イベントレポート
パーパス浸透に新概念、哲学的思考で導き出す研修プログラムが公開
2023.09.01
電通×東大・堀越氏の共同開発。「哲学対話」を活用したマイパーパスの浸透策
近年の人的資本経営の波に合わせて、自社の「存在意義(価値)=パーパス」を定め、社員の道標とする企業が増えてきた。しかし、策定してもなかなか浸透せず、組織で機能させられていない例も散見される。策定したパーパスをいかに従業員に自分ゴトとしてもらうか。
電通は7月、東京大学共生のための国際哲学研究センター 上廣共生哲学講座 特任研究員の堀越耀介氏(以下、堀越氏)と共同で、「哲学対話」を活用した浸透策「マイパーパス策定プログラム」を開発。公開されたプログラムの詳細と、ワークショップの様子を紹介する。
【写真:プログラム体験会に登壇した堀越氏(右)と、電通シニア・コンサルティング・ディレクターの中町直太氏】
- 目次
-
- マイパーパスの策定に哲学対話が効果的
・企業単位ではなく個人単位で考える「マイパーパス」
・自分を問い直す「哲学対話」の方法 - 体験会でマイパーパスの策定を実践
・多種多様な視点のインプットが自分の信念を掘り起こす
・マイパーパスは自分への問いに変換
・AI時代、哲学対話の力で企業力を底上げ
- マイパーパスの策定に哲学対話が効果的
マイパーパスの策定に哲学対話が効果的
今回電通が提供を開始した「マイパーパス策定プログラム」。東京大学・堀越氏が実践する「哲学対話」のアプローチを活用したもので、企業のパーパスをもとに、従業員一人ひとりがその企業で働く意義である「マイパーパス」を策定するための研修、ワークショップなどを提供する。
企業単位ではなく個人単位で考える「マイパーパス」
近年、ESG(環境・社会・ガバナンス)やSDGs(持続可能な開発目標)など、企業は利益の追求のみならず、社会的責任を果たすことが求められている。「顧客への体験価値だけではなく、社会全体への価値を考える時代になっています。そのためには、組織を構成する従業員一人ひとりが、その価値を理解し、自分ゴト化することが重要です」(電通・中町氏)。
“マイパーパス(個人のパーパス)”とは、社会・世の中における自らの存在意義を定義することだ。なぜ働くのか、社会・世の中において、自分のやりたいこと・できることがどのような“社会的な価値”を発揮できるのか。企業のパーパスを自分単位で考えることで、自分ゴト化につながり、ひいては企業のパーパス浸透が実現される。
自分を問い直す「哲学対話」の方法
そして、この自分の「社会的価値」に自ら問いを立て思考していく過程こそ、今回のプログラムに取り入れられた「哲学対話」と呼ばれる手法である。
「哲学対話」は、”VUCA”とも呼ばれる不確実性が高く、未来予測が困難な環境の中で、欧米を中心に広がりを見せている実践だ。現在日本でも、企業や教育現場、自治体などさまざまな場で実践され始めている。
「“哲学”と聞くと、難しく堅苦しい印象を抱く方も多いかもしれません。しかし、この“哲学対話”とは、カントやプラトンなどが実際にやってきたこと・考えたことを真似するのではなく、彼らがやってきた“思考態度”を真似しようということ。自ら問いを立てて、対話を通じて課題解決を図っていく。そのプロセスこそ、マイパーパスを考える上で非常に効果的です」(東京大学・堀越氏)。
体験会でマイパーパスの策定を実践
今回、会ではフリーランス広報約10人が参加し、実際に本プログラムを体験。参加者が輪になり、堀越氏もそこに加わる形で、「哲学対話」を実践。その後、個人ワークを経て、マイパーパスの策定を目指した。
堀越氏は「哲学対話」を実践するうえで、下記の6つの心構えを挙げた。
- 勝負でも、単なる意見交換会でもなく、「探究する対話」であること
- 誹謗中傷以外、立場や信念を気にせず自由に発言すること
- 意見や立場は都度変わってよい
- 合意や結論がなくてもよい
- 話すよりも、問いや聞くことに重きをおくこと
- 他人の言葉やデータではなく、自分の言葉で考えること
参加者からは、「意見は変わってもいい」「合意はなくてもいい」という条件は、心理的ハードルも低くなりプログラムに臨むうえでは安心材料となったとの声も聞かれた。企業導入の際にも、この参加者のモチベーションは注目したいポイントだ。
多種多様な視点のインプットが自分の信念を掘り起こす
当日はまず、堀越氏から「フリーランス広報の意義」について問いが投げかけられた。それに対して「客観性をもって会社やサービス向き合える」「忖度なく伝えることができる」など企業外の存在・ポジションという視点と、「組織的な制約がない」「企業・仕事の大小に関係なく携わることができる」という1人のフリーランスとしての姿勢を表現する、大きく2つの視点が垣間みえた。
