第14回HR EXPO春(人事労務・教育・採用)|RX Japan株式会社第14回HR EXPO春(人事労務・教育・採用)|RX Japan株式会社

第3回

多様性が浸透する組織マネジメントの進め方

公益財団法人日本ケアフィット共育機構の佐藤です。
ケアフィットは、サービス介助士等の普及を通じた超高齢社会における共生施策を推進している団体です。
これまでの記事で障害者差別解消法や合理的配慮など、人事としてのコンプライアンスに関するトピックをお伝えしました。
本記事ではそれらを踏まえて組織のDE&I推進:ダイバーシティ(多様性)、エクイティ(公平性)、インクルージョン(包摂性)について解説します。

第1回 知らなかったでは済まされない。障害者差別解消法とは。
第2回 企業が今取り組むべき“合理的配慮”とは

目次

  1. DE&Iがない組織とは?
  2. DE&Iを組織マネジメントで進めるために必要なこと
  3. 人事がすべきこと
  4. ダイバーシティワインを製造する「ケアフィットファーム/ワイナリー」の事例
  5. まとめ パーパスを共有しながらセッションを続ける

DE&Iがない組織とは?

そもそもDE&Iがない組織とはどのような組織でしょうか?
男女比率、年齢、国籍、障害の有無などいわゆる属性的な観点で
偏りがあることはダイバーシティがないと言えるでしょう。
仮にそういった属性に偏りがなかったとしても、
一部の人の意見や手法だけが採用される、
もしくは他から意見がでない、といったことや、
勤務形態が単一で、その形態に対応できた人だけがキャリアアップができる、
という偏った状態もあります。
能力があれば誰でも“平等”であると謳っていても、
そもそもスタート位置や機会に公平性(エクイティ)がなければ、
活躍できる人が限られている、インクルージョンされていないと言えます。

このような同質の価値観や画一的な組織構成が、DE&Iがない組織の特徴ですが、
これだけでは、社会的存在として問題があることは何となく分かっても、
組織としての実効的なデメリットは分かりにくいです。
組織の同質性が高ければ、意思疎通や拡大は効率が良くなり、
企業としては合理的に思えます。
しかし、“同じ”ということが、
現在の社会で一体いつまで続ける・通用することができるでしょうか。
直近ではコロナウイルスによる生活様式の変化が顕著ですが、
スマートフォンの普及や、日本では大災害の発生など、
5年単位で見ても社会が全く違う風景になっている場面は多くあります。
多様性が包摂されるということはこのような変化にも柔軟に対応できる組織体へと変容していくことであり、
DE&Iの推進は、社会的責務はもちろん、組織の存続に欠かすことができないことです。

DE&Iを組織マネジメントで進めるために必要なこと

DE&Iが浸透する組織にはどのような要素が必要でしょうか。
様々な組織形態や業種があるなかで共通して重要な要素は以下のようなものです。
・アンコンシャス・バイアスへの気づき
・心理的安全性の確保
・ビロンギング(帰属意識)の向上
・パーパスの浸透

アンコンシャス・バイアスへの気づき

アンコンシャス・バイアスとは日本語で言うと“無意識の偏見、隠れた思い込み”のことです。
例えば、前回の記事では車いすユーザーに対するアンコンシャス・バイアスを紹介しました。
“障害者=できない人”という気づかない偏見があることで、
出張を伴う業務をアサインしないということが起こります。
このようなチーム内でのやりとりの中にあるアンコンシャス・バイアスもあれば、
その組織に属している人のアンコンシャス・バイアスが決まりきった手順や制度などにも色濃く反映されていることもあります。
組織の常識は、社会や他の組織では非常識となるようなことが多くありますが、
その組織に長くいると何が偏っているのかすら認識できないことが
アンコンシャス・バイアスの恐ろしいポイントです。

心理的安全性の確保

“何でも質問していいよ”とオープンな態度を示しているのに、
実際に質問をすると、否定されたり、さらに問い詰められたりすると、
それ以降、よほどのことがない限り質問をすることは難しく感じる人もいます。
アンコンシャス・バイアスに関連して例を挙げると、
“男・女はこうあるべきだ”といった、
固定されたジェンダー観を感じると、
それに当てはまらない人にとっては、その人らしさを発揮することは難しくなります。
そのような心理的安全性が確保されていない組織では
多様性が活かされることも困難になります。
心理的安全性と聞くと“ゆるい組織になるのでは”と危惧するかもしれません。
心理的安全性が確保された組織では
「働きやすさ」だけを求めるのではなく、
「働きがい」も同時に重視されており、ほどよい緊張感があるような状態です。

ビロンギング(帰属意識)の向上

ビロンギングとは、組織への愛着がある帰属意識のことです。
“エンゲージメント”という言葉にも似た意味合いがありますが、
例えば組織に思い入れがなくても、その人の個人的なミッションや、
高いインセンティブが作用していればエンゲージメントを高めることができます。
ビロンギングはエンゲージメントよりも、情緒の面を含めた概念です。
多様な価値観が存在する現代では、待遇やキャリアステータスの提供だけでは、
そ人はすぐにこの組織から離れていきます。
居場所としてのコミュニティの魅力が欠かせないのです。
テレワークやジョブ型雇用が進み人との交流が希薄になりた現在は、
より情緒的なつながりが価値を持ちます。
その人がその人らしくいられることと、
そのコミュニティへ貢献したい、共に歩んでいきたいと思えることが重要です。

