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関西学院大学総合政策学部教授・古川靖洋氏に聞く


オフィスが働き方を変える! 専門家に学ぶ「オフィス改善」の知恵

2017.07.03

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働きやすさ、生産性向上の施策として「オフィス環境」そのものの改善に精力的な企業が増えている。今回は、オフィス環境と生産性の関係についての専門家である、関西学院大学総合政策学部教授の古川靖洋氏に、オフィス改善のヒントをお聞きした。

古川靖洋(ふるかわ・やすひろ)

慶應義塾大学商学部卒業。慶應義塾大学大学院商学研究科後期博士課程修了、博士(商学)。
2003年~関西学院大学総合政策学部教授。2007~2008年ワシントン大学客員研究員。主な研究分野は計量経営学、経営戦略論、オフィスの生産性。著書に『テレワーク導入による生産性向上戦略』『情報社会の生産性向上要因』『創造的オフィス環境』(いずれも千倉書房)など。

オフィス環境の改善は「働き方変革」の起爆剤

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古川靖洋氏

まず、この数年でオフィス環境の改善意識が企業内で高まってきた背景は何なのか。古川氏によれば「ICTの進展により、時間や場所をとわず働けるようになったこと」そして「働き方(ワークスタイル)そのものを見直す動きが増えてきたこと」が関係しているという。

「そもそも、オフィスのレイアウトというのは、その職場で行われる仕事のフロー、働き方を示したもの。日本従来のオフィスでは『対向島型』の配置が主流でした。管理職が端の席から目の前の部下たちの仕事ぶりを監督して、一番下位の部下にまで指示が届き、また自分の元へ戻ってくることで仕事が完了する。こうした仕事のフローを対向島型の配置は表していました。ですので、もしも創造性が発揮できるワークスタイルを社員に望むのなら、創造性の発揮を促すように、少人数でフランクに打ち合わせできるスペースを多めに設ける、といった方法が考えられます。あくまでオフィスの改善は、働き方変革の起爆剤です」(古川氏)

では、オフィスのレイアウトを変えれば、すぐに成果が上がるようになるのだろうか。古川氏は「レイアウトありきでは成果が出ない」と指摘する。

「80年代半ばに通産省( 現・経産省)主導でニューオフィス化を推進する動きがありました。その当時はグレーの机といすが並べられたオフィスが一般的でしたが、これでは新しいアイデアは出てこないという危機感から、カラフルな机やいすを入れる、一人当たりのスペースの余裕をもたせるといった試みがなされました。しかし、経営学の動機づけ理論によると、職場環境を改善しても一時的にしかモチベーションは向上しないのです。『どういう目標、戦略のもとに、どんな働き方をしていくべきなのか』という方針を明らかにし、それを体現するための一つの手法としてオフィス改善に取り組むことが大事ということです」(古川氏)

多くの企業は、職場の活性化・生産性向上を目標の一つとして掲げていることだろう。生産性の議論では、生産性=アウトプット(売上)÷インプット(コスト)という数式を考えたとき、「アウトプットを財務諸表などから定量的に算出できない」という問題が発生し、コスト削減にばかり目が行っていた。そこで古川氏は、オフィス改善を事業として行っている「株式会社エフエムソリューション」と共同し、財務諸表に影響を与える生産性指標を、
①ホワイトカラーの創造性
②情報交換度(他部門との独自の情報やノウハウのやりとり)
③モラール(モチベーション)
の3つの指標に定めた。オフィスの改善においては、自分たちの目指す働き方に合ったものなのか、この3つの指標を高めるのに役立つのか、ということを常に考慮する必要があるという。

「目指す働き方を実現するために、オフィスを変える」。こうした意図をうまく社員に浸透させたオフィス改善の事例として、楽天の名前が挙げられる。

楽天は『組織を活性化させるには社員の自由度を高めることが大事』というメッセージを発し、その象徴として上下昇降デスク『スイフト』を導入しました。もちろん健康面にも良い効果が得られますし、働いているときの姿勢を自由に変えられることで、自由かつ柔軟な働き方を促すという意図が社員に伝わります」(古川氏)

