企画

オフィス新時代。本社移転に踏み切った「大手財閥の本気」


オフィスの在り方について、三菱地所グループがどうしても言いたいこと(前編)

2019.01.28

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日本屈指の財閥である三菱地所グループが、新たな挑戦を始めている。従前の大型再開発事業によるオフィスの賃貸のほか、築年数の古い小・中規模の物件を貸し出す事業を展開。コワーキングスペースやテレワークの流行で「自社オフィスはいらない」という選択肢がある中、歴史ある三菱地所グループが時代の変化に合わせて新規事業に挑んでいる。

また、三菱地所は2018年1月、自社の本社ビルを移転して新しいオフィスのあり方を自ら体現した。事業の展開や本社移転から見える「大手財閥の本気」とは何なのか。今回は前編として、新本社の様子と本社移転を成し遂げた思いを明らかにする。また、社員の交流促進、採用強化にもつながるオフィスのつくり方も聞いた。【取材:2018年12月12日】

目次

物理的、精神的な壁を取り払い、コミュニケーションを促進させる

大手町パークビルディング

三菱地所の新本社となったのは、大手町パークビルディング(東京・千代田)の3~6階。延べ約11,900平方メートルのオフィスで、全社員約800人が勤務している。新本社のコンセプトは「Borderless!×Socializing! from MEC PARK」だ。

三菱地所の本社移転

Borderlessとは、性別や職位、国籍はもちろん、物理的、精神的な壁や固定概念の壁をも取り払うことを意味する。スペースを区切る壁がなく、働く人の心の壁をも取り除くような開放的な空間に仕上げた。毎日、社員が同じ部署内で自由に席を決める「グループアドレス」を実施。一般社員に加え、部長級の社員もグループアドレスの対象者となっている。

三菱地所の新本社

Borderlessの一つとして、役員の個室制を撤廃したことも特徴的だ。役員に個室を出てもらうことは老舗企業ゆえに困難な点が多いかもしれない。しかし、総務部の佐々木詩織さんは「意外にもそこまで苦労はしなかった。『なぜやるのか』『どのような意味があるのか』を伝えることで、役員が進んで取り組んでくれた」と振り返る。オフィス賃貸事業を主軸とする三菱地所グループのトップが、自らの働き方を変えていく姿は、社員には本社移転にかける「会社の本気」として伝わった。これが、本社移転の意図を全社的に浸透させるきっかけになったのかもしれない。社員からは「さまざまな立場の社員と距離が近づいた。今までなかった考え方や視点を自分の仕事に生かすことで、業務の効率化に役立っている」との意見が挙がっている。今回の本社移転は、「Borderlessになった場でSocializing(コミュニケーションを活発に)していくことで、人と人とが関わる価値を最大化している」(佐々木さん)

新しいアイデアが「スパーク」するカフェテリア

カフェテリア「SPARKLE」

新しくできたカフェテリア「SPARKLE」も、新本社の目玉の一つだ。ランチ用の空間となるのはもちろん、社内の打ち合わせスペース、休憩スペースとしても使われる。名前には「新しいアイデアやひらめきがスパークし、オフィス内や街に届くように」との願いを込めた。カフェテリアは新卒採用時のOB訪問の場所としても使われ、会社のイメージ向上、採用強化にも一役買っている。

カフェテリア「SPARKLE」

「Socializing」のコンセプトにつながる密なコミュニケーションは、フロアをつなぐ内部階段からも生まれる。階段は東西に1本ずつ設置され、ビルの共用部を通ることなく、社員専用の動線として各フロアへいくことが可能になった。縦横の両方向で自由な往来ができるデザインは、社員同士の偶発的なコミュニケーションを生み出す。佐々木さんは「今まで交流のなかった社員と共有スペースで会うことで、仕事面だけでなく外見の意識も変わり、お洒落になっていく人もいた。お客様に『地所さん、お洒落になったね』と言われることがある(笑)」と話す。

また、社員専用の動線を設けることは、機密情報の漏洩リスクを抑えるセキュリティーの観点からも効果を発揮している。

三菱地所本社内の内部階段

新本社の延べ床面積は旧本社(大手町ビルディング)の約14,800平方メートルから約2割減となったが、社員の共有スペースは以前の約2倍となった。また、移転の半年前からペーパーストックレスを徹底し、紙の資料の保管場所となるキャビネットの数は7割以上削減された。

「従来通りの事業展開では、箱を貸すだけになる」

現在は働き方改革の一つとして、オフィスの在り方を見つめ直す企業が増えている。自社内で社員の交流を促進させる空間をつくる企業もあれば、自社のオフィスを設けず、他企業と交流が期待される「コワーキングスペース」を選ぶ企業も多い。三菱地所グループも、従前の大型オフィス事業だけでは時代の流れから遅れを取る。

「働き方改革を考えた時、オフィス事業を基盤としている当社だからこそ『まずは自らオフィスの捉え方を見直す必要があるだろう』との結論に至った。それが本社移転プロジェクトの始まりだった」(佐々木さん)

三菱地所総務部の佐々木詩織さん

オフィスを取り巻く考え方が変わってきた今、従来通りのオフィス事業では単純な「箱としてのオフィス貸し」になってしまう。空間を貸し出すのでなく、そこで活躍する社員の新しい働き方まで支援できる価値を提供すること。それを自分の会社で実証すること。それが三菱地所グループの出した答えだった。

新本社は実証実験の場

本社移転の実験場としての役割は他にもある。指紋認証による入退室管理システムや、カフェテリアで利用できる決済システムを導入し、シームレスなオフィスでの働き方を実践。そのほか、社員の位置、社内の共有スペースやカフェテリアの混雑状況を把握できる位置情報システムの開発も行っている。これらの実証実験で得たノウハウは今後のオフィス開発や街づくりに生かし、顧客に還元する。

三菱地所グループの本社移転の意義は、社員の働く場をより良くすることだけではない。時代の流れをつかみ、自らの体験を持って将来の事業展開や顧客への支援に生かすことだ。「お客様が未来の働き方をする上で、どういった形がいいのか、継続的に提案していく。それが三菱地所グループのミッションだ」(佐々木さん)

「働き方改革オフィス」の創造に向き合う同社の取組みは、まだまだ続く。後編では、これまでとは異なる思考でオフィスの在り方を追求した、三菱地所レジデンスの新規事業「Reビル」に迫る。(2月公開予定)

(撮影:高井直樹)

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執筆者紹介

下地くにこ(株式会社スキマタイズ) 本職は、女性の働き方相談を行う社団の代表。商社・広告代理店で17年間人事職に就いた後に独立。女性が「働くことを楽しめる環境」をつくるため、企業内で女性社員相談のほか、人事職コミュニティーの運営や働く女性の個別相談を受けている。プライベートでは1児の母。

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