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ISO30414でも注目・重要ポストの育成プロセス、サクセッションプランの進め方

株式会社Works Human Intelligenceの奈良和正です。
2018年に改訂されたコーポレートガバナンス・コードでは、取締役会がサクセッションプラン(後継者計画)に主体的に関与し、適切に監督することが求められるようになりました。上場企業に限らずとも、持続的な成長のためにサクセッションプランの重要性が叫ばれるようになって久しいです。人的資本の情報開示のためのガイドライン「ISO30414」でも「Succession planning」という項目が設けられており、近年サステナビリティレポート等でサクセッションプランの状況を開示する企業も増えてきています。
本記事では、サクセッションプランの具体的な進め方について事例を交えて紹介します。

※こちらの記事は下記の人事業務・人事トレンド解説コラム「サクセッションプランを徹底解説。経営戦略に寄与する人事施策とは」を@人事の読者様向けに一部編集させていただいております。
https://www.works-hi.co.jp/businesscolumn/successionplanning

「コーポレートガバナンス」とは

会社が、株主をはじめ顧客・従業員・地域社会等の立場を踏まえた上で、透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を行うための仕組みを意味する。本コードは、実効的なコーポレートガバナンスの実現に資する主要な原則を取りまとめたものであり、これらが適切に実践されることは、それぞれの会社において持続的な成長と中長期的な企業価値の向上のための自律的な対応が図られることを通じて、会社、投資家、ひいては経済全体の発展にも寄与することとなるものと考えられる。

出典:「コーポレートガバナンス・コード」(株式会社東京証券取引所)より

目次

  1. サクセッションプランとは?注目の背景
  2. サクセッションプランを作る4つのステップ
    STEP1:管理するポストの決定
    STEP2:従業員のアセスメントと選抜
    STEP3:管理するポストの決定
    STEP4:管理するポストの決定
  3. サクセッションプランを作成すべきポストとは
  4. サクセッションプランと他の戦略人事施策との違い
  5. 運任せではなく自社の状態に合わせて計画を

サクセッションプランとは? 注目の背景

サクセッションプランとは、経営戦略上の重要ポストが将来時点で欠けないように、その候補者を前もって管理することを指します。具体的な実現の流れは、

  1. 将来時点を考慮した重要ポストの特定
  2. ポストにつく従業員の要件の定義
  3. 従業員のアセスメント
  4. 候補者の指名
  5. 候補者(群)の育成
  6. ポストと候補者(群)の定期的な見直し、です。

後継者管理、後継者育成計画等とも表現されます。

サクセッションプランは、古くは1950年代のアメリカで、事業継承を目的にしたCEOをはじめとしたCxOクラスの後継者を計画的に育成する施策として始まり、欧州に広まりました。
日本では、東京証券取引所が2015年にコーポレート・ガバナンスコードを策定し、取締役会の役目として「CEO等の後継者計画の監督」に関連する項目を設けたことで、サクセッションプランの重要性が再認識されました。2018年には国際標準化機構(ISO)が公開した人的資本の情報開示についてのガイドライン「ISO30414」の11分類の1分類として「Succession planning」という項目も設けられています。

2020年には経済産業省が主催した「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会」の最終報告書である「人材版伊藤レポート」が発表されました。伊藤レポートでも、取締役会の果たすべき役割として後継者育成の重要性について述べられていますが、企業の人材戦略に求められる共通要素として以下の内容が記載されています。

  • 経営戦略の実現という将来的な目標から逆算して、今後必要になる人材の定義をすること
  • その要件にあてはまる人材を、育成や採用を通して獲得すること

これらはサクセッションプランの実行目的にも繋がるでしょう。
参考:「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会 報告書 ~ 人材版伊藤レポート ~」経済産業省 

以下ではサクセッションプランの方法と必要性、経営戦略に役立つ人事施策をサクセッションプランから始めるメリットについて整理します。
※本記事におけるサクセッションプランは、旧来のサクセッションプランの定義から広げ、「管理対象とするポストを企業ごとに将来時点を考慮して決定した重要ポスト」とします

サクセッションプランを作る4つのステップ

サクセッションプランの代表的な方法を下図で表しました。

簡単にそれぞれのステップについて解説します。

STEP1:管理するポストの決定

まずはサクセッションプランを実施するポストを決めます。管理対象とするポストは役職のみで決めるのではなく、会社や部門にとって必要不可欠な重要ポストであるかどうか、という観点が必要です。ポストを決めたら、そのポストが果たすべき役割や職務を定め、役割を果たす人材に必要な人材要件を決めます。
このフローは、人事部のみで行うのではなく、現場部門長を中心に人事部門が補佐で入り、経営層が監督をするという形式で行われることが多くあります。現場部門長が人事部の手を借りながら、ポストの定義の叩きを作成し、それを経営層、現場部門長、人事部の三者で話し合って決める、というイメージです。

