メイプルシステムズ 別離問題の真相を望月社長に聞いた
子育ての仕方が違った。経営者と人事部長が別れを決めた理由
2019.07.12
@人事で6月に公開した「Twitter採用対談」の記事に登場した企業「メイプルシステムズ」(東京・中央)。人事部長(CHRO)の鴛海敬子さんが9月末で同社を退職、しかもその他のバックオフィスの社員が次々と離職しているという。
取材のときに、望月祐介社長は同社の鴛海さんと「夫婦」のような関係に見えた。鴛海さんをはじめとするバックオフィスを失った今、望月さんは何を感じているのだろう。いても立ってもいられなかった筆者は、望月さんに緊急取材。鴛海さんの退職エントリと望月さんのインタビューを見比べながら、「経営者と採用担当者にひずみが生まれるわけ」を考えた。【取材:2019年7月12日 @人事編集部 大西里奈】
@人事編集部に衝撃が走る
7月12日午前9時20分、ある編集部員からこんな連絡が来た。
4月末に鴛海(おっしー)さん、望月(もっちー)さんを取材した筆者は、あまりの衝撃にすぐ鴛海さんの退職エントリを確認。メイプルシステムズのバックオフィスの社員がどんどん離職している現実を目の当たりにした。
あの仲の良さそうなメイプルさんがなぜ……。退職した社員の皆さんはもちろん、会社に残った望月さんは大丈夫なのか。
私事だが、筆者の父は小規模ではあるが会社を経営している。父の年齢は望月さんよりはるかに上なのだが、勝手ながら望月さんと父を重ねて考えてしまった。経営者として、彼は今どれだけ孤独な状況にいるのだろうと。
衝動的に「取材したい」と思った筆者は、TwitterのDMで望月さんに取材を依頼。望月さんに迅速にご対応いただき、すぐに取材を始めた(鴛海さんにも許可をいただいた)。
理想とする組織論にズレが生まれる
鴛海さんは7月11日、自身のnoteに「採用モンスターが大好きなメイプルを辞める理由」という退職エントリを公開。退職に至るまでの経緯や望月さんへのメッセージをつづった。
退職エントリによると、2017年11月、数年前から知り合いだった2人がSNSのやり取りを機に再会した。
その時話ししたことで鮮明に覚えているのが、私が”人事の仕事の中で唯一嫌だなと思う仕事が退職を止めるってこと”って話した時に、もっちーが”うちその退職を応援する会社にしたいと思っている”って話してくれたこと。
離職する社員への思いが同じだと感じた鴛海さんは、望月さんの経営するメイプルシステムズに入社。人事部長(CHRO)として、毎日夜遅くまで、がむしゃらに採用活動してきた。
40人前後だった会社は100人規模にまで拡大。しかし、その不安定さや葛藤から、望月さんと鴛海さんが意見をぶつけ合うことが増えた。
しかし歪みは突然現れ、よくいう100名の壁にもあたる瞬間でもありました。このころから少しづつもっちーと私の中で”理想とする組織論”にズレが出て来た頃でもありました。
鴛海さんが理想とする人事像は「軍人が憩いの場とし立ち寄る食堂のおばちゃんスタイル」。望月さんの「属人化していたら会社の成長はない、すべて仕組み化していかないと、個別対応を優先していたらいつまでたっても自分たちの時間が取られるだけ」という考え方が食い違っていた。
「癌である私が社長を苦しめるなら、身を引く」
経営者と人事の衝突は社員にも伝わり始める。広報やデザイナーらバックオフィスの社員が次々と退職。鴛海さんは悩んだ末、この会社では理想の「食堂のおばちゃん」にはなれないと思い退職を決めた。
今いる社員の8割以上は私が採用したメンバーなので、そのメンバーをおいて退職するのがとても心苦しく、なかなか踏ん切りがつかなかったのですが、癌である私がいることで社長を苦しめ、さらにはそのしわ寄せが社員に行くことを考えれば、ここは身を引くのが正しい決断なのではないかと思いました。
鴛海さんは、経営者である望月さんにこんなメッセージも送っている。
もっちーを見ていて思ったのが、君はよくも悪くも繊細すぎです。
人に裏切られる不安を捨て去って
人を信じきる勇気を持ってください
じゃないと周りはついてきてくれません
信じきっていい最高のメンバーを私は採用したつもりです。
さらに欲を言えばもう少し社長としてどっしり構えていてもらいたかったです。不安定にさせてしまった原因が私だと思っているので強くは言わないけど。これから1人でまた新しく文化を作っていく中で、様々なことが起こりうると思うけど、細かいことに左右されずに旗振り役としてどっしり構えていてもらいたいです。
白枠内引用:note│採用モンスターが大好きなメイプルを辞める理由
経営者・望月さんの本音
望月さんは2009年にメイプルシステムズを設立。自身もエンジニアとして活躍する中で、「エンジニアファースト」「すべての仕組みに逆張りを」の企業ビジョンを掲げた。一人で経営と採用の業務をこなしながら、エンジニアが成長できるために社員の「卒業(退職)を応援する」制度(離職率100%)を作った。
2017年、新規事業の立ち上げを機に社員を増やそうと考えていたとき、鴛海さんと再会した。「会社を卒業(退職)してもいい関係でいられる関係性がいいよね、という部分で共感してもらい、鴛海を迎えました」
しかし、望月さんは鴛海さんの入社1カ月後から違和感を覚えていた。「鴛海は、僕だったら落とすような人物を採用していました」
