社内ピアボーナスサービス「Unipos」主催 最新HRTechセミナー
価値観や働き方が多様化する時代に、HRTechで社員のつながりを生み出す方法
2018.08.20
団塊の世代が定年を迎え、労働人口のうち20~30代のミレニアル世代の占める割合が増えてきました。ミレニアル世代は福利厚生を重視するほか、承認欲求が高く、価値観も多様だといわれます。一方、雇用形態は正社員に限らず、派遣やフリーランス、在宅勤務と複雑化するばかり。社員個人の価値観や働き方が多様化する中、企業はどのように社員個人との関係を築くべきなのでしょうか。
社員が互いにボーナスを送り合えるサービス「Unipos(ユニポス)」を提供するUnipos株式会社は、2018年7月19日に東京都内で「最新HRTechセミナー」を開催。埼玉大学大学院人文社会科学研究科の宇田川元一准教授やUnipos導入企業の担当者が登壇し、バブル崩壊後の企業体制の変化、組織と社員の関係づくりにIT技術を生かす方法を紹介しました。「社員間のコミュニケーションが不足している」「世代や考え方、働き方が異なる社員とどのように接すればいいのか」と感じている人事・総務担当者や経営者、マネジャーは必見です。
バブル崩壊で事業構造や組織体制が変化
セミナーはUnipos株式会社の親会社「Fringe81株式会社」の田中弦社長と、宇田川元一准教授(以下敬称略)による対談でスタート。
「時代が移り変わる中で、組織と個人を繋げるためには?」と題し、バブル崩壊後の企業の変化や働き方改革を考える上での問題点について意見を交わしました。
田中:
バブル崩壊やリーマンショックにより、企業の組織体制は高度成長期に比べて変わったのでしょうか。
宇田川:
バブル崩壊後、1995年にIT革命があり、産業構成が劇的に変わりました。さらにエンロン事件(米国企業「エンロン」の不正会計事件)やリーマンショックが続き、コンプライアンスがより厳しくなりました。日本企業はコンプライアンスを守りながら、急速に事業構造の転換を迫られることとなり、非常に苦しい状況を迎えています。
また、企業はバブル崩壊後に採用を抑制しました。その結果、「就職氷河期世代」と呼ばれる現在40代前半の生え抜きの中堅社員が減り、そのような社員は中途採用で補うしかない状況です。社内の人間関係やポリティクス(政治的な駆け引き)を理解し、(やりたいことや困ったことがあった時に)どう話を通せばいいのかが分かる、頼れる先輩社員のような機能が組織内で弱くなっています。
田中:
若い世代が働き盛りとなり、労働人口に占める割合が増える一方、個人の手取りの給与は減っていくと言われています。
宇田川:
大学の学部生を見ていると、彼らはかなり諦めているように見えます。「名前の通った会社に入らないといけないのだろうとは思う。それでも、自分がその会社に入ったところでいい思いができるわけでもなさそうだ」と感じているようです。
若者はただでさえ自分のアイデンティティーを確立していく段階におり、成長する中で不安を感じています。一方で賃金は伸びないですし、仕事に対する不安も相まって「正直、何をどうしたらいいのか分からない」という状況にあります。
産業・事業構造が変化せず、多様な働き方を生み出せない
田中:
雇用形態の多様化についてはどう思われますか。
宇田川:
多様な働き方が当たり前のように出てきているものの、あまりそれを生かせているようには感じません。日本の大企業は事業構造が変わっておらず、今でも製造業が中心です。働き方改革をするために副業、フリーランス、リモートワークを取り入れるとなっても、工場では実施しにくい。産業や事業の構造が変わらず、イノベーションを起こせないこと自体が、多様な働き方を生み出すことへの制約要因になっています。
「どうしたらいいのか分からない」と社員が話し合える関係をつくる
田中:
宇田川先生は「社員間で対話ができない組織は、解決策依存症に陥る」と論じています。
宇田川:
企業は「こうやったら働き方改革がうまくいく」と、答え探しをしていると思います。しかし、働き方を変えることは、答えがある問題ではない。変えようとするときに痛みを伴うような複雑な課題です。大切なのは「課題を解決するためにどうしたらいいのか分からない」と社員が互いに向き合い、話ができる関係をつくることです。解決策依存症とは、困っていることを率直に相手に言えず、一人で問題を抱えて孤独になり、簡単な解決策に手を出すことを指します。
組織が向き合うべきなのは、職場内の孤立だ
田中:
経営者が「平成生まれの世代の気持ちがまるで分からない。私はそれを理解するために、いろいろな対応をしている」と言うことがありますが、これも「解決策依存症」なのでしょうか。
宇田川:
「分からない」と言えているだけいいと思います。「あいつら(平成生まれ)はだめだ。どう(経営者の考えを)分からせればいいのか」と考えて、若手社員に研修をやらせるような場合が一番怖い。
会社で起きる問題は、組織が抱える見えない課題を教えてくれるアラートだと思います。例えば、社員間のコミュニケーションがとれず、社外とのアポイントをすっぽかしたとします。問題を解決するためにリマインダーのシステムを導入すれば、表向きは解決するでしょう。ただし、背後にあるコミュニケーション不足という課題が解決していません。その後も別の形で課題が表現されていきます。
