人材シェアリングネットワーク「Tonashiba(トナシバ)」
雇用のミスマッチを解消! 人を仕事で結ぶ「人材シェアリング」とは?
2018.05.01
企業にとっても働く個人にとっても、雇用のミスマッチは大きな問題だ。企業のニーズと個人が本来持っている能力が完全に一致するということは極めて珍しく、だからこそ、企業の中で個人が「最高のパフォーマンス」で働くのはなかなか難しい。また、「自社が求める能力を持つ人材をどうやって探したら良いかわからない」という企業や、「自身の能力が発揮できる企業がない」と嘆く個人も少なくないだろう。
そんな雇用におけるマッチングの課題を解決し、新しい時代の人材活躍の可能性を広げる取り組みとして始まったのが、企業間の壁を超えて人材を流動化させる人材シェアリングネットワーク「Tonashiba(トナシバ)」だ。
パフォーマンスを最大化する「人材の最適配置」を目指す
人材シェアリングネットワーク「Tonashiba」は、ダイヤモンドメディア株式会社が2月より提供しているサービス。業種・規模を問わず、現在十数社の企業が加盟し、人材のシェアを行っているという。
同サービスは、「参加企業内でミスマッチがあった人材に、他社での活躍の機会を提供する」「社内にない専門性を持った他社の人材にアクセスする」など、個人と企業がそれぞれ最大のパフォーマンスを実現できる人材の最適配置を目指している。
「個人が持っている能力が会社のニーズとマッチしなくても、契約があるからその会社に留まり続けるという状況はよくあると思います。でも、持っている能力がきちんと輝くところで働いた方が個人も幸せだし、会社もパフォーマンスを高くしてもらった方が業績が上がる。そんな関係性をこの事業で後押しできたらと思っています」と、トナシバチームの松井健太郎さんは言う。
参加企業の相互理解で、転職市場に現れない人材へつながる
トナシバの参加企業は対面、SNS、ミートアップイベント等を通じて互いの企業や人材の強み・課題を情報共有し、理解を深めて人材シェアの土壌を整える。参加企業同士のニーズと人材にマッチングの可能性が見えたら、お試しでの他社ミーティングへの参加など、人材流動の可能性を模索していく。企業と人材の相性が良ければ、期間と業務内容を決めて相手企業内で業務開始。有償で人材の派遣を行う場合もあれば、「人材トレード」によって価値の交換を行う場合もある。
「ある参加企業の総務担当の方が、自社での経験がないが今後必要となる業務について、経験豊富な他社の社員に週一日弟子入りをするというプロジェクトが走っています。自社で経験できないことを他社で経験する機会を得ることで、社員の成長が加速するきっかけにもなっています」と、松井さん。参加企業のネットワークによって、通常の転職市場には現れない人材の獲得、あるいは、人材の採用という形に限らない知見の獲得につながる可能性もあるようだ。
個人と企業との関係性が変わり「人と仕事が紐づく」
トナシバの参加企業は、人材だけでなく採用プロセスや研修といった人事機能もシェアしている。企業の要である人材とそのマネジメント機能の共有は、これまでの「企業」という考え方を解体するような取り組みだ。トナシバが目指すのは、「人と会社ではなく、人と仕事が紐づく社会」だと、松井さんは言う。
「人と会社ではなく、人と仕事が紐づくというのは、一見ドライに感じられるかもしれませんが、会社にしがみつく、しがみなければならない人が減ることにもつながり、自立した人が増える、自立した人が本当に貢献したくなる会社が成長するなど、いろいろな波及効果があると考えています 」
実はこの事業に関わるメンバーは、業務委託のフリーランスで働くメンバーを中心に構成されているという。松井さん自身も、企業ではなく仕事と紐づく働き方をしている一人だ。そんな松井さんにとって企業とはどんな集団なのだろう。
「仕事と人が紐づけば、会社は要らないんじゃないかと思われがちですが、そうでもないと思っています。会社は『場』という意味で必要なのではないかと。帰る場所、家じゃないんですけど、あると心理的に落ち着くというか。もしかすると馴染みの居酒屋みたいな感じですかね。ついつい行きたくなるという」
これまで、個人は一つの企業に奉仕する存在だった。その強い主従関係が本来積極的に行われるべき人材の流動化を阻害し、個人と仕事をミスマッチさせてきたのではないだろうか。企業とではなく、仕事と紐づけて個人の能力を見直すことが、雇用のミスマッチを防ぐことにつながるのかもしれない。
執筆者紹介
相沢由介(あいざわ・ゆうすけ) 取材・編集を全て一人で行う宮城ローカルのドキュメンタリーマガジン「インフォーカス」を発行。 一人の小回りと柔軟性を活かして、他のメディアにはない切り口で、宮城のあり様や、そこで生きる人たちの営みを記録。有名な観光地よりも私たちの目の前の景色を、偉い人の確信に満ちた言葉よりも私たちと同じ目線にいる人たちの、迷いや葛藤をすくい取るのが目標。
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