従業員の健康を維持・増進し、健康障害の予防・早期発見・早期治療などを目的とした、企業の健康管理の方法には、健康診断や面接指導、保健指導などがあります。
また、産業医の活用も効果的です。産業医は従業員の健康状態を評価し、適切なアドバイスや指導を提供する専門家です。このページでは、健康管理の具体的な方法と取り組むためのステップや、産業医の活用について、詳しく解説していきます。
目次
健康管理の考え方には、大きく分けて「ハイリスクアプローチ」と「ポピュレーションアプローチ」の2つの視点があります。
それぞれのアプローチの特徴やメリット・デメリットをみていきましょう。
ハイリスクアプローチ | ポピュレーションアプローチ | |
---|---|---|
対象 | 高リスクを持つ従業員 | 全従業員 |
役割 | 二次予防 | 一次予防 |
メリット | ・高リスク従業員をターゲットにして、効果的なリスク削減が可能 ・個別の健康ニーズに合わせたカスタマイズされた施策の実施ができる ・リスクの早期発見と対策可能 |
・集団全体に効果が及ぶ ・集団から高リスク者を発見できる ・集団全体の健康意識向上を通じて組織文化の改善にもつながる |
デメリット | ・ 個別対応がリソースと時間を要する ・集団全体の健康増進への貢献が小さい |
・対象者が多いため、コストや労力がかかる ・個別のリスク要因に対処する機会が限られる |
組織の健康管理戦略を策定する際、目標、リソース、予算、従業員のニーズなどを考慮し、どちらのアプローチを採用するか検討してみましょう。
ハイリスクアプローチは、健康リスクを抱えた人をスクリーニングし、該当者に対して行動変容を促すように指導する活動です。主に二次予防の役割を果たします。
具体的には、健康診断や生活習慣調査などによって、特定の疾患を発症するリスクが高い人を特定し、その人に対してリスク要因の改善や健康的な生活習慣の指導を行います。
ハイリスクアプローチのメリットは、疾患の発症を未然に防ぐことや、疾患の重症化や再発を予防することです。対象者のニーズに合わせた指導を行うことで行動変容につながり、さらに、継続的なフォローアップを行うことで、指導の効果を高めることができます。
ポピュレーションアプローチは、集団全体を対象とし、健康リスクの改善を目指す取り組み方法です。一次予防の役割を担っており、健康リスクの改善へ向け、集団全体に働きかける健康増進のアプローチとして有効です。ハイリスクアプローチと対比されることが多いですが、対象を限定せず、リスクの有無にかかわらず、集団全体の健康レベルを向上させることを目的としています。
具体的な取り組みとしては、健康教育の普及や健康増進のための環境整備、健康に関する情報の提供などが挙げられます。ポピュレーションアプローチでは、健康格差の縮小や従業員全体の健康状態を改善することで、病気の発生率を下げることができます。
健康管理とは、企業が従業員の健康を増進させることで、生産性の向上や離職率の低下を目指す取り組みです。以下の5つのステップを踏むことで、効果的な健康管理が実現できます。
健康管理に取り組む目的や対象者、予算などを整理しましょう。また、自社の健康課題を把握するために、健康診断の結果やアンケート調査のデータなどを分析します。
健康管理の推進体制を構築します。健康管理の責任者を任命し、必要な知識やノウハウを習得してもらいます。また、従業員の健康増進を支援する専門家や産業医、外部機関と連携することも検討しましょう。
ステップ1での分析結果をもとに、従業員の健康課題を把握し、特定します。これにより、効果的な取り組みを計画できます。
健康課題を解決するための計画を策定し、実行します。具体的な取り組みとしては、以下のようなことが挙げられます。
取り組みの効果を定期的に評価し、必要に応じて改善を行います。費用対効果の観点からも見直しを行い、取り組みの成果を確認しながら、さらに効果的な施策を検討していきます。
企業は、従業員の健康を保護し、生産性の向上や離職率の低下を目指すために、健康管理に取り組む必要があります。下記の具体的な取り組みを参考にして、企業の規模や業種、従業員のニーズに合わせて、適切な方法を実施しましょう。
長時間労働は、心身の健康に悪影響を及ぼします。労働時間や休暇の見直しなどにより、長時間労働を是正することが重要です。
関連ページ:勤怠管理システム完全ガイド|@人事
健康診断は、従業員の健康状態を把握し、早期発見・早期治療につなげるための有効な手段です。定期健康診断の受診率を100%にすることを目指しましょう。
バランスの良い食事は、健康維持に欠かせません。従業員に対して、栄養バランスのよい食事の取り方を指導したり、社内食堂などで健康的なメニューを提供するなどの取り組みを行いましょう。