組織が向き合うべきなのは、職場内の孤立です。自分の抱えている苦しさを語れない関係をどのように変えていくのか。表向きの解決策ではなく、それを考えることが組織の問題を解消することにつながると思います。
田中:
それは人事部や経営者がやるべき仕事なのでしょうか。
宇田川:
「あらゆる人の仕事」と言いたいです。誰かがやってくれるのを待ち、誰も問題に手を付けないことが問題です。経営者でも「自分が悩んでいる」と語れるような組織ならば、良い方向に変わっていくと思います。表向きの顔だと自分と接点が無いように見えても、いろいろな側面が見えると「自分と同じ人間なのだ」と分かり、孤立が解消されていきます。語り合えることが増えていき、会社で困っていることを言いやすくなると思います。
Unipos導入事例紹介、質疑応答
対談に続き、Uniposを導入している株式会社メルカリ、パーソルホールディングス株式会社の担当者が事例を紹介。Unipos株式会社の斉藤知明社長や宇田川准教授も加わり、参加者からの質疑に応じました。
Uniposとは
社員が互いに、感謝を伝えるメッセージとともにポイントを送り合えるサービス。ポイントは企業ごとに指定した金額に換算。もらったポイントは少額のボーナスとして受け取れる。毎月会社が社員に支払われる基本給や、年に数回支給する成果給とは異なる。
導入企業担当者(敬称略)
・山下真智子
株式会社メルカリ
Culture & Communications マネージャー
・柿内秀賢
パーソルホールディングス株式会社
イノベーション推進本部 オープンイノベーション推進部
Uniposを導入している株式会社メルカリの山下さん(右)とパーソルホールディングス株式会社の柿内さん
導入を決めた経緯
柿内:
「縁の下の力持ち」となる社員が目立つようにしようと、営業部長の時に自分の部署のみに導入しました。
営業部門は営業成績を上げた社員が称賛されます。ただ、成績はほどほどでも、社内のコピー機の紙を補充している社員、ゴミを拾う社員、落ち込んでいる仲間に声を掛ける社員も、組織にとっては大事な存在です。「称賛」ではなく、「承認」をどう生み出すかが大事なテーマでした。Uniposの導入後は社内の雰囲気がより良くなったほか、お客様へのサービスの質も変わっていったと思います。
山下:
メルカリの社員数は3年半前まで100人に満たず、社員全員の顔と名前が分かる状態でした。現在は社員数が国内で約650人となり、「別の拠点にいる社員の顔が分からない」という悩みがありました。以前から3カ月に一度、社員間で手紙を渡し合い感謝を伝える取り組みはありましたが、この頻度だと記憶があいまいになってしまうこともあります。手紙を書くことに少し抵抗を感じる人もいたため、オンラインで感謝の気持ちを送りたいと考えていたときにUniposを知り、導入しました。社員からは「仕事で疲れたときにUniposのポイントとメッセージをやり取りする画面を見ると、社員同士が称賛し合う様子が分かり、気持ちがほっこりとする」という声もあります。
年齢によって利用頻度の差はあるか
斉藤:
ポイントを送る頻度に年齢差はありません。ポイントをもらう頻度は年齢の低い方が多く、上司や役員陣はもらいにくい傾向があります。
ポイントが特定の人に偏ることはないのか
山下:
社員650人の社内で一日に1,000回弱、ポイントのやり取りが起きています。単純に計算すれば一人1回以上ポイントをもらったり、あげたりしていることになります。月ごとに分析すると、社員の99%がポイントをもらっている月がありました。
田中:
活躍する人は毎日変わるため、ポイントをもらう人は分散する傾向があります。
ツールを使って組織を変える機運が高まっていない大企業や中堅企業では、どう工夫すればツールを導入できるか
宇田川:
大企業では新しいツールを導入して問題が起きれば、情報セキュリティーの責任者のせいにされる可能性があります。彼らはプレッシャーの中でツールの導入を悩みます。デジタル革命は情報の非対称性(情報格差)を変えて民主化することですが、組織が民主化されていないため、ツールが入っていかないのです。全社的に導入するのは情報セキュリティの問題があり大変かもしれませんが、大企業では部門単位で実験的に導入した例もあります。社内の小規模の組織で始めて成果を上げ、実績をつくり、全社的に導入する可能性は考えられます。
ツールには潤滑油としての役割はあるが、限界もある
宇田川准教授は企業がUniposを導入する利点を「社員の持つさまざまな側面を可視化し、接点をつくるきっかけになる」と説明します。相手の意外な側面が見えると、それを媒介に社員の間につながりが生まれ、語り合える内容が変わっていく可能性があります。
一方、「ツールには潤滑油としての役割はあるが、その役割にも限界がある」とも指摘します。Uniposを導入したことで、ポイントを送らない社員が可視化された場合、ポイントを送らないことを問題視しては意味がありません。宇田川准教授は「なぜ一部の社員がポイントを送らないという現象が起きているのか」を話し合うきっかけにすると、本物の組織になる。ツールを媒介にして、次のステップに組織が成長していけばいいのではないか」と語りました。
【取材・執筆: @人事編集部】
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