働きやすい職場づくり~キヤノンS&S東北支社編
生産性向上とコスト削減を同時に実現! キヤノンS&Sのオフィス改革
2018.10.05
キヤノンマーケティングジャパン(キヤノンMJ)グループでは、2003年の本社移転をきっかけにグループ全体でオフィス改革に取り組み、生産性向上やコスト削減を実現させている。
キヤノンMJグループの一員である、キヤノンシステムアンドサポート株式会社(以下、キヤノンS&S)東北支社でも、2017年10月のビル移転に伴い、大規模なオフィスレイアウトの変更を実施。社員間のコミュニケーションの増加や、生産性向上といった効果が表れた。
グループ全体で培ったオフィス改革のノウハウを実践する同社を訪問し、東北営業本部の小山啓氏、石塚之斗氏、牧野友貴氏にお話を伺った。
牧野 友貴(まきの・ともたか)氏
キヤノンシステムアンドサポート株式会社 東北営業本部
東北マーケティング推進部 東北ITS・サポート推進課 課長
1997年キヤノンコピア販売(現キヤノンS&S)株式会社に入社。入社後は、営業や本社営業推進・商品企画に携わり、2017年1月より現職。東北エリアのITソリューションの営業促進やサポート業務の統括を担っている。
小山啓(おやま・けい)氏
キヤノンシステムアンドサポート株式会社 東北営業本部
東北マーケティング推進部 東北SS第一課 課長代理
1995年キヤノンコピア販売(現キヤノンS&S)株式会社に入社。入社後は、営業・サポート担当に携わり、2009年1月より現職。ソリューションスペシャリストとして、顧客の基幹・基盤システムのコンサルティング、セミナー企画や社内教育を担っている。
石塚 之斗(いしづか・ゆきと)氏
キヤノンシステムアンドサポート株式会社 東北営業本部
東北営業部 宮城営業課
2015年キヤノンシステムアンドサポート株式会社に入社。
入社後、福島営業部 福島営業課に配属、2017年7月より宮城営業課へ異動。仙台市、塩釜市、石巻市など沿岸エリアの営業担当を担っている。
オフィス改革の目的はES(従業員満足度)の向上
─キヤノンS&Sがオフィス改革に取り組んだ理由を教えてください。
小山氏:
多くの会社で重要視しているCS(顧客満足度)という指標がありますが、我々は、CSはもちろん、ES(従業員満足度)を重視しています。ESを上げる施策の一環として、オフィス改革に着手しているという経緯があります。
現在、「労働力不足」は重要なキーワードとなっています。人材募集をしても、超売り手市場のため採用するのが非常に厳しい。たとえ、社員を採用しても、人材流動が盛んな昨今ではそこそこの人数は離職してしまう。こうした状況を考えると、一人ひとりの生産性を上げ、そしてなおかつ、ESを上げることで、社員に「キヤノンS&Sっていいな」と思ってもらえることが大切だと考えました。
開放的なミーティングスペースを設置し、コミュニケーションを活発化
─オフィスの各所に少し変わった雰囲気の机があるのですが、こちらはどういった意図で置かれているのでしょうか?
小山氏:
オフィス移転の企画が始まった中で、社員に「どこで仕事をしたいか」を尋ねたところ、男性は「ファミレス」という回答が非常に多かったんですね。そこでファミリーレストランを意識したミーティングスペースを用意しました。
─ミーティングスペースに対する、社員のみなさまの反応はいかがですか?
