LGBTQに関する企業の取り組みが必要な理由とは? 実態調査・事例もご紹介
昨今、日本企業の人事領域では、組織のダイバーシティ&インクルージョン推進の一環でLGBTQ当事者の存在に着目し、LGBTQに関する取り組みを実施する企業が増加しています。
実際に、企業のLGBTQ施策の取り組み度を測る「PRIDE指標」への応募数は、2018年の153社から、2021年の300企業・団体と、わずか3年で約2倍に増えています(*1)。
本記事では、LGBTQに関する取り組みが企業に求められる背景から、実際の大手企業の取り組み状況調査、そして先進的な取り組みを実施している企業の事例や悩みをわかりやすく紹介します。
(*1)出典:work with Pride PRIDE指標事務局 「PRIDE指標2021 レポート」
※こちらの記事は下記の人事業務・人事トレンド解説コラム「LGBTQとは?企業の取り組み実態を調査レポート・事例からご紹介」を@人事の読者様向けに一部編集させていただいております。
https://www.works-hi.co.jp/businesscolumn/lgbtq
目次
LGBTQに関する取り組みが企業に求められる背景
近年、ダイバーシティの考え方の広まりにより、「LGBTQ」といった単語の社会的認知も広まってきています。以下のような自治体の制度や法整備が進んだことで、日本の企業における取り組みが社内外から求められるシーンも増加しています。
自治体の同性パートナーシップ制度の広がり
2015年に渋谷区で同性パートナーシップ制度が開始して以来、日本でも導入する自治体は増え続けています。2022年11月には、東京都が同性カップルを公的に認めるパートナーシップ制度の導入を予定しており、海外に後れを取っていた日本にも変化の兆しが現れています。
この制度自体には法的効力はありませんが、従業員がパートナーシップを取得した際に、福利厚生として認める企業もあります。人事システムを提供している弊社でも、企業の人事部のお客様より「従業員が同性パートナーシップを取得したが、システム上どのように申請させればよいか」といったお問い合わせをいただくことも度々あります。
SOGIハラ、アウティング防止が企業に義務化
法の面では、2020年6月に改正労働施策総合推進法(通称:パワハラ防止法)が施行されました。本法律により、性的指向(SO: Sexual Orientation)、性自認(GI: Gender Identity)に関するハラスメント(SOGIハラ)や、性的指向や性自認について本人の同意なく他者に開示する行為(アウティング)の防止が企業に義務付けられました。
当事者が企業で抱える困りごと
では実際に、企業で働くうえでLGBTQ当事者はどのような状況に置かれているのでしょうか。
日本企業におけるLGBTQに該当する人の割合
LGBTQに該当する人の割合は日本の人口の3(*3)~10(*4)%と言われており、大手企業であれば社内に少なくとも数十名はLGBTQ当事者がいるという想定です。
また、2021年5月にP&Gジャパン合同会社が日本全国15歳~69歳の5,000人を対象に実施した調査(*5)によると、全体の9.7%がLGBTQの当事者で、そのうち約半数の44.9%が「自分らしく生きられない」と回答し、生きづらさを感じているようでした。そして、仕事に就いているLGBTQの方たちが最も生きづらいと感じているコミュニティは「職場」であることも明らかになりました。
そのため、企業内においても、LGBTQ当事者が直面する課題の解消が求められています。
(*3)出典:釜野さおり・石田仁・岩本健良・小山泰代・千年よしみ・平森大規・藤井ひろみ・布施香奈・山内昌和・吉仲崇 2019. 『大阪市民の働き方と暮らしの多様性と共生にかんするアンケート報告書(単純集計結果)』JSPS 科研費 16H03709「性的指向と性自認の人口学―日本における研究基盤の構築」・「働き方と暮らしの多様性と共生」研究チーム(代表 釜野さおり)編 国立社会保障・人口問題研究所 内
(*4)出現率箇所:LGBT意識行動調査2019事前調査(LGBT総合研究所),インターネット調査,全国20~69歳男女347,816名,2019年4月16日~5月17日
(*5)P&Gジャパン合同会社 「LGBTQ+とアライ(理解者・支援者)に関する全国調査」
LGBTQ当事者が企業で生きづらさを感じる場面
実際に企業内においてLGBTQの当事者が生きづらいと感じるのはどのような場面でしょうか。具体的な例として、下記のようなものが挙げられます。
▼性自認に関するもの
・名前
ー外見から想定される性と、名前から想定される性が異なり、疑問を持たれる
・制服
ー指定されたレディース/メンズの制服を着なければならない
・トイレ
ー自認する性に合ったトイレを利用できない
・ハラスメント、偏見
ー「女/男らしくない」「”オカマ”っぽい」等
▼性的指向に関するもの
・福利厚生が不平等
ー異性の配偶者がいる人が得られる、結婚祝金や結婚休暇を同性パートナーがいても得られない
・ハラスメント、偏見
ー「彼女/彼氏いるの」「まだ結婚しないの」「”ホモ”なのか」等
