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改善基準告示改正|対応のポイントと負担軽減のための助成金・支援策を解説

労務

掲載日時:2024.01.22

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メイン画像:改善基準告示改正

改善基準告示はドライバーの働き方の改善を目的とする

2024年4月から、改善基準告示が改正されます。ドライバーを雇用している会社の管理部門や人事・労務部門の担当者の中には、「具体的にどう対応すれば良いのか分からない」「労働時間が減ると従業員も会社も困るから対応に困る」などの悩みをお持ちの方もいるのではないでしょうか?

働き方改革や生産性向上に関する各種助成金や支援制度を活用すれば、改善基準告示への対応に伴う従業員の残業代の減少や会社の利益の縮小といった影響を減らせます。

改善基準告示はドライバーの働き方の改善を目的とするものであり、働き方改革や生産性向上を促進する支援策と同じ目的で作られています。人手不足解消のためにも、これらの支援の対象となる取り組みを行うことはメリットになります。

ここでは、改善基準告示の改正内容と対応のポイントに加え、その際に活用できる助成金や支援策について解説します。

負の影響を抑えながら改善基準告示の改正に対応し、従業員の負荷を軽減する働き方改革を少ない負担で実現しましょう。

目次

1.改善基準告示の改正で労働時間の見直しが必要

改善基準告示とは、「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」(厚生労働大臣告示)のことで、トラック、バス、タクシーやハイヤーなどの自動車を運転するドライバーの労働時間や休息時間※などの基準を定めたものです。

トラック、バス、タクシーやハイヤーについて、それぞれの改正内容と対応のポイントを紹介します。
細かい規定や計算方法、例外などについては、それぞれ厚生労働省のパンフレットに分かりやすくまとめられています。参考にしてください。

※休息時間:退勤後の完全に業務から解放されている時間のこと。その他の、休憩時間も含めた出勤から退勤までの時間の全てが「拘束時間」となります。

参考:
厚生労働省「トラック運転者の労働時間等の改善基準のポイント」
厚生労働省「バス運転者の労働時間等の改善基準のポイント」
厚生労働省「タクシー・ハイヤー運転者の労働時間等の改善基準のポイント」

トラックの改正

トラックドライバーの労働時間や休息時間などの改正点は以下のとおりです。

項目 現行基準 新基準
1年の拘束時間 3,516時間以内 原則:3300時間以内
1カ月の拘束時間 原則:293時間以内
最大:320時間以内
原則:284時間以内
最大:310時間以内
(条件の範囲内で延長可)
1日の拘束時間 13時間以内(上限16時間、15時間超は週2回までが目安) 13時間以内(上限15時間、14時間超は週2回までが目安)
※例外として宿泊を伴う長距離貨物運送の場合は延長可能
1日の休息時間 継続8時間以上 基本:継続11時間以上
下限:継続9時間以上
休憩の分割についての特例 2週間から4週間程度の勤務回数の2分の1を限度として、1回当たり継続4時間以上、合計10時間以上の休息期間を分割して与えることができる 1カ月程度の勤務回数の2分の1を限度として、1回当たり継続3時間以上、2分割の場合は合計10時間以上、3分割の場合は合計12時間以上の休息期間を分割して与えることができる
予期し得ない事象への対応時間 なし 故障や渋滞など通常予期し得ない事象による遅れが生じた場合、客観的な記録があれば対応に要した時間を運転時間などから除くことができる
1年の拘束時間
現行基準 3,516時間以内
新基準 原則:3300時間以内
1カ月の拘束時間
現行基準 原則:293時間以内
最大:320時間以内
新基準 原則:284時間以内
最大:310時間以内
(条件の範囲内で延長可)
1日の拘束時間
現行基準 13時間以内(上限16時間、15時間超は週2回までが目安)
新基準 13時間以内(上限15時間、14時間超は週2回までが目安)
※例外として宿泊を伴う長距離貨物運送の場合は延長可能
1日の休息時間
現行基準 継続8時間以上
新基準 基本:継続11時間以上
下限:継続9時間以上
休憩の分割についての特例
現行基準 2週間から4週間程度の勤務回数の2分の1を限度として、1回当たり継続4時間以上、合計10時間以上の休息期間を分割して与えることができる
新基準 1カ月程度の勤務回数の2分の1を限度として、1回当たり継続3時間以上、2分割の場合は合計10時間以上、3分割の場合は合計12時間以上の休息期間を分割して与えることができる
予期し得ない事象への対応時間
現行基準 なし
新基準 故障や渋滞など通常予期し得ない事象による遅れが生じた場合、客観的な記録があれば対応に要した時間を運転時間などから除くことができる

