第14回HR EXPO春(人事労務・教育・採用)|RX Japan株式会社第14回HR EXPO春(人事労務・教育・採用)|RX Japan株式会社

第4回

多様性を組織の力に。多様な人材を受け入れるために必要なことと、価値創造に向けた協働の仕組み

公益財団法人日本ケアフィット共育機構の佐藤です。
ケアフィットは、サービス介助士等の普及を通じた超高齢社会における共生施策を推進している団体です。
前回(第3回)の記事で、Diversity/ダイバーシティ(多様性)、Equity/エクイティ(公平性)、Inclusion/インクルージョン(包摂性):DE&Iの推進について紹介しました。今回は、企業のDE&Iの現状と取り組みに必要なことを考えていきます。

参考:第3回 多様性が浸透する組織マネジメントの進め方

目次

  1. 企業にDE&Iの取り組みが必要な背景
  2. 企業のDE&Iの現状
  3. 人的資本経営
  4. これからDE&Iを推進する担当者に必要な「現状把握」
  5. 「従来の同質性の高い組織」から「多様性のある組織」に変化する中、価値創造を行ってくために必要な社内外の協働のあり方とは

企業にDE&Iの取り組みが必要な背景

現代の企業にとって持続的発展のためにDE&Iの推進は不可欠な取り組みです。
その背景には社会環境、雇用環境、市場環境の変化があります。
どのような規模の企業であっても関わることです。人事・総務担当者や経営者の皆さんに加え、DE&I推進担当者は特に、社内で取り組みに理解を得るためにも背景から把握しておきましょう。

少子高齢化

日本は若者が減って高齢者が増える「少子高齢化社会」を世界最先端で進んでいる国と言えます。厚生労働省「令和2年版 厚生労働白書」には、年齢別の人口ピラミッドが1990年から2040年の推計まで掲載されています。
これによると、1990年の65歳以上の高齢者は全人口の12%(1493万人)だったのに対し、
2040年には35.4%(3920万人)と、3倍近くに増えています。
一方で、20歳から64歳までの現役人口は1990年には61.6%(7611万人)だったものが、
2040年には50%(5543万人)と、2000万人以上減少すると推測されています。


(出典:厚生労働省「令和2年度版 厚生労働白書 P6-7」より)

このような推計から、従業員の高齢化や、高齢家族を支える従業員の増加、外国人労働者の増加なども考えられ、年齢や人種などの属性的多様性や、長寿化に伴う生き方など文化的多様性はますます拡大していきます。

働くことの意識や価値観の多様化

これまでの日本の経済はジェンダー格差という犠牲のもとに成り立ってきたと言えます。古くは“良妻賢母”などという言葉にある固定的な男女観にはじまり、健康な男性を長時間・長期間働かせ、それを女性が家庭から支えるという構造です。短時間労働の適用範囲や一般職、総合職によるキャリア区別など、このような前提が現在の働き方には当てはまらなくなってきています。女性の社会進出や単身世帯の増加だけでなく、男性自身も固定的な“男性性”の価値観に由来する働き方の見直しが迫られています。

グローバル化の進展

新型コロナウイルスのパンデミックはグローバル化の進展した現代だからこそ、ここまで世界中に影響を持つようになりました。グローバル化によるリスクは、もはや国や企業のコントロールではどうすることもできないほどになっています。
グローバルなビジネス競争において急速な外部環境変化は、コロナのように国や業界の常識の外からもたらされるため、従来の価値観に囚われない対応が求められます。そのためにも多様な価値観や能力を有する人材が活躍できるよう、企業のDE&I推進が欠かせません。

企業のDE&Iの現状

経団連が加盟企業に対して実施した「ポストコロナ時代を見据えたダイバーシティ& インクルージョン推進」に関するアンケートでは、“重要かつ喫緊の課題として取り組んでいる”と回答した企業は57.4%となりました 。また、社内の取り組みとして最も多かったのは労働環境の整備で、以下のような回答が見られました。

「元々は育児や介護等、制約のある社員も成果を出せるための柔軟な働き方の選択肢として限定的に在宅勤務制度を導入。その後全社員に対象拡大。これにより、コロナ禍でも、大きな混乱を来すことなく、事業継続が可能となった。」

このような回答などからも、DE&Iの取り組みが多くの従業員にとっても効果のある取り組みになるということが分かります。一方で、経営への成果につながるまでの時間や、経営層や社員に重要性を理解・浸透させることが、多くの企業が抱える課題です。

人的資本経営

市場への情報開示という観点から、今後DE&I推進に寄与すると考えられるトレンドがきています。それは“人的資本の情報開示”です。現在、政府において人的資本の開示方針について議論され、開示義務化に向けた流れが強まる中、これは経営層も無視することができないトレンドです。

人的資本経営とは簡単に言うと、人材を組織の資本ととらえ、それを持続的な企業価値の向上につなげていこうとする考え方です。近年は情報や知識などの無形資産によって事業の価値が創造されており、モノカネの目に見える企業の資産だけでなく、ヒトという無形資産がどのようにその企業で扱われているかがビジネスを左右する要因になっていることが背景にあります。

