最低賃金法とは?最低賃金の計算方法 全5パターンを徹底解説

労務

掲載日時:2023.12.22

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最低賃金は毎年10月ごろに改定されます。万一、企業が最低賃金を下回る額の給与を支払っていると、法律違反として罰則が科されることも。最低賃金を下回っていることに気付かず、不当な金額で賃金を支払っていないか、定期的に確認する必要があります。ここでは、「最低賃金を守らないとどうなるか?」「残業代は最低賃金に含まれるか?」など、企業の担当者が知っておくべき最低賃金制度の概要と、最低賃金の具体的な計算方法やよくある質問について解説します。

目次

「最低賃金法」とは? 種類、対象となる賃金、適用外になる場合を解説

企業が労働者に支払うべき最低賃金の金額は、「最低賃金法」に基づき国が定めています。ここでは、企業が押さえるべき最低賃金法の概要や最低賃金の対象となる

賃金の種類、最低賃金の適用外となる労働者の条件について解説します。

最低賃金法の概要

最低賃金法とは、労働者の賃金の最低額を保障するものです。労働条件の改善や労働者の生活の安定、労働力の質的向上などを目的に制定されました。

企業は労働者に、最低賃金以上の賃金を支払わなくてはなりません。もし最低賃金を下回った場合は、最低賃金額との差額を支払う必要があります。

地域別最低賃金額以上の賃金を支払わない場合には50万円以下の罰金、特定(産業別)最低賃金額以上の賃金を支払わない場合には30万円以下の罰金が発生します。
参考:厚生労働省「最低賃金に関する特設サイト」

最低賃金には「地域別最低賃金」と「特定(産業別)最低賃金」の2種類がある

最低賃金には「地域別最低賃金」と「特定最低賃金」の2種類があります。それぞれの違いを見ていきましょう。

地域別最低賃金

地域別最低賃金とは、産業や職種に関係なく、都道府県内の企業で働く全ての労働者とその使用者に対して適用される最低賃金のことです。以下の3つのポイントを考慮して定めるとされています(最低賃金法第12条)。

  • 地域における労働者の生計費
  • 地域における労働者の賃金
  • 通常の事業の賃金支払い能力
47都道府県ごとに定められています。

参考:厚生労働省「最低賃金の種類は?」

特定最低賃金

特定最低賃金とは、特定の産業で設定されている最低賃金のことです。地域別最低賃金より金額水準の高い最低賃金を定めることが必要だと認められた産業に対して設定されます。

参考:厚生労働省「最低賃金の種類は?」

最低賃金の対象となる賃金

最低賃金の対象となる賃金は「基本給」と「諸手当」の2つです。以下の6つの賃金は、最低賃金の対象から除外されます。

  • 臨時に支払われる賃金(結婚手当、退職金など)
  • 1カ月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与、勤続手当など)
  • 所定労働時間を超える時間外労働に対して支払われる賃金(時間外割増賃金など)
  • 所定労働日以外の日の労働に対して支払われる賃金(休日割増賃金など)
  • 午後10時~午前5時までの労働への賃金で、通常の計算額を超える部分(深夜割増賃金など)
  • 精皆勤手当、通勤手当および家族手当

厚生労働省「最低賃金の対象となる賃金」

参考:厚生労働省「最低賃金の対象となる賃金は?」

最低賃金を正確に算出するには、対象となる賃金を把握する必要があります。

最低賃金の適用外となる労働者

地域別最低賃金は、原則として雇用形態や呼称に関係なく全ての労働者に適用されます。一方、最低賃金を一律にすることで雇用機会を狭めてしまう可能性もあるため、以下のいずれかの条件に該当する労働者は、最低賃金の適用外になる(最低賃金を減額できる)特例が設けられています。

精神または身体の障害によって著しく労働能力が低い方
試用期間中の方
基礎的な技能等を内容とする認定職業訓練を受ける方で厚生労働省令で定めている方
軽易な業務に従事している方
断続的労働に従事している方