1年、1カ月の拘束時間と、1日の拘束時間の延長上限が短縮されてそれぞれ原則3,300時間、284時間、15時間となりました。また、1日の休息時間は継続11時間以上を基本とするよう延長されています。

バスの改正

バスドライバーの労働時間や休息時間などの改正点は以下のとおりです。

項目 現行基準 新基準
1年/1カ月の拘束時間※ 1年:3,300時間以内
1カ月:281時間以内
(貸切バス等の乗務員は例外規定あり)
4週平均1週当たりの拘束時間※ 原則:4週平均1週当たり65時間以内
(貸切バス等の乗務員は例外規定あり)
52週:3,300時間以内
4週平均1週当たり:65時間以内
(貸切バス等の乗務員は例外規定あり)
1日の拘束時間 13時間以内(上限16時間、15時間超は週2回まで) 13時間以内(上限15時間、14時間超は週2回まで)
1日の休息時間 継続8時間以上 基本:継続11時間以上
下限:継続9時間以上
予期し得ない事象への対応時間 なし 故障や渋滞など通常予期し得ない事象による遅れが生じた場合、客観的な記録があれば対応に要した時間を運転時間などから除くことができる
1年/1カ月の拘束時間※
現行基準
新基準 1年:3,300時間以内
1カ月:281時間以内
(貸切バス等の乗務員は例外規定あり)
4週平均1週当たりの拘束時間※
現行基準 原則:4週平均1週当たり65時間以内
(貸切バス等の乗務員は例外規定あり)
新基準 52週:3,300時間以内
4週平均1週当たり:65時間以内
(貸切バス等の乗務員は例外規定あり)
1日の拘束時間
現行基準 13時間以内(上限16時間、15時間超は週2回まで)
新基準 13時間以内(上限15時間、14時間超は週2回まで)
1日の休息時間
現行基準 継続8時間以上
新基準 基本:継続11時間以上
下限:継続9時間以上
予期し得ない事象への対応時間
現行基準 なし
新基準 故障や渋滞など通常予期し得ない事象による遅れが生じた場合、客観的な記録があれば対応に要した時間を運転時間などから除くことができる

※:「1年/1カ月の拘束時間」と「4週平均1週当たりの拘束時間」はどちらかの基準を選択して適用する。

現行では4週平均1週の原則を中心としていましたが、1年、1カ月の拘束時間の上限が設定され、4週平均1週あたりの拘束時間の上限とどちらか一方を選択して守ることになりました。1年の拘束時間3,300時間以内、かつ1カ月の拘束時間281時間以内、または52週で3,300時間以内かつ4週平均1週当たり65時間以内となります。

