いつまで採用市場に踊らされて、他社と同じリスクを背負うのか
「自画自賛企業」から脱却せよ。採用ブランドを決める4つの主語
2019.07.31
優秀層の学生に人気の就職活動サイトを運営する「ワンキャリア」(東京・渋谷)PR Directorの寺口浩大さんに、企業が景気に左右されず優秀な学生を採用する方法を聞く特別企画。
前編では今後の学生の就活動向を分析したが、後編ではもし、景気後退が訪れたときに企業がどうすれば新卒採用市場を生き残れるかを考える。学生の口コミやメディアを活用した「採用ブランド投資」や、無駄な採用工数を減らすためのデータ分析について具体的に解説した。【取材:2019年7月2日 @人事編集部 大西里奈】
※前編はこちら
寺口浩大が予言。採用ブランド投資を怠れば次の就職氷河期で大失敗する
寺口浩大
ワンキャリア経営企画室PR Director。1988年兵庫県伊丹市出身。京都大学工学部卒。リーマンショック直後に三井住友銀行で企業再生、M&A関連業務に従事し、デロイトトーマツグループなどを経て現職。現在は経営企画とパブリックリレーションズ全般に関わる。コラム連載、カンファレンス登壇のほか、採用マーケットの透明化を推進するムーブメントを仕掛ける。共著に『トップ企業の人材育成力』。
生き残る方法①:採用ブランドは「4つの主語」で決まる
――「採用ブランディング」といっても、実際には何をすればいいのでしょうか。
施策を考える前に、「ブランドとは何か」という問いに自分なりの答えを持つことが大事だと思います。
概念としてのブランド、マーケティング戦略としてのブランディングなど「ブランド」の考え方は非常に難しく、理解するには勉強と実践が必要です。その割に最近は曖昧な解釈のままマジックワードとして頻繁に使用されている。
僕は誤解を生まないために「ブランドビルディング」「ブランドデザイン」など表現を分けて慎重に使っています。
ここではブランドを「信頼」と訳します。ブランドの強度を可視化する「主語」は4つに分かれます。
1.We
オウンドメディアや就職ナビサイトで「私たちは~な会社です」と発信する。
2.I
TwitterやFacebook、知人との会話で、会社へのエンゲージメントの高い社員が「私は~です。~~の仕事をしています」と発信する。
3.It
新聞やテレビ、求職者に信頼されているメディアに自社の記事が載る。会社のニュースや社員のインタビューが第三者目線で書かれると、認知と信頼性が高まる。
4. He/She
学生がSNSや周りの人に「あの会社は~~だ」と発信する。口コミ。期待値以上に良い体験をした学生は「あの会社はおすすめ」と広めてくれる。
例えば、採用担当者が説明会で毎回話す内容はコンテンツに任せて、リアルな場をインタラクティブな座談会にすれば、体験の質が高まり学生の離脱率も抑えられるでしょう。採用担当者とコンテンツが互いの強みを生かせるよう、役割分担する事例が増えています。
近年トレンドになった採用広報ツールは「We」と「I」の間に位置します。主に採用担当者が記事をアップして「私たちの会社は~です」と発信する。
最近は「WeとIがあふれて異様な自画自賛大会になっている」という声もよく聞きます。どこも「うちの会社がいいですよ」と言っているけど本当かな、と。
一方でItは、求職者が職業選択の意思決定の際に重視するコンテンツとして注目されています。良質な記事コンテンツなどはSNSや学生のLINEグループでシェアされ、これが「優秀なリクルーター」として人事を助ける。
He/Sheの口コミは、これまでの「匿名性が高く信頼できない口コミ」ではありません。インフルエンサーとなる早期就活層にいい体験を供与できれば、彼らの発信する情報が「信頼性の高いクチコミ」となる。それが同学年やその後輩の早期就活層にも影響を与え、Itと同じように人事を助ける存在になります。
生き残る方法②:「自画自賛企業」になっていないか分析する
この4つの主語の図に、自社の採用施策をプロットしてください。自社の主張と外部の客観的評価がずれているか、一致しているかが分かるでしょう。