ISO(国際標準化機構)が人的資本の情報開示のガイドラインを公開し、2020年にSEC(米国証券取引委員会)も人的資本情報開示について上場企業に対して義務付け、これらの情勢に対応する形で東京証券取引所のコーポレートガバナンスコードが2021年に改訂され、人的資本の開示が求められるようになりました。

人的資本の情報開示には、DE&Iに関する情報開示が相当数の項目で求められています。具体的には、経営層・管理職における性別や人種などの割合、ジェンダー間の給与格差、健康への取り組み、障害者の雇用率、マイノリティに対する取り組みなど、多岐にわたります。知識基盤社会における生存戦略として企業が人的資本にどのようなスタンスをとるのかということは投資家としても重要な判断基準になるため、人的資本経営を推進する上でもDE&Iへの取り組みは重要となります。

これからDE&Iを推進する担当者に必要な「現状把握」

DE&I推進のために必要なことは、現状を把握することです。
多様性を包摂するために、まず多様性のない状況を理解する必要があります。
様々な多様性に対して自社がどのようなスタンスであるのか、イラストで考えてみましょう。

イラストの大きな円は組織・社会で、その中の小さな丸がその組織の構成員です。
青い丸がその組織の多数派を占める構成員で、様々な色・形をしたものが何らかの違いを持った構成員です。イラストにある通り、組織(社会)は次の4タイプに分類できます。

・「排除」:文字通り多様性を組織から排除した状態です。組織の同質性が強く、意思決定や情報伝達がスムーズなためこのような状態の組織も存在します。
・「分離」:違いのある構成員は認識しているものの、組織とは別のコミュニティで独立しています。機能を分けた子会社・関連企業にした状態とも言えます。
・「統合」:一見すると多様性が取り入れられているように見えますが、組織内では多様性は通常と異なるシステムで存在します。例えば障害者だけを集めた部署などがこれにあたります。共に働くためには多数派のシステムへ“同化”が必要です。現状は多くの企業がこの状態にあると言えます。
・「包摂」:様々な違いがあっても不利にならない状態です。これにはシステムだけでなく文化や構成員の意識変化など多方面から取り組みが必要です。

すぐに「包摂」の状態にすることは困難で、強制的に進めようとすると社内で様々な不具合が生じます。
例えば、企業によっては採用時点で一般職と総合職に分かれており、一般職は女性が就くことが多く、固定的な性別役割を形成していました。総合職へのキャリアチェンジは認められていても、総合職は転勤を伴うため、その制約下では能力発揮ができないことがあります。活躍するには多数派のシステムへ“同化”が強いられる「統合」状態と言えます。
このようなことから、近年は転勤を伴わない地域限定雇用も始まっていますが、ジェンダー役割が従来の価値観のままになっているため、転勤を伴う雇用に男性が偏り、かえってジェンダー間の役割が固定化してしまうケースもあります。

このため、DE&Iの推進には、現状の多様性に関するデータの収集と分析、対話から、どのような偏りがあるのかを把握することから始まります。

「従来の同質性の高い組織」から「多様性のある組織」に変化する中、価値創造を行ってくために必要な社内外の協働のあり方とは

多様性があるだけでは、組織はまとまらず、多様性のネガティブな部分が現れてしまいます。ダイバーシティ・マネジメントとは多様性を価値創造へと転換させることです。
多様な人材が活かされるインクルーシブな組織で価値創造を行っていくためには、
経営層からのDE&Iへの積極的な関与、公平かつ公正な待遇のための制度、
そして従業員が組織や事業に対して影響力を持てるようになることが重要です。

組織で働く人が、組織の中にある情報やリソースを利用できる社内の透明性と、それをもとに一人一人が行動をできるような権限が委ねられて、かつ本人も自分自身が組織の行動に関われているという実感があることで、ダイバーシティの共創効果が高まっていきます。このような風土を組織に作っていくためには、多様な従業員がアイデアや意見を表明できて、それを取り入れることができる場と制度、多様な視点に触れて、一人一人が多様性を取り入れるきっかけとなるフォーマル・インフォーマルな社内交流の実施など、小さな活動から始めることができます。

今後企業においては、グローバル化と社会変動への対応や人的資本経営への取り組みとして、DE&Iの取り組みや制度が急増することが予想されます。しかし、今回の記事でお伝えしたように、まずは社内に存在する気づきにくい排他性や、支配的な文化や価値観がどのようなものなのかを認識しなければ、DE&Iのネガティブな部分ばかりが発生するリスクもあります。社内外のネットワークを少しずつ広めて、変化を生み出していきましょう。

>>>第5回 多様な人材の共感を得るパーパス。策定で終わらせない組織への浸透のポイント

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公益財団法人 日本ケアフィット共育機構
高齢者や障害者など多様な人との良好なコミュニケーションを学ぶ資格“サービス介助士”の認定運営を行っています。
企業のダイバーシティ&インクルージョン推進支援や、障害者差別解消法に対する企業の取り組み支援(研修 合理的配慮の実習)、相談を承っております。

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