望月さんは、エンジニアの成長には「自立」が欠かせないという。「他人が先にやっていることを真似するようなエンジニアは、新しいものを作れません。自立して、自分で情報を取ってこれる人じゃないと、成長できないんです」
望月さんによると、鴛海さんは「社員が自立できるように、隣で伴走してあげる」タイプ。採用する人材も、そのタイプに合う人材が増えた。
自立する人は何か業務が振ってきた時にも率先して手を挙げる。そうでない社員がいると、望月さんが「やる気がないなら俺が巻き取る」と発言することもあった(望月さんは現役のエンジニアでもある)。
望月さんは「卒業」後の社員との関係性として「付かず離れずの距離感で接する事ができる」ことを求めていた。鴛海さんは、退職後も仲がよく互いに近い関係性でいられる存在になったほうがいいと考えていた。
「みんなで仲良くしよう系の人材が増えていきました。でも、そもそも会社としては自立した人がほしい。ただ鴛海の考えもあるので、無理せず自分の採用をやっていいよ、とも伝えていました」
約2年間、方向性が違う中で話し合ってきたが、もやもやした思いは消えなかった。
そんな中、鴛海さんを含めてバックオフィス(広報やデザイナー)の社員6人が離職することになった。
「台風一過の晴天みたいな気分で、逆にスッキリしたくらい。バックオフィスがほとんどなくなり、本当にやりたい会社を作るタイミングは今しかない、と思いました」
取材で夫婦に見えた「経営者」と「人事部長」
6月に公開したTwitter採用対談の記事で、筆者は2人のことをこう書いた。
取材中の「私のことババアいじりしてくるんですよ! 」「だってそうじゃん」のちょっとした言い合いも、採用面接で役割分担しているところも、筆者には仲がいい夫婦にしか見えなかった。本音で何でも言い合える、理想の「経営者と人事」像だと思った。
望月さんによると、あの取材時にも当然、2人で言い合うことがあったという。「ずっと夫婦みたいなもんですもん。子どもの育て方が違ったんです」
鴛海さんは今回の退職エントリで、望月さんに「人を信じ切る勇気を持って」「社長としてどっしり構えて」と呼び掛けている。望月さんは「信じられる人なら僕だって信用する。社長を演じるのも疲れたし、社長っぽくするってそもそも逆張りじゃないですよね」と答えた。
2人は嘘がつけず、本音で言い合える者同士だ。望月さんは鴛海さんについて「嫌いじゃないし、あれだけ全力で採用活動できるところも信頼できる。でも、仕事は一緒にできなかった」と振り返った。
今後は採用担当を置かず、「感情を入れない」採用へ
メイプルシステムズでは、今後は採用担当者を置かず、採用活動を「仕組み化」するそうだ。採用基準(過去の職歴、今の職場の給料など)を細かく決めてTwitterに投稿し、それをクリアした応募者は全員採用する。採用前に代表面接をすることもない。
「人を見るって本当に難しいと分かったので、これからは感情を入れない採用をします」。その代わり、最初は契約社員で採用し、その後正社員に変わるかどうか検討する。
鴛海さんは退職エントリで「今自分のプランで考えているのは、独立して採用コンサルタントになるか、また自分に合った企業をみつけて組織に入り人事をやるかの2択です」と宣言。
メイプルシステムズは、7月26日に鴛海さんの退職セレモニー「採用モンスター FAするってよ」を開催。人事を探す企業を招待し、鴛海さんに採用交渉する場を設けている。
経営者と採用担当者が、どれだけ方向性をすり合わせられるか
数十人規模の会社ならば、やり方次第では経営者が一人で経営も採用も回すこともできる。経営者が初めて、自分以外の「採用担当者」を迎えるとき、求める人物像や育成方法まですり合わせるのは難しい。たとえ「卒業してもいい関係でいられる」のビジョンが共通していても、もっと深い人材条件まで決めるのは困難だ。
望月さんは「同じ方向に進んでいるのに、その矢印が交差せず、すれ違うこともなかった。ずっと平行線だったんです」と打ち明ける。
採用担当者が求める人材を採用できても、その求める人物像が経営者のイメージと異なれば、会社にはひずみが生まれる。採用担当と経営者がなるべく早期に会社の方向性、求める人物像をすり合わせられるかにかかっている。
望月さんはインタビューの最後にこう話した。
「鴛海には人を見ること、人を育てること、組織を作ることの大変さに気付かせてくれてありがとう、と言いたいです」
望月さんは「いつもの望月さん」だった
望月さんは、想像以上に「いつもの望月さん」のままだった。よどみなく、何かを装うこともなく、自分の思いをはっきりと伝える。バックオフィスが辞めた今も「逆にスッキリした」と言い切り、自分の思い描く「自立した社員が集まる会社」を作ろうとしている。望月さんらしいとは、こういうことなんだろうと思った。「どんな孤独を味わっているのか」と勝手に心配していたのが恥ずかしかった。
父もこんな体験をしているのだろうか。普段は話す機会も少ないが、今週末は実家に帰って父に「仕事、どう?」と声を掛けてみるかな……。
【編集部より】
「メイプルシステムズ」に関する記事はこちら
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