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「役員になりたい」女性社員が3倍増。サッポロビール「一般職→総合職」転換3年計画の全貌

2019.10.23

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2016年4月の「女性活躍推進法」の施行で多くの大企業が風土改革を迫られるようになった。2016年から2018年にかけて事務コース(一般職)だった女性社員のうち65%が総合コース(総合職)に転換したのがサッポロビール(東京・渋谷)だ。

手腕を奮ったのは、現在サッポロホールディングス人事部長の福原真弓取締役。女性活躍推進にむけて、仕組みづくりによる「アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)」のリセットに挑んできた。自身も2度の育休を経てキャリアを積んだ福原氏に、転換を推進した「3年計画」を振り返ってもらい、大企業に訪れた変化を聞いた。
【2019年10月4日取材、@人事編集部 飯塚陽子】

福原 真弓(ふくはら・まゆみ)

1964年生まれ、東京都出身。88年に新卒でサッポロビール入社。総合企画部、「恵比寿ワインマート」出向などを経て、2013年にサッポロビール人事部長、16年にビール業界では初めての生え抜き女性取締役としてサッポロホールディングス取締役人事部長(現職)に。「保育園のお迎えは近所の人にもお世話になりながら」育てた一男一女は23歳と20歳に成長。

目次
  1. 女性活躍推進で欠かせない3つの要素。「辞めない」をクリアした後は
  2. 優秀だった女性社員が埋もれる理由。それ、アンコンシャス・バイアスではないですか?
  3. もともとあった「ママ管理職」を受け入れる素地 社員の意識も変化
  4. 事業所内保育所がもたらしたこと。通勤風景が変わり、文化が変わった
  5. 全てに通じるのは「あなたにとって、一番大切なことは何?」

1.女性活躍推進で欠かせない3つの要素。「辞めない」をクリアした後は

福原さんが「女性活躍推進」でポイントにしているのは3つの要素だという。まずは「①辞めない」。次に重要なのが「②継続的に成果を創出する」「③キャリアアップ」だ。「3つの掛け合わせで、どの一つが欠けても女性活躍は進まない」と考え、なかなか進まない②と③のための施策としてまず取り組んだのが、事務コースから総合コースへの移行推進だった。

それまでの総合コース登用試験の受験要件だった「筆記試験」を特例でなくし、2016年からの3年間に限定して「所属の推薦を受ければ面接のみで転換可能」とし、強くメッセージを出した。すでに事務コース採用は取りやめていたため、対象となる社員の年代は30~40代が中心。当該社員や管理職を含めた現場からの混乱や反発はなかったのだろうか。

にこにこ話す福原さん

「何が変わるの?という声は当初はありましたね。転換しても大幅に仕事内容が変わらない人もいるし、職場が変わらない人もいる。当該社員からは『いきなり言われても』『そんなつもりはない』となかなか腰が上がらない人もいた」

「従来、事務コースのメンバーには教育や育成の機会が多くなかったことも事実。制度を利用するかを検討する期間に事前研修で伝えたのは、『今まで積み重ねた経験からアウトプットすることの喜び』と『キャリアの幅を広げることにチャレンジしてもらいたい』ということ。なぜなら、この層の『人財』に宝が潜んでいる、この層のキャリアを充実させることが会社の利益になる、と私が感じていたからなんです」

事務コースの女性社員の中には、すでに総合コース並みの仕事をしている人や、総合コースの社員以上にクライアント情報に詳しい人など「もっと機会を与えたい人財」が多くいた。埋もれていた宝の山。コースによる壁をなくし、ナレッジ共有を推進するという狙いも事前に説明して理解を求めた。

事前研修も後押しとなり、それまでコース転換する人は年に1~2人程度だったのが、この3年間で一般コース全体の約65%にあたる96人が総合コースへ移行した。中には転居を伴う転勤を志望しキャリアを広げている社員もいれば、移行後、経営職にキャリアアップした社員もいるという。

2.優秀だった女性社員が埋もれる理由。それ、アンコンシャス・バイアスではないですか?

