企業の会計・経理担当者向けに会計ソフト導入時に陥りやすい失敗例やトラブルを招く主な原因、さらに選定する際に注意すべきポイントについて解説します。サービスの特性や事前に取り組むべき事柄を理解し、会計ソフトの導入を成功に導きましょう。
目次
会計ソフト導入後の失敗やトラブルは、可能な限り避けたいものです。以下に、よくある失敗例を10パターン紹介します。
新しく購入した会計ソフトの画面が複雑で、どこに何があるのか分からない。そもそも担当者が会計業務に詳しくなく、ヘルプメニューを見ても理解が難しい。このような理由から、担当者が正確なデータ入力や処理を行えず、結果として誤った会計報告や税金計算のミスが生じるケースがあります。
また、せっかくインターネットバンキングやクレジットカード会社と利用明細データを連携できる機能があっても、そのことに気づかず結局はデータの手入力をしてしまっていた、という失敗もあり得ます。担当者がうまく使いこなせなければ、会計ソフト本来の便利さは発揮されません。
新しい税制の変更や機能追加のために、会計ソフトは定期的にアップデートが必要です。しかし、毎回のアップデートで追加料金が発生するサービスを選んでしまうと、年間のコストが想定以上に増大します。これは、毎月の固定費が突然2倍、3倍に跳ね上がるようなもの。長期的には維持が困難になり、会計業務の中断やデータ喪失のリスクにつながりかねません。
販売管理システムや給与計算ソフトなど、すでに使っているツールとの連携を考慮せず導入してしまうと、後になって不具合に気づく可能性が高くなります。
例えば、データの取り込みや共有ができなければ手動で一つひとつ打ち込むなどの余計な手間がかかり、その過程で入力ミスやデータの欠落・不整合が生じるリスクが増大します。結果的に、従業員の給与の誤算や税務上のトラブルを招きやすくなるのです。
顧問税理士が使い慣れていなかったり、顧問税理士が使用するツールと互換性のない会計ソフトを導入してしまうと、データのやり取りが難しくなります。
場合によっては、決算時に必要なデータをUSBメモリーなどで物理的に持ち運ぶ必要が生じたり、フォーマットの変換作業が発生したりすることで、余計な手間やミス、データ漏えいなどの危険性が高まります。さらに税務申告の遅れや誤りが生じ、税務署からの指摘や追徴課税といったリスクも考えられます。
会計業務は、初心者にとって煩雑で難解です。「初心者向け」をうたっている会計ソフトも数多くありますが、サポート体制の充実度についてよく確認しておかないと、困ったときに適切なサポートを受けられない可能性があります。
例えば、サポートが電話のみで、しかも短時間しか受け付けていないサービスを選んでしまうと、月末の締め作業中にソフトの操作方法が分からなくなった場合、業務が停滞してしまうことも考えられます。
会計業務は、大きく財務会計(外部へ報告するための会計)と管理会計(経営管理のため内部で共有する会計)に分けることができます。財務会計のための決算書は作成できても、管理会計のための資料作成をサポートする機能は不十分なサービスもあります。
その場合、担当者がさまざまなデータを参照・分析しつつ作成しなければならず、結局は別のツールを使う必要が生じるかもしれません。
会計ソフトには多岐にわたる機能が搭載されています。しかし、サービスベンダーがターゲットとしている企業規模を把握せず、ただ「機能が多くて便利そうだから」という理由で選んでしまうと、結局は必要のない機能が多く、持て余してしまうかもしれません。
機能やデータ容量が多いほど利用コストは高くなります。使っていない機能が多数ある場合、その分のコストが無駄になってしまうことが考えられます。
新しい会計ソフトの導入には業務フローの変更を伴うことが少なくありません。結果的には簡素化・効率化につながるものだったとしても、事前説明やガイダンスを行わず、一方的に変更してしまうと、現場に混乱が生じ、従業員の不満を招くリスクが高まります。
従来の方法での入力ができなくなったり、新しい手順を覚える必要が出てきたりすることで、業務効率の一時的な低下も考えられます。
