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確定拠出年金の「塩漬け」問題、人事部ができることとは…?

2016.11.29

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目次
  1. 盛り上がる確定拠出年金の密かな悩み「塩漬け1400億円」?
  2. 自動移換者という「塩漬け」問題はどこにあるのか
  3. 企業担当者には「退職者説明」の義務がある
  4. 離職してから半年間のもう一押しをするならば
  5. 塩漬け問題改善は「最初に塩漬けさせないこと」

盛り上がる確定拠出年金の密かな悩み「塩漬け1400億円」?

11月24日付朝日新聞の記事で「確定拠出年金1428億円塩漬け 転職時など手続きなく」という報道がなされました。確定拠出年金といえば、加入者数は600万人近くに達し、また法改正により来年1月からは個人型確定拠出年金の利用範囲が拡大することもあり、盛り上がりを見せています。個人型確定拠出年金についてはiDeCo(イデコ)という愛称をつけるなど、1000万口座に達しているNISA(少額投資非課税制度)に追いつけ追い越せと、各金融機関の取り組みも積極性を増しています。

しかし、今回の報道は、確定拠出年金の落とし穴ともいえる部分に指摘がなされたものです。それは離転職時の資産の引き継ぎという問題です。

企業型の確定拠出年金(日本版401k)を離転職した社員の資産については、原則として中途解約ができず、転職先の企業型確定拠出年金の口座に一元化するか、個人型確定拠出年金の口座を新規開設し資産を全額持ち運ぶことが義務づけられています。これを「資産のポータビリティ機能」などと言います。

ところが、このポータビリティ機能は本人の手続きを前提としています。自己責任にもとづく資産運用を行う企業年金制度であり、またどこの金融機関で個人型確定拠出年金の口座を開設するかも本人の意思によることもあり(会社側が強制できない)、本人の手続きを尊重とすることが欠かせないのです。

しかし、現実的にはこの手続きが離職後行われないケースが多く、報道のとおり1428億円、57万人の資産が「塩漬け」にされているのです。

今回は、企業型の確定拠出年金の人事担当者として押さえておきたい「塩漬け」問題のポイントをまとめてみます。

自動移換者という「塩漬け」問題はどこにあるのか

ここでいう「塩漬け」はいわゆる自動移換者と呼ばれる者の資産のことです。離職後半年が経過してもポータビリティの手続きが完了していない場合、企業型確定拠出年金の口座から強制的に資産は追い出され、国民年金基金連合会に移すことになります。国民年金基金連合会は個人型確定拠出年金の実施主体です。

国民年金基金連合会は、資産および個人データを預かりますが、こちらも勝手に運用するわけにはいきませんので、利息はまったくつかない状態になります。たとえて言えば当座預金のようなイメージです。これを称して「塩漬け」といっているわけです。

さらにデータ管理や資産保全のコストがかかることから、資産の受け入れ時に4269円、その後は月額51円の管理手数料が引かれます。ちなみに、個人型確定拠出年金や企業型確定拠出年金に資産を再度移す場合にも1080円の手数料が徴収されます。塩漬けされるとさらに資産は目減りしていく、というわけです。

と言っても、正規に個人型確定拠出年金の口座を作っても事務費用はそこそこかかります。個人型確定拠出年金の口座新規開設時にも「国民年金基金連合会2777円+金融機関ごとの手数料」が生じるほか、「国民年金基金連合会月103円+資産管理を担う信託銀行の月64円+金融機関ごとの手数料(条件つきで月0円~400円まで各社各様)」が生じます。

もちろん、きちんと個人型確定拠出年金に積み立てを行っている場合、所得にもよりますが掛金の15~20%相当は所得税や住民税の非課税部分になるため、こうした事務コスト以上に資産形成上はお得になります。

塩漬けのマイナスポイントは利息がまったくつかないため純減が確定している、ということです。掛金を入金すれば、所得税や住民税の節税効果に加え運用益が発生しますし、運用益はすべて利益非課税になりますので、塩漬けよりは効率的になると考えられます。

企業担当者には「退職者説明」の義務がある

企業の確定拠出年金担当者はまず、新入社員や中途入社した社員に対して前職の企業型確定拠出年金あるいは個人型確定拠出年金に資産はないかを確認することが必要です。これは新規加入者への説明事項とされています。これについては加入情報を金融機関に伝達すれば資産の引き継ぎ等の手続きが行われ、塩漬け問題が免れます。

