外国人材活用の第一歩。外国籍従業員の雇用と管理の基礎知識
皆様、こんにちは。株式会社AIRVISAの鈴木良紀です。「AIRVISA(エアビザ)」は、外国籍従業員を雇用する企業向けに、在留資格管理/ビザ申請のオンライン化を通じてコンプライアンス体制強化をサポートするサービスです。
AIRVISAコーポレートサイト:https://airvisa.co.jp/
当社では、「移民にまつわる非合理を解消し、多様な人が活躍する日本をつくる。」をミッションに掲げ、外国籍の方々にとっても、雇用する企業にとっても安心して働ける社会につなげていこうと活動をしています。
日本の労働力人口が減少し、事業成長をするうえでの人材獲得難の状況から、積極的に外国人材採用に注力されている企業のニュースも目に入るようになってきました。
本稿では、「人手不足の実態や日本で就労する外国人材増加」を出発点として、外国人材を取り巻く基礎的知識にも触れていきたいと思います。また、企業が外国人材採用をする際の留意点などについても、実例をいくつか挙げながらご説明します。
私自身は、具体的な人手不足解消への正解などを持ち合わせているわけではありませんが、弊社サービスの提供を通じて得た知見をもとに、読者の皆様にとって事業成長を手助けしてくれる外国人材や、安心して雇用できる環境づくりへ目を向ける機会となれば幸いです。
目次
日本ではたらく外国人材数増加の実態
厚生労働省が発表している統計データ「『外国人雇用状況』届出状況まとめ(令和4年10月末現在)」 によると、2022年10月末時点で日本国内で雇用されて働く外国人労働者は182万人、雇用する事業所は29.8万事業所にもなり、2012年以降10年連続で増加し続けています。
【図】厚生労働省「『外国人雇用状況』の届出状況まとめ(令和4年10月末現在)」図2-1「産業別外国人労働者数の推移」をもとに作成
この10年間の傾向の延長線には、日本でも外国人材と協力して働くことがスタンダードになっていく未来があると考えられます。
外国人材の数が増え続けている背景には、少子高齢化に伴う深刻な人手不足があります。
シンクタンクのパーソル総合研究所と中央大学が共同で発表した「労働市場の未来推計2030」によると、2030年にはなんと644万人の労働力が不足することが試算されています。
【図】パーソル総合研究所✕中央大学「労働市場の未来推計2030」「2030年にどのくらいの人手不足となるか?」の図をもとに作成
もう少し詳しく業界にフォーカスして人手不足割合を見てみましょう。
引用:帝国データバンク|人手不足に対する企業の動向調査(2023年4月)
「飲食店」「宿泊・ホテル」では、コロナ後のインバウンド需要に対応できず、正社員・非正社員いずれに対しても人手不足を感じている企業割合が7割〜8割と高くなっています。
このように深刻化する人手不足への対策として、政府が2018年に出した骨太方針の中で「女性」「シニア人材」「AIによるオートメーション」と並んで外国人材の受け入れ拡大を方針として示し、新たな在留資格につながる「特定技能制度」※の創設をしたことは、まだ記憶に新しいところです。
「在留資格」というワードが出たところで、次に在留資格についても解説していきたいと思います。
※「特定技能制度」とは
深刻化する人手不足への対応として、生産性向上や国内人材確保のための取り組みを行っても人材を確保することが困難な状況にある産業分野に限り、一定の専門性・技能を有し即戦力と成る外国人を受け入れるための新制度
在留資格の基礎的知識
すでにご存知の方もいらっしゃるかと思いますが「在留資格」とは、外国人材が日本に在留し「何かしら」の活動を行うために必要となる資格のことを指します。
引用:法務省「在留資格一覧表」より
在留資格の種類は多岐にわたりますが、大きくは「身分・地位系」と「活動系」の2つに分けられます。
【身分・地位系】
永住者、日本人の配偶者等、永住者の配偶者等、定住者などの、「身分・地位」に基づく在留資格です。日本で行う活動については特に制限がなく、就労制限もなく日本人と変わらず働くことができます。
【活動系】
就労や日本の学校に通うなどの活動をすることを許可された在留資格を総じて活動系と呼ぶことがあります。活動系は、その中でも (1)就労系(2)非就労系(3)その他の3つに分けられます。
(1) 就労系:
外交、高度専門職、技術・人文知識・国際業務、特定技能など特定の就労活動をすることを目的とした在留資格です。該当例(上図)に記載があるように、在留資格によっても活動内容が定められおり、在留資格の範囲を超える就労活動に従事することは原則できません。
(2) 非就労系:
文化活動、短期滞在、留学、研修、家族滞在など就労系に該当しない在留資格です。例えば「留学」については、国内の大学などにおいて教育を受ける活動をするための在留資格で、就労活動を目的としている在留資格ではありません。そのため就労活動制限があり、パート・アルバイトを行う場合には、「資格外活動許可」を受けることで一定の就労が可能となります。
(3) その他:
「就労系」「非就労系」には該当しない在留資格で、特定活動(外交官等の家事使用人、ワーキングホリデーなど)が対象です。
ここまで、「身分・地位系」「活動系」のご紹介をしました。日本に在留するためには、出入国管理庁より許可されたいずれかの在留資格を持っていることが必要になります。
在留資格にどのような種類があるのか理解をいただいたところで、話を人手不足の解消に戻したいと思います。
人手不足解消につながる「育成就労制度」の策定
先程、人手不足への対策として「特定技能制度」が新設されたことに触れましたが、2023年にも在留資格について変更の動きがありました。
「技能実習制度」を廃止し、新制度「育成就労制度」を創設する運びになっています。