大切なのは、WeやIが発信する「A社は◯◯です」と、ItやHe/Sheが発信する「A社は◯◯です」を一致させること。これがブランドの強度のベースとなります。
自社が学生に何を約束するのか、しないのか。会社でどんな体験ができるのかを言語化して宣言し、体験の供与を通じて就活生や内定者、社員と約束を守り続ければ、ブランドの強度が高まります。
ブランドの強度を高められれば(約束を守れれば)、次はブランド濃度(約束の対象を明示すること)に投資できます。
「誰に何を約束し、逆に誰に何を約束しないのか」が明確になれば、「A社は■■な人に対して◯◯です」という濃いブランドが徐々に形成される。「10人受けて10人内定承諾」の理想に近づきます。
ただし、「まず強度を高めてから濃度に投資する」の順番を必ず守ってほしいです。約束を守らない人がいきなり「こんな人は苦手だ」とわがままを言いだしたらむかついちゃいますよね。
もし自社のメッセージがWeとIばかりなら、自画自賛企業になっている。WeとIの主張と、ItやHe/Sheの評価がずれた状態のままだと、約束を破り続けて自社のブランドが損われていきます。
まずは現状分析し、4つの主語の主張を可視化してみることです。認知の量と体験の質のどちらに投資すべきかおのずと見えてくるでしょう。
生き残る方法③:データ分析で「ハイカロリーな採用」から脱却する
ハイカロリー(無駄な工数がかかる)な採用になっていないかも重要ですよね。データ分析で学生や競合の動向を整理すると、自社の現状や課題がクリアに捉えられます。
【データ分析すべきこと(一例)】
・母集団中のターゲットの割合
・ターゲットからの採用者数の割合
・母集団からの離脱率、誰がいつ離脱したのか、離脱理由
・サマーインターン離脱者の併願先、最終内定先、内定承諾先
・内定辞退率、辞退理由、辞退してどこの会社に入ったのか
人事には投資家の視点を持ってほしいです。
今後の新卒採用マーケットではリサーチやデータ分析、ポジショニング設定、ブランデッドコンテンツに投資しないと、採用力に格差が生まれます。
これらのデータを分析した上でブランデッドコンテンツと口コミを戦略的に設計すると、施策の選択と集中が可能になる。出会いたい学生に効率的に出会う確率が高まります。
自社が賢い投資家(求職者)を求める場合、投資家の意思決定基準を占める要素は何か、認知の期待値は適切か、それに見合う体験を提供できているか把握し続ける必要があります。
いつまで採用市場に踊らされて後手後手の広告出稿をして、他社と同じリスク(採用の変動)を背負うんですか、と。リスクオフのときに戦略的にリスクオンの動きができる企業が生き残れるんです。
投資家の視点で経営者にアラートを鳴らせるか
――ブランディングとデータ分析をきちんとやるとなると、時間がかかりそうですね。
めっちゃ時間かかりますよ。ブランド投資は人事だけじゃできません。危機感を感じるなら経営者を巻き込んで、「採用現場はこんなに大変なことになっている」とアラートを鳴らしてください。
経営者の関心事は、欲しい人材が計画的に入ってくるかどうか。
これを機に「ブランドとデータに投資しておかないと、また狭間の世代が生まれる。次に穴埋めするために大量採用しようとしても今は全然人がいないから、いざ困っても採れませんよ」と議論を仕掛けてほしい。
経営者も景気後退の危機感は持っているはず。そのディスカッションを待っていると思いますよ。
まずは人事が経営の思考ロジックや投資観点を理解し、投資家の視点で経営者と議論できるレベルになること。
今後は今まで以上に「経営と人事の距離」が採用力に強く影響します。人の重要性を信じる皆さんには、経営者が「人に投資する意思決定」ができるように、その妥当性を示せるようになってほしいです。
今後の新卒採用を考察した記事はこちら
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