小山氏:
このスペースはよく活用されていますね。完全な個室にはせず、四隅に簡単な仕切りを設けたことで、居心地のいい空間だと思われているようです。完全に仕切られた会議室ですと「予約しなくてはいけない」「部外者は入れない」というイメージがあるかと思うんですが、このミーティングスペースは、「ちょっといい?」と軽い感覚で会話を始められる場所になっていて、その気軽さが好評のようです。
─みなさんはどのような用事でこちらのスペースを活用されるのでしょうか。
小山氏:
先ほどの「従業員満足度」に関わる取り組みとして、弊社では、上長と部下が必ず1週間に1回対話の場を設ける「個別.com」という取り組みをしています。「働いている中で思うことはあるが、誰にも言えない」という状況は、やはりつらいですよね。そのため週に1度、こうしたスペースを使って話をしてもらっています。
「個別.com」での話題は、基本的には仕事の進捗や相談がメインですが、プライベートの話でももちろん構いません。ただ、プライベートな話題を自分のデスクで話すというのは、やはりためらう社員が多いと思うんですね。そういった際に、「ファミレス感」のあるこのスペースはちょうどいいようで、「個別.com」にはよく活用されていますね。
社員の意見を取り入れ、スペースごとにコンセプトを設定
─なるほど。ミーティングスペースについて「ファミレス感」を出されたということでしたが、休憩所も、良い意味でオフィスらしくない雰囲気ですね。
小山氏:
そうですね。「どこで仕事をしたいか」を尋ねた際に、女性で多かった回答は「カフェ」だったんですね。そのため、この休憩所の家具は、カフェの店舗でよく使用されているブランドのもので統一しました。
また、オフィスを清潔に保つという観点で、弊社のオフィスでは「原則飲食禁止」「飲み物はふた付きのものだけデスクに持ち込み可」というルールを設けているのですが、唯一ここはオフィス内で食事が可能が可能な場所としています。ふたが付いていない飲み物も飲んで構いません。
オフィスの省スペース化でコスト削減を実現
─オフィス改革では、「従業員満足度」を重視されてきたということでしたが、他にも重視されていることがあればお教えください。
小山氏:
オフィス移転にあたっては、「コスト削減」も重要な目標でした。ただ、やはり、PCや備品の購入などを考えると、ITコストというのはどうしても上がってしまうんですね。その代わりに、オフィスのスペース自体を減らすことで、コスト削減を実現しました。元々、移転以前はビルの2フロアを借りていたのですが、現在は1フロアで、フリーアドレスのスペースを増やしています。
また一般的に、オフィスの机は120~150cmくらいのサイズが多いと思うのですが、私どものオフィスは、机を80cmに設定しています。
─オフィスの机が移転前よりひと回りコンパクトになったということで、社員の皆さんからは戸惑いの声はありませんでしたか?
小山氏:
実は、弊社は営業が主体の会社なので、オフィスに常にいる社員が少ないんですね。ですので、オフィスの机をコンパクト化し、フリーアドレス化することで、逆に働きやすくなったという声が上がっています。また、机を斜めに配置したことで、社員同士がコンタクトしやすくなり、自然と会話が発生することが増えているようです。
また、7年前から、営業の社員がオフィス以外で快適に働けるよう、テレワークをはじめとした環境整備を進めています。
「IT二重武装化」により、会社全体でテレワークを推進
─テレワークに関する環境整備について、詳しく教えていただいてもよろしいですか?
