第2回

企業が今取り組むべき“合理的配慮”とは

公益財団法人日本ケアフィット共育機構の佐藤です。日本ケアフィットは、サービス介助士等の普及を通じた超高齢社会における共生施策を推進している団体です。私は2014年に入構以降、年間1万人が受講するサービス介助士の資格講習運営をはじめ、様々な共生施策に関わってきました。

第1回目の記事では、2021年に改正された障害者差別解消法についてお伝えしました。
障害者差別解消法の改正で企業として大きくかかわる部分が、
「障害者への合理的配慮提供の法的義務化」です。
障害者の平等な機会創出を妨げる障壁を除去することが目的ですが、
合理的配慮は障害者差別解消法の他にも、
障害者雇用促進法(正式名:障害者の雇用の促進等に関する法律)においても関わってきます。

第2回目は合理的配慮をメインテーマとして、
合理的配慮の浸透を阻む組織内の問題についてお伝えします。

参考:第1回 知らなかったでは済まされない。障害者差別解消法とは。

目次

  1. 企業が注視すべき二つの法律
  2. 2つの法律で語られる“合理的配慮”とは
  3. なぜ合理的配慮が企業の中で問題になるのか
  4. 障害者へのアンコンシャスバイアスが組織にもたらす影響
  5. アンコンシャスバイアスへの対策と合理的配慮の適切な提供に必要なこと
  6. まとめ 合理的配慮から組織の見えない偏見に気づく

企業が注視すべき二つの法律

先述の通り、合理的配慮に関する法律としては、
大きく2つ、障害者差別解消法(以下、解消法)と障害者雇用促進法(以下、雇用促進法)があります。
解消法は、自治体や企業などが提供するサービスにおける差別解消に関するものです。
例えば駅を利用するお客さまで障害者が何らかの配慮を求めてきた場合に、
必要な配慮を行うことや、障害を理由にサービス提供を拒否することを禁じています。
促進法は、文字通り、障害者の雇用や採用における法律です。
障害のある従業員を、障害を理由に不当な配置転換などを禁止し、
合理的配慮としては体調や通院に応じて勤務体系を調整することなどがあたります。

合理的配慮に関しては、
障害者差別解消法では自治体や行政では法的義務、
民間事業者は努力義務となっております。
しかし改正法が成立したことで民間事業者も法的義務となり、
公布の2021年6月から3年以内に施行される予定です。
雇用促進法において合理的配慮は行政・自治体、民間事業者ともに法的義務となっております。
これは、雇用が長期的な契約にわたり、
障害者の自立や社会参加に大きく影響するためです。

参照:厚生労働省 障害者雇用促進法に基づく障害者差別禁止・合理的配慮 に関する Q&A

2つの法律で語られる“合理的配慮”とは

“配慮”と聞くと、思いやりや善意で行うものというイメージがあるかもしれません。
そのため、なぜ法律でわざわざ合理的配慮やその提供義務を定めたのか、
理解が難しいと感じる人もいるかもしれません。
解消法と雇用促進法のどちらでも共通していることとして、
障害者が障害や社会的障壁による機会の不均衡があり、
これを是正することを目的としています。

合理的配慮とはその不均衡を正すための行為にあたります。
雇用やサービス提供においての機会の不均衡は事業者側に大きく要因していることがあります。

例えば、車いす使用者が店舗利用できないのは、
自分の足で歩くことができないから、というより、
通路に段差があることや、立って歩いて移動することを前提とした移動設計をした事業者側に要因があると言えます。

聴覚障害者が職場で能力を有効に発揮できないのは、
聴覚に障害があるから、というより、
会議進行や情報伝達を音声情報の主体にしている事業者側に原因があると言えます。

このように困難や障害の原因を社会や環境が作り出しているという観点で捉える考えを
“障害の社会モデル”と言いますが、
障害の社会モデルの視点に立てば、
合理的配慮の提供を事業者に義務として課している意義が理解できます。

▼障害の社会モデル 参考ページ:https://www.carefit.org/social_model/

なぜ合理的配慮が企業の中で問題になるのか

合理的配慮に対して企業が抱く問題の根底は、
“できない”という思い込みが起因している、ということをお伝えします。

障害についてなじみのない企業が“合理的配慮”について求められたとき、
多くは以下のような不安や問題を感じています。
・どこまで対応すればいいのか分からない
・対応できる人員がいない
・社内に相談体制がない
・アルバイト従業員などへの理解浸透が不安

これらの問題の意識には、
合理的配慮には対応できない、という
できないことを前提にした考えでいることが多く見受けられます。

そのため障害者から合理的配慮の要請があった際も、
事業者で“こういった方法であれば対応できる”という、
実施可能な代替案を提示や検討することではなく、
いかに自分たちが合理的配慮を提供できないかということを
正当な理由と思われることを列挙して理解してもらうための説明に
重きを置かれるという流れになってしまっています。