タクシー・ハイヤーの改正

タクシー・ハイヤードライバーの労働時間や休息時間などの改正点は以下のとおりです。

種別 勤務 項目 現行基準 新基準
タクシー 日勤 1カ月の拘束時間 299時間以内
※車庫待ち等は特例あり
288時間以内
※車庫待ち等は特例あり
1日の拘束時間 13時間以内(上限16時間)
※車庫待ち等は特例あり
13時間以内(上限15時間、14時間超は週3回まで)
※車庫待ち等は特例あり
1日の休息時間 継続8時間以上 基本:継続11時間以上
下限:継続9時間以上
隔日勤務 1カ月の拘束時間 262時間以内
※労使協定により延長可
※車庫待ち等は条件を満たせば+20時間まで延長可
288時間以内
※労使協定により延長可
※車庫待ち等は条件を満たせば+10時間まで延長可(条件に一部変更あり)
2暦日の拘束時間 21時間以内
※車庫待ち等は条件を満たせば24時間まで延長可
22時間以内かつ2回の隔日勤務平均1回当たり21時間以内
※車庫待ち等は条件を満たせば24時間まで延長可(条件に一部変更あり)
2暦日の休息時間 継続20時間以上 基本:継続24時間以上
下限:継続22時間以上
共通 予期し得ない事象への対応時間 なし 故障や渋滞など通常予期し得ない事象による遅れが生じた場合、客観的な記録があれば対応に要した時間を1日と2暦日の拘束時間から除くことができる
ハイヤー 月の時間外労働の基準 1カ月50時間または3カ月140時間以内 1カ月45時間以内
年の時間外労働の基準 目安:450時間以内 360時間以内
タクシー(日勤)
1カ月の拘束時間 現行基準:299時間以内
新基準:288時間以内
※車庫待ち等は特例あり
1日の拘束時間 現行基準:13時間以内(上限16時間)
新基準:13時間以内(上限15時間、14時間超は週3回まで)
※車庫待ち等は特例あり
1日の休息時間 現行基準:継続8時間以上
新基準:基本継続11時間以上、下限継続9時間以上
タクシー(隔日勤務)
1カ月の拘束時間 現行基準:262時間以内(車庫待ち等は条件を満たせば+20時間まで延長可)
新基準:262時間以内(車庫待ち等は条件を満たせば+10時間まで延長可:条件に一部変更あり)
※労使協定により延長可
2暦日の拘束時間 現行基準:21時間以内
新基準:22時間以内かつ2回の隔日勤務平均1回当たり21時間以内
※車庫待ち等は条件を満たせば24時間まで延長可(条件に一部変更あり)
2暦日の休息時間 現行基準:継続20時間以上
新基準:基本継続24時間以上、下限継続22時間以上
タクシー(共通)
予期し得ない事象への対応時間 現行基準:なし
新基準:故障や渋滞など通常予期し得ない事象による遅れが生じた場合、客観的な記録があれば対応に要した時間を1日と2暦日の拘束時間から除くことができる
ハイヤー
月の時間外労働の基準 現行基準:1カ月50時間または3カ月140時間以内
新基準:1カ月45時間以内
年の時間外労働の基準

現行基準:450時間以内目安
新基準:360時間以内

日勤勤務者の1カ月の拘束時間が288時間以内になりました。また、1日の休息時間が日勤では継続11時間以上を基本とし9時間以上、隔勤では継続24時間以上を基本とし22時間以上となります。

結局どのくらい残業できるのか?

ここまで改正の内容を紹介しましたが、大きな数字を並べられても具体的なイメージがつきにくい、という方も少なくないでしょう。ドライバーが1日にどのくらい働けるのか、ここで具体的に計算してみます。

年間260日働いたとすると、時間外労働は1日平均3.69時間以内に抑える必要があります。

ここで言う時間外労働は労働基準法上の「法定労働時間」を超える時間のことであるため、会社の所定労働時間に関わらず、1日8時間・週40時間を超える時間数です。

トラック、バスの場合、ともに1年間の拘束時間が3,300時間以内となりますので、

  • 年間稼働日数:260日
  • 1日の休憩時間:1時間

と仮定すると、下記のように計算できます。

  • 1日の拘束時間:平均12.69時間以内(=年間拘束時間3,300時間÷年間稼働日数260日)
  • 1日の労働時間:平均11.69時間以内(=拘束時間12.69時間-休憩1時間)

よって、1日の残業は平均3.69時間以内(=労働時間11.69時間-法定労働時間8時間)となります。

もちろんこれは平均値であるため、1日・1カ月の拘束時間や休息時間の基準に違反しない範囲内ならば、繁忙期に多く残業して通常期に残業をせず帳尻を合わせるといった運用は可能です。ただし、1日の拘束時間の上限が15時間であることを考えると、1日の残業時間は最大でも5〜6時間程度になります。

これは理論上の上限であり、労働が長時間になれば休憩時間も必要です。特に、改善基準告示の改正により、運転時間4時間に対して30分以上、単なる「運転の中断」ではなく「原則として休憩」をとらなければならなくなりました。実際に残業が可能な時間はこれよりも短くなるでしょう。

なお、改善基準告示の改正と同時に、時間外労働時間の上限規制の自動車運転者に対する猶予期間が終了となります。これにより特別条項付き36協定を結んだ場合でも年間の時間外労働の上限が年960時間となりますが、こちらで計算しても、年間260日働くとした場合の「残業時間は1日平均約3.69時間未満」という数値は同じです。月ごとに換算すると平均80時間が上限となります。この数値は全ての自動車運転者に共通です。企業側は、この目安を守れるよう、ドライバーの業務や運行スケジュールを管理する必要があります。

