勤務間インターバル制度を徹底解説! 目安時間や導入時の注意点まで
長時間労働による過労死や健康被害などを背景に、2019年4月から努力義務化された勤務間インターバル制度。導入企業はまだ少数ですが、健康な働き方を実現する制度として政府が推奨しています。勤務間インターバル制度の内容や導入する時期の目安、制度を導入する際の注意点について解説します。
勤務間インターバル制度とは?
働き方改革関連法に基づいて努力義務が設けられた勤務間インターバル制度は過重労働を削減し、従業員の健康的な働き方を実現させることを目的としています。まずは制度の具体的内容について解説します。
勤務間インターバル制度の概要
勤務間インターバル制度は、勤務が終了してから一定時間の休息時間を設けて、働く人の生活時間と睡眠時間を確保するものです。2018年6月に成立した「働き方改革関連法」に基づいて、「労働時間等設定改善法」が改正された際に、一定時間の休息の確保が事業主の努力義務として規定されました(2019年4月施行)。
ほかにも、ある時刻以降の残業を禁止して、次の始業時刻より前の勤務を認めないことで休息時間を確保するという方法もあります。このように生活時間と睡眠時間を十分に確保することで、ワーク・ライフ・バランスを保ちやすくなるとして注目を集めています。
勤務間インターバル制度を導入するかどうかはあくまでも企業の努力義務です。制度には法的効力がなく、現状は企業努力として実施が推奨されています。
勤務間インターバル制度義務化の背景と目的
勤務間インターバル制度が日本に導入された背景には、長時間労働による過労死や健康被害が問題になったことが挙げられます。厚生労働省は、「脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。)の認定基準について」で、因果関係を以下のように通達しています。
● 発症前1~6カ月間:1カ月あたりおおむね45時間以内の残業時間→関連性は弱い
● 発症前1カ月間:おおむね100時間超→関連性は高い
● 発症前2~6カ月間:1カ月あたりおおむね80時間超→関連性は強い
※出典:厚生労働省『脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。)の認定基準について
この中でも、1カ月あたりおおむね80時間超は、業務と発症との関連性が高いと判断されることから「過労死ライン」と呼ばれています。1カ月の就業日数を20日間とすると、1日あたり4時間の残業で過労死ラインに到達します。
労使の合意に基づき「特別条項付き36協定」によって、月45時間以上の勤務が可能になっている事業所もあります。こうした長時間労働が多い職場でも、勤務と勤務の間に休息時間を設ける勤務間インターバル制度を導入することにより、従業員の健康被害や過労死を防ぐことを目的としています。
インターバル時間の目安
休息時間の確保を目的とする勤務間インターバル制度では、具体的にはどのくらいのインターバル時間を設ければいいのでしょうか。日本に先んじてインターバル制度を導入している他国や、すでに導入している企業の事例などを見ながら最適なインターバル時間を検討してみましょう。
EUのインターバル時間
EU諸国では労働者の環境改善に力を入れており、加盟国に適用される勤務間インターバル制度を1993年に創設し、実施しています。EUの労働時間指令3条に「24時間ごとに、最低でも連続11時間の休息期間を確保するために必要な措置をとる」ことが明記されています。
例えば、始業時間が午前8時、終業時間が5時の会社で午後10時まで働いたとします。インターバル制度を導入すれば、11時間後の翌日午前9時まで勤務できません。従来の始業時間を過ぎますが、過ぎた1時間は勤務したことにして給料を支払う、または時差出勤で対応します。
日本企業のインターバル時間
日本で勤務間インターバルを導入している企業の一例です。
- 株式会社スナップチャット
- 株式会社山陽新聞社
- 株式会社ニトリホールディングス
- 森永乳業株式会社
【参考】:厚生労働省│勤務間インターバル 導入事例一覧(2018年度版)
ニトリホールディングスでは、従業員の健康増進と働きやすい環境づくりのために、インターバル時間10時間未満を警告の対象としています。また、森永乳業では、事業所ごとにインターバル時間の差がありますが、9~10時間、本社は10時間以上としています。
【参考】:
最低でも8時間のインターバル時間の確保が必要
企業によってインターバル時間の設定時間は異なります。日本企業の実態を考慮するとおおむね8時間が最低ラインで、9~11時間をインターバル時間とするのが一般的です。
勤務間インターバル制度の導入にあたって
勤務間インターバル制度を導入するまでのフローと導入時の注意点を説明します。
勤務間インターバル制度 導入までのフロー
勤務間インターバル制度を導入するまでのフローを解説します。
(1)制度導入の検討
何のために勤務間インターバル制度を導入するのか、導入する目的・労使間の話し合いの機会の整備について検討します。
(2)制度設計の検討
企業内の労働時間の実態を把握してから、対象者・休息時間数・休息時間が次の勤務時間におよぶ際の取り扱い・適用除外・時間管理の方法などについて検討します。
(3)試行期間
制度設計の検討に基づいて決められた自社の勤務間インターバル制度をテスト施行し、制度の効果を検証します。
(4)検証・見直し
試行期間に生じた問題点の洗い出しや必要な見直しなどを行います。検証・見直しを行ってからは、(2)(3)のステップを繰り返しブラッシュアップしながら、会社の実態に即した制度へと改善していきます。
(5)本格稼働
検証・見直しを進めて問題点をクリアした後は、いよいよ本格稼働に移ります。制度の本格導入では就業規則等の整備が必要になるほか、制度をより良いものとするために、一定期間後の見直しが求められます。
勤務間インターバル制度導入時の注意点
制度を導入したものの、規則を守れないという事態を防ぐためにも、社内ルールづくりと労使間の話し合いが重要です。勤務間インターバル制度の導入を適切に進めるために、以下の点を注意しましょう。
・休息時間を何時間に設定するか
休息時間を長く設定すれば、働く人の生活時間と睡眠時間をより確保できますが、業務遂行に支障が出る可能性があります。自社の実態に合わせて運用可能な休息時間を設定しましょう。
・例外規定を設ける
制度を導入しても継続できなければ意味がありません。勤務間インターバル制度を導入して義務化すると共に、例外を設けることも選択肢の1つです。例えば、「10時間を努力義務、8時間を義務とする」とし、必ず守るべき規定と、推奨規定を設定する方法もあります。「やむを得ない理由がある場合を除く」といった例外規定を設けることも1つの選択肢ですが、曖昧な規定だと制度の形骸化につながるリスクが高くなります。例外規定は具体的な時間を明示しておくことをお勧めします。
勤務間インターバル制度の導入で、労働環境の改善を
政府は、2020年までに勤務間インターバル制度の認知率を80%以上、企業の導入率を10%以上にする目標を定めています。労働環境改善に有効な手段ではあるものの、導入率は1.8%と低いのが現状です。
政府は、目標を達成するためのサポートとして助成金も導入しています。勤務間インターバル制度を導入する際に検討してみてはいかがでしょうか?
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