リフレッシュスペースを設けたから、自然とインフォーマルな会話が弾んで職場が活性化するというわけではない。そのスペースが使われていないとしたら、「上司や同僚からサボっていると思われたくないので利用しない」といった要因が潜んでいるかもしれない。こうした状況を避けるには、上司自ら「このスペースを活用することに意義がある」と呼びかけることが重要だという。例えば、毎月そのスペースを使って自部署でのランチミーティングを実施するというような、実際のアクションを伴うとより効果が高まるようだ。

自社の理念やカルチャーをオフィスににじませる

また、オフィス環境を整える際は、自社の経営理念やカルチャーをにじませることで、アイデンティティを維持し、継承する効果が期待できるという。

「壁やインテリアなどの基調カラーを、コーポレートカラーや自社のイメージに合った色にそろえるという例は多いですね。例えば、『グリーンファクトリー』という異名をもつLINE、その親会社で韓国ネイバー本社のビルでは、1階にカフェと図書館があって市民が誰でも利用できるのですが、書架の上に植栽を埋め込んでいるんです。自分たちのイメージカラーである緑ということなんですが、本が濡れないような工夫もされていて、こだわりを感じます。また、自社の創業当時のエピソードにちなんだものをオフィスに置くというのも有効ですね。Amazonは創業当初、自宅のガレージで仕事をしていたことで有名ですが、不要になったドアをもらってきてそれに足をつけ、机代わりにしていました。現在でも、アメリカの本社ではそれを模したドアデスクを使っており、Amazonの倹約精神の象徴となっています」(古川氏)

こうしたオフィスの一工夫を通じて、自社の創業当時の想いや、脈々と受け継がれてきた精神を、経営陣が大事にしているというメッセージを社員に発信することもできる。

まず重視すべきは「縦の情報共有」

LINEのオフィスでは、自席に行くには必ず「ワークラウンジ」「コミュニケーションラウンジ」のいずれかを通るように設計されている。その目的は、社員同士のコミュニケーションを促すことだという。

「確かにコミュニケーションの頻度を増やす仕組みは良いことです。ただし、先述した3つの指標に関していえば、他の部署の人とのインフォーマルな接触を増やすよりも、同じ部署のフォーマルな情報共有の機会を増やすほうが、より効果的です。自分の仕事が組織やチームの目標を達成するためにどう位置付けられており、どれだけ重要なのかといった『縦の情報』を、自部署でしっかり共有しておくこと。これが不十分なまま接点を横に広げても、モチベーション向上にはなかなかつながらないでしょう」(古川氏)

職場の活性化・生産性向上を目指す人事・総務担当者にとっては、同じ部門でのコミュニケーションが円滑にとれたうえで、縦にも横にもコミュニケーションを発展させ、結果として良好な信頼関係を築けるようにする工夫が求められるといえる。

また、オフィス環境を変える際は、人事・総務部だけで決めていくのではなく、事前に各部署の意見を吸い上げていくことが必要だという。

「各部署によって、配置や必要なインテリアなどのニーズは様々であることが多いですし、担当者の考えとズレている可能性もあります。もちろん予算面やセキュリティ面から実現が難しいこともありますが、会社として『ここだけは外せない』という点以外は、部署ごとに自由にアレンジできる余地を残す、という考え方も大事にしたいですね」(古川氏)

執筆者紹介

松尾美里(まつお・みさと) 日本インタビュアー協会認定インタビュアー/ライター。教育出版社を経て、2015年より本の要約サイトを運営する株式会社フライヤー(https://www.flierinc.com/)に参画。ライフワークとして、面白い生き方の実践者にインタビューを行い、「人や団体の可能性やビジョンを引き出すプロジェクト」を進行中。ブログは教育×キャリアインタビュー(http://edu-serendipity.seesaa.net/)。

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