については、別途支払われなくてはいけません。

問題の多い裁量労働制、見直しのポイントは?

裁量労働制の導入には、会社側と労働者側 (労使)が労使協定を結ぶ必要性があります。そのため、使用者・会社側が一方的に裁量労働制を導入することは出来ません。しかし、実態としては、労使協定がうまく機能していないケースが目立ちます。

導入の際には、裁量労働制に該当する仕事なのか、必要な時間はどの程度なのか、裁量で働くとはどういうことなのかを労使でしっかりと協議をすることが必要です。そのうえで、長時間労働になっていないかなど定期的な検証が必要になります。1年に1回は 見直しの機会を作るようにするとよいでしょう。

本来、裁量労働制の目的からは、労働者側にとっても、自由裁量で働けるという良い仕組みのはずです。この点を、労使双方理解することが必要です。

間違いだらけの変形労働時間制

変形労働時間制とは

変形労働時間制は、特定の労働日に短時間で働く代わりに、別の労働日には1日8時間以上または1週間で合計40時間以上働き、一定の期間を平均すると法定労働時間内に収まっていれば、割増賃金を支払わなくても良い仕組みです。

この制度は、日本の労働時間の規制の特徴、すなわち「1日8時間」「1週40時間」の2つの規制があるところから生まれました。特定の週の特定の曜日が忙しい、月の中でも後半だけ忙しいという業務の場合に、他の日に短時間勤務で調整をする仕組みです。労働時間を総枠で考えていくのが特徴で、1月単位で考えると、次の時間内に収まっていれば、割増の支払いは必要ありません。

1ヶ月の法定労働時間の上限

※ 週の法定労働時間40時間の業種

変形労働時間制における割増賃金の計算

変形労働時間制においては、あらかじめ、法定労働時間の総枠の範囲内で労働日ごとの労働時間を設定します。いわゆる「シフト」です。シフト通りに行けば問題はないのですが、シフトで設定された時間を超え働いた場合の割増賃金については、多くの担当者が誤解しています。変形労働時間制における割り増し賃金は、以下のようなルールで考えていきます。

変形労働時間制における、割増賃金の計算(1日単位)

まず、1日単位では、以下の場合に残業代が発生します。

  • 変形労働時間(シフト)が8時間を超える場合は、変形労働時間を超えた部分の残業
  • 変形労働時間(シフト)が8時間以内の場合は、8時間を超えた部分の残業

変形労働時間制における、割増賃金の計算(1週間単位)

次に1週間単位では、以下の場合に残業代が発生します。

  • 変形労働時間(シフト)が40時間を超える場合は、変形労働時間を超えた部分の残業
  • 変形労働時間(シフト)が40時間以内の場合は、40時間を超えた部分の残業

変形労働時間制における、割増賃金の計算(変形期間全体について)

最後に、変形期間については、以下の場合に残業代が発生します。

  • 変形期間について「40時間×変形期間の日数÷7」で求められる法定労働時間の総枠を超えた部分の残業

それぞれの場合の残業時間が、割増賃金が必要となる対象となります。

変形労働時間制で、賃金の割増が必要な場合の具体例

「土日休みの完全週休2日、変形の対象となる期間は4週間」という具体例で考えてみましょう。

4週間のシフトは、以下の図の「設定した変形労働時間(シフト)」のようにあらかじめ決められています。4週間の総労働時間は156時間となり、法定の160時間をクリアしています。

変形労働時間制びおける賃金の割増が必要な場合の具体例

1週目の月曜日、2週目の水曜日、3週目の月曜日に仕事が予定どおりに終わらず、それぞれ2時間ずつ超過労働したとします。

1週目の月曜日の2時間は、1日でみても1週間でみても、総枠でみても、8時間と40時間、160時間の範囲内ですから、割増の必要はありません。

2週目の水曜日は、1日8時間の設定で2時間超過していますから、1日でみた場合の割り増しの対象となります。

3週目の月曜日は、1日の労働時間でみると8時間以内ですが、1週間の労働時間は42時間となり、40時間を超えるため、割り増しの対象となります。

このように、変形労働時間制の場合は、超過した時間ごとに、割増賃金の有無について検証が必要です。上記の具体例では、6時間の超過時間に対して、割り増しが必要となる労働時間は4時間となります。

しかし、実態としては、3週目の月曜日のような状態では「1日8時間以内なので割り増しが必要がない」と誤解し、もともと設定されていた156時間と超過した6時間を足して、160時間を超えた2時間だけを割増の対象とするような計算をしている会社が、少なからずあります。

1年単位の変形制の場合は、特別の規制も

実務で活用されている変形労働時間制には、1か月単位と1年単位の2つがあります。1か月単位は、1か月以内の期間でシフトを組みますが、1年単位の場合は最大1年間でシフトを組めるという長期にわたるため、特別の制限があります。具体的には、1日10時間、1週52時間を超えてシフトを組むことはできません。

変形労働時間制は、業務の繁簡にあわせて労働時間を設定できる便利な仕組みですが、運用を間違えると、大きなリスクになることも考えなければなりません。

次回は最終回として「労働時間管理、サービス残業の手口」を予定しています。

執筆者紹介

北村庄吾(きたむら・しょうご) 1961年生まれ。熊本県出身、中央大学卒業。社会保険労務士・行政書士・ファイナンシャルプランナー。ブレイン(株式会社ブレインコンサルティングオフィス・総合事務所Brain)代表。 1991年に法律系国家資格者の総合事務所Brainを設立。ワンストップサービスの総合事務所として注目を集める。 近年は、週刊ポスト紙上での「年金博士」をはじめ、年金・医療保険等の社会保険制度や名ばかり管理職・サービス残業等の問題に対して鋭いメスを入れる評論家としてもテレビ・雑誌で活躍。実務家としても全国の社会保険労務士のネットワーク(PSRnetwork)を主宰。助成金や労務管理・人事制度のアドバイスを精力的に行っている。

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