パーパスの浸透

「多様性や心理的安全性だけでは組織がまとまらなくなるのでは」
「何でもかんでも個人の意向が尊重されてしまって組織の成長に繋がらないのでは」
と誰もが一度は感じることかも知れません。
そこで重要となるのは、DE&Iという視点だけでなく、
その組織が社会に対してどのような価値を提供していこうとしているのか、
ということへの共感です。
DE&Iには、そこで働く人が社会における組織の存在意義:パーパスに共感し、その考えが浸透していることが欠かせません。
営利企業として組織の利益や株主への利益提供を最上の目的とすると、
そこに属する人材は“駒”になってしまいます。
しかし現代を生きる我々の中には、金銭だけを追い求めて生きる人はいないでしょう。
自分の時間を、人生を、より有意義なものにしたい、
誰かの役に立ちたいと思って生活しています。
組織の利益最大化は不可欠ですが、
DE&Iを推進するには、利益最大化に到達するよう促すのではなく、その組織が目指す社会や未来への共感を得ることで、
組織とそこで働く人が同じ方向を見ていくことが重要です。

人事がすべきこと

DE&I推進に向けて人事担当者は、
広範囲かつ継続的に行わなければならないものが多数あります。
ここでは3つの観点から紹介します。

理念への施策:経営層・管理者の理解促進

DE&Iの取り組みは現場からのボトムアップ型でも実施できますが、
やはり組織の経営層や管理職がDE&Iの意義を理解しているかどうかが
取り組みの成功や推進に大きな影響力を与えます。
特にパーパスは経営層を含めた“血肉の通った想い”でないと、
どんなにきれいな言葉を並べても社内外の共感を得ることは難しいでしょう。
DE&Iの重要性を理解できる研修やワークショップ、
他社事例の紹介など役職や意識に合わせた施策を立てましょう。

制度の施策:情報公開

企業がどのような組織構成になっているのか、
DE&I推進にどのように取り組んでいるのかということは
社外の人にとって欠かすことのできない情報です。
採用選考志望者は入社を決める判断基準に、
投資家は、多様な価値と変化が起こる社会でどのように持続性を確保するのか、
というESG(環境・社会・ガバナンス)投資の検討にDE&I情報が重要です。
社内においても、会社の方針や従業員の評価がどのような基準やプロセスで進むのか、
といったことへの透明性も重要になります。
どのように組織で業務が進行されているのか分からないブラックボックスの状態では、
異なる意見の表明や心理的安全性の確保は難しいでしょう。
様々な役職や立場を超えたコミュニケーションだけでなく、
情報を共有することで社内の風通しを良くしていきます。

場の施策:対話の場

制度を整えて、会社の理念を伝えるだけでは、
多様性が内包する課題や強みは明らかになりません。
やはりコミュニケーションや対話がDE&Iにおいて重要です。
パーパスや組織のアンコンシャス・バイアスを語り合う場や、
業務の課題や悩みを共有できる場、など様々なコミュニケーションが必要です。
人事担当者は全社横断的な交流の場を継続的に設定し、
DE&Iにメンバーが取り組めるように調整しましょう。

ダイバーシティワインを製造する「ケアフィットファーム/ワイナリー」の事例

ここでは(公財)日本ケアフィット共育機構が運営する障害者就労支援事業所として、障害者など多様なメンバーとともに農業の活性化とワイン製造などを行う「ケアフィットファーム」およびワイナリーを事例に紹介します。

事例と言っても難しいことはしていません。
事業にかかわる一人ひとりが活動に賛同できるよう、日ごろから様々な対話の場を設けています。
例えば、ファームでは様々な農作物を加工し販売していますが、その製品にどのような意味や魅力があるのか(農業の課題や商品のポイント)、製造過程でそれぞれのメンバーが担当する仕事にどのような意味があるのかという対話をしたり、メンバー自身がどのような工夫をしてそれがチームや製品にどのように貢献していたかについてフィードバックしたりします。

そうすることでやりがいを感じられたり、自由な意見交換ができるようになります。こうした連絡や相談の場を設けて日々のやり取りの中で情報を共有できるようにしています。このような場面ややりとりがあることで、職員も自分の中にアンコンシャス・バイアスがあることに気づくことができています。定期的に無記名アンケートを実施し、個別の相談の機会や集団でのミーティングなどを通して個人個人が働きやすい職場環境づくりやチーム作りの視点を持ち実践することで、安心していられる空間づくりが毎日の業務の中に落とし込まれています。
これらの取り組みの中でケアフィットファームの活動や想いを体現したダイバーシティなワインができあがり、現在少しずつファンが増え好評になっています。

まとめ パーパスを共有しながらセッションを続ける

DE&Iは音楽に例えられることがあります。
DE&Iがある組織というのは音楽で言うとジャズに近い状態です。
誰もがその人だけの楽器を持っていて、その楽器に良し悪しはありません。
大切なのは楽器がどのように活かされるのかということです。
楽器を持って演奏のその場にいる(ダイバーシティ)だけではなく、
自分の楽器を存分に使ってジャズのセッションに加わり盛り上げること(エクイティ・インクルージョン)がより豊かな音楽へと繋がります。

組織においてもジャズと同様で、
メンバーが持つ多様性がどう活きるか、どのような価値を生み出していくか考え、目指す方向性(パーパス)を共有しながら、セッションを続けることが組織活性化に繋がります。

>>>第4回 多様性を組織の力に。多様な人材を受け入れるために必要なことと、価値創造に向けた協働の仕組み

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公益財団法人 日本ケアフィット共育機構
高齢者や障害者など多様な人との良好なコミュニケーションを学ぶ資格“サービス介助士”の認定運営を行っています。
企業のダイバーシティ&インクルージョン推進支援や、障害者差別解消法に対する企業の取り組み支援(研修 合理的配慮の実習)、相談を承っております。

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