Books&Apps安達裕哉編集長が語るオウンドメディアの作り方
本気でWebを愛せるか。採用オウンドメディア成功のカギ
2019.09.24
大手ナビサイト離れが加速する新卒採用。「採用ブランディング」の必要性が叫ばれ、それを担うオウンドメディア運用を始める企業が増えてきている。
採用に特化したオウンドメディア運用に必要なのは「カネ」「ネタ」「ヒト」。では、その三種の神器がそろったところで果たして「優秀人材確保」「ミスマッチ防止」という”成功”に結びつくのだろうか。
今回は、月間200万PVを誇る人気ブログ「Books&Apps」の編集長で、多くの企業のオウンドメディア支援を行っている株式会社ティネクト代表取締役・安達裕哉氏に、採用オウンドメディアの成功戦略についてインタビュー。「成功しているのは10に1くらい」と言う安達さんに、担当者が知っておくべき「覚悟」を聞いてきた。【2019年9月9日取材、@人事編集部 飯塚陽子】
株式会社ティネクト代表取締役
安達 裕哉(あだち・ゆうや)
1975年東京都生まれ。デロイト トーマツ コンサルティング合同会社にて12年間コンサルティング業務に従事。2013年にビジネスパーソンに向けメディア「Books&Apps」を立ち上げ、ライター兼編集長を務める一方、企業にオウンドメディア支援、採用支援などコンサルティング活動を行っている。
1.オウンドメディアは甘くない。「カネ」「ネタ」がなければ勧めません
この7~8年で盛り上がりを見せている企業のオウンドメディア運用。特に採用に特化したオウンドメディアは、企業が主体的にメッセージを発信する「オウンドメディアリクルーティング」として、この1、2年で急速にニーズが増しているといえる。
企業の採用支援に関わる安達さんは「求職者のニーズは一貫しているんです。一番読みたいのは、広告や媒体に書いていない、企業にとって“イヤな”情報ですよね。そういったコンテンツを掲載する、良質なオウンドメディアが出てきています」とブームを語る。
求職者だけではなく一般の消費者が読んでも「面白い」オウンドメディアが続々と登場し、ファンづくりに成功。ただし、表に出てくるのはいわゆる「採用強者」の事例だ。社員ブログなどを掲載している採用サイトも含めて、「読まれる」オウンドメディアを運用することは「10に1、成功しているくらいでしょう」(安達さん)と、思っている以上に難しい。
※採用強者の事例はこちら→ウォンテッドリー、サイボウズ…ファンを作る「オウンドメディアの法則」とは
「もし、手っ取り早く人材が欲しいなら求人広告をおすすめします。例えば、採用コストが1000万円あるとして、1/3はブランディングに投資します、といった考えなら始めてもいいでしょう。ブランドづくりとはそういうもの。明日の売上に困るような会社は始めちゃダメ。また、きれいなメッセージを発信したい企業も向いていません」
2.「Facebook友達100人」の部長は、絶対Web担当になってはいけない
まず考えるべきは、自社の採用戦略や方針がオウンドメディア運用に向いているかどうかだ。箱だけ作っても運用しなければ効果が生まれないのだから、最低1~2人は張り付く専任者が必要。ここに「カネ」が必要で、中長期的にブランディングのために投資を続ける覚悟があるかどうか。
安達さんが「最も大事です」というポイントが、メディアの専任者にあたる「ヒト」選びだ。「担当者が片手間でやってうまくいった試しはない。まず、メディア運用ができるスキルのある社員がいるかどうか。いなければ外注した方がいい。それでも自社社員にしたいなら、とりあえずFacebookの友達100人の部長にしたら絶対ダメですよ」。この「ヒト」選びが、読まれる「ネタ」につながる。
コンテンツ制作のプロでもある安達さんが考えるスキルとは、「Webで何が面白いか、判断できること」。そのためには、日頃からWebやSNSで情報の獲得・発信を能動的にしていること。つまり、Webを愛しているかどうか。
「自社が発信したいメッセージであるか」の確認は誰にでもできても、「Webで面白いかどうか」の判断は、情報にニュース性を求めてきたアナログ世代にはどうもハードルが高いようだ。安達さんは「ネットで求められているのは、ニュースじゃなくて”解釈”なんです」と言う。担当者に迷ったら「Twitterのフォロワー数が一番多い人でもいい」とアドバイスする。
3.「絶対に読まれる」と言い切れるコンテンツがある
採用オウンドメディアの”失敗”とは、PVやUUなど数値の低さではなく、届けたい層に届かないことだ。”成功”の効果測定も数値ではなく、届けたい層に届くこと。新卒採用なら内定者に聞くのが一番分かりやすい。「自社のオウンドメディアをどれくらいの頻度で読んでもらっていたか、どう気持ちに変化が生じていたか、などを聞けば簡単に効果測定はできる。後は採用広告と比較して、例えば3年でコスパがどうか、成功とする基準を各企業で設定してみるといいでしょう」