参考:厚生労働省「適用される対象者は?」

最低賃金の減額を行う場合、使用者は、「特例許可申請書」を2通作成し、所轄の労働基準監督署長を通して都道府県労働局長に提出、許可を得る必要があります。

東京都、大阪府の最低賃金はいくら? 「地域別最低賃金」一覧表

ここまで、最低賃金の概要について解説しました。次に、自社事業所の所在地域の最低賃金は具体的にいくらなのか、地域別最低賃金の一覧表で確認してみましょう。

【最新】2023年10月以降の地域別最低賃金

2023年10月に地域別最低賃金が改定されています。改定後の地域別最低賃金は以下の通りです。

2023年10月改定地域別最低賃金一覧表

最低賃金の改定

地域別最低賃金は、毎年改定されます。
全国的な整合性を図るために、毎年中央最低賃金審議会から地方最低賃金審議会に金額改定のための引上げ額の目安が提示され、地方最低賃金審議会で、その目安を参考にしながら地域の実情に応じた地域別最低賃金額の改正のための審議を行います。

最新情報は、厚生労働省のWebページを確認してください。

参考:厚生労働省「地域別最低賃金の全国一覧」

自社の支払い賃金は「最低賃金以上」か? 最低賃金の計算方法 全5パターンを解説

最低賃金の計算方法について解説します。自社の賃金が最低賃金額を上回っているかどうかを確認するには、給与体系によって以下の1~5のいずれかの方法で計算し、比較する必要があります。

1.時間給制
2.日給制
3.月給制
4.出来高払制その他の請負制
5.1~4の組み合わせ

それぞれのパターン別最低賃金の計算方法を具体的に解説します。

なお、厚生労働省は労働者向けに賃金を比較チェックできるページを用意しています。参考にしてみてもよいでしょう。

参考:厚生労働省「あなたの賃金を比較チェック」

1.時間給制の場合

時間給制の場合は以下の式に当てはめて確認します。

時間給≧最低賃金額(時間額)

2.日給制の場合

日給制の場合は以下の式に当てはめて確認します。

日給÷1日の所定労働時間≧最低賃金額(時間額)

ただし、日額が定められている特定(産業別)最低賃金の場合、計算式は以下のようになります。

日給≧最低賃金額(日額)

3.月給制の場合

月給制の場合は以下の式に当てはめて確認します。

月給÷1箇月平均所定労働時間≧最低賃金額(時間額)

月給制の場合の計算例

大阪府で働く月給制のAさんの計算例を見ていきましょう。Aさんの雇用条件や勤務状況は以下の通りです。

基本給        160,000円
職務手当      20,000円
通勤手当        7,000円
時間外手当  33,000円 
合計 220,000円

 労働時間/日         8時間
 年間労働日数         250日

※大阪府の最低賃金:1,064円

まずは、最低賃金から除外される賃金(通勤手当・時間外手当)を引きます。

220,000円-(7,000円+33,000円)=180,000円

次に、この金額を時給に換算します。

(180,000円×12ヵ月)÷(8時間×250日)=1,080円

月給を時給換算すると、Aさんの時給は1,080円となり、大阪府の最低賃金1,064円以上となっていることが分かります。

4.出来高払制その他の請負制によって定められた賃金の場合

賃金の総額÷総労働時間≧最低賃金額(時間額)

まずは、出来高払制その他の請負制によって計算された賃金の総額を、賃金計算期間に出来高払制その他の請負制によって労働した総労働時間で割ります。最低賃金額(時間額)と比較します。

出来高払制の場合の計算例

東京都で働く出来高払のBさんの計算例を見ていきましょう。Bさんの雇用条件と勤務状況は以下の通りです。

歩合給              246,000円
通勤手当              7,000円
深夜割増賃金      6,100円(244,000円÷200時間✕0.25✕20)
時間外割増賃金  8,400円 (244,000円÷200時間✕0.25✕30)
合計       265,500円

 年間における1カ月平均所定労働時間 170時間
 当月の時間外労働   30時間
 うち深夜労働           20時間
総労働時間   200時間

※東京都の最低賃金:1,113円

まずは、最低賃金から除外される賃金(時間外割増賃金・深夜割増賃金・通勤手当)を引きます。

265,500円-(8,400円+6,100円+7,000)=244,000円

次に、この金額を時給に換算します。

244,000円÷200時間=1,220円

出来高払を時給換算すると、Bさんの時給は1,220円となり、東京都の最低賃金の1,113円以上となっていることが分かります。

5.上記1~5の組み合わせの場合

基本給の時給換算額+手当の時給換算額≧最低賃金額(時間額)