運動は、心身の健康を維持・増進するために効果的です。社内レクリエーションやスポーツ大会などの機会を設け、従業員が運動しやすい環境を提供しましょう。
ストレスは、心身にさまざまな不調を引き起こす可能性があります。ストレスチェック制度を導入し、従業員のストレス状態を把握し、必要に応じてメンタルケアを行うことが重要です。
安否確認システムを採用することで、従業員の安全を確保し、健康管理に役立てることができます。特に、建設現場など、危険な場所で仕事をしている従業員や高齢の従業員には効果的です。
職場環境が悪いと、ストレスや疲労の原因となり、健康に悪影響を及ぼす可能性があります。明るく清潔な職場を整え、従業員が快適に働けるよう努めましょう。
福利厚生の充実は、従業員の健康維持・増進につながります。健康保険や厚生年金保険などの社会保険に加えて、健康診断の費用補助や保養所の利用補助などの福利厚生を充実させましょう。
従業員に対して、健康に関する知識や情報を提供し、健康意識の向上を図ることが重要です。健康に関する研修やセミナーを実施しましょう。
従業員が健康に関する悩みや不安を相談できる窓口を設置しましょう。産業医や保健師などの専門家を配置し、適切なアドバイスやサポートを提供することが大切です。
産業医は、企業の従業員の健康管理を専門に行う医師です。産業医を活用することで、従業員の健康状態を把握し、健康障害の予防・早期発見・早期治療につなげることができます。
詳細は、次の「健康管理における産業医の活用」で解説します
産業医は、労働者の健康管理において重要な役割を担っています。このセクションでは、産業医を雇用する際の要件や注意点を解説します。事業所の規模や予算、ニーズに応じて、適切な産業医選定方法を検討しましょう。
産業医は、企業などの事業所で、労働者の健康管理を行う医師です。医師免許を持つことが前提であり、産業医学の専門知識と経験を有していることが求められます。労働者が健康に働けるよう、職場環境の改善や健康教育を通じて、労働者の健康を守ることが主な役割です。
労働者50人以上の事業所では、事業者に産業医を選任することが義務付けられています。具体的な業務は、以下のとおりです。
・健康診断の実施とその結果に基づく措置
・治療と仕事の両立支援
・ストレスチェック制度や長時間労働者に対する面接指導
・職場巡視や衛生教育
・労働者の健康に関する相談
事業者は、事業場の規模に応じて、特定人数の産業医を選任し、労働者の健康管理等を行う必要があります。
1.労働者数50人以上3,000人以下の規模の事業場 :1名以上選任
2.労働者数3,001人以上の規模の事業場:2名以上選任
また、常時1,000人以上の労働者を使用する事業場と、下記の特定業務に該当する常時500人以上の労働者を従事させる事業場では、その事業場ごとに専属の産業医を選任する必要があります。
産業医には、嘱託産業医と専属産業医の2種類があります。それぞれの違いは、勤務形態にあります。
具体的な違いは、以下のとおりです。
嘱託産業医 | 専属産業医 | |
---|---|---|
勤務形態 | 非常勤 | 常勤 |
訪問回数 | 月に1回程度 | 常勤 |
業務時間 | 1~2時間程度 | フルタイム |
報酬 | 時間給 | 月給 |
メリット | ・コストが抑えられる | ・産業医業務に専念できる |
デメリット | ・産業医業務にかける時間が限られる | ・コストが高い |
上記の違いを参考に、事業所の規模にあったタイプの産業医を選びましょう。
以下にそれぞれのタイプについて詳細に説明します。
嘱託産業医は非常勤の産業医で、月に1回程度事業所を訪問して業務を行います。
嘱託産業医のメリットは、コストが抑えられることです。専属産業医に比べて、報酬が時間給であるため、コストを抑えることができます。
しかし、嘱託産業医は、産業医業務にかける時間が限られるというデメリットがあります。そのため、専属産業医に比べて、産業医業務を十分に実施できない可能性があるという点に注意が必要です。
嘱託産業医は、事業所規模が小さい場合や、産業医業務にかけるコストを抑えたい場合に適しています。
専属産業医とは、事業所に常勤する産業医です。従業員数が常時1,000人以上の事業所、または500人以上の有害業務を扱う事業所では、法律により専属産業医の選任が義務付けられています。
専属産業医のメリットは、産業医業務に専念できることです。嘱託産業医に比べて、産業医業務にかける時間が限定されないため、労働者の健康状態を常に把握できます。
また、経営層と直接コミュニケーションを取ることができるため、労働者の健康問題を経営的な視点から捉え、職場環境の改善につなげやすい利点もあります。
