第14回HR EXPO春(人事労務・教育・採用)|RX Japan株式会社第14回HR EXPO春(人事労務・教育・採用)|RX Japan株式会社

第1回

知らなかったでは済まされない。障害者差別解消法とは。

公益財団法人日本ケアフィット共育機構の佐藤です。日本ケアフィットは、サービス介助士等の普及を通じた超高齢社会における共生施策を推進している団体です。私は2014年に入構以降、年間1万人が受講するサービス介助士の資格講習運営をはじめ、様々な共生施策に関わってきました。

ダイバーシティ&インクルージョンへの社会的関心が高まるなかで、多くの事業者から障害者に関する法律や当事者との向き合い方など、様々なご相談をいただくことが増えてきました。そこでこの記事では、特に質問をいただくことが多い「障害者差別解消法」について解説させていただきます。

目次

  1. 障害者差別解消法の成立
  2. 障害者差別解消法とは
  3. 障害者差別解消法で定められていること
  4. 法改正による改正ポイント
  5. 不当な差別・合理的配慮の不提供による罰則はあるのか?
  6. 合理的配慮の考え方とポイント 企業はどこまで対応しなければならないのか?
  7. 企業が障害者差別解消法の改正に対して備えておくこと
  8. まとめ 多様なニーズから組織の“当たり前”を見直す

障害者差別解消法の成立

2021年に障害者差別解消法(正式名:障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律)の改正法が成立し、事業者は障害者への障害を理由とした差別が禁止されるようになりました。
具体的にどのような行為が差別にあたるのか、事業者が無意識に障害のある方を差別してしまわないようにどのような準備をするべきか、解消法の概要とあわせて解説いたします。

障害者差別解消法とは

障害者差別解消法とは、
障害の有無によって分け隔てられることなく、
障害のある人もない人も相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に資することを目的とした法律で、2016年4月に施行されました。
障害者権利条約や障害者基本法に実効性を持たせるために国内法整備として制定されました。 
参照:内閣府 障害を理由とする差別の解消の推進 

障害者差別解消法で定められていること

障害を理由とした不当な差別的取り扱いの禁止

障害を理由に提供しているサービスを制限したり、提供を拒否するなど、
不当な差別的取り扱いを禁止しています。
例えば、段差がある店舗で車いすユーザーの入店を拒否することや、
聴覚障害者に説明を後回しにすること、
障害者の賃貸住宅の契約や入居を拒否することなどが該当します。

合理的配慮の提供

障害のある当事者から社会的障壁の除去を求める申し出があった際に、
社会的障壁の除去をするための必要かつ合理的な配慮を提供することが求められています。
社会的障壁とは主に4つ(事物・制度・慣行・観念)に分類されます。

内容

具体例

事物の障壁

(バリア)

施設や設備などによる障壁

階段しかない入口、路上や点字ブロックの上に停められた自転車、右手でしか使えないはさみなど

制度の障壁

(バリア)

ルールや条件などによる障壁

申込方法が来店のみ・電話のみなどの受付、同伴者を求めるサービス、墨字(印字された文字)のみの試験問題など

慣行の障壁

(バリア)

明文化されていないがマジョリティが従うしきたり、情報提供など

緊急時のアナウンスは音声のみ、注意喚起は赤色を使う、視覚でしか分からない署名・印鑑の慣習など

観念の障壁

(バリア)

無知、偏見、無関心など

“こうあるべきだ”、“~できるはずがない”、“障害者はかわいそう”など

参照:(公財)日本ケアフィット共育機構「障害の社会モデル(共生社会と心のバリアフリー)」

例えば、段差のある店舗であれば車いすユーザーが入店できるように簡易スロープを設置することや段差を越える介助をすること、
聴覚障害者への説明において手話や筆談を用いること、
視覚障害者との契約の際に契約内容の代読や代筆を行うことなどが合理的配慮にあたります。

車いすユーザーと一言で言っても、
自走する車いすユーザーなのか、電動車いすユーザーなのか、
先天的な障害なのか、傷病などによる中途障害なのか、
天候、混雑状況、介助者の有無、などその人のその時の状況により、
社会的障壁による困難の度合いは異なっていきます。

このため、合理的配慮というものは、
画一的な対応ではなく、個別性の高い対応となります。
合理的配慮は“reasobable acccommodation”という言葉から訳されますが、
“accommodation”には“便宜・調整”という意味があるため、
このことからも合理的配慮が障害当事者との個別の調整にあたるということが分かります。