サッポロビールが「ダイバーシティ元年」と位置づけたのは2010年のこと。以来、女性の積極的な採用や育成に取り組んできたが、13年にサッポロビールの人事部長に就任した福原さんが「深い課題がある」と着目したのは、女性社員への仕事のアサインだった。

入社直後は、女性の方が相対的にコミュニケーション力も高く、男性と同等かそれ以上に評価されている社員も多い。だが、入社3~5年目をチェックしてみると、全国配置される総合職社員の中で、伸び悩む女性社員も多かった。

「継続して成果を出し続け、仕事で成長していくためには、成長できる仕事にアサインされることが重要になる。アサインする側が臆病になっているのではないか。つまり、女性は相対的に活躍する機会が失われがちなのでは、ということです」

イメージ画像

写真はイメージです

多くの現場でヒアリングを行って分かったことは、「若手」「女性」というタグが付くとアサインされづらいだけでなく、結婚した女性社員に対して「いつ子どもが生まれるか分からないからリスクがある」と考える管理職が多かったことだ。「抵抗ではないのでしょうが、いわゆるアンコンシャス・バイアス(※)でしょうか。まずアサインされないと実績もつかない。その辺りから変えなければ、とコース転換を含めた制度を整備していくことにしました」と振り返る。

※アンコンシャス・バイアスとは
自分自身が気付いていないものの見方や捉え方のゆがみ・偏りのこと。日常の何気ない行動や言動で、相手に影響を与えてネガティブに作用することがある。

3.もともとあった「ママ管理職」を受け入れる素地 社員の意識も変化

16年に福原さんが役員になり、女性社員の意識の変化も表れた。一つは、16年にとった全社アンケートで、「あなたはどこまでステップアップしたいですか?」という質問に対して「役員まで」と答えた女性社員が14年に比べて3倍になった。

にこにこ話す福原さん

福原さんがロールモデルになったことも関係がありそうだ。
「そうだとうれしいですね。もともと数少ない女性管理職の中に、ママ管理職も複数いました。家事育児との両立は大変ですが、そこで仕事の楽しさを改めて感じているママ社員がいて、限られた時間の中でなんとかやりくりして活躍していました。今では、女性の育休取得率は100%です」

また、女性社員に対してアンコンシャス・バイアスがかかりがちな世代の男性社員に対しても「この数年で変わってきましたねえ。以前は”おずおず”と女性をアサインしていた人が、堂々と責任ある仕事に抜擢するようになったと実感しています」と手応えを感じている。

人事は現場に足を運びマネジメント層と会話を継続。場合によって個別に「自分が育った時代と違う価値観を受け入れましょう」といったメッセージを伝えて意識改革を促したという。

4.事業所内保育所がもたらしたこと。通勤風景が変わり、文化が変わった

サッポロHDでは17年4月に渋谷区恵比寿の本社に事業所内保育所をオープンさせた。育休制度などはすでに充実していたため出産を機に離職するケースはほとんどないが、会社に保育所があることで育休期間を短縮して復職する女性社員が増えてきたという。

今では保育所に子どもを預ける男性社員が抱っこひもで通勤する姿も「日常風景」に。福原さんは「すごく和みますよ。みんな気付きますからね。保育所ができてから数年経ち、ダイバーシティが文化になってきたと感じています」とほころばせる。

本社内にある事業所内保育所

本社内にある事業所内保育所

事務コースの総合コース移行推進措置と同時期に始まった総合コースの転勤免除制度は、育児や介護を含めた個々人の事情に考慮したもの。男性社員も対象だ。申請しやすく、不公平感をなくすために他の企業の事例もヒントにしながら「年収は1割減、ただし昇進等他は一切変わらない」というルールを設定した。これらの同時多発的な取り組みで「第一線で仕事を続けるのが当たり前よね、という文化」(福原さん)を醸成していった。

5.全てに通じるのは「今のあなたにとって、一番大切なことは何?」

福原さん自身、2度の育休を取得しながら仕事と家庭の両立に励んできた。約20年前の当時を振り返って「働く時間のフレキシビリティは明らかに違いますね。時間有給休暇、フレックスタイム制度、テレワーク……。自分で時間をマネジメントできる時代になった」と、少し今の社員をうらやましげに語る。

キャリアアップと、ワーク・ライフ・バランスの実現。相反するようにも思えるが「働き方改革が進んで『今、一番大事なことは何?』が考えられるようになった。制限があってもなるべく仕事をしやすい、成果を出しやすい環境をつくる。今までも配慮はしていましたが、困ったときは制度でオープンに担保するよ、ということです」と説明する。

サッポロの福原さん

企業側からすると、女性活躍推進の施策は“余力”がなければ難しく、後回しになりがちだ。その難しさも十分に感じたという福原さんは、大切なポイントとして「信じること」を挙げる。「最終的には会社のためになる、と信じること。人事はそれを経営陣にしっかり見せること。学生は見ていますから、採用力にもつながり、企業の成長に結びつくはずです」と、おおらかな笑顔でうなずいた。

【編集部より】ダイバーシティ、女性活躍の課題をテーマにした記事はこちら。

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