第5回

多様な人材の共感を得るパーパス。策定で終わらせない組織への浸透のポイント

公益財団法人日本ケアフィット共育機構の佐藤です。
ケアフィットは、サービス介助士等の普及を通じた超高齢社会における共生施策を推進している団体です。
これまでの記事(第3回・第4回)でお伝えしてきたDE&I推進は、近年多くの企業で策定が進められている「パーパス」において切り離すことができない関係性でありながら、どちらも独立した取り組みとして扱われています。
この記事では企業においてパーパス浸透のポイントを紹介し、DE&Iによる組織変革とパーパスとの関係についてお伝えします。

参考:
第3回 多様性が浸透する組織マネジメントの進め方
第4回 多様性を組織の力に。多様な人材を受け入れるために必要なことと、価値創造に向けた協働の仕組み

目次

  1. 多様な人材との共創に欠かせない「パーパス」とは?
  2. 社内に多様な人材・価値観がある中で、パーパス策定を進めるには?
  3. 組織にパーパスを浸透させるための3つのポイント
  4. 障害者就労支援事業所ケアフィットファームでのパーパス策定の取り組み
  5. まとめ

多様な人材との共創に欠かせない「パーパス」とは?

「パーパス」とは一般的に「企業の社会的存在意義」や「企業目的」という意味が当てられています。多くの企業では‘企業理念’や`ミッション・ビジョン’など類似のメッセージが掲げられている中で、なぜ今パーパスが着目されているのか、類似する概念との関係性についておさらいしましょう。。

パーパスが必要とされる背景「ステークホルダー資本主義」へのシフト

従来の資本主義における企業は株主の利益を最大化することが至上命題であり、企業としての利益追求のために経営者や創業者の掲げるビジョンに、組織と従業員が従っていくことが企業の利益創出や効率化において効果的でした。

しかしグローバル化の進展や産業の高度化に伴い、企業の存在は企業単体で成り立つものではなく、従業員や株主はもちろん、地域社会や地球環境、消費者の存在がより影響を持つようになりました。このように様々なステークホルダーが関わる企業においては、株主や企業の利益のみを追求することはステークホルダーの不利益や不平等を生む可能性があります。

現代の企業は、ステークホルダーとの共創によって価値と利益を生み出す「ステークホルダー資本主義」のもと、企業活動の継続が求められるようになっております。このような経営環境の中多くのステークホルダーの利益と共感を念頭に入れた社会的意義を求めるパーパスがより重要になってきています。

“ミッション”、“ビジョン”、“バリュー”との違い

パーパスに類似する概念として“ミッション”、“ビジョン”、“バリュー”という言葉(総称してMVV)があります。これらの概念はそれぞれ全く違うものでも否定するものでもありません。その考え方の“ベクトル”・“方向性”がどこを向いているのかによって、違いと類似があります。

まず、パーパスが持つ特徴としては、組織の存在意義を社会の視点と社内外のステークホルダーとの価値の共創を取り入れている点にあります。

これを踏まえて、MVVを見てみます。
ミッションは組織の社会における使命・役割・存在意義です。
ビジョンは組織が目指す理想・目指すもののことです。
バリューは組織が持つ使命のもとで理想を実現するための価値規範・判断基準です。

パーパスの意味と類似していると感じると思いますが、これには企業のミッション、ビジョンにも自社だけでなく社会や未来を意識し、自社以外の存在も考慮したものもあるためです。
そのため、「パーパスとMVVは違う概念である」と理解するよりも、「パーパスには社会とステークホルダーを内包しているという特徴がある」という認識が適切でしょう。

極端に言えば、MVVはその組織の外部にある社会や環境、ステークホルダーを意識しなくても成立することができます。従来の継続的に成長・拡大が見通せた産業環境においては、その組織と株主の利益を追求・最大化することを至上の目的としていても、従業員やステークホルダーはそれに従えばある程度の将来発展が保障されており、それを社会も黙認していました。
このような産業環境においては、MVVは有効に働いていました。

しかし、現代は産業が複雑化し、人々の価値が経済・金銭的充足以外にも見出され、持続的な環境への配慮が意識されてきています。つまり、企業での労働、利益を上げることの優先度が下がっている、と言えます。

また、従来のように社会や企業の行く末は見通しがきく直線的・連続的な未来は現代では保障されず、どのような社会になるのか全く分からない非連続的な未来社会を前提としなければなりません。このような社会環境においては、企業単体の求心力ではなく、社会やステークホルダーの共感を得て、共に価値を作ることができる組織体であることが求められます。そこで必要な理念がパーパスなのです。

社内に多様な人材・価値観がある中で、パーパス策定を進めるには?

