戦略人事の始め方 HRBPの役割と導入時の注意点

株式会社Works Human Intelligenceの奈良和正です。これまで100以上の大手企業人事部へ、人事戦略やタレントマネジメントに関するコンサルティング活動を行ってきました。
昨今の激変するビジネス環境下では、企業が戦うために人的資本の重要性が高まり、それに応じて人事部への要望も強くなってきています。いわゆる戦略人事、への期待が高まる一方、「何から始めたらよいかわからない」とお困りの方も多いのではないでしょうか。
そこで本記事では、戦略人事実践のためのHRBPの役割や事例、導入のポイントをご紹介します。

※こちらの記事は下記の人事業務・人事トレンド解説コラム「HRBPとは?企業で戦略人事を始めるために有用な役割を事例と共にご紹介」を@人事の読者様向けに一部編集させていただいております。
https://www.works-hi.co.jp/businesscolumn/hrbp

目次

  1. HRBPとは
  2. 部門人事との違い
  3. 日本企業が苦手とする「戦略人事」、一歩目は人材要件の定義から
    ・そもそも戦略人事とは
    ・戦略人事を実行する流れ
    ・戦略人事は人材の定義から
  4. HRBPの事例<人材要件定義の進め方>
  5. HRBPに求められるスキル
    【1】戦略人事の全体像が把握できること
    【2】部門理解を深め、現場部門長と同じ高さの目線でディスカッションができること
  6. HRBP導入時の注意点
    ポイント① HRBPは専任にする
    ポイント②「HRBPとしての最初のサービス」に仮説を持ったうえでHRBPを立ち上げる
    ポイント③ これから起きる変化をきっかけにHRBPを立ち上げる
  7. 戦略人事の実践に有効なHRBP

HRBPとは

HRBPとは「Human Resources Business Partner」の略称で、「事業戦略を実現するために、人事面で部門をサポートする役割」と定義されます。1990年代にアメリカのデイビッド・ウルリッチ氏が提唱しました。
 HRBPの担当者は自身の担当部門を持つことが多いです。その担当部門と日常的にコミュニケーションを取って、経営戦略/部門戦略実現における人材に関する課題の調査や提案、各施策の実施等を行う役割を担います。それゆえ業務量が多くなるため、HRBPの専門チーム、担当者が配置されることが通常です。
HRBPのチームや担当者は、主に各部門長をメインのカウンターパートとして人事面でのコンサルティングを実施します。グローバル企業では一般的に導入されている役割です。

部門人事との違い

HRBPと部門人事は、自身の担当部門がつくというところで共通していますが、持つ役割が異なるケースが多いです。多くの部門人事は担当部門の労務庶務業務を中心に請け負うことが多いですが、HRBPは担当部門のコンサルティングを中心とした業務となります。

日本企業が苦手とする「戦略人事」、一歩目は人材要件の定義から

そもそも戦略人事とは

戦略人事という考え方は1997年出版のディビッド・ウルリッチ氏『MBAの人材戦略』により日本でも広まり、近年さらにその重要性が高まっています。しかし、多くの日本企業の人事部は自社で戦略人事を実現できていないと感じています。そもそも戦略人事とは、「経営戦略に連動した人事戦略を立案し、人事施策を通じて実行すること」と一般的に表現されます。よりわかりやすくすると、「経営戦略を実現するための人材を採用・育成・配置しながら、各人材が成果を上げられる環境を整えること」です。

具体的には、下記の目的を達成するために、人事制度/運用(等級、評価、報酬、採用、異動 等)や人事施策(サクセッション、スキル管理、研修の実施、サーベイ 等)を立案し、実行すること、と表現できます。

  • 経営戦略を実現するために必要な能力を持つ従業員を必要なだけ採用/育成する
  • 従業員の能力が十分に発揮される環境を作る

戦略人事を実行する流れ

戦略人事を実行する一連の流れを表したものが下記の図です。

編集部注:坪谷邦生『図解 人材マネジメント入門」の「人材マネジメントの構成要素」を参考に著者が作成

< STEP① >
経営理念、経営戦略を実現するためには、どのような人材が必要か(人材要件)、そのための組織風土はどうあるべきか(組織要件)を決定する

< STEP② >
人材要件、組織要件を基に以下を計画する。

  • 人材要件にあった人材をどれぐらいの数で、どのように育てていくべきか(戦略的要員計画)
  • 組織要件にあった風土を醸成するにはどうすればよいか(組織開発計画)