※「ホモ」「レズ」「オカマ」といった言葉は侮蔑的とされています
一見すると、「性的マイノリティであるというプライベートなことと、仕事は関係ない」と思われる方もいるかもしれません。ですが、LGBTQの当事者であることで不利益、生きづらさを感じる場面は日常的に存在します。
当事者が働くうえでの障害を取り除き、ひとりひとりが生き生きと働ける環境づくりのために、上記の課題をひとつずつ解消していく必要があるでしょう。
大手企業のLGBTQに関する取り組み状況
弊社では、お客様よりいただく「LGBTQに関する他社の取り組み状況を知りたい」といった声を受け、2021年6月に弊社のユーザーである大手法人の人事部門に対して、状況調査アンケートを実施しました。
下記、従業員の性の多様性に対する取り組み・施策について、実施状況を伺った結果です。
約7割は、性の多様性に関するいずれかの施策を少なくとも検討中
▼従業員の性の多様性に対する取り組み・施策を行っていますか(複数選択可 n=65)
全社的に行っている施策では「差別禁止の明文化」を行っている法人が40.0%と最も多く、次いで「戸籍/法律上の氏名と異なる通称名の使用」「経営層の支援宣言」が29.2%となりました。
また、上記の回答より、70.8%は、性の多様性にかかわるいずれかの施策を少なくとも検討中であることがわかりました。
取り組みの後押し トップは「経営層の支援宣言」
▼取り組み推進の後押しになった要因はどれに当たりますか(複数選択可 n=35)
取り組み推進の後押しになった要因については、「経営層の支援宣言」が圧倒的に多く48.6%でした。施策を推進するうえでは、外部的な要因もあるものの、まずはトップが方針を明確にするというのが重要だと考えられます。
「その他」の回答には、当事者からの相談・カミングアウトがきっかけとなったケースや、社内調査・公募により取り組みが実施されたケースも複数見られました。
取り組みが少ない理由 過半数が「優先順位が高くない」
▼取り組みが少ない/ない場合、懸念点および理由はどれに当たりますか(複数選択可 n=57)
取り組みを推進するうえでの懸念については、「優先順位が高くない」が63.2%と最も多い結果となりました。一方で、「経営層の理解が得られない」「必要性がない」といった回答はありませんでした。
上記の結果から、LGBTQの存在は認知されてきており、企業の人事担当者にとっても取り組みの必要性は理解されているものの、優先順位を上げて取り組みにくいという状況が垣間見えます。
≪ 調査の詳細はこちら ≫
【ワークスHI調査レポート】大手65法人調査 7割がLGBTQに関する取り組みを実施または検討中、一方で「優先度低い」も6割 ~カミングアウトしている当事者がいる法人は取り組みが進んでいる傾向に~
LGBTQに関する取り組みの進め方 WHIの事例
弊社Works Human Intelligence(WHI)では2020年よりLGBTQの働きやすさ向上のため、いくつかの取り組みを行っており、今回その内容をひとつの事例としてご紹介させていただきます。取り組み内容が必ずしも正解ではなく、まだまだ改善の余地があるものだと考えており、さらなる改善に向けてディスカッションを重ねている最中です。少しでも、みなさまのご参考になると幸いです。
弊社取り組みの経緯、目的
弊社がLGBTQに関する制度整備等に取り組み始めたのは、全社員が経営陣に向けて意見を投稿できる目安箱「iBox」に、「LGBTQ等の性的マイノリティが職場で抱える課題の解消」について意見が投稿されたことがきっかけでした。
当時は性的マイノリティ当事者の在籍を想定して社内規程を制定しておらず、たとえば「同性パートナーがいる社員の場合、パートナーが福利厚生の対象にならない」といった課題がありました。そのような障壁を取り除くことで、弊社をより働きやすい会社とすることを目的に、有志の現場社員と人事部メンバー合同のプロジェクトを発足しました。すべての社員が企業理念である「はたらくを楽しく」を実現できる環境の整備を目指しました。
実行すべき取り組みのひとつの指標として、LGBTQに関する企業等の取り組みを評価する「PRIDE指標」の評価項目を参考に、約1年間で以下の施策を実行しました。結果的に2021年には、PRIDE指標*6の最高ランクである「ゴールド」を受賞しました。
(6*)PRIDE指標とは:https://workwithpride.jp/pride-i/
<弊社における取り組みの概要>
2020年7月
◆プロジェクト発足
2020年9月
◆人事部門向けLGBTQ勉強会実施(全3回11月/2月実施)
2020年10月
◆服装ガイドラインの改訂
2020年11月
◆弊社コーポレートサイトにトップメッセージを掲載
◆同性パートナーへの福利厚生拡大
2020年12月
◆従業員向けアンケート実施
2021年3月
◆人事部門向けLGBTQ研修の実施
2021年4月
◆自認する性を尊重できる通称名利用を可能に
2021年6月
◆全社向けにLGBTQに関する講座を実施
取り組み内容の紹介
上記の取り組みについて、1年間で実施した内容を具体的にご紹介します。一例としてご参考いただけたら幸いです。
2020年7月
◆プロジェクト発足