むしろ、肝心なのは退職時の手続きです。確定拠出年金法施行令第46条の2および法令解釈通知第7では、事業主に企業型の確定拠出年金の加入者資格を喪失した者、つまり離職者に対してポータビリティの概要と手続きについて説明するよう求めています。ただし罰則規定はないほか、離職後のフォローアップまで義務づけられているわけではありませんので、退職時の説明を行えば最低限度の義務は果たしたと言えます。

基本的なスタンスをいえば、塩漬けになった場合、その退職者の手続き不備の問題ということです。とにかく事業主に求められているのは離職時の説明責任になります。

もし退職者への手続き等の説明が十分に行われていないと感じるようであれば、運営管理機関と相談のうえ、配付資料をPDF等で入手し、支店や支社等でも離職者に配布されるように共有するといいでしょう。正社員が数名いるかいないか、といった小さな事業所ではマニュアルに則って離職者の人事労務の手続きを非正規社員が行うこともありますが、こうした場合はマニュアルの整備がカギになります。見直しをしてみてはいかがでしょうか。

離職してから半年間のもう一押しをするならば

ところで、離職してから半年間については、業務を委託している金融機関(運用関連運営管理機関)もしくはデータ管理を担うレコードキーピング会社(記録関連運営管理機関)のほうから文書の通知を行い手続きを促しているのが一般的です。

離職者にとっても辞めた会社から電話や文書が届くのはあまり好ましいと思われませんので、金融機関からのアプローチが有効だと思われます。企業担当者としてもう塩漬け問題改善のため一押ししてあげたいと考えるのであれば、運営管理機関に対し、文書ないし電話での連絡を試み、個人型確定拠出年金の口座開設を促すよう求めてみてはいかがでしょうか。

運営管理機関は企業型だけでなく個人型確定拠出年金もビジネスとして扱っています。離職者へのコンタクトについて最初の一報は「会社の依頼を受けて」と電話をしてもらい、個人型確定拠出年金の資料送付まで同意を取りつけ、後日改めて個人型確定拠出年金のビジネスを担う運営管理機関として営業の電話をしてもいいのだと示唆すれば、対応するところは多いと思われます。

塩漬け問題が拡大し続けている一因として、「個人型確定拠出年金の金融機関を選択し加入申込資料を取り寄せるまでのハードルが高い」と言われています。金融機関のコールセンターが機能することで自動移換者が減少するのであれば、これは双方にとってメリットがあるかもしれません。

ちなみに、特定の個人型確定拠出年金の資料を会社が取り寄せ、退職者に提供することは法令的に否定されてはいません。ただし複数の金融機関を検討し、提供にあたっては自由に金融機関を決定できることも通知するよう求めています(確定拠出年金Q&A)。離職者にとっては便利だと思いますが、事業主としては特定の金融機関を推奨していると誤認されないよう配慮するべきでしょう。

塩漬け問題改善は「最初に塩漬けさせないこと」

塩漬け問題は、確定拠出年金が自己責任の制度であることとセットです。あえて言えば、公的年金が加入データの不備により「消えた年金」問題に悩まされたところ、確定拠出年金はデータは完備されている分「消えない年金」として塩漬け問題になっているわけです。

国民年金基金連合会の調査によれば、一度自動移換の状態になった者はなかなか資産を引き出さないことが過去の自動移換者の動向調査で明らかになっています。塩漬け問題の最善の策は「最初に塩漬け状態にしないこと」につきます。そしてそのためには離職時の適切な情報提供しかないはずです

会社の担当者は説明責任のみを負っているとはいえ、離職者の多くが塩漬けになっているようではいささか寝覚めが悪いことです。自動移換者の割合については運営管理機関に照会すればデータを得ることもできます。無理のない範囲で取り組みを行ってみてはいかがでしょうか。

執筆者紹介

山崎俊輔(やまさき・しゅんすけ)(フィナンシャル・ウィズダム代表) 1972年生まれ。中央大学法律学部法律学科卒。AFP、1級DCプランナー、消費生活アドバイザー。投資教育家、企業年金コンサルタント。企業年金研究所、FP総研を経て独立。退職金・企業年金制度が専門で、個人の老後資産形成および投資教育についての執筆・著述多数。企業年金連合会では確定拠出年金担当の主席調査役として税制改正要望や事業主向けの投資教育ハンドブック編纂に携わる。近著に『誰でもできる確定拠出年金投資術』など。

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