< STEP③ >
STEP②で立てた計画を基に、後続の人事制度/運用の見直しや、人事施策を実施する
戦略人事の起点は経営戦略を実現するための人材要件/組織要件を決めるSTEP①であり、この部分で人事は戦略人事の担い手として主な役割を果たすべきといえます。

戦略人事は人材の定義から

「戦略人事を実行する流れ」で見た通り、部門戦略実行のためには、STEP①の人材要件・組織要件の定義から始める必要がありますが、多くの企業でSTEP①、特に人材要件を定義しきれていないと感じます。
その理由として、STEP①を実施するためには、下記のような現場に関する深い理解が要求され、難易度が非常に高いためと考えられます。

  • 現場部門が置かれているビジネス環境(競合他社との競争や、市場の状態等)
  • 現場部門に課されている戦略目標
  • 現場部門が積み重ねている日々の業務と、価値創出との関係性
  • 戦略目標実現のために必要な業務像
  • それらを実現するための人材要件(スキル、経験、知識など)

当然、経営戦略に紐づいた人材要件の定義ができない要因の1つには、上流にある経営戦略が不明瞭という要素もあるでしょう。
そこで、経営戦略とは切り離し、自社の人事部が現場に関する深い理解を持ち、経営戦略が明瞭になれば人材要件の定義ができる状態かを確認するための1つの手法を紹介します。これは、各部門のハイパフォーマーについて人事部が知っていることを棚卸しするという方法で、人事部で十分な棚卸しができる企業は、事業と現場への理解が高いレベルにあるといえるでしょう。

※KSAOsとは、Knowledge, Skills, Abilities and Other Characteristicsの略で、経済学会等で使われる「従業員が持つ能力」を指します。

たとえば、棚卸しできる情報としては下記が挙げられます。

  • そもそも誰がハイパフォーマーなのか(Who)
  • 何を持ってハイパフォーマーと定義するのか(What)
  • どのようにしてハイパフォーマーになったのか
  • 今後のハイパフォーマーの育成方法はどうするのか(How)

これらの情報が人事部ですぐに確認できる状態であれば、事業環境と現場部門の実態の理解が高いといえるでしょう。確認できるにもかかわらず戦略人事が実行できていないと感じる場合は、棚卸し結果を部門責任者や経営層と照らし合わせることがおすすめです。一方で、あまり棚卸しができなかった人事部も多いのではないでしょうか。

HRBPの事例<人材要件定義の進め方>

前述の通り、戦略人事の第一歩である人材要件の定義を行う方法として、HRBPという役割を利用し、現場部門長や配下の従業員と共同で、その部門で求められる人材の定義を行う方法があります。
ここでは具体例として、ある日本企業A社が特定のポジションについて人材の定義を行った事例をご紹介します。

★A社

・商材:
3種類のサービス

・サービス提供方法:
これまでは、サービスごとに所管部門が存在し、各部門が個別に顧客に対してサービス提供を実施。
同じ顧客にあるサービスを提供した後に、別の種類のサービスを別の部門が提供することもあった。

・改めて人材定義をすることになった理由:
今後、3種類のサービスを統合したソリューションを提供する事業方針が立った。
本件は、統合ソリューションを取り扱う営業チームにアサインする人を決め、今後の営業員の育成方針も作ることを目的に新チームに必要な人材定義を行った。

・人材定義の流れ:
①新チームの仕事を定義
②新チームの仕事に必要な条件を仮決め
③初期新チームの編成
④新チームに必要なコンピテンシーと必要経験を決め、人材定義を実施
⑤「④」で決定した条件を元に既存営業部員をアセスメントし教育方針を策定

 A社では長年各サービスが独立して受注されていましたが、次第に顧客側が複数のサービスをまとめて要望するようになりました。そのため、事業戦略上、3種類のサービスのシナジーを出すことを重視し、統合して提供できる体制を組むことになり、まずはフロントである営業部門にその役割を持つ専任チームを置くことが決まりました。

まず、専任チームには誰が相応しいのかを決める必要があります。さらに、今後営業職の多くが専任チームに相応しい人材になるには、誰をどのように育てるべきか、人材開発方針を決定する必要もあります。現場部門だけでは手に負えないため、人事部で初めて専任のHRBPを置き、下図のように営業部門長と共に営業人材の定義付けに着手しました。