STEP2:従業員のアセスメントと選抜

管理するポストとその要件が決まったら、該当ポストへ将来的に登用できそうな候補者を選抜するフローにはいります。既に人事システム等で蓄積されている情報を元にした選抜ができない場合は、従業員を選抜する際に必要な人材要件に沿ってアセスメント(評価)する必要があります。

アセスメント時に用いられることが多いものは、プロジェクトや異動歴等の経験要件や、会社独自で定めたスキル有無、スキルレベル等です。従業員に対してこれらをアセスメントし、その情報を元に該当ポストの候補者を選抜します。
(初めてサクセッションプランを実施する際はアセスメントのステップを経ずに、まずは部門長の頭に適材として浮かんだ人を指名するケースもあります。その場合も2巡目以降でより客観的な指名、見直しを実施するためにアセスメントを行うことが多いです)

候補者の選抜は、すぐに着任可能な人材のみを選抜するのではなく、今後の育成状況によっては登用が可能そうなポテンシャル人材も含めて選抜します。たとえば、現存するポストであれば「すぐに登用可能(Ready Now)」「1~3年後に登用可能性あり( Ready Soon)」「将来的に可能性あり(Mid Term)」等と登用可能見込み時期で分類したうえで、分類ごとに候補者を選抜します。

▼ある企業のサクセッションプランにて後継者候補の分類例

STEP3:選抜された候補者群の育成

「STEP2:従業員のアセスメントと選抜」で候補者として指名された候補者群(人材プール)、もしくは、従業員ごとに育成案を作り実施します。
育成方法は、研修等のOff-JT、異動やプロジェクトのアサイン等実務を通したOJTに大別されます。
たとえば以下のような具体的な育成計画を作成し、実行します。

  • あるReady Soonの候補者に人事スキルを習得できるよう、人事部に異動してもらう
  • あるMid Termの候補者には経営企画部のプロジェクトにアサインし、評価に応じてReady Soonに上げられるかを検討する

STEP4:振り返り、調整

育成段階では定期的に従業員をアセスメントすることで後継者候補を見直し、予定通り育成されているか確認します。
また、これまで管理対象でなかったポストを新たに管理対象としたり、これまで管理していたポストを管理対象から外したりすることで、自社の最新の状況に合わせたサクセッションプランを実現できるようになるでしょう。

このフェーズでは、現場部門長が「自部門のことは自分がよく分かっているから進捗を可視化する必要がない」という理由で見直しをしなくなり、最終的にサクセッションプラン自体が形骸化するケースが見受けられます。

サクセッションプランが対象とするポストは、部門のみならず経営戦略上においても重要なポストです。経営陣にも本フェーズに参加してもらうといったように、施策自体の形骸化を防ぐ対策をとることが重要です。

サクセッションプランを作成すべきポストとは

サクセッションプランは、管理対象のポストに対して将来にわたる候補者を前もって明らかにし、候補者に対して意図的に配置や研修等の育成をする、という人事施策です。これには育成コストがかかり、場合によってはコストをかけて育てた従業員が転職してしまうことで投資が報われない可能性もあります。そのため、闇雲にすべての重要なポストで実施すべき施策とも言い切れません。

それでは、どのようなポストに対してサクセッションプランを行うのが特に有効なのでしょうか。
一般的に、サクセッションプランが実施されていないポストに新たに人を配置する必要がある場合、外部採用か社内登用を行います。言い換えると、この外部採用と社内登用が難しいポストについてはサクセッションプランを行うことで、将来にわたり計画的に人を配置できる可能性を高められるというメリットが発生します。具体的には以下のようなポストが該当します。

  • 会社固有で短期のキャッチアップが難しいスキルを求められるポスト
  • 既存の従業員の自然な成長では、数と質の面で充足できないポスト

一例として、今後5年で顧客数が大幅に増えることが想像される成長中の製造業A社について考えます。

A社では製品を開発/販売するだけでなく、顧客が利用する製品を保守するサービスも行っており、サービスから得られる収益も事業の柱となっています。保守サービスを実施する部署は顧客ごとに複数のチームで形成され、各チームを率いるマネージャーにはA社特有の深い製品理解、顧客理解が必要です。そのため、外部採用による充足が難しいとされています。

今後5年で顧客数が増大すると、それに比例しチーム数も増やす必要があり、結果としてチームマネージャーも現在の数より増やさないといけません。

A社の保守サービス部長と人事部が共同で予測したところ、5年後までこれまで通りの事業運営をした場合、5年後に保守チームマネージャーポストに登用できる人材は3/5名と、必要数を補いきれない可能性が高いことが分かりました。当ポストが充足していることは経営課題上重要であるという判断から、A社ではチームマネージャーを対象ポストとしてサクセッションプランを行い、従業員の成長スピードを速め、ポストが充足されている状態を作り出そうとしています。