プロジェクトの目的や内容について認識を合わせるため、CHROを含めた関係者全員でキックオフを実施しました。
2020年9月
◆人事部門向けLGBTQ勉強会実施(全3回11月/2月実施)
任意での勉強会を実施しました。基礎知識や歴史、世界や国内での状況等について取り上げました。
2020年10月
◆服装ガイドラインの改訂
女性用、男性用で分かれていた服装規程を変更し、性差を区別しないものに改訂しました。
※画像は服装規程のイメージです。
<After>
2020年11月
◆弊社コーポレートサイトにトップメッセージを掲載
コーポレートサイトに「Respect & Ally」ページを追加。代表取締役最高経営責任者の安斎より、従業員の多様性の受容に関する弊社の姿勢を明らかにしました。
弊社コーポレートサイト:https://www.works-hi.co.jp/corporate/workfun/respect_ally
◆同性パートナーへの福利厚生拡大
以下の福利厚生に対し、同性パートナー・事実婚パートナーへも適用されるよう社内規定の変更を行いました。
- 結婚休暇、忌引休暇、配偶者出産休暇
- 結婚祝い金、出生祝い金 等
- 家族帯同の国内赴任旅費、国内赴任休暇 等
規定変更に伴い、人事申請システムにて従来の結婚届に加え、「家族」として同性パートナーや事実婚パートナーを申請する「パートナーシップ届」を作成しました。
※現状の日本の法律では、同性パートナーシップを取得していても法律上は配偶者とみなされず、税・健康保険の扶養に入れることはできません。そのため、税計算等を行う際の管理方法は人事・給与システムに合わせて検討が必要です。
2020年12月
◆従業員向けアンケート実施
LGBTQに関する理解度・意識調査や意見収集のため、社内向けに匿名アンケートを実施しました。
2021年3月
◆人事部門向けLGBTQ研修の実施
人事部門に所属する全員に対して研修を実施しました。基礎知識はもちろん、働くうえでの困りごとやハラスメントになりうる行為や言動、カミングアウトの際の対応方法などにも触れています。
2021年4月
◆自認する性を尊重できる通称名利用を可能に
トランスジェンダー(出生時に割り当てられた性別とは異なる性を自認する人)の従業員は、戸籍上の性別や名前を(自認する性に合ったものへ)変更する人もいれば、戸籍上の名前は変えずに名刺や社内で利用する名前は変更したいというニーズもあります。
弊社では、戸籍上(法律上)の姓名とは異なる通称の利用は「婚姻等により旧姓の利用を希望した場合」には既に認められていましたが、「自認する性を尊重できる通称名の利用を希望する場合」において、姓だけでなく名の通称名を利用することが可能(※新入社員だけでなく在職中社員も可)となりました。
2021年6月
◆全社向けにLGBTQに関する講座を実施
人事部門向けから拡大し、全社員を対象にE-learningによる講座を実施しました。
以上が、2020年7月から約1年間でWHIにて行った取り組みです。他にも並行して、社内報での情報発信や、LGBTQアライの社内コミュニティ運営(コロナ禍のためオンラインで懇親会や映画観賞会等を開催)等、従業員の理解促進のための施策も実施しました。
その後2021年12月に行った従業員向けのアンケートでは、昨年と比較して「LGBTQに関して差別的な言動を見聞きした」人の割合が低下したという結果もありました。
取り組み全体を通し、社内からは以下のような反響がありました。
「勉強会の開催ありがとうございました!産育休担当としては実際に同性婚・事実婚の方からの育休希望があったときの運用フローを事前に考えてまとめておきたいなと思いました。希望があったときにすぐ対応できるようにしたいです。」
「ケーススタディでは、自分の中では差別をしているつもりではなくても、無意識に恋人の有無や結婚などの話題に触れてしまうことがあるかもしれないと思い、きちんと意識してコミュニケーションをとらなければいけないなと学びました。」
誰もが働きやすい職場環境のために
同性パートナーを配偶者として認定するといった施策は、一部の当事者が恩恵を受けるもので、必ずしも従業員全員に関係するものではありません。しかし、LGBTQに関する取り組みは「特別扱い」ではありません。マジョリティであるシスジェンダー(※)・異性愛者が職場で当たり前に受けている恩恵(たとえば不都合を感じずにトイレを利用できる、福利厚生が受けられる等)を、現在それらを受けられていない人にも等しく与えるための取り組みです。
※シスジェンダー:出生時に割り当てられた性と性自認が一致している人
職場で生きづらさを感じるマイノリティは性的マイノリティだけではありませんが、ひとりひとりの個性を尊重し、ハラスメントのない、多様性受容力の高い環境を作ることは、LGBTQ当事者以外にとっても働きやすい環境に繋がります。働き手・働き方が多様化する中で、誰もが働きやすい環境を整備するためには、多様な人々が直面する障害に目を向け、ひとつひとつ解消していくことが求められるのではないでしょうか。
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