「心理的安全性」と「理念浸透」から紐解く不祥事予防のカギvol.6
不祥事防止に繋がる組織づくりの事例~三菱電機とソニーグループの取り組みから
本連載ではこれまで、組織風土改革の観点から不祥事予防のポイントについてお伝えしてきました。最終回の今回は、不祥事を防ぐ組織づくりの事例をご紹介したいと思います。
ピックアップするのは、品質不適切行為の発覚を機に再発防止策の一環として組織風土改革に取り組む三菱電機株式会社と、パーパス浸透に力を入れた組織づくりで注目されているソニーグループです。
これまでの連載はこちら:https://at-jinji.jp/expert/column/100
目次
三菱電機の組織風土改革
三菱電機は、品質不適切行為の発覚をきっかけに、より第三者性を高めた調査体制を整えるべく、社外有識者から構成される調査委員会を設置。同委員会による調査で、組織風土を含む不正の発生原因が指摘されたことを受け、同社は再発防止策を含む「3つの改革」を策定します。
それが、「品質風土改革」「ガバナンス改革」、そして「組織風土改革」の3つです。
組織風土改革の取り組みとしては、「経営層自らの変革」「管理職の行動変容」「コミュニケーションの活性化」を掲げました。
経営層自らの変革を図るべく、幹部へのコーチングや現場と目線を合わせたタウンミーティング、経営層による社内SNSを活用した情報発信などを継続的に行っています。また、事業所や部門をまたいだローテーションや1on1ミーティングなど、部門を越えたコミュニケーションを促進しています。
また、心理的安全性講演会の実施、心理的安全性/雑談・相談ガイドラインの発行、「さん」付けの推奨、外部講師による1on1研修の実施など、心理的安全性の向上にも力を入れています。
こうした取り組みを通して、双方向コミュニケーションを確立し、「上にモノが言える」「失敗を許容する」「課題解決に向けて皆で知恵を出し合える」風土を醸成することを目指しています。
さまざまなチャネルを駆使してコミュニケーションを促進
前回、あらゆるコミュニケーションチャネル(下図)を活用する重要性をお伝えしましたが、同社はさまざまなチャネルを駆使してコミュニケーションを促進しており、組織風土改革に経営としてコミットしている様子がうかがえます。
また、組織風土改革に向け、「私(me)から変わる、そして、三菱電機グループ(Mitsubishi Electric)を変える。自分ができること、三菱電機グループができることをひとつずつやっていきましょう!」と従業員に呼びかけ、「Changes for the Better start with ME」というスローガンを掲げています。
第2回でお伝えしたとおり、昨今の組織変革の取り組みでは、従業員一人ひとりの行動を変える「行動変革型」のアプローチが求められるようになっています。同社においても、個々の従業員の行動変革を促すことで組織体質改善を図ろうという意志が感じられます。
参考:
・三菱電機グループ風土改革「骨太の方針」を策定|三菱電機 ニュースリリース
・3つの改革の進捗等について | 三菱電機
ソニーグループの組織風土改革
出所:ソニーグループポータル | Sony's Purpose & Values
組織風土改革の事例として注目されているのがソニーグループです。同社は、パーパス経営の先駆けとも言える企業です。
同社は、全世界に11万人以上の従業員を抱える世界的大企業であり、ゲームや音楽、金融など多岐にわたる事業を展開しています。これほど巨大なグループで、幅広い事業を展開しているコングロマリット企業であれば、存在意義や判断基準、望ましい行動に関して、従業員によって認識の差が生まれるのは当然のことです。それゆえ、多様な従業員が共通認識を持ち、同じ方向に向かっていけるように、パーパス浸透に力を入れています。
同社は、2018年4月にCEOに就任した吉田憲一郎氏の旗振りで「Sony's Purpose & Values」、つまり、存在意義と価値観を策定しました。このPurpose & Valuesは全従業員の拠りどころになっています。
第3回でもお伝えしたように、経営陣や従業員が存在意義などのアイデンティティを持っていない組織では、不正が起きるリスクが高くなります。同社の場合は経営陣や従業員がPurpose & Valuesに則って行動することで、「故意」や「過失」の状態が減り、「安心」や「幸運」の状態が増えると推察されます。つまり、パーパスの浸透によって、不正防止の効果も生まれると考えることができるのです。
継続的かつ複合的なコミュニケーションで理念浸透を実現
同社は、パーパス経営によって成果を創出していますが、これは同社がさまざまなコミュニケーションチャネルを用いて、常にPurpose & Valuesの浸透に努めてきた成果だと言えるでしょう。
<Purpose & Valuesの浸透活動の例>
- Purpose策定プロセスへの従業員の参画
- キービジュアルのポスターの配布
- イメージを伝えるビデオの配信
- CEOの署名入りレターの配信
- 各事業拠点におけるタウンホールミーティングの実施
- 各事業のマネジメント層による、自組織の事業戦略とPurposeの紐付け
- Purpose実践に関する従業員インタビュー「My Purpose」をイントラネットに掲載
こうした施策に加え、年に1回、パーパスの浸透度調査を実施しています。この調査でも浸透度は高まっており、従業員と継続的かつ複合的にコミュニケーションを図ることで、理念浸透を実現している好事例だと言えるでしょう。
※参考:ソニーグループポータル | Sony's Purpose & Values
不祥事防止に注力した結果、「守り」の組織風土に凝り固まってしまった時
不祥事を防止するためには組織風土改革が欠かせません。ですが、不祥事防止の意識が強すぎると、組織風土が「守り」に傾き、「攻め」の気運が失われてしまうことがあります。実際に過去に不祥事を起こした企業から、再発防止のために組織風土改革を続けてきた結果、挑戦やイノベーションが生まれない組織になってしまった、という悩みを伺うことがあります。
前回、理念浸透を図るためには、判断基準や望ましい行動について「①すり合わせ → ②承認 → ③実践」のサイクルを回し続けることが重要だとお伝えしました。「守り」の組織風土に傾くこと を避けるためには、逆に「攻め」の組織風土になるようにサイクルを回すことが重要です。これは、現場レベルで判断基準や望ましい行動についてすり合わせ、良い挑戦が生まれたらそれを承認し、より多くの従業員が実践できるように促すサイクルです。そうすることで、不祥事防止を図りながらも、挑戦を生むことができるはずです。
組織風土は企業の成長とともに変わっていくものです。その意味では、組織風土改革は終わりのない取り組みであり、企業は常に目指す姿に向けてより良い組織風土をつくっていかなければいけません。
おわりに
これまで数多くの企業と対話してきましたが、「組織風土を変えたい」という会社の7割は、「何のために変えたいのか」という目的や理想像がなく、誰も本気でコミットしていない状態です。その状態では、もちろん組織風土が変わることはありません。
組織風土改革は単なるキャンペーンではなく、企業が今後も生き残っていくために、全員が当事者として取り組まなくてはならないものなのです。
経営陣から管理職、メンバーまで、組織風土を会社や他者のせいにするのはやめましょう。ガンジーは、「この世界の内に望む変化に、あなた自身が成ってみせなさい」という言葉を残しています。あなたが「こんな組織風土になってほしい」と望む状態があるのなら、「誰か」に変えてもらうことを期待するのではなく、自ら体現していくことが大切です。
人事やコーポレート部門の皆さんには、全員が行動を変えられるように、一人ひとりの頑張りに頼らない仕組みづくりに注力していただきたいと思います。本連載が「こんな組織風土になってほしい」と思うみなさんの一助となれたら嬉しいです。
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