しかし、専属産業医は嘱託産業医に比べて、報酬が月給であるため、コストがかかるというデメリットがあります。
そのため、専属産業医は、事業所規模が大きい場合や、産業医業務に高度な専門性を求める場合に適しているでしょう。
産業医は労働者の健康管理を行う医師であり、「労働安全衛生法」※1に基づき、労働者が50人以上の事業所には産業医の選任が義務付けられています。
産業医には、労働者の健康管理に関する専門的知識や経験が求められます。そのため、派遣される産業医が、これらの要件を満たしていることが重要です。
また、産業医は事業所の労働者を定期的に診察し、健康管理に関する指導や助言を行う体制を整える必要があります。
※1:厚生労働省「労働安全衛生法に規定する産業医関係の法条文」
従業員が50人以上いる事業所の場合産業医を選任する義務がありますが、この「50人以上」には非正規社員も含まれます。労働安全衛生法では、「常時使用する労働者」とは、期間の定めがない労働者、および1年以上使用される予定で、1週間の労働時間数が正規職の4分3以上である労働者を指します。
産業医の派遣元として主要なのは、人材紹介会社と医療機関です。
産業医の派遣を専門に行っている人材紹介会社には、複数の産業医が所属しているため、事業者のニーズに合わせて産業医を選定してもらえます。
一方、医療機関の産業医は一般診療の経験も豊富で、労働者の健康管理に多岐にわたる対応が可能です。
産業医の派遣サービスを利用する場合の費用の相場例は、以下の通りです。
事業所の規模 | 産業医のタイプ | 費用相場 |
---|---|---|
50人以下 | 嘱託産業医 | 8万円〜/ 月 |
50~200人 | 嘱託産業医 | 10万円〜/ 月 |
201~400人 | 嘱託産業医 | 15万円〜/ 月 |
401~600人 | 嘱託産業医 | 20万円〜/ 月 |
601~999人 | 嘱託産業医 | 25万円〜/ 月 |
1,000人以上 | 専属産業医(週1) | 300万~400万/年 |
1,000人以上 | 専属産業医(週4) | 1,200万~1,500万/年 |
産業医の報酬は事業所の従業員数や訪問回数によって変動します。人材紹介会社を通じて依頼する場合、上記の月額費用とは別に、派遣会社に数十万円〜数百万円の費用※2が発生することがあります。また、産業医のスキルや訪問回数によっても料金は変動するため、これらの要因を考慮することが必要です。
※2:産業医の派遣料に含まれる費用:産業医の派遣料、産業医の研修費、産業医の事務手数料など
産業医を派遣してもらう際には以下の点に注意が必要です。
・産業医を派遣する会社や医療機関が、労働安全衛生法で定められた要件を満たしている産業医をあっ旋している
・派遣される産業医が、事業所の労働者に定期的に訪問できる体制を整える
・契約書に、産業医の業務内容や産業医と事業者の責任を明確に記載する
これらの注意点を考慮しながら、産業医の派遣を検討しましょう。
産業医には以下の業務が義務付けられています。
事業者は従業員に対して定期的な健康診断を実施する必要があります。産業医は健康診断の実施を指導し、その結果に基づいて必要な健康指導などを行います。
事業者は長時間労働者に面接指導を実施する義務があります。産業医はこの面接指導を担当し、その結果に基づいて労働者の健康を適切に管理するための休息や生活習慣の改善などを促します。
産業医はストレスチェックを実施し、その結果に基づいて高ストレス者に面接指導を行います。また、面接指導の結果に基づいて労働者の心身の健康を保持するための適切な対応策を提案します。
事業者は、労働者の健康を害する可能性のある作業環境を改善するため、必要な措置を取る義務があります。産業医は、作業環境の維持・管理に関して、労働者が安全かつ快適に作業できる状態を保つための助言や指導を提供します。
作業管理が不適切な場合、労働者の健康に悪影響を及ぼすリスクがあります。産業医は労働者の作業内容や方法を検討し、健康を害する恐れがある場合には事業者に対して作業管理の改善のための助言や指導を提供します。
産業医は上記以外の労働者の健康管理に関しても、事業者に対して日常の健康管理や生活習慣の指導、疾病の早期発見・早期治療のための助言や指導を行うことができます。
事業者は、労働者の健康を保持・増進するための取り組み、例えば健康教育や健康相談を実施する義務があります。産業医は、これらの措置の実施に関して、事業者に対し健康に関する教育や相談の提供、そして労働者の健康維持・向上のための助言や指導を行います。
事業者は、労働者の健康障害を防ぐための対策として、衛生教育を実施する義務があります。産業医はこれらの措置のサポートとして、事業者に衛生的な作業環境の確保や感染症予防に関する教育を提供します。