会計業務では社内確認や決裁が必須であるほか、顧問税理士がいる場合には内容のチェックをしてもらうこともあるでしょう。しかし、複数人で同時利用が可能な会計ソフトを導入していないとリアルタイムでの会計データ共有ができず、待ち時間などのタイムロスが生じがちです。
同様に、スマートフォンやタブレットで利用できない会計ソフトの場合、例えば、確認者の外出に伴って確認が翌日に持ち越され、業務遅延が起こるリスクも高まります。
会計ソフトには、企業の財務に関する重要なデータが集約されています。そのため、セキュリティ対策が不十分なソフトを選んでしまうと、外部からの不正アクセスによる財務データの漏えいリスクが高まります。さらにデータの編集が容易である代わりに確定前のデータを簡単に修正できてしまうため、経費や売上の水増しといった内部における不正操作を防止できないことがあります。
会計ソフト導入によってトラブルが発生すると、日常の会計業務に支障をきたしてしまいます。失敗を招く主な原因について解説します。
会計ソフトを選ぶ際、多くの初心者は機能や価格に目を向けがちです。しかし、日常的に使用するツールであるため、操作性や運用のしやすさは非常に重要な要素です。「多機能」「低価格」といったキャッチフレーズにひかれて、それ以外の要素をおろそかにしてしまうと、導入後に思わぬトラブルに直面することもあり得ます。
例えば、画面が複雑でどこに何があるか分からない、「データ連携可能」と書かれていたが実は手動で移行しなければならない、サポート体制が不十分…といったことも考えられます。
前提として、自社の現状や業務フローを整理し、しっかりニーズを言語化しないと、どのようなサービスが自社に適しているか判断できません。
例えば、頻繁に外国通貨での取引を行っているのに、その機能を持たないソフトを選んでしまうと、毎回の為替レートの手入力が必要となり、業務の効率が大きく低下します。また、自社の規模や業務内容に合わない高度な機能を持つソフトを選ぶと、余計なコストや操作の複雑さが増大するなど、さまざまなトラブルのもとです。
会計ソフトの選定は、企業の税務処理に大きく影響します。そのため、顧問税理士の意見やアドバイスは重要です。しかし、経営者が独断で選んでしまったり、選定を命じた担当者が初心者だった場合、顧問税理士が使い慣れていないサービスを導入してしまい、後々に不具合や業務遅延が発生するリスクが高まります。
会計ソフトはどれも基本的に、会計業務に必要な機能は最低限備えています。しかし、実際のUI/UX、特化している機能、提供形式など、サービスの詳細を十分に把握しないまま選定を進めると、後から不便さを感じる場面が出てくるかもしれません。
例えば、クラウドでのデータバックアップ機能を期待していたのに実際はローカル保存しかできなかった、などのケースが考えられます。
「初心者向け」と言っても、やはり会計ソフトの操作や運用には一定の知識やスキルが求められます。操作担当者の知識レベルを把握せず、高度な機能や専門的な機能を持つサービスを導入してしまうと、操作ミスや業務遅延、データの誤入力が頻発するリスクが高まります。担当者が複雑な税務処理の機能を理解せずに操作してしまい、税務申告に誤りが生じるといったトラブルにつながるかもしれません。
自社のニーズや目的に合わない会計ソフトを導入してしまうと、後に業務フローとの不整合やトラブルの発生につながるリスクが高まります。いくつかの注意点を念頭に置きつつ慎重に選びましょう。
会計ソフトは、対象とする企業の規模によって提供する機能が大きく異なります。
例えば、大手企業向けのサービスは、多拠点や多部門の管理機能が充実している一方、中小企業や個人事業主向けのサービスは一般的に機能のシンプルさ、使いやすさに重きを置いている傾向があります。
自社の規模やニーズに合わないソフトを選んでしまうと、必要な機能が不足していたり、逆に使わない機能であふれていることがあります。さらに余計なコストがかかる原因にもなります。ベンダーが主なターゲットとしている規模や業種を確認しておくことで、ミスマッチの防止につながります。