その後の「自分たちは広報をすることによって、何をしていることになるのか」という問いに対しては、「商品だけでなく、意味やコンセプトを伝える」と“伝える中身”に視点がいく人もいれば、「ひとりひとりに、届けて幸せにする」という“届ける対象”をみている人もいた。さらに、広報に対する姿勢を問われると、「説明責任と作法を踏まえ、責任をもって広報する」「自分が1番のお客さんとして向き合う」など、ここでも人によって大きく視点が異なる形となった。
各参加者が見据える社会・対象の規模によって思考も大きく変わってくる。この多種多様な考え方や見え方があることに気づけること。これも、哲学対話のメリットの一つである。
これらのいくつかの問いを経て、あらためて「フリーランス広報の社会的意義とは何か?」という問いに立ち返ったときには、「共感とストーリー性」「よりよい社会・世界をつくっていきたい」など考え方や視点がよりクリアになった人が多く見られた。広報・PRという職種に対しての信念のようなものが見受けられ、発言・対話を通じて、各々が少しずつ自分と向き合うステップを踏んでいる印象であった。
マイパーパスは自分への問いに変換
「哲学対話」終了後は、実際にマイパーパスを策定するための2つの個人ワークが行われた。まず10分間、個々人が集中して自問自答する時間が与えられ、パーパスのキーワードとなりうる言葉を考える。参加者からは、「咀嚼力」「最大多数の最大幸福」「言語化と傾聴」「可能性とマッチング」などという言葉が挙がった。
そして最後に、見つけたキーワードを“問い”につなげる。この工程が、他のパーパスを考えるワークショップと異なる、ユニークな点だろう。問い(疑問形)にすることで、自分のなかに残り、さらに態度にもつながると、堀越氏からも説明があった。
実際にキーワードとして「最大多数の最大幸福」と挙げていた参加者は、「幸福の最大化ってどういう状態?」と変換。たしかに、このように自分への疑問符となっていると、今後行動しているなかでも頭の片隅にその問いがあるような感覚となり、今後も追求していく姿勢になる。
一個人の自問自答ではなく、似た仲間がいて、ファシリテートする人がいて、言語化をして発話することで、思わぬ視点とそこから気づきが得られ、そこから自問自答がさらに深掘りされる。これが、哲学対話を活用したこのプログラムの強みなのであろう。
AI時代、哲学対話の力で企業力を底上げ
今回の参加者に、企業導入について聞いてみると、好意的な意見が聞かれた。
「企業人は目標があるから、パーパスを考えてもらうことは相性がよさそう」
「自分が何をしたいかが重要。それは自分ですべて理解しているわけじゃないため、対話にすると相互触発が起こり、構築・浮き彫りにできると思った」
一方で、今回の参加者は全員がフリーランスであったため、関係値がない状態であったが、同じ組織内の従業員同士であれば、対話に抵抗を抱く可能性もある。参加者からは「堀越氏という哲学者がある意味ストレンジャーとなり、その空間を非日常としてくれる」「部署単位は難しいが工夫しだいだと思う」「上司・部下は同じチームに入れず、フラットな関係であることが重要かもしれない」といった意見が聞かれ、今後本プログラムが対象者ごとにどのような展開を見せるか興味深い。
最後に、中町氏と堀越氏から今後の期待と展望が語られた。
「人的資本経営に注目が集まる中、従業員エンゲージメントの向上が重要になっていきます。人を大切にする企業風土の醸成は、対話によるコミュニケーションがベース。哲学対話を活用することによって、組織力の底上げを図る企業の力になれたら嬉しいです」(電通・中町氏)
「この先もさまざまなことがAIで処理できるようになると思います。そのような時代でも、何が重要かは人間が決めるしかない。そのなかで自分たちがどのように生きたいか、企業でどのような問題に立ち向かっていくかを考えるうえで、哲学的な素養は必要になってくると考えています。座学ではなく、考えて表現することや、言語化の向上を図るプログラムを企業が取り入れていってもらいたい」(東京大学・堀越氏)
※情報は取材時点
マイパーパス策定プログラム<フリーランス編>概要
日時: 2023年7月19日(水) 18:00~21:00 (受付:17:45~)
場所:赤坂ベクトルスタジオ(東京都港区赤坂)
登 壇: 堀越 耀介 | 東京大学UTCP 特任研究員/独立行政法人日本学術振興会 特別研究員
中町 直太 株式会社電通 シニア・コンサルティング・ディレクター
【執筆:釘崎彩子】
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