事業者は労働者が健康障害を起こした場合、その原因を調査し、再発防止のための対策を講じる必要があります。産業医は、事業者に原因の調査や再発を防ぐための具体的な措置を提案・実施します。
産業医の派遣は、従業員の健康管理や労働環境の改善において重要な役割を果たします。しかし、状況によっては産業医の派遣を断られる場合があります。そのような状況に直面した場合、どのような対応をとればよいのでしょうか。以下に、具体的な対応策を紹介します。
産業医の派遣を断られた場合、その理由を確認することが重要です。派遣を断る理由によっては、事業者側で対応できることもあるため、具体的な理由を確認し、適切な対応をとることが求められます。
以下に、産業医の派遣を断る理由とその対応策を紹介します。
理由 | 対応策 |
---|---|
産業医のスケジュールが合わない | 他の産業医を探す、スケジュールの調整を行う |
産業医の専門分野が合わない | 他の専門分野の産業医を探す |
事業所の環境が産業医に合わない | 事業所の環境を改善する、他の産業医を探す |
産業医の派遣を断られた場合、上記の対応策を参考にして、適切な対応をとることが求められます。
産業医の派遣を断られた場合、他の産業医派遣会社を探すことも一つの方法です。多くの産業医派遣会社が存在しており、事業者のニーズに合わせて適切な産業医を紹介してくれる会社が見つかるかもしれません。
自社が従業員50人未満の小規模事業場で、産業医の選任義務がないものの、従業員の健康管理の一環や対策として産業医を専任したいというケースが少なからずあります。そうしたケースで産業医の派遣を断られた場合の手段の1つとして、地域産業保健センターへの相談があります。
地域産業保健センターは、労働者の健康に関する相談や指導を行っており、各都道府県に設置されている公的機関です。産業医の派遣を断られた場合、まずは地域産業保健センターに相談してみることをおすすめします。
地域産業保健センターでは、産業医に関する相談以外にも、次のようなサービスを受けることができます。
・健康診断結果に対する医師の意見聴取
・健康相談
・作業環境調査
・衛生教育
・労働災害の原因調査
産業医の派遣を断られてしまった場合、地域産業保健センターに相談することで、無料で相談・指導を受けることができます。相談の際には相談の目的や希望を明確に伝え、事業所の特性やニーズを把握してもらい、適切な支援を受けられるようにしましょう。
各都道府県の産業保健センターの連絡先は独立行政法人労働者健康安全機構「産業保健総合支援センター(さんぽセンター)」に記載があります。
従業員の健康は、労働生産性や企業の業績に大きく影響します。そのため、健康管理の重要性は今後さらに高まるでしょう。企業は従業員の健康を最優先にした取り組みを進める必要があります。健康管理と産業医の活用を通じて、従業員の健康を保護し、企業の健康課題を解決していきましょう。※こちらのページに掲載している情報は2023年10⽉時点のものです。
健康管理って本当に必要?
どのシステムが自社のニーズに合うのか分からない…など
健康管理システムの導入でお悩みの方必見!
HR専門メディアの@人事が情報を精査&集約!
健康管理システムの基礎知識と選び方~コストシミュレーションとケース別おすすめサービス紹介付き~
この資料は、健康管理システムの導入を検討している人事・総務担当者向けに、導入メリットや機能などの基礎知識はもちろん、選定の際に注目すべきポイント、課題別のおすすめ健康管理システムなどについて詳しく解説しています。これを読めば貴社が導入すべき健康管理システムが分かります!
無料で資料ダウンロード健康管理の定義や目的、具体的な業務内容について解説しています。
健康管理システムの機能や導入のタイミング、メリットを解説。あなたの会社にはいつどんな機能が必要か、チェックしましょう。
健康管理の基本的なアプローチと具体的な方法を解説。また産業医の活用に関するノウハウを紹介しています。
健康管理システムについて人事・総務担当者や労務担当者の疑問点をQ&A形式でまとめました。
健康管理システムの導入や買い替えのステップ、サービス選定で確認すべきポイントを解説しています。
意外にも多いシステムの種類を細かく紹介。費用相場も確認して選定の際に役立ててください。
会社の状況や課題ごとにおすすめのシステムを紹介。具体的なシーンごとに役立つシステムが分かります。
よくある失敗例を知ることで、導入・運用で成果を出すためのヒントが見つかります。
「人的資本経営」における健康経営の考え方や、今すぐ始められる健康管理の取り組みを解説しています。
健康経営を推進する上で知っておきたい「健康経営優良法人制度」の概要と企業規模別の取組事例を紹介します。