このように外部採用や社内登用が難しい重要ポストについては、サクセッションプランを行うメリットが特に大きくなります。

サクセッションプランと他の戦略人事施策との違い

近年の日本企業では経営戦略に紐づいた人事戦略を実行する「戦略人事」の考え方が重要視されています。しかし、何から手を付けていいか分からず困っている企業も多いようです。

経営戦略と同様、これをやればどの企業でも戦略人事を果たせるという施策はありません。戦略人事を実現するための手段として、サクセッションプラン以外にも、エンゲージメントサーベイ、スキル管理、評価制度の見直し、キャリア自律の推進等様々なものが存在し、各企業において必要と思われる施策を実施する必要があります。
その中で、サクセッションプランには以下の特徴があり、特に施策の関係者から理解を得られやすいという点で「戦略人事の初手」として検討に値する施策と考えられます。

  1. 問題の特定と解決の両面を兼ね備えている
  2. 施策の効果が出るのが早くて分かりやすい

1と2について、最近の人事施策で取り上げられる事の多い、下記施策と比較しながら「なぜ初手として有効なのか」を整理します。

【比較対象施策】
・エンゲージメントサーベイ
・スキル管理
・人事制度改変(等級、評価、報酬制度改変)
・キャリア自律施策(キャリアプランを各従業員に書かせ、公募施策を充実させること) 

理由①問題の特定と解決の両面を兼ね備えている

 多くの施策は、以下の表のように、問題を特定するための施策か、特定されたある問題を解決するための施策に大別できます。

一方、サクセッションプランは、経営戦略の実現に直結する問題の特定と解決の両面を分かりやすく兼ね備えています。

  • 問題の特定:経営戦略の実現において重要なポストが将来欠けるリスク
  • 問題の解決:リスクを踏まえた育成プランを実施する

施策を有効に実施するには、なぜ施策をするのかという問題と、どうその問題を解決するか、をセットで理解を得る必要があります。施策自体が問題の特定と解決の両面を兼ね備えているサクセッションプランは、経営層や現場部門長等の、施策の重要関係者の理解と協力を得られやすい施策と言えます。

理由②施策の効果が出るのが早くて、わかりやすい

効果が出るのが早くて、わかりやすい施策が、その企業に必要な人事施策である、とは言えません。一方で、人事施策の多くが、施策に関係する人々の理解を得られにくく、実施に踏み切れないという傾向もあります。

そういった中で、サクセッションプランは、「経営戦略の実現にとって重要なポストについて、将来の候補者が指名できるか否かで、そのポストの将来的なリスク、ひいては戦略実現のリスクを可視化できる」という観点で、施策の効果が出るのが早く、分かりやすいと言えます。
そのため、①と同様、経営層や現場部門長等の、施策の重要関係者の理解と協力を得られやすいと言えます。

運任せではなく自社の状態に合わせて計画を

本記事ではサクセッションプランの内容と、戦略人事をサクセッションプランから始めることのメリットについて言及しました。しかし、サクセッションプランには問題点もあります。それは、将来に必要な人材の予測を過大に外した場合や教育した人材が転職した場合に投資が無駄になる可能性がある事です。

たとえば、5年後に必要だと想定して複数の従業員に高いコストをかけて育成したものの、事業環境の変化により不要になった場合や、重要ポストにおいて高いコストをかけてReady Nowになった人材が他社に転職してしまった、という場合等が該当します。
そのため、サクセッションプランの持ち合わせる問題点を少なくするために、自社の状態に合わせて、下記のような教育コストの無駄を減らす工夫にも一考の余地があります。

  • 管理するポストを限定する(外部採用が難しい、自然な育成では充足できない等)
  • 育成に大きなコストをかけすぎない
  • 育成するスキルを部署特有なものから会社で共通なスキルに変更する

しかし、これらの工夫も過度にやりすぎると、本来のサクセッションプランの意味が損なわれますので、慎重に検討する必要があるでしょう。
ただ、本来は必要なポストに対して何も対策をとらないということは、企業の戦略実行が人材面に関して大きく「運任せ」になっている状態ともいえます。
そのため、戦略人事を何から始めるか悩まれている企業では、サクセッションプランを戦略人事の初手として検討する意味があるのではないでしょうか。

最後になりますが、サクセッションプランのように「計画して人を育てる」ことの難しさを補完するため、近年、「従業員のキャリア自律」による成長の促進も重要視されてきています。今後、このような点にも着目していきたいと思います。

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