多くの会計ソフトが「業務効率化」や「初心者向け」「シンプルな操作」などサービスの便利さをアピールしていますが、これらの表現は抽象的なものだと理解しておくことが大切です。
例えば、シンプルな操作感が売りなのであれば、その中で何ができて何ができないのか、機能の柔軟性を確認しましょう。エラーが発生した際の対応方法など、細かな点まで気付いて把握できれば運用のイメージもしやすくなります。
前述した「インボイス制度」のほか「電子帳簿保存法」など、新たな税制に対応していることは会計ソフトの基本であると言えます。それらに対応していること自体は強い訴求点にならないため、選定を急いではいけません。
新たな法改正の際に機能面や使いやすさの対応の度合い、実際の操作画面、その他の機能の幅、サポート体制など、自社の業務フローやニーズにマッチしているかどうかを確認することが大切です。
「◯◯の作業を自動化」「自動仕訳」はよく使われる表現であり、会計ソフトの基本機能の一つですが、対応範囲はサービスによって差があります。自動仕訳のルールが決まっているサービスもあれば、自社でルールを自由に設定できるサービスもあります。
また、はじめにオリジナルの勘定科目や取引先のデータを取り込む際は、手動で入力しなければならないということも考えられます。自動仕訳の精度に加えて、エラーが発生した際の修正は簡単なのか…など、具体的な範囲や内容を確認しましょう。
初期費用は一度だけの出費ですが、ランニングコストは毎月、あるいは年間で発生します。会計ソフトは一般的に数年で変更するものではないため、初期費用を節約することよりも、ランニングコストを重視して選ぶことが賢明です。継続費用のほか、アップデート費用やサポート費用にも注意を払い、長期的な運用を見据えたコスト計算をすることがおすすめです。
会計ソフトの中には、過年度の決算書を修正できる機能を備えたものもあります。後にミスが判明した際には便利な機能である一方、不正が行われてしまうリスクもあります。反対に、不正や誤操作を防ぐために過去の記録を修正できない会計ソフトも存在します。
事前の確認や入力作業の慎重さが求められますが、こうした制限のあるサービスを導入していることは企業への信頼にもつながります。修正機能の特性やメリット・デメリットを理解した上で、自社における要不要を考慮しましょう。
「おすすめの会計ソフトは? 選び方のポイントと注意点を解説」ページの「会計ソフトを導入するステップ」で紹介していますが、サービス選定を進める上で、業務フローの整理は特に大切な作業です。
部署や事業場の数、業態によって大きく異なります。一部では紙による運用が残っていたり、請求書の集約場所が一つではなかったりと、まずは自社ならではの業務フローを正確に把握しなければ、そもそもどんな機能が必要かを言語化できません。
自社にマッチした会計ソフトが見つからないという課題に直面したら、面倒くさがらずに業務フローの整理に立ち返ってみるのも一つの手です。業務フローの改善こそが必要だったという場合もあるかもしれません。
会計ソフトの導入は、業務効率化や正確な会計処理を実現するための重要なステップです。しかし、その成功は導入前の準備と選定に大きく左右されます。導入を成功させるポイントは、まず自社の業務内容やニーズを正確に理解し、それを基に必要な要件を定義することです。具体的な要件のリストアップは、適切なソフトを選ぶ土台となります。
検討しているサービスと要件をすり合わせ、実際の運用に生かせるかどうか、詳細もよく確認しましょう。特に、顧問税理士や他の部署との連携機能、サポート体制、セキュリティ対策など、業務に直結する要点を中心に確認することで、後々のトラブルを避けることができます。※こちらのページに掲載している情報は2023年9⽉時点のものです。
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