株式会社LIFULL 羽田幸広氏インタビューvol.1
「日本一働きたい会社」LIFULLに学ぶ、参加したくなる社内大学の作り方
2017.12.26
日本最大級の不動産・住宅情報サイト「LIFULL HOME‘S」を運営する株式会社LIFULL。
同社では、社員が「この会社で働き続けたい」と感じられ、社外のビジネスパーソンが働いてみたい思う会社をつくることを目指した「日本一働きたい会社プロジェクト」を2008年から始動し、2017年には「ベストモチベーションカンパニーアワード(リンクアンドモチベーション社主催)」で第1位を獲得。GPTWが世界50カ国に対して行っている調査では「働きがいのある会社」ベストカンパニーに7年連続で選ばれました。
今回は、株式会社LIFULL人事本部長・羽田幸広氏にインタビューを実施し、「日本一働きたい会社プロジェクト」や、プロジェクトから派生した「LIFULL大学」、社内に人事施策を浸透させる秘訣についてお聞きしました。
羽田 幸広(はだ・ゆきひろ)
1976年生まれ。上智大学卒業。人材関連企業を経て2005年6月ネクスト(現LIFULL)入社。
同社の人事部を立ち上げ、企業文化、採用、人材育成、人材制度の基礎づくりに尽力。2008年からは社員有志を集めた「日本一働きたい会社プロジェクト」を推進し、2011年から7年連続『働きがいのある会社』ベストカンパニー選出に貢献。
著書『日本一働きたい会社のつくりかた』は、サイバーエージェント社長・藤田晋氏、ガンホー創業者・孫泰蔵氏、LINE元CEO・森川亮氏らに推薦されている。
80人の社員を巻き込んで始めた人事プロジェクト
──「日本一働きたい会社プロジェクト」が始まった経緯と、その概要を教えてください。
そもそも、私たちLIFULLグループが目指す世界は、不動産情報サービスを基幹事業としつつ、世の中にある不安や不満を解消し、あらゆる人々のLIFE(人生・暮らし)をFULL(満たす)にしていくというものです。
経営理念は「常に革進することで、より多くの人々が心からの『安心』と『喜び』を得られる社会の仕組みを創る」と定めておりますが、2008年当時は、不動産領域以外の部分や、国内以外に住む方々に、まだまだアプローチが出来ていませんでした。
不動産以外の領域で事業を行う、あるいは海外展開していくということを考えた時に、今の人事施策では、そうした分野で活躍できる人材を採用・育成して挑戦してもらうという体制が整っていない。では人事施策の部分を全社員から提案してもらい、全社一丸となって、誰もが働きたい会社を作っていこう、というのが「日本一働きたい会社プロジェクト」の立ち上げのきっかけです。
スタート当初は9つのワーキンググループを作ったのですが、話し合いの中で「日本一働きたい会社」になるためのテーマを、
- キャリアデザイン
- キャリアデベロップメント
- キャリアエントリー
- 評価
の4つに絞り、4つのワーキンググループへと再編しました。各ワーキンググループには有志の社員と役員、人事が所属し、経営視点、現場視点、人事視点のそれぞれから、活発に意見を交わし、具体的な人事施策へと落とし込んでいきました。
──当時323名いらっしゃった社員のうち、のべ80名、現場の方も多く参加されたということで、参加を促す取り組み等はありましたか?
社長からの強いメッセージと、個別のスカウトが大きかったと思います。社長から「本気で日本一働きたい会社を作りたいと思っているから、それに協力してくれる人を募集します」とアナウンスをして、その呼びかけで手を挙げてくれた社員もいれば、こちらから一緒にやろうと口説きに行った社員もいて、両者でチームを作っていきました。
7年前にスタートし、現在も受講者が増え続けている社内大学
──「日本一働きたい会社プロジェクト」からスタートして、効果があったもの、現在も続いている施策などはありますか?
人事評価制度をはじめ、このプロジェクトがきっかけでスタートしたほとんどの施策が現在も続いているのですが、はじまってから7年間廃れることなく、現在も受講者が増えているのが、LIFULL大学(旧:NEXT大学)ですね。
──LIFULL大学について、詳しく教えてください。
当社では「LIFULL大学」と名付けた社員の学びの場を提供しています。LIFULL大学は、全社員が必ず受講する「必須プログラム」と、次世代の経営者を育成するための「選抜プログラム」、自身で受講する講座を選べる「選択プログラム」という3つのプログラムがあります。
プログラムのうち、「必須プログラム」は「クリティカルシンキング」や「マーケティング」「ファシリテーション」といったビジネスパーソンとして不可欠で、なおかつ社内の共通言語となっているプログラムのみを実施し、「選択プログラム」では、勉強会のような形式を中心とした講座で年間約50講座が開講されます。講師はほとんどが自社の社員で、受講者は好きな講座を受けることができます。「選抜プログラム」では次世代経営人材の育成を目的に、社長の井上が1年間講師をし、選抜したメンバーに研修を行います。
強制する講座はなるべく最小限にし、自発的に学べるシステムに
──「必須」のプログラムの科目が少ないことには、何か理由があるのでしょうか?