時間外労働の上限規制概要図
引用:厚生労働省「適用猶予業種の時間外労働の上限規制 特設サイト はたらきかたススメ」より

罰則

改善基準告示は告示であり、その遵守は努力義務とされているため、違反に対する具体的な罰則の規定はありません。ただし、労働基準監督署から是正の指導を受ける可能性はあります。
指導に当たっては自主的な改善が図られるよう対応する予定とされていますが、万が一道路運送法や貨物自動車運送事業法の運行管理に関する規定等に重大な違反の疑いがある場合は、地方運輸機関に通報されることもありうるので注意しましょう。

なお、年間の時間外労働の上限を年960時間とする時間外労働の上限規制に違反した場合や36協定に定めた労働時間を超えて時間外労働をさせた場合は、労働基準法違反となります。違反時の罰則は6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金です。

【具体例で紹介】ありがちな違反と改善点

特に労働時間の長さが指摘されやすい、長距離トラックの運転手を例に解説します。
図は、長距離トラックドライバーのスケジュール例です。

長距離ドライバーのスケジュール例

ポイント(1):1日の拘束時間
この場合、出発日の1日の拘束時間は15時間30分です。原則として13時間以内という規定から外れていますが、宿泊を伴う長距離輸送の例外としては許容されます(上限16時間まで延長可)。ただし、週2回までです。

ポイント(2):休息時間
1日目と2日目の間の休息時間は10時間30分となっています。これは改善基準告示の改正内容「11時間以上、下限は9時間」からすると、許容範囲内ですが基本には足りていません。出発を翌朝7:00にして到着を9:30とするのが望ましいでしょう。

ポイント(3):連続運転時間
9:30から14:00まで休憩なしに運転している場合、連続運転時間が4時間を超えています。本来は13:30までに休憩を取らなければなりませんが、サービスエリアが混んでいて入れなかったなど理由がある場合は30分の延長が認められているため、許容範囲内ではあります。
一方で、15:00から20:00までの間には、運転を中断して休憩する時間が必要です。
改正前は運転を中断していればよく、荷の積み卸しなどの作業を行っていても運転の中断と見なされていましたが、改正後は原則として休憩でなければならないとなっています。時間通りに休憩を取って心身を休めましょう。

ポイント(4):運転時間の合計
運転時間の規定には今回の改正による変更点はありませんが、引き続き運行スケジュールに気を付けて、2日平均1日9時間以内、かつ2週平均1週間当たり44時間以内になるようにしましょう。
2日平均1日9時間以内の規定は、1日目と2日目の平均と2日目と3日目の平均の両方が9時間を超えたときに違反とされるため、このスケジュールのように1日目に13時間運転した場合でも、2日目に5時間以上運転することも可能です。この行程では片道15時間30分、往復するには単純計算で31時間となりますので、計算上は3日目には帰ってくることも可能です。

ただし、このスケジュールで毎週運行する場合、2週間で運転可能な88時間中62時間をこのルートで使ってしまうため、残りの勤務日の合計運転時間を26時間以内にする必要があります。週休2日制の場合、残りの勤務日4日間は1日平均6.5時間以内の運転に留めることになります。

人事担当者の対応のポイント

改善基準告示の改正に対応するためには、以下の情報を正確に把握し、集計しなければなりません。

  • 従業員の出退勤時間(休息時間を遵守するため)
  • 従業員の拘束時間の合計(月ごと、年ごとの基準を守るため)

また、時間外労働の上限規制にも同時に対応するためには、従業員の時間外労働時間の合計も把握しておく必要があります。

職場によっては、直行直帰の勤務パターンが多かったり、外泊を伴う遠方への輸送があったりして、なかなか正確に集計できていないというケースも多いでしょう。今回の改善基準告示の改正では、特に十分な休息時間を確保すること(勤務間インターバルと呼ばれます)も強調されています。正確な時間を把握するための手段を講じましょう。

例えば、勤怠管理システムの中には、出社しなくても手持ちのスマートフォンなどで勤務の記録ができるものがあります。専用サイトやアプリから打刻ボタンを押すことで、社外からでも出退勤時間を正確に記録できるほか、GPSを利用して位置情報を知ることもでき、正確な運行管理に役立ちます。
また、こうしたツールでは集計を自動で行ってくれるものが多く、36協定チェックなどの機能を利用すれば、勤務時間の超過を検知してアラートを表示でき、改善基準告示や労働基準法への違反を防げます。