小山氏:
テレワークというと「自宅で仕事をする」というイメージがあるかと思うのですが、「テレ=離れた所で」「ワーク=仕事する」というのが本来の意味ですので、弊社ではその言葉通り、オフィス以外の場所を含めた「どこでも仕事ができるような環境」を作り上げています。
キヤノンMJグループでは、7年ほど前から「IT二重武装化」という取り組みを行っています。普段、働く際には会社にPCがあるのが当たり前かと思いますが、弊社では、それに加えて、全ての外勤者にモバイル端末を用意しています。この端末は社内LANにつながるようになっていて、「いつでもどこでも会社にいるのと同じ状態で仕事ができる環境」を作っています。
牧野氏:
また、キヤノンMJグループでは社員の直行直帰を推奨しています。例えば、10時にお客様の元に行くアポイントがあるとします。そうした場合、一旦出社してからお客様の元に向かうのが一般的かと思うんですが、もし、自宅からアポイント先が近いのであれば、直行を推奨しています。
逆に夕方には、お客様の元から会社に戻るより、自宅に戻る方が早い場合は、自宅に戻る直帰を推奨しています。この直行直帰の判断は管理職に委ねられていますので、フレキシブルに仕事ができる環境となっています。
7年前から、独自の働き方改革に取り組む
小山氏:
「自宅で仕事する」ということもパイロット的に始めていまして、例えば介護や育児といった事情のある社員には、一定の条件を満たしていれば自宅での仕事を認めています。
ただ、労働基準法上、「管理職は、自宅で働いている労働者を管理しなければならない」というルールがありますので、グループ会社のキヤノンITソリューションズが開発したクラウドサービスを導入し、自宅でも仕事をしているかどうかが把握できる仕組みを取り入れています。具体的には、以下の3つのルールを設けた上で、テレワークを推奨しています。
・インターネットが利用できること
・会社で貸与しているPCを持ち帰って使用すること
・自宅のプリンタでは出力禁止
今でいえば「働き方改革」ということになると思うのですが、弊社は7年前から、こうした仕組みを導入しています。
加えて、こちらはオフィスの省スペース化と関わるのですが、実は弊社のオフィスには固定電話がほとんどありません。会社提供のスマートフォンに内線番号があり、キヤノンMJグループの社員であれば、全てこの内線番号で電話をかけられるんですね。結果として通信コストが大幅に下がり、固定費そのものを下げることが可能になました。
東北支社の特長は「立ち会議室」「マグネットスペース」
─全国のオフィスでレイアウトのコンセプトが共通しているとお聞きしたのですが、レイアウトの特長や、東北支社独自の取り組みなどはありますか?
牧野氏:
「立ち会議室」は特長の一つですね。他には、マグネットスペース。
─「立ち会議室」「マグネットスペース」それぞれの施設について、詳しく教えてください。
石塚氏:
「立ち会議室」は、椅子のない会議室ですね。東北支社では、電動で机の高さを調節できるようになっています。座ることができないため、みんな「早く終わらせよう」というモチベーションを持って会議に臨み、ほとんどの会議が30分以内に終わります。
小山氏:
マグネットスペースは、人が立ち寄りやすいように楕円形に机を置いた空間ですね。
移転前は、オフィスが9階と10階の2フロアに分かれていました。フロアが違う社員とは、下手をすると1カ月顔を合わせないこともあり、現在の新オフィスでは、10階勤務だった人たちと9階勤務だった人たちの間にマグネットスペースを配置しています。
「マグネットスペース」という名前は人が吸い寄せられるように集まる、という意図を込めてつけられた名前なのですが、このスペースがきっかけで、社員のコミュニケーションは確実に増えましたね。
オフィス改革が、生産性向上とコミュニケーションの活発化につながる
─オフィス改革とそれに伴う「IT二重武装化」で、社員が享受しているメリットをお聞かせください。
牧野氏:
打ち合わせをする場所を多く用意したというところで、コミュニケーションの機会は増えたと思います。前のオフィスと比べると、気持ち良く仕事している人が増えているように思いますね。
移転前はトップダウン的なコミュニケーションが多く、逆にボトムアップ的な話を聞く場がなかったんですね。どうしても、何も施策を講じないと上司からの一方的なコミュニケーションが増えるので、「ボトムアップのコミュニケーション」を増やすということは、このオフィス移転で改善された点かと思います。
石塚氏:
営業としては、「IT二重武装化」で、外で仕事できる時間が圧倒的に増えたことが大きいですね。お客様と向き合える時間が長いというのは非常に助かります。社内での業務時間が短くなり、その分お客様との時間が増えたというのが大きなメリットです。
従業員がオフィスに求める役割が変わり始めている
ICTの発達などにより、「働くためにオフィスに行く」ことが必須でなくなった今、オフィスの役割は転換期を迎えつつある。省コストを実現しながら、コミュニケーションを増やす仕掛けを設けたキヤノンS&Sのオフィス改革は、今後のオフィスの役割を考える上で、1つのマイルストーンとなりそうだ。
(文:@人事編集部)
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