確かに合理的配慮は、
その障害者、その状況に応じた個別の調整という意味合いが強く、
事業者にとってはイレギュラーな対応になるため、
それを負担に感じたりネガティブに捉えてしまうかもしれません。

しかしこのような負担感やネガティブイメージが想起されるのは、
“できない”という先入観や思い込みを基本スタンスとしているためです。
その原因は障害や障害者に対しての理解不足や偏見があるからに他ならないのですが、
こういった偏見は意識的にしているものもあれば、
気づかないうちに抱いている偏見(アンコンシャスバイアス)もあるためより複雑になります。

障害者へのアンコンシャスバイアスが組織にもたらす影響

無意識の偏見、アンコンシャスバイアスは近年様々なシーンで紹介され、
人事をフィールドとする人も意識しているテーマだと思います。
例えば障害のある従業員へのアンコンシャスバイアスとして以下のような
例が考えられます。

■車いすを使用する社員に対して宿泊出張を伴う業務を本人に打診することなくアサインしなかった。

・・・業務をアサインする上司としては、車いすを使用していて出張は困難だろうと、
良かれと思って判断したのかもしれません。
しかし、本人を思いやっているつもりでも、
障害を理由に本人の能力発揮の機会を奪ってしまっていると捉えることができます。

このようなアンコンシャスバイアスがあることで、
車いす使用者だけでなく、その他の社員に対しても、
“~だろう、~にちがいない”といったアンコンシャスバイアスがあることで、
チームのパフォーマンスを知らないうちに下げてしまっている可能性もあります。

このケースであれば、
車いす使用の社員に対して出張業務について知らせ、
どういった合理的配慮があれば担当できるかコミュニケーションをとることができます。

出張が困難な場合であっても、
出張という方法以外に業務目標達成ができるアプローチ、
例えばオンライン商談など現在なら実施できますし、
合理的配慮を契機に業務で達成すべき本質的な目的は何か、
ということを考えることにも繋がります。

アンコンシャスバイアスへの対策と合理的配慮の適切な提供に必要なこと

具体的に組織内のアンコンシャスバイアスや雇用面の合理的配慮において
どのように取り組むべきかお伝えします。

相談体制の整備

合理的配慮であれば必要とする配慮がどのようなものなのか把握するために、
社内外で相談できる体制が重要です。

アンコンシャスバイアスによる従業員のストレスや負担は
周囲の人には悪意がないまま行っている場合が多いです。
その場でアンコンシャスバイアスについて表明しあえる関係性を作ることが理想ですが、
業務で直接的な関係性のない人を相談相手、
メンターとすることなども有効です。

また、社内外の交流の場、
もしくはジョブローテーションや社内人材交流などにより、
普段自分たちには当たり前すぎて気づくことのできない偏りにも気づくきっかけになります。

業務の本質目的の再確認

先述の車いす使用者の出張のように、
出張することは業務目的達成のために不可欠なのか、
対面で話すことは不可欠なのか、など、
“手段”に意識が行き過ぎて、意外と本来の目的がおろそかになる場合もあります。

合理的配慮では本質目的の達成を阻害する障壁を除去することが重要になるため、
そもそも目的は何なのか、現在採用する方法しかないのか、
などを再度確認することで新たな改善へとつながることがあります。  

外部リソースの活用

アンコンシャスバイアスというものは同質な価値観の人間関係の中では
当たり前すぎて気づくことのできない偏見のため、
社内のリソースだけでは気づくことのできない場合があります。

また、合理的配慮についても知見や相談体制が不足している場合は
社内の担当者だけでは限界があります。

日本ケアフィット共育機構では中間支援組織として
企業の継続的なサポートにも取り組んでいますが、
このような外部のリソースを活用することも
導入のしやすさや新たな気づきにもなります。

まとめ 合理的配慮から組織の見えない偏見に気づく

解消法や雇用促進法の合理的配慮は、
一義的には障害者の機会不均衡を正すことです。
しかし必要な配慮を提供するためのプロセスを通じて、
チームや組織の中に存在するアンコンシャスバイアスへの気づきや、
業務や仕事を通じて創出する価値の本質的な意義の再確認など
様々な利点を見出すこともできます。

ダイバーシティ&インクルージョンの推進には
多様な人材の活躍が欠かせないため
今回お伝えしたポイントを意識した合理的配慮の提供を進めていきましょう。

>>>第3回 多様性が浸透する組織マネジメントの進め方

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公益財団法人 日本ケアフィット共育機構
高齢者や障害者など多様な人との良好なコミュニケーションを学ぶ資格“サービス介助士”の認定運営を行っています。
企業のダイバーシティ&インクルージョン推進支援や、障害者差別解消法に対する企業の取り組み支援(研修 合理的配慮の実習)、相談を承っております。

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