社会やステークホルダーと共創を目指す企業の存在意義を策定するために、大きく分けて以下のような観点での取り組みが必要です。

トップ・経営層のパーパス策定への積極関与

パーパスは一部の経営層、CSR室や経営企画室のような部署とコピーライターによって美辞麗句を並べるだけでは意味がありません。企業トップと経営層が社会と組織はどうあるべきかを考えて、組織内でパーパス策定と浸透を本気で進めることに関与することが求められます。

パーパスは最終的にはメッセージ・ステートメントとして掲げられることになります。もしかすると、その文言は極めてシンプルで、組織の人からするとどこか既視感のあるものになるかもしれません。だからこそ、その言葉を常にサービス設計や組織が体現できているかを常に見直し、問い直していくことが求められています。

社員やステークホルダーとの対話の場

パーパスがその組織の利益や価値だけに留まらないという特徴があることから、経営層だけでなく、従業員や企業が関わる地域社会、市民、ユーザー、パートナーの共感も必要になります。様々な形でコミュニケーションをとることで、ステークホルダーの価値観も取り入れ、共に作り上げていける風土を醸成していくことが重要です。

組織にパーパスを浸透させるための3つのポイント

組織においてパーパスを浸透させるには経営トップや経営層だけでなく、組織にいる人たちの積極的な関与が必要です。パーパス策定・浸透の施策として何らかの対話の機会を設定することが定石ですが、その際に求められるポイントがあります。

ポイント1:心理的安全性の確保

心理的安全性の確保とは組織の中で誰もが自由に自分の考えや意見、行動を起こすことのできる状態が保たれていることです。なぜパーパス浸透において心理的安全性が大切かというと、パーパスには共感が不可欠であり、共感に至るプロセスには組織のパーパスについて自由に語れることや、その人の価値観を共有することが必要だからです。

その際に意見や価値観に対して否定的反応をされることや、自分が意見を表明しても何も変わらない、といった懸念があるままだと表面的な同意や意見しか出てきません。誰にでも意識化・言語化されていなくともパーパス的な思いはあるもので、それは組織の価値観と完全に一致することはなく、部分的に重なっており、その共通する部分で価値を創造しあっていくことが組織の活性化になります。そのためにも企業と、社員がそれぞれどのようなパーパスがあるのかを共有できる心理的安全性が確保された風土が求められます。

ポイント2:ビロンギング(帰属意識)

ビロンギングとは組織に対する帰属意識のことですが、昭和の企業戦士のような“滅私奉公”型の組織への帰属ではなく、個人がその人らしくいながらも、組織に愛着を感じ組織の一員であるという自覚を持つことができる感覚のことを言います。

エンゲージメントと異なるのは、ビロンギングにはエンゲージメントに加えて情緒的つながりが意識されていることです。例えば金銭的報酬などのインセンティブでエンゲージメントは高めることはできますが、それがなければ組織への関与は低下します。また、冒頭で伝えたように金銭以外にも自分らしさや大切にしたいライフスタイルは様々であり、また、ただ居心地が良いだけでは組織は発展しません。そのために、組織も社員のクオリティオブライフ(生活・人生の質)の向上に寄与しつつ、社員も組織の発展に思い入れを持って関わるビロンギングがあることで、パーパスはより実践的なものになります。

ポイント3:ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン(DE&I)

ステークホルダーとの共創を目指すパーパスであることから、組織に多様な人が包摂されることが重要で、多様な価値観に排他的な組織はそもそも共感を得ることができるパーパスを打ち出すことはできないでしょう。