基本給と諸手当をそれぞれ時給換算し、両者の合計と最低賃金額(時間額)を比較します。

基本給が日給制で、各手当が月給制の場合の計算例

山形県で働くCさんの計算例です。Cさんの雇用条件と勤務状況は以下の通りです。

基本給(日給) 6,000円
職務手当           25,000円
通勤手当             3,000円
合計      148,000円

 労働時間/日         8時間
 当月の労働日数       20日
 年間所定労働日数 250日

※山形県の最低賃金:900円

まずは諸手当の合計金額のうち、最低賃金から除外される賃金(通勤手当)を引きます。

(25,000円+3,000円)ー3,000円=25,000円

次に、日給制の基本給と月給制の手当をそれぞれ時給に換算します。

基本給の時給換算額:6,000円÷8時間=750円
手当の時給換算額:25,000円÷(20日×8時間)=156.25円

最後に、基本給と手当の合計時給換算額を算出します。

750円+156円=906円

すると、Cさんの時給換算額は906円となり、山形県の最低賃金の900円以上となっていることが分かります。

最低賃金に関するよくある質問

Q1:最低賃金は義務ですか? 守らない会社はどうなりますか?

最低賃金以上の賃金を支払うことは義務です。たとえ従業員と合意の上でも、最低賃金を下回る賃金で雇用契約をすることはできません。

最低賃金以上の賃金額を支払わない会社は、地域別最低賃金に違反した場合は50万円以下の罰金、特定最低賃金に違反した場合は30万円以下の罰金が罰則として定められています(最低賃金法第40条、41条)。

Q2:最低賃金より低い金額で従業員を雇うとどうなりますか?

最低賃金法違反となりますので、差額を支払う必要があります。最低賃金額以上の賃金を支払わない場合、地域別最低賃金に違反した場合は50万円以下の罰金、特定最低賃金に違反した場合は30万円以下の罰金が科されます。

Q3:最低賃金法の対象は誰になりますか?

地域別最低賃金は、パートタイマー、アルバイト、臨時、嘱託など雇用形態や呼称に関係なく、各都道府県内の事業場で働く全ての労働者とその使用者に適用されます。
ただし、かえって雇用機会を狭める恐れを考慮し、以下のいずれかに該当する労働者は、使用者が都道府県労働局長の許可を受けることを条件に最低賃金の減額の特例が認められています。

精神または身体の障害によって著しく労働能力が低い方
試用期間中の方
基礎的な技能等を内容とする認定職業訓練を受ける方で厚生労働省令で定めている方
軽易な業務に従事している方
断続的労働に従事している方

特定最低賃金の対象者は特定最低賃金ごとに異なります。厚生労働省のWebページを確認してください。

参考:厚生労働省「特定(産業別)最低賃金全国一覧」

Q4:最低賃金は正社員には関係ありませんか?

正社員にも関係があります。地域別最低賃金は、雇用形態に関係なく、各都道府県内の事業場で働く全ての労働者とその使用者に適用されます。

Q5:最低賃金には賞与は含まれますか?

最低賃金に賞与は含まれません。賞与は、最低賃金の対象とならない「1カ月を超える期間ごとに支払われる賃金」に該当します。

Q6:最低賃金には役職手当は含まれますか?

最低賃金に役職手当は含まれます。「毎月支払われる基本的な賃金」のうち諸手当に該当します。

Q7:最低賃金は手当も含まれますか?

最低賃金に諸手当は含まれますが、手当のうち精皆勤手当、通勤手当、家族手当は含まれません。

Q8:残業代は最低賃金に含まれますか?

残業代は最低賃金に含まれません。最低賃金の対象とならない賃金のうち、「所定外給与(時間外勤務手当)」に該当します。
なお、みなし残業(固定残業代)の場合も含め、時間外労働に支払われる残業代は、最低賃金に割増分を含めた額を上回っている必要があります。

自社の賃金の定期的なチェックが重要

地域別最低賃金は毎年改定されます。自社の賃金が最低賃金を下回ることのないよう、最低賃金の正しい計算方法を把握し、定期的なチェックを行うことが重要です。

また、最低賃金法の遵守はもちろんのこと、優秀な人材を定着させるためにも、社員の賃金を見直す機会を定期的に設けることをおすすめします。

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