「内定力」著者・酒場のマスターの就活コラム
『もっと就活を自由に』パンテーン広告から見る、「就活病」の問題点
2018.10.09
9月末から展開されているP&G社の「PANTENE」の広告が話題になっています。
「自由な髪型で内定式に出席したら、内定取り消しになりますか?」
普通に考えたら「取り消しになんて、なる訳ないじゃん」という話ではありますが、学生たちの不安や不満に寄り添い、現状を変えるための一歩を踏み出そう、というメッセージを込めたこの広告は、就活をする学生にかぎらず多くの人たちの感情を刺激したようです。
一方で私が感じたのは、今も学生の間に「就活病」が蔓延していることへの不安でした。
この広告メッセージの背景としても、就活は「画一的で、無個性や没個性」と書かれていますが、私の感覚としては、それらはあくまでも表面的な現象です。むしろ、それを生み出している要因ともいえる「就活病」の存在を認識して、学生・企業がともにその根治に向けて動いていくことが大切だと考えています。
今回は、この「就活病」の問題点と解決の方向性について、「PANTENE」の広告を例にお伝えしていきたいと思います。
参照:PANTENEの特設HP
学生も企業も「就活病」にかかっている
そもそも「就活病」とは、「学生たちが、社会から求められているものを妄想して“架空の自分”をつくりあげ、それに沿った思考・行動をしなければならない強迫観念に追われて、普通の感覚を忘れてしまう症状」のことです。
私は10年間にわたって学生たちと日常的に触れ合ってきた中で、就活を始めた途端に彼ら本来の良さが消えてしまう“症状”を、毎年のように見てきました。
普段はもっと奔放でエネルギーがあるにも関わらず、急にマナーや言葉遣いを気にしてマジメな学生を演じる学生。実際の魅力は、冷静で淡々と考えられることのはずなのに、積極性を意識しすぎて空回りする学生。
さらには企業が提示する求める人物像に合わせて、「〇〇力」や「△△性」があるように見せたり、成果や実績をアピールするために、エピソードを盛ったり嘘をついたりしようとする。
グループ選考では、みんなで役割分担をして、過剰に相手を気遣いながら、PDCAや言葉の定義や合意形成といった「社会人っぽいフリ」をするのに必死になって不自然な姿を見せてしまう。
それらは、まさに「就活病」の症状と言えます。
学生が「没個性化」する原因
そうした「就活病」が最も分かりやすく表れるのが、今回の広告でもとりあげられている髪型や髪色です。
企業と学生の両者が「就活病」に対処しないまま、就活や採用活動を行うことで、学生の没個性化を生み、その状態に問題提起をしたのが、今回の広告であると言えます。
「PANTENE」のキャンペーンの概要説明にもありますが、企業の多くは、選考において学生たちの髪型や色を特別な評価基準にもしていませんし、学生たちに特定の髪型を強制しているわけでもありません。
そもそも、「学生らしい髪型」自体が企業発信のものではないのです。就活をビジネスにしている周辺産業の方たちが利益を得るために「推奨」し続け、その長年の努力の賜物として、就活における「学生らしい髪型」が一般化してしまったのです。
このように、就活マーケットはどうしても不安産業の側面があります。
「就活で好印象を与える髪型はこうですよ」
「証明写真も重要な選考基準なので、ちゃんとキレイに修正しましょう」
「マナーが見られるので、ノックやお辞儀の講座を受けましょう」
そう言われてしまうと、何も知らない不安な学生たちは「内定を取るためには……!」と、美容室やフォトスタジオ、マナー講座にお金を払うことになります。就活メイクや美文字講座までもが「就活対策ビジネス」になっているのが現状です。
彼らにとっては学生たちの不安を煽れば煽るほど、「おいしい顧客」が増えていくわけです。
学生の「失敗過剰症」も原因の1つ?