関連ページ:勤怠管理システムを導入するメリットは?具体的な機能も解説|@人事勤怠管理システム完全ガイド

さらに、運送業向けにデジタコやアルコールチェッカーと連携できる機能を持つものもあります。デジタコのデータを活用できれば、勤怠だけでなく運行時間や休憩時間も自動で管理でき、改善基準告示違反の防止に役立ちます。アルコールチェックを行わないと出退勤の打刻ができないなどの機能を持つものもあり、管理やチェックの手間が大幅に削減されます。

現在の勤怠管理方法に不安がある場合は、こうしたデジタルツールの導入や機能の追加を検討してみると良いでしょう。

2.【2024年問題】改善基準告示改正対応による影響と対策

改善基準告示の改正と時間外労働の上限規制の適用によって引き起こされるとされているのが、「物流2024年問題」です。物流を担う人手が不足して労働力の需要に供給が追いつかず、物流が停滞するとされる問題ですが、運送業のドライバーや会社にとってはより身近な課題が発生するでしょう。ここでは、改善基準告示改正への対応による影響と対策を紹介します。

従業員・事業主への負の影響

現在長時間の労働をしている従業員や、その従業員の働く会社には次のような負の影響があります。

  • 残業代が減る
  • 仕事の量が減って利益が減る
  • 人手不足が加速する

従業員一人ひとりの労働時間が減ることで、同じ人数では全体の労働可能時間が減少します。会社にとっては2023年4月から適用されている、月60時間を超える時間外労働の割増賃金も打撃となり、売上が減ったのに人件費が増える、ということもあるかも知れません。ドライバーの有効求人倍率は高水準で推移しており、ドライバー一人当たりの労働時間が減ることによって、仕事はあるのに受けられないという状況が発生する可能性もあります。

生産性の向上がカギに

上記のような影響を減らしながら改善基準告示と残業時間の規制に対応するには、生産性の向上がカギとなります。これまでより少ない時間で、同等以上の仕事をこなす方法を考えなければなりません。
例えば従業員の勤務時間を効率よく組み合わせたり、空車や荷待ちの時間をできるだけ減らしてより多くの荷物や旅客を運ぶ工夫が必要になるでしょう。

特にトラック輸送の生産性向上については、国土交通省が手引を紹介し、複数の事業者が協力するなどの手段による下記の取り組みを提案しています。

  • 実働率の向上:ネットワーク形成によりリレー輸送をして長距離輸送を防止
  • 実車率(時間)の向上:積み卸し時間の削減や専門社員の配置、荷待ち時間の削減
  • 実車率(距離)の向上:共同配送により帰路の荷を確保
  • 積載率の向上:共同配送、物流拠点の共同化、幹線輸送の共同化
  • その他:荷主とトラック事業者の連携促進

生産性向上の取り組み
引用:国土交通省「トラック運送における生産性向上方策に関する手引き」より

これらの取り組みを行い、運送業全体で生産性を向上していくことが求められています。とはいえ、目前の改正への対応に追われる担当者にとっては、「それは分かっているけど、どこから手を付ければ良いのか分からない」「取り組む予算がない」というのが実態ではないでしょうか。

生産性向上への取り組みを支援する働き方改革支援策

改善基準告示の対応や生産性向上の取り組みには、働き方改革や業務改善を推進する支援策を利用できます。これにより、金銭的な影響を緩和できる可能性があります。

改善基準告示の改正は、ドライバーの労働環境を改善するためのものです。他の業種よりもドライバーの働き方改革が遅れていることが問題視されており、ドライバーの長時間労働を減らし、働きやすくすることで、ドライバーのなり手不足を食い止めたいという意図もあります。ドライバーを雇用している企業の皆様にとって、将来のためにも積極的に取り組みたい施策なのです。
同じく働き方改革を目指す助成金や支援策には、成果目標が改善基準告示への対応と似通っているものが多いため、改善基準告示への対応に合わせて取り組みやすいでしょう。
利用できる助成金や支援策を紹介します。

3. 働き方改革推進支援助成金

働き方改革推進支援助成金は、生産性を高めながら労働時間の縮減などに取り組む中小企業・小規模事業者や、傘下企業を支援する事業主団体向けの助成金です。運送業の場合は、常時使用する労働者数が300人以下もしくは資本金または出資額が3億円以下の規模の企業が受給でき、改善基準告示への対応に伴う影響を削減するために利用するのに適しています。

