働く社員のメンタルヘルス
「こうあるべき」というプレッシャーとうまく付き合っていく方法
2018.01.29
社会生活で常につきまとう「こうあるべき」というプレッシャー。企業においても、職場の価値観と規範を受け入れることが求められる。しかし、職場で求められるこうあるべき姿と、個人が本来持っているパーソナリティが完全に一致するとは限らない。そのギャップが職場に対する居場所のなさにつながり、無理に矯正しようとすればそのうちどこかにひずみをもたらす。
私たちは社会生活の中で、このプレッシャーとどう上手く付き合っていけばいいのか。男の勉強会「Re-Design For Men」代表で、求められる男性像とのギャップに生きづらさを感じる男性とのディスカッションを続けてきた西井開(にしいかい)さんから話を聞いた。
西井開(にしい・かい)氏
新しい時代の男性性を模索する市民団体「Re-Design For Men」代表。「Re-Design For Men」では、男女共同参画の視点に基づいて男性たちの持つ既存の「男性性」を、より自由なものに作り替えることで、一人一人の生きやすさを追求している。10代~60代までさまざまな年代・背景の人が集まり仙台・京都・大阪で定期的に勉強会を開催している。
「こうあるべき」の内面化
「上の世代からのプレッシャーってすごく感じますよね。それで、最初こそ不平不満を言っていても、3年もそこに居たら染まるんですよね。残業して大人になるんだみたいな体育会系的なノリに」
一昨年まで大学の職員でもあった西井さん。早い段階で就活やインターシップにいくような意識の高い学生にも「男は稼いでナンボ」というマチズムが浸透しているのを感じたという。人は環境に適応するための生存本能として、無意識にこうあるべきというプレッシャーをパーソナリティに取り入れて内面化してしまうのだ。
※マチズム(マチズモ)…男らしさを重んじる生き方や価値観。
しかし、こうあるべきの内面化は、そうなれない自分を追い詰める。失業をめぐる研究では、失業率のグラフと男性の自殺率のグラフに明らかな相関関係があることが指摘されている。
「もちろん稼ぎが無くなって辛くなったというのはあるんでしょうけど、自分の存在意義みたいなものが仕事を失ったことで無くなるんじゃないかなと思うんですよね」
「稼いでナンボ」を内面化した男性たちは、そうなれなくなった自分に失望し、世の中に居場所を失ってしまったのではないだろうか。
プレッシャーにつぶされない工夫
職場で求められる「こうあるべき」と自分の本来の姿にギャップを感じて辛くなった場合、転職という選択もあるが、生活や人間関係がある中では、必ずしもそれができるわけではない。では、どうしたら良いのか。
「『男の逃げ方』というテーマでディスカッションした時に、プレッシャーを上手く避けながらそこに留まる方法もあるんじゃないかという話になって、そこで出て面白かったのが、ディスカッションに参加した方の知人の男性が、会社で辛い時にはしんどいと正直に口に出して言うようになったという話でした」
仕事のストレスで心がまいって通院を始めたというその男性 。それまでだったら、その状況を職場で心配されても「大丈夫です」と強がっていたはずだが、正直に自分が辛いことを「しんどい」と打ち明けるようになった。すると、職場の仲間が仕事をカバーしてくれるようになり、ストレスが軽減したのだという。
この男性は、求められる「こうあるべき」に対して、そうなれない自分を認めて正直に人前で晒すことによって、問題解決の糸口を見い出したのだ。
外在化で「できないこと」に折り合い
内面化に対して、この男性が行ったのは「外在化」だ。自分の状況を言葉にして外に出したことで、職場の仲間も自分もその状況を客観的に捉え、付き合い方を考えられるようになった。文字に書き出してみる、名前を付けてみる、方法はさまざまだが、状況を分かりやすく見える化することによって、どうにかできることとできないことが整理できる、と西井さんは言う。
「体の調子や自分の短所はどうにもできないことじゃないですか。それが分かれば、どうにもできないことを踏まえた上でどうするのかという折り合いの付け方を考えることができるし、どうにかできることだったら改善の方法を考えることができますよね」
この男性を追い詰めていたのはおそらく仕事そのものではなく、「仕事はこれくらいこなして当然」、「職場では弱いところを見せてはいけない」という、周りが要請した理想像を愚直に体現しようとした真面目さなのだ。社会生活を送る以上、こうあるべきというプレッシャーから逃れることは難しいが、それを100%真に受けずに上手にあしらう態度が大事なのかもしれない。
執筆者紹介
相沢由介(あいざわ・ゆうすけ) 取材・編集を全て一人で行う宮城ローカルのドキュメンタリーマガジン「インフォーカス」を発行。 一人の小回りと柔軟性を活かして、他のメディアにはない切り口で、宮城のあり様や、そこで生きる人たちの営みを記録。有名な観光地よりも私たちの目の前の景色を、偉い人の確信に満ちた言葉よりも私たちと同じ目線にいる人たちの、迷いや葛藤をすくい取るのが目標。
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