学生たちがそこまでして就活対策ビジネスに依存してしまう背景には、失敗に対する過剰な恐怖心があるように思います。私が「猿基地」という店で10年間、素の状態の学生たちと接してきた中でも、近年は更にその傾向が強まっていると感じています。
「こういうことって、してもいいんですか?」、「こんなことをしたら、変に思われる気がして……」、「変に目立って、評価を悪くしたくない」。そうした不安をもつ学生が増えています。
実際に「PANTENE」広告にある学生の声にも、そうした言葉が数多く並んでいました。
彼らにとっては、個性を出すことよりも「失敗したくない」という感情の方が重いことであり、それが就活病の症状を悪化させ、周辺産業が提唱する「就活の常識」に沿って行動するようになる。これが学生たちの「没個性化」が生まれる仕組みです。
「就活の常識」に縛られず、内定を獲得した学生たち
とはいえ、就活(採用活動)の本質はそうした部分ではないはずです。企業が知りたいのは、その学生の資質や特性であり、自社の環境にマッチして活躍できるどうかです。
だから私は、自分が関わる学生たちに髪型や証明写真やマナーは気にしなくていいし、むしろ「そんなの全然関係ないよ?」と言い続けてきました。
そのため、過去の学生たちの中にはスピード写真で証明写真を撮った学生や、コンビニで買った履歴書でエントリーした学生もいます。男子学生はほぼ全員、一人称が「ぼく」で、ノックの回数やお辞儀の角度なんて気にしたこともなく、新聞を読んでいる学生もほとんどいませんでした。
それでも彼らは、大手企業や有名企業からも内定をとり、今も活躍しています。(必ずしも、大手や有名企業が良いという意図ではありません)
企業が就活病から抜け出すための「そんなの関係ない」宣言
「就活病」にかかった学生と企業によるやりとりは、まるで映画やテレビの恋愛ドラマのようです。
「俺のことどう思っているんだろう? でも、本当のところは分からないし……」と思いながら、かたや相手は「本当の自分を出しちゃってもいいのかな? でも、それで嫌われたら……」と思っている。お互いがすれ違い、思うような進展がないままモヤモヤの状態が続いてしまう……。
その様子を客観的に見ている立場としては、「言っちゃえばいいのに……!!」とか「もう!! 動けばいいじゃん!」と思うわけですが、就職活動や採用活動は架空のドラマなどではなく、真剣な現実です。そこでは、そうしたすれ違いは両者にとって必ずしも良い関係性とはいえません。
もちろん学生の立場としてみれば、初めての就職活動で、多くの大人たちが「こうすべき、こうじゃなくちゃいけない」と言っているから、「就活の常識」とされているものを破ることに躊躇してしまう。その気持ちも十分に分かります。
だからこそ、企業の方から「そんなの関係ないよ?」と宣言することが、すれ違いだらけの企業と学生の関係を打開することにつながるのではないでしょうか。(むしろ、今回の広告の本質はそこにあるのではないか、と私は考えています)
企業が、「そんなの関係ない宣言」をすること。それが、企業と学生の両者にとって、就活病から抜け出し、現在の就職活動を健全にする道ではないかと思うのです。
個性を重視することが、企業と学生とのよりよいマッチングに繋がる
経団連が就活ルールをどうするかに気を揉むよりも、各企業が就活病からの脱却を目指して「そんなの関係ない宣言」をすることが、学生とのより良い関係性を築くことに繋がる。
学生が縛られていた架空の制度を取り払うことで、より素の姿に近い彼らに会えるはずです。いわゆる「就活の常識」とされているものについて、企業が「そんなの関係ないよ?」と伝えることで、学生たちは些末な失敗を恐れることなく、素の状態に近づくことができる。より就活の本質的な部分について、自分の本質について考えることができるようになる。
そうした状態になった彼らと向き合うことで、企業は学生たちの資質や特性を見出しやすくなり、それが企業と学生のよりよいマッチングにつながるのではないでしょうか。
学生たちが変な思い込みに囚われないよう、多くの企業が「そんなの関係ない宣言」をすることで、学生と企業の関係性が変わり、就活が健全なものになればと考えています。
執筆者紹介
光城悠人(みつしろゆうと) 立命館大学卒業後、エン・ジャパン(株)に入社。営業・ライター・クリエイティブディレクターとして7年間従事。退職後に、学生が新しい価値観に出会えるコミュニティの実現を目指し、2008年に京都で猿基地を開業。年間を通して学生とかかわる中で、「8キャラ」や「ぼうけんの書」などを活用した新しい就活の形として「就活ゲーム」を構築し、『内定力』(すばる舎)に著している。公式ブログ:『楽しく、気持ち良く、適当に。』
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