次は、新しく必要になる営業の仕事に精通しているのは営業部門長であるため、営業部門長を主体に新しい仕事や能力の定義をしました。

能力を定義した後は、各従業員のアセスメント実施が必要になります。
HRBPはそのことを見据え、仕事要件/経験要件/能力件等、書き下しの粒度を意識しながら営業部門長のフォローをしました。

特に経験や能力は、従業員が申請しそれぞれの上長や部門長が承認する形式をとることを想定したため、申請時や承認時に極力曖昧な判断が下されないような基準にすることを意識したそうです。
また、最初から必要な能力を決定するのではなく、必要な能力を仮決めした後、まずチーム員を選抜し、そのチーム員を参考に、改めてそのチームに必要な条件を決定するというステップが必要とHRBPは考えました。

このようなことを意識しながら、HRBPは部門長と上図の各STEPを進めていきました。

HRBPに求められるスキル

上記の事例のようにHRBPの役割を果たすためにはどのようなスキルが必要だと考えられるでしょうか。様々なスキルが挙げられると思いますが、本記事では下記の2点に着目していきます。

【1】戦略人事の全体像が把握できること

HRBPとは「事業戦略を実現するために、人事面で部門をサポートする役割」です。
たとえば、採用といった特定の領域に深く精通していることもサポートの役に立ちます。
しかし、HRBPとして部門長の悩みを解決するためには、どの領域をどう組み合わせて進めるのがよいか、と戦略人事の全体像を描ける人がより向いているといえるでしょう。

先ほどの事例の場合は、「新しい営業チームに誰をアサインすべきか」という部門長の悩みに対し、仕事の定義をしたうえで必要な人材の定義をする、ということだけでなく、今後各営業社員に同じような人材になってもらうにはどうすればよいか、という人材開発の方法までを整理することで、部門長をサポートすることができました。どうしても人材がいないとなれば、中途採用や公募等も考える必要があったでしょう。

また、HRBPは、従業員のアセスメント後における人材開発の方法として、研修だけではなく、当然部門間異動といった人材配置、時にはプロジェクトアサインにまで配慮する必要があります。
このように、HRBPが部門長の悩みに対して提案をするには、戦略人事の全体像を把握し、様々な観点で考えられるスキルが必要です。

【2】部門理解を深め、現場部門長と同じ高さの目線でディスカッションができること

HRBPは経営戦略を構成する部門戦略、ひいては毎期の部門目標の達成を、人事的な面でサポートする必要があります。そのため、HRBPには、少なくとも今の部門における目標の難易度、進捗、見込み、それらの理由等、部門目標にまつわる諸々の事象を理解したうえで、部門長とディスカッションできるスキルが必要です。
このスキルがない場合、大変忙しい部門長はそのHRBPを相談役として認めないでしょう。

部門目標に纏わる諸々の事象の理解については、同じ部門に在籍していたら無条件でつく力でもなく、逆に人事という役割である以上つかない、というわけでもありません。
部門の目標を現場部門長と同レベルの緊張感で常に考え、達成できそうなのか、できなさそうなのか、それを埋めるためにはどうすればよいか、という思考で仕事ができているか、が大きく影響します。

実際に日本企業でHRBPとして活躍している従業員の例としては、直前の職種が現場部門、あるいは過去に現場部門に長く在籍していた人事部の人が多い印象があります。そのHRBPたちに共通して言えることは、過去に在籍していた部門でその部門の目標について深く考察し、達成について様々な取り組みをしてきた、という点です。

また、理解するだけでなく、ディスカッションができることも重要です。部門長が明らかに間違っていると思われる判断を下そうとする場合、是正できるように働きかけるための根拠(①を含む)や、高度なコミュニケーション能力が必須といえるでしょう。特に現場部門長が人事やHRBPに理解がない場合は、このポイントが非常に重要な要素になると考えられます。

HRBP導入時の注意点

ここまで、戦略人事の一歩目として、人材の定義が必要であること、そしてその実施に対して現場部門長を人事面でサポートするHRBPという役割・そこで求められるスキルについて整理しました。