ここでは働き方改革推進助成金のうち、単独の企業で利用可能な4つのコースについてご紹介します。
いずれも中小企業事業主向けに、コースの目的に合わせて研修や外部専門家によるコンサルティング、就業規則の変更や労務管理用のソフトウェア、デジタコや労働効率を上げる設備や機器の導入・更新など、定められた取り組みを1つ以上行い、成果目標を達成すると、費用の一部を助成するものです。

適用猶予業種等対応コース 運送業はここから始めるのがおすすめ。
36協定の時間外・休日労働時間数を60時間以下または80時間以下に削減する企業向けです。
労働時間短縮・年休促進支援コース 「適用猶予業種等対応コース」を受給済み(または対象業種以外)で、36協定の時間外・休日労働時間数を月60時間以下まで削減する企業向けです。
勤務間インターバル導入コース 勤務間インターバルを導入または拡大する企業向けです。
労働時間適正管理推進コース ITツールを導入して正確な勤怠管理や給与計算などの省力化を始めたい企業向けです。

参考:厚生労働省「働き方改革推進支援助成金」

適用猶予業種等対応コース

運送業を含め、時間外労働時間の上限規制の適用が猶予されており、2024年4月から適用対象となる業種向けのコースです。

運送業の場合、成果目標は下記のうちから1つ以上選択します。労働者の時間当たりの賃金額の引上げを3%以上行うことを目標に追加でき、達成度に応じて支給額が加算されます。引き上げ人数は30人が上限です。

  • 36協定の時間外・休日労働時間数を減らし、月60時間以下、または月60時間を超え月80時間以下に上限を設定して届け出る
  • 9時間以上の勤務間インターバル制度の規定を新たに導入する

支給額は、下記のどちらか低い方で計算されます。

  • 定められた上限額と賃金加算額の合計額
  • 対象経費の合計額✕補助率4分の3(常時使用する労働者数が30人以下で、支給対象の取り組みのうち機器類の導入を実施する場合で、その所要額が30万円を超える場合の補助率は5分の4)

労働時間短縮・年休促進支援コース

2020年4月から中小企業にも時間外労働の上限規制が適用されたことを受け、生産性を向上させ、時間外労働を削減し、休暇取得の促進に取り組む企業向けのコースです。

成果目標は下記のうちから1つ以上選択します。労働者の時間当たりの賃金額の引上げを3%以上行うことを目標に追加でき、達成度に応じて支給額が加算されます。引き上げ人数は30人が上限です。

  • 36協定の時間外・休日労働時間数を減らし、月60時間以下、または月60時間を超え月80時間以下に上限を設定して届け出る
  • 年次有給休暇の計画的付与の規定を新たに導入する
  • 時間単位の年次有給休暇の規定を新たに導入し、かつ、特別休暇の規定を新たに導入する

支給額は、下記のどちらか低い方で計算されます。

  • 定められた上限額と賃金加算額の合計額
  • 対象経費の合計額✕補助率4分の3(常時使用する労働者数が30人以下で、支給対象の取り組みのうち機器類の導入を実施する場合で、その所要額が30万円を超える場合の補助率は5分の4)

勤務間インターバル導入コース

休息時間の確保を図る「勤務間インターバル」制度の導入に取り組む企業向けのコースです。

勤務間インターバルを導入していない、または導入していても休息時間数が9時間未満だったり、対象者が半数以下であったりする事業場のある企業で、過去2年間に月45時間を超える時間外労働の実態がある場合が対象です。

成果目標は下記のうちから1つ以上選択します。労働者の時間当たりの賃金額の引上げを3%以上行うことを目標に追加でき、達成度に応じて支給額が加算されます。引き上げ人数は30人が上限です。

成果目標は、休息時間数が「9時間以上11時間未満」または「11時間以上」の勤務間インターバルを導入し、定着を図ることです。労働者の時間当たりの賃金額の引上げを3%以上行うことを目標に追加でき、達成度に応じて支給額が加算されます。引き上げ人数は30人が上限です。

対象経費の合計額✕補助率4分の3(常時使用する労働者数が30人以下で、支給対象の取り組みのうち機器類の導入を実施する場合で、その所要額が30万円を超える場合の補助率は5分の4)の額が支給されます。ただし、定められた上限を超える場合は上限額となります。

労働時間適正管理推進コース

生産性を向上させ、労働時間の適正管理の推進を目指す企業向けのコースです。

勤怠管理と賃金計算などをリンクさせ、賃金台帳などを作成・管理・保存できるような統合管理ITシステムでの労働時間管理を行っておらず、労務管理書類を5年間保存することを規定していない企業が対象です。

