林修三先生のなるほど人事講座
応募者の本音を引き出し、志望度を上げる「引出し型面接」のポイント
2018.07.14
昨今の売り手市場という社会環境に加え、特に大学における就職活動対策が高度化している現在、ただでさえ少なくなった応募者をいかに自社に惹きつけ、かつその応募者の持つ能力や価値観を見抜いていくかが、面接官・採用担当者に求められるスキルになってきています。
しかし、面接官にとって、応募者から「魅力的な人」と思ってもらうための振る舞いと、応募者の中身を根掘り葉掘り確認していくための振る舞いは、通常相反するものとなってしまいます。
その解決のため、常日頃筆者は、カウンセリング技術を応用した「引出し型面接」を提唱しています。そこで、今回から複数回に分けて、その「引出し型面接」についての技法をご紹介してまいります。
面接官側が「相手を尊重し理解する」意識を持つ
引出し型面接を実施するうえで最も重要なのは、「応募者が自ら深く話し出すという状況を作りあげること」です。
そのためには、従来型の面接官がベースにしている「選ぶ側」という意識ではなく、
- 「訊く」ではなく、「聴く」
- 「答えさせる」ではなく、「教えてもらう」
- 「アラを探す」ではなく、「良さを見つける」
などのように、相手を尊重し理解していこうという意識に基づくコミュニケーションが必須となります。
この点については、以前の記事「面接官が身に付けておきたい「アクティブリスニング」2つのポイント」の中で「好意的関心」「共感的理解」というワードでご紹介していますので、ぜひそちらをご参照ください。
ただ、往々にして長年役員を務めているなど上の立場からの物言いが染み付いている面接官の方にとっては、この意識の変革が非常に困難だったりします。そのような場合は、傾聴スキルを習得するための研修を別途受講するなどの対策が必要です。
応募者が話をしやすい場づくり
引出し型面接を実施するための第一歩は、応募者が話をしやすい場を作ることです。
もし面接の会場となる部屋が、物置部屋兼用で業務用の資材や段ボール箱が無造作に積まれている状況だったらどうなるでしょうか?
応募者からすると、この会社は自分の面接を片手間で行おうとしているとしか思えないでしょう。これでは積極的に自身のことを話してもらうことはできません。応募者が「この会社は自分を丁重に扱ってくれている」と感じてもらえるような場で面接を行ってこそ、応募者が心を開き、気兼ねなく心の奥を語れるようになります。
そのため、会場となる部屋を奇麗にしておくということは最低限必要な準備となりますが、さらに踏み込んだ場作りの工夫をご紹介します。
(1)応募者との距離感や座席の設定
応募者との距離感は、原則として通常の来客応対と同様にするのが原則です。
距離が遠いと親近感を抱かれにくくなってしまい、応募者は話がしづらくなってしまいます。とはいえ近すぎては評価シートが見えてしまうなどの問題が生じますので、通常の来客応対時と同様にしておくことが原則です。
また、面接試験のステレオタイプとして、面接官側が長机の後ろに並んで座っていて、応募者には椅子だけが置かれていてそこに座るというシチュエーションがありますが、やむを得ない事情がある場合を除き、このようなシチュエーションは避けておくのが賢明です。
このような場の設定は、「我々(自社)のほうがあなた(応募者)よりも立場が上だと考えている」というメッセージを発しているのと同じことになりますので、応募者の防衛本能を無駄に刺激してしまい、話を引き出していくことが困難となります。
(2)面接時の視線の行き先を作り込む
面接というのはいわゆるFace to Faceのコミュニケーションではありますが、応募者の視界には面接官以外のものも多く入ってきます。そこで、面接官の後方に配置するものを工夫することによって、応募者の心持ちをある程度コントロールしていくことを狙っていきます。
例えば、技術力をアピールしたいならば何かしかの賞を受けた賞状や記念品、製品のモックアップなどが見えるように配置する。経営理念を強く訴えたいならば、それが書かれた額縁やモニュメントなどを置いおくのも良いでしょう。雰囲気の良さを伝えたいならば、社員がイキイキと働いている様子を写した写真を飾っておくというのも効果的です。
いずれにせよ、応募者に何を見せていくか?を意図的に設定しておくことがポイントです。
また、応募者だけでなく、面接官の視線の行き先についても配慮が必要です。
もし面接官が頻繁によそ見(正確には「この人は自分との面接以外のことに意識がいっている」と応募者に思われてしまう視線移動)をしていると、応募者に「この面接官は自分との面接を重要事項だとは思っていない」という印象を与えることになり、不信感を抱かせたり口を閉ざさせることに繋がってしまいます。
特に注意したいのは時計を見る際の視線移動です。時計は、原則として面接官と応募者を結ぶ直線上に置いておくのが望ましいでしょう。
置時計であれば、面接官から見て応募者の背後かつ応募者の顔と同じくらいの高さの場所に配置しておきます。腕時計であれば、手首から外し、ベルトを締めた状態にして手元書類のやや前方に立てておきます。
こうすることで、応募者に意識を向けている(と思ってもらっている)状態のまま時間を把握できるようになります。
まずは「場づくり」を優先
一般的に、面接の技法というとどうしても会話テクニックを先にイメージしてしまいがちです。
しかし、コミュニケーションというのはその時々の心理状態に大きく左右されてしまうものですので、まずは準備段階として、応募者が話をしたくなる心理になるような場づくりから工夫をしていってみてください。
執筆者紹介
林修三(はやし・しゅうぞう)(株式会社ヒュームコンサルティング代表取締役) 1975年生まれ。仙台市在住。東北大学法学部を卒業後、大手自動車部品メーカーの経営企画職~IT企業の人事・採用職を経て現職。現在は東北地方の複数の大学でキャリア系科目講師として学生の就職指導に努めるほか、人事・採用コンサルタントとしても活動中。
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