DE&Iはパーパスとは独立した取り組みと認識されがちですが、ただ単に組織が多様な価値が内包されているだけでは活性化にはつながらず、まとまりがなくなります。組織の価値観に従属させるのではなく、組織とステークホルダーが共通の理念を持って価値を創造していくためには、それぞれが共通の方向性を目指すことができるパーパスが欠かせないのです。このようにパーパスの浸透とDE&I推進は、組織の活性化の面において深くつながっています。

障害者就労支援事業所ケアフィットファームでのパーパス策定の取り組み

現在、日本ケアフィット共育機構が障害者就労支援を行っているケアフィットファームでは、事業所独自のパーパス策定を進めています。

職員全員でディスカッションをして、それぞれの価値観の再認識・共有を繰り返し、障害者就労支援サービスの利用者の声も聞きながら約半年のスケジュールで進行しています。その中でも多くの企業に通じる課題を紹介します。

そもそも“パーパス”を知らない

パーパス策定を進めるにあたって、あらかじめメンバーが“パーパス”というものを知っていることはまれだと思います。策定のワークに入る前に、パーパスとは何か、なぜ必要なのかという意義を伝えて、自分たちの仕事や生活に紐づけて理解できるように時間をかけて実施します。そのプロセスの中で、組織としての理念の浸透にばらつきがあることも明らかになります。パーパスの策定にあたっては、そもそもパーパスとは何かを理解することに十分な時間を使うことを意識しましょう。

自分の価値観を言語化することに慣れていない

自分が大切にしているものは何か? 仕事でうれしかったことやつらかったことは何か? といった問いに対して、ワークシートに記述したり話したりすることができない人がいます。理由としては、多忙な毎日を過ごす中で、これまでを振り返ったり、これからを考えたりする余裕がないことが挙げられます。また、自分の価値観を認識・言語化することに慣れていない、日常の生活で考える必要性がないため、ということも考えられます。

個人のパーパスは決してきれいな言葉である必要はありません。拙いものであっても自分の価値観をまず形にしてみるという行為が大切です。業務の中で定期的な面談を設定したり、他の人の価値観に触れたりすることで自分自身の価値観の棚卸しをして、小規模のグループワークを重ねることで、少しずつ価値観を明確にする機会を設定していくことが大切です。

心理的安全性をどう確保するか

気心の知れたと思う少人数のディスカッションであっても、その人にとっては心理的安全性が確保されていなかったということが分かりました。パーパスのような新しい話題、新しい考え方を初めて扱う時には、その人がそのことを知らないということに対する周囲へのためらいや、逸脱を恐れて意見を出せない、言語化に慣れてないのでうまくいかないことへの羞恥心などもあります。

また、世代や人によっては現代のコミュニケーション特有の性質が身についていて、活発な意見を出せる状況とは思われていないこともあります。
現代はSNSをはじめとする様々なコミュニケーション媒体があり、それぞれの特性に合わせた意思疎通と自己表現が当たり前になっています。そのような中では、価値観が違うことは当たり前であり、それ故に組織・コミュニティにおける自分と他者の立ち位置や力関係に敏感になり、自分がどう思うかということよりも、どのような演じ分けがここでは適切か、という思考が働きます。そうなるとお互いに距離を見合って、議論が進展しないという事態になってしまいます。
ワークやディスカッションのファシリテーターはアイスブレイクを入念に検討し、リーダー職の人はあえて素朴な質問や答えを表明することで発言のハードルを下げるといった工夫があるといいでしょう。

まとめ

“パーパス”は多くの日本企業にとってはまだまだ馴染みのない概念です。
しかしここでお伝えしたように、パーパスというのは全く未知の考え方ではなく、組織と社会との関係を改めて見直すプロセスと言えます。パーパスの策定が、組織と社会とのつながりを意識化させ、非連続的な未来社会においても持続発展可能な組織へとシフトすることを多くの企業が選択できるようになるきっかけになると考えています。

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公益財団法人 日本ケアフィット共育機構
高齢者や障害者など多様な人との良好なコミュニケーションを学ぶ資格“サービス介助士”の認定運営を行っています。
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