一般的な「階層別研修」のような形で、ざっくりとグルーピングして研修を実施していくと、社員はその講座を受講する必要性や意義を感じることができず、「受けさせられている」という感覚が出てきてしまうと思っています。そうなると「なんで俺がこの研修を受けなきゃいけないんだ」といった不満が出てきてしまう。そのため、強制する講座はなるべく最小限にして、自発的に学ぶことができるシステムにしています。
──「選択」コースでは、どんな講座が開かれているのですか?
たとえば、デザインや営業などの技術を学ぶスキル系のゼミや、初心者も参加可能なIOSアプリを開発するゼミ。機械学習について勉強して、ビジネスに生かすゼミや、不動産の業界研究系のゼミ。最近だと不動産投資やブロックチェーンに関するゼミなどもやっていますね。他には心身を鍛えるような講座もあって、マインドフルネスや合気道をするゼミなどもありますね。
社内大学の講師はほとんどが社員、立候補も3割
──講師はほとんどが社員の方ということでしたが、どのように選ばれるのでしょうか?
大体3割くらいの人が、「これを教えたいです」と自分から立候補してくれていますね。6、7割の方は、各職種や事業のマネージャーが、新たに入ってきた社員に教えてあげたいことを、その領域が得意な社員に依頼したり、自分で講師をやってもらったりしています。
──立候補が3割というのは、かなり高いですよね。社員の方が講師に立候補する理由は何でしょうか?
単純に「自分の知っていることをシェアしたい」という社員が多いですね。自分はこのスキルが高いから、苦手な人に教えたい、といった、純粋な動機の社員が多いです。
──そうした考え方を持つ社員の方が3割もいらっしゃるんですね。
もともと我々は社是に「利他主義」を掲げて、その基準で社員を採用していることが影響していると思います。それと、社内の文化の影響もありますね。社内でゼミを作る人、新しい事業を提案する人が常に一定数いるので、「じゃあ私も、僕もやる」ということになる。この「企業文化」をいかに構築して、醸成していくかというのも、人事施策を浸透させていく上ではとても大切だと思います。
社内大学の講師経験が、社員が学び直す機会になっている
──社員が講師を担うことには、どういった意味があるのでしょうか?
「教えることは2度学ぶこと」という言葉がありますが、社員が講師を実施することで、その分野について深く学び直すことができる部分があります。
これまで無意識でやってきたことを、教える際には構造化する必要があるので、講師をした社員は、講座以降は意識が変わります。教えるにあたって知識が足りない場合は、研修するために自分で研修を受けに行ったりする社員もいますね。
社長が講師を担い、取締役候補を育てる「選抜プログラム」
選抜型に関しては、「選抜海外研修」と「LIFULL WILL」の2種があります。
「LIFULL WILL」は次世代経営人材の育成ということで、社長が1年間講師になってもらい、選抜したメンバーに研修を行います。グループの取締役候補を育成する研修なので、1番最初の研修の段階で「グループの取締役になるつもりのない人は、ここで帰ってもらっていい」とで意思確認をします。その意思確認の上で、受けたい人だけが受ける。
1年間の講座のうち、後半半分は全社課題について取り組んでもらいます。一例をあげると、数年前に課題として取り上げられていたものに、「当社らしいオフィスとは?」というものがありました。2017年4月にオフィスを移転しましたが、現在のオフィスの構想はこの研修の中で生まれています。経営陣が全社の課題だと思ったものにアサインして取り組む。
普段は一業務の責任者を担っているミドルマネジャーが、全社の課題に取り組むことによって視座がぐっとあがったり、部署を超えた人間関係が出来たりということで、今後リーダーとして活躍するためのさまざまな観点を学ぶことができます。
選抜プログラムで設計の構想が生まれた、LIFULLオフィス1Fの「LIFULL Table」。「縁側」をコンセプトに設計されている。
─現在のオフィスの構想も、そうした議論の中で出てきたんですね。
はい。オフィスづくりにおいて重要なコンセプトとして出てきた単語は、縁側ですね。
内でもない外でもない中間の場をつくる。そこに社員だけでなく外部の様々な方が立ち寄ることでイノベーションを誘発したい。当社の経営理念を実現するためには外部の知が重要になってきますので、そのような想いでコンセプトを決めました。
縁側のコンセプトが、1FのLIFULL Tableには活かされています。社員には割引き価格で提供し、社食的な側面もあるのですが、利用者の7割近くは周辺にお住まいの方で、地域に開かれた空間になっています。
「LIFULL Table」内部。食堂には、社員だけでなく、周辺地域の方も数多く訪れている。
また、2FのLIFULL HUBは当社と価値観の近いスタートアップやフリーランスの方等が利用できるコワーキングスペースになっています。現時点で約50名以上に会員になっていただいています。
他にもLIFULL WILLの参加者からCTO(Chief Technology Officer)やCDO(Chief Data Officer)などの機能責任者に就任する例も出てきています。
─実際に「選抜」の講座の活躍が、抜擢にもつながるんですね。
そうですね。提案内容がよく、それを実行するためにポジションなどが必要な場合は必要な役職に登用しています。
【編集部より】
株式会社LIFULL人事本部長・羽田幸広氏インタビューの続きはこちら。
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