また、事業者が提供するサービスにおいて、障害者が直面する社会的障壁は、
身近な例で言うと段差のある入口などは、事業者が作り出したものです。
このように考えると合理的配慮が“善意による思いやりの行動”ではなく、
事業者として取り組むべき責務であるということが理解できます。

義務の範囲

障害を理由とした不当な差別的取扱いと合理的配慮の提供には、
2022年2月現時点では行政などの公的機関と民間事業者で義務の範囲が異なります。

 

行政・自治体等の公的機関

民間事業者

障害を理由とした不当な差別的取扱いの禁止

法的義務

法的義務

合理的配慮の提供

法的義務

努力義務
※2022年2月時点

行政・自治体などの公的機関は差別的取り扱いと合理的配慮の提供ともに法的義務となっておりますが、
民間事業者においては、2022年2月現時点では合理的配慮の提供のみ努力義務となっております。
ただし、後述の通り、改正により民間事業者であっても合理的配慮の提供は法的義務化されます。

法改正による改正ポイント

2021年の第204回通常国会において改正 障害者差別解消法が成立しました。
主な改正ポイントは3点です。

  1. 民間事業者の合理的配慮の提供の法的義務化
  2. 国と自治体との連携協力の責務規定の新設
  3. 国や自治体の差別解消のための支援措置の強化(相談員の育成や事例収集など)

事業者としては1.が最も事業に影響する部分でしょう。
これまでは“努めなければならない”という努力義務であったものが、
必ずやらなければならない法的義務になるため、
どこまで対応すればいいのか、などの懸念があるため、
この点は後ほど解説します。

施行日はいつ?

改正された法律が実際に効力を持つようになる施行日は
2022年2月時点ではまだ決まっていません。
施行日は公布日である2021年6月4日から起算して3年以内とされています。

不当な差別・合理的配慮の不提供による罰則はあるのか?

結論からお伝えしますと、
障害を理由とした不当な差別的取り扱い、合理的配慮の不提供による罰則はありません。
何が差別なのか、どこまで合理的配慮をしなければならないのかが明確ではない事業者にとって、
法律に違反したときの罰則はあるのか?ということは大きな関心事です。
ただし、罰則がないわけではありません。
法律では、まず以下のような規定があります。

(報告の徴収並びに助言、指導及び勧告)
第十二条 主務大臣は、第八条の規定の施行に関し、特に必要があると認めるときは、対応指針に定める事項について、当該事業者に対し、報告を求め、又は助言、指導若しくは勧告をすることができる。

(秘密保持義務)
第十九条 協議会の事務に従事する者又は協議会の事務に従事していた者は、正当な理由なく、協議会の事務に関して知り得た秘密を漏らしてはならない。

そしてこれらの規定に対する罰則については以下のように述べられています。

第二十五条 第十九条の規定に違反した者は、一年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
第二十六条 第十二条の規定による報告をせず、又は虚偽の報告をした者は、二十万円以下の過料に処する。

参照:障害者差別解消法 条文 

以上のように、障害を理由とした不当な差別的取り扱い、合理的配慮の不提供による罰則は規定されていません。
ただし、罰則に規定されていなくても、
差別事案が発生した際にはニュースなどで報道され、
企業のレピュテーション(名声・評判)に大きな損害を与えうることは認識しましょう。
また、障害差別解消に関する条例を独自に制定している自治体もあります。
条例では既に合理的配慮の提供が法的義務となっている自治体もあるため留意が必要です。

合理的配慮の考え方とポイント 企業はどこまで対応しなければならないのか?

“合理的配慮”と聞くと、
“障害者からの要望にすべて応えなければならないのか?”
と不安を持つ事業者もいるかもしれません。
合理的配慮の提供は社会的障壁の除去を行うための個別の調整であるという点の他に
以下のようなポイントがあります。

過重な負担にならない範囲であること

合理的配慮の提供は事業者にとって実施に伴う負担が過重でないものとされています。
負担の基準は以下のような観点から判断します。
・事務・事業への影響の程度(事務・事業の目的・内容・機能を損なうか否か)
・実現可能性の程度(物理的・技術的制約、人的・体制上の制約)
・費用・負担の程度
・事務・事業規模
・財政・財務状況
このような観点から、事業者自ら総合的・客観的に判断することが求められています。
事業者自ら判断することで、
求められている合理的配慮が過重な負担であると安易に拡大解釈することは、
法の趣旨を損なうものとされています。
このため求められた合理的配慮が過重と判断するのであれば、
過重な負担にならない代替案を提案することが重要になっていきます。