下記の全ての達成が成果目標です。労働者の時間当たりの賃金額の引上げを3%以上行うことを目標に追加でき、達成度に応じて支給額が加算されます。引き上げ人数は30人が上限です。

  • 新たに勤怠管理と賃金計算などをリンクさせ、賃金台帳などを作成・管理・保存できるような統合管理ITシステムを導入して労働時間を管理する
  • 新たに賃金台帳等の労務管理書類について5年間保存することを就業規則等に規定する
  • 「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」についての研修を労働者、労務管理担当者に対して実施すること
    参考:厚生労働省「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」

成果目標達成時の上限額を100万円とし、対象経費の合計額✕補助率3/4(常時使用する労働者数が30人以下で、支給対象の取り組みのうち機器類の導入を実施する場合で、その所要額が30万円を超える場合の補助率は4/5)の額が支給されます。

4.【中小企業向け】生産性向上・賃上げのための助成金・支援策

生産性の向上や従業員の賃上げのための支援策もあります。業務改善助成金は、事業場内最低賃金が地域別最低賃金に近い企業を対象に、生産性向上のための設備投資を行って事業場内最低賃金を一定額以上引き上げた場合に費用の一部を助成します。中小企業向け賃上げ促進税制は、前年度より給与を増加させた場合に、増加額の一部を法人税から控除できる支援策です。

従業員の賃金をなかなか上げてあげられないとお悩みの場合は、これらの支援策の利用を検討してみてください。

業務改善助成金

以下の全ての条件を満たす事業者が助成の対象となります。

  • (運送業の場合)資本または出資額が3億円以下、または常時使用する労働者が300人以下
  • 事業場内最低賃金と地域別最低賃金の差額が50円以内
  • 解雇、賃金引き下げなどの不交付事由がない

この助成金は、事業場ごとに、管轄の労働局に申請します。

参考:最低賃金法とは? 最低賃金の計算方法全5パターンを徹底解説|@人事

助成される金額は、以下のうちいずれか安い方の金額です。

  • 生産性向上のための設備投資などにかかった費用✕助成率
  • 助成上限額

助成率は以下のとおりです。

  • 事業場内最低賃金が900円未満:10分の9
  • 事業場内最低賃金が900円以上950円未満:5分の4
  • 事業場内最低賃金が950円以上:4分の3

ただし、条件によって変動する場合があります。また、助成上限額は賃金の引き上げ額や引き上げ対象となる労働者の人数によって変動します。詳しくは厚生労働省のページを確認してください。

中小企業向け賃上げ促進税制

対象となるのは、青色申告書を提出する以下のいずれかに該当する事業者です。

  • 資本金の額または出資金の額が1億円以下の法人
    ただし以下を除く
    ・同一の大規模法人から2分の1以上の出資を受ける法人
    ・2以上の大規模法人から3分の2以上の出資を受ける法人
  • 常時使用する従業員数が1,000人以下の個人事業主
  • 協同組合など

税額の控除は以下の表のとおりです。

  適用要件 税額控除
通常要件 雇用者給与等支給額が前年度と比べて1.5%以上増加 控除対象雇用者給与等支給増加額の15%を法人税額または所得税額から控除
上乗せ要件1 雇用者給与等支給額が前年度と比べて2.5%以上増加 税額控除率を15%上乗せ
上乗せ要件2 教育訓練費の額が前年度と比べて10%以上増加 税額控除率を10%上乗せ

参考:中小企業庁「中小企業向け『賃上げ促進税制』※旧、中小企業向け『所得拡大促進税制』」

適切な対応でドライバーの働き方改革を実現しましょう

改善基準告示の改正内容と対応のポイント、働き方改革や生産性向上に利用できる助成金や支援策について紹介しました。
2024年4月に迫る改善基準告示の改正や時間外労働時間の上限規制への対応が急がれますが、ドライバーがより働きやすい環境をつくるためにも、助成金を活用するなどして負担を抑えながら働き方を改善しましょう。労働時間を管理したり生産性を向上したりするためのITツールなどの導入にも助成金が活用できます。
本記事を参考に、改善基準告示の改正に正しく対応し、生産性向上とそれによる働き方改革を実現してください。

※本記事は掲載時点の情報であり、最新のものとは異なる場合があります。予めご了承ください。

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