海外人事コラム
改正労働法で変わる「フランスの働き方」日曜営業解禁に批判も
2017.06.09
2017年フランス大統領選の決選投票が5月7日に行われ、エマニュエル・マクロン氏が、マリーヌ・ルペン氏を下し新大統領に選出されました。マクロン氏は過去にオランド前大統領のもとで経済大臣を務め、フランスの働き方に大きく関わる法律、いわゆる「マクロン法」を制定しています。
フランス国民議会選挙の第一回投票が6月11日に迫っていますが、マクロン氏が大統領になったことで、今年の国民議会選挙は「フランスの働き方」にどのような影響を与えるのでしょうか? この記事では日本とは大きく違うフランスの働き方事情や、働き方に関わる法律・政策について、分かりやすくまとめていきます。
フランスの法定労働時間は「週35時間」
フランスでは「オブリ法」と呼ばれる法律によって、労働時間を「週35時間」と定められています。これは、日本の法定労働時間・週40時間と比べると5時間少ない数字です。この法定労働時間制限に加えて、フランスの労働法典では、夜間や日曜労働を制限するために厳しい規制が設けられています。
午後9時~翌朝6時の就労は、夜間就労として厳しく制限
フランスでは、午後9時から翌朝6時までの就労は、原則として夜間就労とみなし、厳しく制限しています。夜間に事業所を営業するためには、企業側が夜間の経済活動の「必要性」と「社会的有益性」を明らかにし、夜間の就労に関する労働協約を締結する必要があります。
週6日以上連続しての労働は法律で禁じられている
フランスの法定労働時間の規定では、雇用者が週6日以上連続して労働者を働かせることは、原則禁止されています。また、雇用者には「1日当たり連続して11 時間の休息を労働者に与える」ことに加え「1週間に少なくとも1度は、連続した24 時間の休憩を与えること」が義務付けられており、この休息は原則「日曜日」に与えなければいけないことが法律で定められています。
フランスにおいても日曜日に就労することは可能ですが、これはあくまで例外措置とされており、日曜日の労働を認められる理由や分野は、法律に明記されています。緊急工事や季節労働、国防に関連する業務に加え、腐敗しやすい原料を加工する事業所、興行施設(劇場、映画館など)、レジャー施設、病院、市場(マルシェ)、レストランなどがその例外にあたっています。
8月は役所も銀行も休みに! バカンスを大切にするフランス人
「バカンス」という単語が元々フランス語であることからも分かる通り、フランス人は夏の長期休暇・バカンスをとても大切にします。
夏休みにフランスへ旅行を考えている方は、ぜひこのことを覚えておいてください。8月にパリを訪れても、中心観光地以外の小売店やレストランはほとんど休みです。8月のパリは、ほぼ 1カ月の間一種の休眠状態になります。学校や市役所などの官庁や、銀行、工場の多くは休業し、普段の生活すら難しい状態になります。
フランスの年次有給休暇は、1年につき25日
このフランスのバカンスという習慣を支えているのが、豊富な年次有給休暇です。
日本では、「6カ月間継続勤務し、その6カ月間の全労働日の8割以上出勤した労働者」に対して、毎年10日間の有給休暇が与えられますが、フランスでは、法律で年次有給休暇の付与日数を「1年につき30労働日」と定めています。
この「労働日」には土曜日が含まれているため、シンプルに説明すると、フランスでは、平日のうち25日間、有給を取って休むことができるということになります。
これは日本の有給付与日数の2倍以上の数字ですが、有給の取得率が低いことが大きな問題となる日本とは違い、フランスではこの法定年休を国民のほとんどが8月にしっかり消化しています。
労働法改正で、変わり始めた「フランスの働き方」
このように「週35時間労働制」をはじめ、国として長時間労働、休日労働を規制する動きを進めていたフランスですが、近年では、やや状況が異なってきています。マクロン大統領が経済相だった2014年から2016年には、フランスでは10%を超える高い失業率が大きな問題となり、グローバル市場でのフランス企業の競争力を上げ、経済を活性化させることを理由に、労働法典改革の動きが本格化しました。
2016年に成立した労働法典の改正法(通称:エル・コムリ法)では、繁忙期など企業経営上の喫緊の理由があれば、労働時間を1日12時間まで、1週間で46時間(ただし、最高で12週間)まで延長することが許可され、割増賃金は、週の平均労働時間が35時間を超えた場合にのみ支払われることとなりました。この労働法の改正は、「週35時間労働制を形骸化するものだ」として労働組合や学生団体から批判を浴び、全国でストライキやデモも起きましたが、中小企業の経営者団体からは「働く現場の実態に合った法律だ」として歓迎されています。
「マクロン法」によって、夜間営業・日曜営業が解禁に
冒頭でご紹介した通り、フランスは夜間と日曜の労働を法律で厳しく制限してきましたが、日曜および深夜就労は、2015年8月に公布・施行された「経済成長・活性化および機会均等法」(通称、マクロン法) により、オペラ地区やシャンゼリゼ地区などの国際観光地区(ZTI:zones touristiques internationales)の小売商店に限って、日曜および平日夜9時以降の営業が認められるようになりました。また、フランスの市町村長は、食料品小売店を除くすべての小売店に対してこれまでは年に 5 回にかぎり日曜日に特別営業許可を与えることができましたが「マクロン法」の成立によって、特別営業許可を与えられる日数は、年間12日に増えています。
賛否が分かれる「夜間・日曜営業」
フランスで最大規模を誇るパリ・オスマンの百貨店「ギャラリー・ラファイエット」は、営業時間が延長されることを受けて、新たに500人を無期雇用契約(CDI)で雇用しており、夜間営業・日曜営業の解禁が、新たな雇用を生んでいることが分かります。一方で、マクロン氏と大統領選で戦った左翼党党首、ジャンリュック・メランション 氏は「少なくとも週に1日は家族と一緒に過ごせるということは非常に重要だ」と述べており、労働者の生活という観点から、日曜営業解禁を批判しています。
日曜営業の経済効果については、専門家によって意見は分かれており、エコノミストのクリストファー・デンビック氏は、「小売商のデータから判断して売上の顕著な増加は見られず、消費支出が長時間に分散している」として、日曜営業の経済効果に否定的ですが、パリの高等商業学校教官のジャン=マルク・ダニエル氏は「マクロン法の経済効果は長期的に見ることができ、経済活性化の期待ができる」と主張しています。
議会選挙後、「フランスの働き方」はどうなる?
マクロン大統領は、投資銀行出身という経歴と「マクロン法」などの規制緩和政策から、「労働者より経済を優先する」といった印象を有権者の一部から持たれており、社会党のオランド政権で閣僚を務めながら、社会党支持者からは十分な支持を得られていないという状況があります。マクロン大統領は、二大政党である社会党と共和党には所属しておらず、自身が立ち上げた新党「共和国前進」の代表を務めており、立ち上げから間もない新政党が、今回の議会選挙でどこまで議席を伸ばすことができるのか注目されています。
国民議会選挙の結果は、マクロン大統領が自身の望む政策を進められるかどうかに大きく関わってきます。結果によっては、フランスの働き方はさらに大きく変化していく可能性があります。ジェレミー・コービン党首率いる労働党の躍進が大きな話題となったイギリス総選挙と合わせて、今回のフランス国民議会選挙の結果は、労働者の働き方を含めたヨーロッパの方向性を決める、重要な選挙となりそうです。
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