本来業務に付随するもの

合理的配慮の提供はその事業者の本来業務に付随する範囲で行います。
例えばスーパーの従業員で、お客さまをお手洗いの場所までご案内することは接客の範囲内と言えますが、
排泄行為の介助などは本来業務にあたらないものと言えます。

機会平等がなされるもの

合理的配慮は、障害による機会の不均衡を是正するためのものです。
一部の障害者のみを特別扱いするものでも優遇するものでもありません。

事業内容や目的の本質的変更を伴わないもの

事業者が提供する事業の本質が変わるような変更が必要な場合は
合理的配慮の不提供にはあたりません。

“合理性”は事業者・障害当事者双方の対話で成り立つもの

合理的配慮の提供が個別のニーズに沿った調整であることから、
常に同じことが行われるわけではありません。
その時、その障害者の状況や上記のような事業者側の状況も常に変化します。
障害者・事業者どちらか一方の都合が優先されるものでもなく、
双方の建設的な対話からなされるものです。
参考:
内閣府
関係府省庁所管事業分野における障害を理由とする差別の解消の推進に関する対応指針
関係府省庁における障害を理由とする差別の解消の推進に関する対応要領

企業が障害者差別解消法の改正に対して備えておくこと

社内での法律の理解浸透

まずは障害者差別解消法という法律があることを社内に周知徹底をしましょう。
対象となるのは管理職や正社員だけでなく、
サービス現場にたつパート・アルバイト職員、
お客さま応対業務を委託しているのであれば、
委託先事業者においても周知がされているか確認が必要です。
法律について知るだけであれば自治体や行政が発行するパンフレットや
リーフレットから情報を取得できます。
参考:内閣府 障害者差別解消法リーフレット

ただし、法律の内容を知るだけでは、
これまで説明してきたような“どこまで対応すればいいのか?”などの課題まで解決することは難しいので、
障害者への介助やコミュニケーションを学ぶ教育が継続的に必要です。

社会的障壁の確認と合理的配慮の提供内容の検討

障害について理解を深めながら、
その理解を元に事業者のサービスにおいて、
どのような社会的障壁があるのか見直しをしていきましょう。

合理的配慮は個別の調整、とお伝えしていますが、
類似する要望が多い場合は、そもそも社会的障壁となっているものを改善することが
長期的な視点にたつとコスト面含めて事業者にとって有効になることもあります。

社会的障壁を確認し、想定される合理的配慮の内容や方法を社内で共有しましょう。
例えば、情報伝達の代替案、筆談ツールやコミュニケーションボード、
簡易スロープや貸し出し車いすの有無、対応する人員などを事前に確認しましょう。

相談体制の確認

ここでは社内外の相談体制についてお伝えします。
まず、対外的な相談体制について、
障害当事者が事業者に対して合理的配慮の要請をしやすくすることも重要です。
合理的配慮の対応窓口を個別に専用設置する必要はありませんが、
事業者が既に設けている問合せ対応部門や窓口で合理的配慮について受付対応できるようにしましょう。

社内の相談体制では、対応する従業員に偏りが出ないようにするだけでなく、
事業者としてどのように対応をすべきかという事業者としての判断を出せるようにすることや、
対応事例を他部署・他支店で共有することで、
よりニーズに即した対応ができるようになります。

まとめ 多様なニーズから組織の“当たり前”を見直す

障害者差別解消法の対応をきっかけに、
事業の中にある様々な障壁に気づくことができるでしょう。
それらの障壁が生まれる背景には、
“~が普通”、“~が当たり前”といった価値観が
無意識に前提となっていることが起因しています。

コロナウィルスによって、サービスの提供の方法、働き方など、
これまでの“当たり前”を見直す必要性に多くの企業が直面しています。
多様な人のニーズに触れることで、
組織の中で意識していなかった“当たり前”/アンコンシャス・バイアスに気づき、
社会の大きな変化にも柔軟に対応することができるようにもなります。

>>>第2回 企業が今取り組むべき“合理的配慮”とは

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公益財団法人 日本ケアフィット共育機構
高齢者や障害者など多様な人との良好なコミュニケーションを学ぶ資格“サービス介助士”の認定運営を行っています。
企業のダイバーシティ&インクルージョン推進支援や、障害者差別解消法に対する企業の取り組み支援(研修 合理的配慮の実習)、相談を承っております。

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