では、ターゲットに届けるための「読まれるコンテンツ」とはどんなものか。
安達さんが「一番読まれるもの」と断言するのが、「退職エントリ」だ。企業側が出したくない、もっともコアな情報とも言える。「オウンドメディアに自社の退職エントリのリンクをつければ、かなり読まれると思いますよ。『退職エントリで書いてある退職理由の真相を解説します』なんてコンテンツがあれば最高じゃないですか」
とはいえ、採用サイトにマイナスな情報ばかりが集まっていては、ただのブラック企業だ。安達さんは「やり方は2つある」という。1つは従来の採用サイトに多い「応募者を集めたい」目的のPRパターン。ここには、欲しい人材向けにPRメッセージは並ぶものの、例えば日々の業務に奮闘するエピソードや給与の話といったコアな情報は掲載しない。「コアな部分は採用説明会で発信する」というものだ。
2つ目はPV数を気にせずにコアな情報を出していく、というマーケ型パターン。自社に興味を持ち、応募意欲がある求職者の「知りたい」ニーズに応えていく。知名度のある社長や社員が本音で語るブログやインタビューなどが主なコンテンツになることが多い。
「1つ目も2つ目もそろっている(バランスよくサイトに掲載されている)のが良いオウンドメディア。いい会社であればあるほど、PV数は追求する必要はせず、ブランディングに注力していくことになります」
4.社長が発信できる会社は強い。キーワードは「率直であること」
ここまでくると、採用オウンドメディアは「カネ」「ネタ」「ヒト」の豊富な大企業やイケイケのベンチャー企業だけの特権のようにも思えてくる。「自社のブランディング向上に取り組む気概だけはあるんだけど!」という中小企業はどうすればいいか。
「お金がかからないのは、社長がコアな情報を発信していくことです。知名度があり、文章が書けるといいですね。先輩社員のメッセージよりも、ずっとターゲットの心を動かします。もちろん、悪い情報も出さないといけない。ネットとはそういうところなんだ、と理解している社長なら、面白いメディアになる可能性があると思います」
安達さんが繰り返す「読まれるコンテンツ」のキーワードがある。「属人的であること」「率直であること」だ。
すでに、多くの人事担当者は美辞麗句を並べた採用広告が通用しなくなっていることを痛感しているはずだ。退職エントリや口コミがネットに氾濫している今、企業が発信するきれいごとや偽りは見抜かれてしまう。「“取り繕っていてはもうダメ”ということを経営者やメディア運用担当者がいかに腹落ちするかにかかっていると思います」と安達さん。
Webを愛し、Webの「面白い」を楽しめる適任者が、もしかしてあなたの会社にもいるかもしれない。メディアは甘くない。だから面白い。安達さんがいう「新規事業に取り組む感覚」は必須だ。「カネ」の次に大切なのはチャレンジ精神なのかもしれない。
5.プロが選ぶ、このオウンドメディアが面白い!3事例
最後に、安達さんがブックマークしている400以上のサイトから、「今お気に入りのオウンドメディア」3事例を挙げてもらった。共通しているのは、どれも「率直であること」。
①ベイジの日報
Web制作会社のベイジの社員が日々、社内向けに書いた日報の中から公開できるものを公開している。個人ブログのような感じなので、日々の業務で感じた悩みや達成感が感じられ、素朴さが人気になっている。
安達さん「ホントのところが書いてあるのがいいですよね。この会社に興味がなくても読みたくなる、というのもポイント」
②立教大学 経営学部 中原淳研究所
「人材開発」をテーマに研究する立教大学経営学部の中原教授が、研究・教育・社会貢献活動を報告するブログ。ここでは教授のブログのほか、学生たちの活動もコンテンツとして発信している。
安達さん「企業がここを見て興味を持ったり、研究室に入りたい学生が興味を持ったりするのでこれもオウンドメディアです。楽しい読み物が多く、充実しています」
③高橋文樹.com
小説家の高橋文樹さんが自身の活動や作品、家族との日常についてブログで語るサイト。小説家は個人事業主なのでこれも一つのオウンドメディア。
安達さん「変わりどころですが、記事が好きです。コンテンツが面白いから読んでしまう。高橋さんのことを知り、興味を持ってしまう」
【編集部より】採用ブランディング、オウンドメディアに関する記事はこちら
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