最後に、HRBPを導入する際の3つのポイントをご紹介します。

ポイント① HRBPは専任にする

本記事ではHRBPの仕事・役割の1つとして「人材の定義」を挙げました。しかし、HRBPの業務は人材の定義では終わりません。人材の定義をしたら、どの程度の数の従業員を育成していくのかを決め、配置/アサイン/研修等それぞれの方法で人材開発計画を立て、実施する必要があります。HRBPだけで行う仕事ではないものの、HRBPが率先して部門、人事部の関係者と協力しながら進める必要があるため、その業務難易度は高く、業務量も多くなります。
そのため、基本的には専任のHRBPチームを置くことが理想といえるでしょう。

しかし、どうしても兼務にせざるを得ない場合もあるかと思います。その場合、兼務1名ではできることは非常に少ないため、複数名で担当したほうがよいでしょう。

兼務する業務も給与計算といった労務業務ではなく、研修や採用等を企画する業務と兼務する方がよいと考えます。また、これまで部門人事として人事業務の代行をしていたチームにHRBPの役割・業務を持たせる場合も同様です。

ポイント②「HRBPとしての最初のサービス」に仮説を持ったうえでHRBPを立ち上げる

昨今HRBPへの注目が高まり、HRBPを導入する事例が増えてきました。その中で、たとえば人事部内だけでHRBPを導入することを決定した場合に、HRBPの最初の仕事が「現場部門の課題や要望を知る」と設定することが多く見受けられます。

しかし、現場部門の人材に関する課題や要望は山ほどあることが通常なため、仮説なしで課題をヒアリングすると収拾がつかなくなります。その後、数ある課題の中で着手できそうな箇所の当たりを決めて提案する必要がありますが、現場部門に何度も却下されたり、そもそも1つ目の現場部門への提案に時間がかかり前に進めなかったり、といったことが起こりかねません。

HRBPを立ち上げた後スムーズに仕事を進めるためには、下記が有効です。

  • HRBPの立ち上げ前に、HRBPの素質を持った人を任命する
  • 該当部門に関する調査と調査を基にした部門への提案(最初のサービス)を非公式に準備する
  • 可能であれば現場部門長と認識を揃える

上記を実行すると、提案が少々外れていたとしても、HRBPがどういうサービスを提供するのか、現場部門長が提案時点から理解することができます。そのため、ただヒアリングするよりも意味のある課題共有ができるようになり、結果としてHRBP導入後のスムーズな前進に繫がるでしょう。

ポイント③ これから起きる変化をきっかけにHRBPを立ち上げる

HRBPは、何より現場部門の協力がないと実現できません。そのためには現場部門がメリットを感じる必要があります。それを最低限クリアする条件が上記の②ですが、より効果的な方法は、これから起きる変化をきっかけに、困るであろう現場部門と一緒にHRBPを立ち上げることです。
 
たとえば本記事で取り上げた事例では、中期経営計画で営業部門が新しいチームを立ち上げる際に、新チーム結成に困っている営業部門を助ける形でHRBPが立ち上がりました。傾向の変化は中期経営計画以外にも、経営会議で新しいことにコミットをした部門、退職者が増えている部門、エンゲージメントサーベイの結果が悪い部門等、様々な場面でそのきっかけを察知できます。このような状況に置かれている部門は何かしら新しい悩みが発生しているため、そこに対する仮説を持って提案することで、HRBPのメリットを認識されやすくなります。

これまで日本企業の現場部門においてHRBPという存在は当たり前のものではなく、現場部門側にその存在を知る人は少なかったでしょう。そのため、現場部門へ必要性が伝わりやすいタイミングをきっかけに人事部門からHRBPの提案をするという形は、日本企業において1つの成功しやすいパターンだと考えられます。

戦略人事の実践に有効なHRBP

戦略人事の目的は「経営戦略の実現」ですが、それを実施するための手法や留意すべきテーマは多岐にわたり、結局何をすればいいのかわからないと感じる方が増えているように思います。

以前の記事(人事施策を成功させるには? 意識すべき「戦略人事の枠組み」と「経路依存性からの脱却」)の続きとして、本記事では、戦略人事の一歩目は経営戦略や事業戦略を実現するための「人材の定義」とし、それらを実践する際に有用なHRBPという役割、HRBPの導入ポイントについて整理しました。

戦略人事を何から始めればよいか分からないという場合の一つの案として、本記事でご紹介したように、ある部門に必要な人材の定義を、該当する部門長と行うためにHRBPを導入する。そして、その定義を配置、育成等に活用していくといったことを考えてみては如何でしょうか。本記事が戦略人事に取り組まれる際の参考になれば幸いです。

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