グローバル人材の要諦と輩出(2)
リーダーになるには、まずは「人格者」であれ
2017.06.12
「仕事ができる力」は3段階に分けられる
前回の本稿では、「グローバル人材」を「プロフェッショナル(P)軸」と「インターカルチュラル(I)軸」に要素分解し、双方が高い位置にある人がそれに当たる、と定義した(真のグローバル人材とは、カメレオンのような人?)。今回は、まず「P軸」をどう捉え、どう強化すべきかについて考えてみたい。
P軸を一言で言えば、「仕事ができる力」である。新人からベテランまで、大まかに以下3段階に分けることができるだろう。
- Routine(こなす):自分の守備範囲の仕事を十分にこなしているレベル
- Manage(管理):事業・組織のマネジメントが必要十分にできるレベル
- Lead(リード):リーダーとして事業・業容の拡大と組織変革を主導できるレベル
リーダーに求められる3つの要件
「仕事」の種類を挙げればきりがないので、本稿では一般的に求められるマネジメント・リーダーとしての要件について考えてみたい。つまり、グローバルであろうとなかろうと、リーダーとして仕事で成果を出すために必要な要件はどういったものか、ということだ。
リーダーの要件については、既に様々に提唱されている。書店に行けば「リーダーとは」といった類の本が山ほどあるし、リーダーの条件も、「5個だ!」というのがあれば「50個だ!」とするものもあり、私も企業研修用の課題本を選ぶ時にいつも迷う。著名経営者をはじめ、指導者的な立場を務めた人であれば誰もが一家言持つに至るのがリーダーシップという分野であり、百家争鳴もむべなるかな、である。
私は、リーダーの要件を大きく3つに分けている。それは、『意欲』と『能力』と『人格』だ。仕事が何であれ、成果を出さないとリーダーとはいえない。とすると、行動力を含む『意欲』、そして仕事をマネージし、新しい境地を思い描けるだけの『能力』は必須だ。また、そもそも周りが一緒に仕事をしたい、この人についていきたいと思えるだけの『人格』がなくては(一人突っ走るだけでは)リーダーとはいえない。だから、『意欲』と『能力』と『人格』である。
リーダーの要件(1)「意欲」
もちろんこれらの基本要素は、より細かく分解される。『意欲』には、「チャレンジ精神」「大胆な行動力」「成果達成への拘り」「変化を厭わない柔軟性」「高い好奇心」などが含まれるだろう。「自己成長願望」も、『意欲』の現れである。リーダーは学び続け、成長し続けなくてはならない。その姿を見て、部下や組織のメンバーも学ぶだろう。「率先垂範力」はリーダーの重要な要件だ。
リーダーの要件(2)「能力」
『能力』は、「知識」と「技術」に分けられる。仕事上知っておくべきことは多い。ビジネス分野でいえば、業務上の専門知識はもとよりリーダーとしてはもっと高度の、マクロ要因、社会トレンド、顧客動向、自社ビジネスモデル、競合他社の戦略等を十分に理解しておかなくてはならない。そのためにも、MBA(経営学修士号)に代表されるような、マーケティング、経営戦略、組織論、財務会計等の基礎知識(そう、MBAはビジネスリーダーには必須の「基礎知識」である!)くらいは身につけておかなければ、組織マネジメントをプロのレベルで行うことは困難だろう。
一方の「技術系」能力とは、「知識を業務に転化・適用できる力」を意味している。いくら世界経済のことを知っていても、それを仕事に活かせないのであれば、知っていて意味がないとはもちろん言わないが、「能力」を発揮しているとは言えない。自社の事業を論じる時に、世界経済の大きなトレンドをまず踏まえて考えるべきところを、目の前の比較的細かな議論に振り回される、などといった現象がそれである。ビジネススクールに通ってMBAを取ったのに、そこで学んだ知識を仕事で活かせていない人はものすごく多い。それは、「知識」が「技術」になっていないからだ。マーケティングを学んでも、日常的にマーケティング的な考え方をしてそれを自社の商品やサービス展開に活かさないのであれば、宝の持ち腐れである。
なぜそんなことが起こるかというと、一つは学位は取ったが使えるレベルまでの真の知識習得ができていない、ということ。もう一つは、上述の『意欲』の欠如であろう。『意欲』は、自分自身との対話であり、自分の弱さとの戦いでもあるが、そこには『人格』が大きな意味を持つ。
リーダーの要件(3)「人格」
『人格』というと、「聖人君子なんて、とてもとても…」などと思われるかもしれないが、人格は誰もが持ち、誰もが磨かなくてはならない、人間としての基本要件だ。人格者は誠実であり、柔和であり、正義を貫き、自己犠牲の心を持つ。謙虚であり、自分の社会的地位や年齢に囚われることなく誰とも真摯に向きあい、礼儀を持って接する。言葉は穏やかで、怒ることも怒鳴ることもない。一方で目標は高く、高潔であり、自己の使命を認識し、ぶれない軸を持ち、力強い。それが、洋の東西を問わず、今も昔も、慕われる人格者の姿ではないだろうか。
人格者であることが、リーダーの第一要件
今も昔も、と言ったが、例えば2千年の昔に書かれ、今も世界で読み継がれている『聖書』には、このような記述がある。
「肉の行ないは明白であって、次のようなものです。不品行、汚れ、好色、偶像礼拝、魔術、敵意、争い、そねみ、憤り、党派心、分裂、分派、ねたみ、酩酊、遊興、そういった類のものです。(中略) しかし、御霊の実は、愛、喜び、平安、寛容、親切、善意、誠実、柔和、自制です。」
(『ガラテヤ人への手紙』 5章19−23節)
また、別の箇所では、人格の最たる姿である「愛」について、以下のようにある。
「愛は寛容であり、愛は親切です。また人をねたみません。愛は自慢せず、高慢になりません。礼儀に反することをせず、自分の利益を求めず、怒らず、人のした悪を思わず、不正を喜ばずに真理を喜びます。すべてをがまんし、すべてを信じ、すべてを期待し、すべてを耐え忍びます。」
(『コリント人への手紙第一』 13章4-7節)
西洋世界、特にキリスト教文化に根ざした国々では、リーダーとしての人格的涵養を目指して聖書を日常的に読む人は多い。読んだからといってすぐに高潔な人格を身につけられるわけではないだろうが、それを日常的に繰り返すことで、「自省」と「自制」のスパイラルが起こり、徐々に人格が高められていくのだ。
人は誰しも、人格者についていきたいと自然に思う。『意欲』も『能力』も大切だが、人格者であること、それがリーダーの第一の要件だと私は思う。
執筆者紹介
松浦恭也(まつうら・やすなり) プライスウオーターハウスクーパース(ロンドン&東京)でM&A戦略および事業再建業務に従事した後、株式会社グロービスで組織開発・人材育成コンサルティングに従事。ディレクター兼大阪オフィス代表を務めた後独立し、現在グローバルアーク・コンサルティング株式会社代表取締役。JOHNAN株式会社社外取締役。京都大学経営管理大学院客員教授。同志社大学国際教育インスティテュート嘱託講師。米国リーハイ大学「Global Village」プログラム日本代表兼招聘講師。 グローバルアーク・コンサルティング株式会社
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