引用:「技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議(第12回)」参考資料「現行制度と新制度のイメージ図」
技能実習制度は、日本で培われた技能・技術または知識を開発途上地域などへ移転することによって、当該地域等の経済発展を担う「人づくり」に寄与することを目的として1993年に創設されました。
しかし、技能実習生を受け入れている事業所のなかには、技能実習生は原則3年の期間は転職をすることができないことを理由に、労働力の需給の調整手段として受け入れている実態がある等、制度と実態にねじれが生まれているといった指摘が多く出ています。
上記に加え、技術移転を目的にしているものの、実態としては単純労働に従事しており、賃金および居住環境などが劣悪なケースも存在しています。
そうした要因から、技能実習生の失踪が相次ぎ、令和5年1月1日現在、日本国内に約7万人の不法残留者がおり、令和4年1月に比べて3,732人(5.6%)増加しており、その多くが不法就労をしているとの推測が出されています。
参照:出入国在留管理庁「不法就労等外国人対策の推進について」
こういった点からも、「技能実習制度」を廃止し「育成就労制度」への見直しが図られているという背景があります。
技能実習制度見直しのビジョン
「技能実習制度」の見直しにあたっては、三つの視点(ビジョン)が示されています。
- 外国人の人権保護:外国人の人権が保護され、労働者としての権利性を高めること
- 外国人のキャリアアップ:外国人がキャリアアップしつつ活躍できるわかりやすい仕組みを作ること
- 安全安心・共生社会:すべての人が安全安心に暮らすことができる外国人との共生社会の実現に資するものとすること
参照:「技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議」最終報告書
この三つの視点は、「国際的にも理解が得られ、我が国が外国人材に選ばれる国になるために」重点が置かれています。
異なる目的を持つ「技能実習制度」「特定技能制度」の方向をそろえることで、外国人材が長く日本に在留をすることが可能になるよう制度面が整備されています。
増加する外国人材と、不法就労助長罪について
前段では、「日本の人手不足」とそれを解消するための「外国人材の受入れ制度の変化」に加えて、「在留資格」の区分について見てきました。
次に外国人材を雇用する企業側の状況へ目を向けたいと思います。 雇用する外国人材の数が増えている、また今後増えていくという中で「不法就労助長罪」という問題が生じています。 毎月、この「不法就労助長罪」に関するニュースに取り上げられているため、目にしたことがある方もいらっしゃるかもしれません。
詳しく知らなかったという方向けに、簡単にご説明させていただきますので、是非この機会に理解を深めていただければと思います。
「不法就労助長罪」とは、外国人材を雇用する事業主に科せられる罰則です。
以下のように、外国人材の労務管理を徹底しきれていなかった場合、 不法就労で検挙され「3年以下の懲役、300万円以下の罰金、またはその両方」が科せられます。
- 在留期限を過ぎてしまっている外国人材を雇用していた
- 在留資格に適さない業務で就労させてしまっていた
- 留学生を1週において28時間以上就労させてしまっていた など
懲役・罰金の他に、事業に対する負の影響が大きいのが「不法就労助長罪」です。
- 特定技能の在留資格の認定・更新が「不許可」になる
- 特定技能・技能実習の外国人材を5年間受け入れられない
- メディアに取り上げられることによる信頼性の失墜 など
人手不足からの脱却を目的として採用した外国籍従業員が受け入れられなくなったり、継続して働くことができなくなったりし、会社経営に大きな影響を与える可能性も出てきます。
不法就労助長罪の実例
実際に、全国紙に取り上げられた例をいくつか見てみましょう。
(1) 就労資格のない中国国籍の人材を働かせていたとして、入管法違反(不法就労助長罪)の疑い
で、東京都の卵焼き店の代表取締役と同社が書類送検されました。容疑は約10年間、不法滞在で就労資格がないと知りながら、中国国籍の人材2名を店舗で働かせたというものです。なお、これに先立ち、2名は入管法違反(不法残留など)の疑いで逮捕されていました。
本ケースでは「不法滞在であることがうすうす分かっていた」という話ですが、「知らなかった」では済まされないのが不法就労助長罪の留意点です。
(2) 大相撲・元力士が経営する焼肉店で、不法滞在している外国籍2名を働かせた
として、経営者と店長が入管法違反(不法就労助長罪)で略式起訴され、元力士の経営者「罰金50万円」、店長「罰金30万円」の略式命令が出されました。 なお、これに先立ち、この外国籍2名は入管法違反(不法残留など)の疑いで逮捕されていました。
本ケースでは、知り合いから紹介を受けた者を何も調べずに働かせてしまったという経緯があるようです。紹介者との間である程度の人間関係があると、そこに甘さが生じてしまうことも起こりうるという例と言えます。
(3) 在留資格「技術・人文知識・国際業務」のネパール国籍6名を不法就労(資格外活動)させた
として、入管法違反(不法就労助長罪)容疑で書類送検されていた、東京都のカレー製造などの老舗と当時の同社工場の係長が不起訴となりました。 理由は明らかになっていません。なお、同事件では、人材派遣会社社長らが起訴されています。
派遣先まで摘発されたということで関心が高かった事件の1つです。在留資格「技術・人文知識・国際業務」の資格外活動は、特に気を付けなければなりません。悪気がなく、ご本人のキャリアアップのために、採用後の人事異動で許可を受けた活動とは別の活動をさせてしまうケースも考えられますので注意が必要です。
3点ほど「不法就労助長罪」の例を見てきましたが、いずれも特殊なケースではなく身近で起こり得る内容であることから、外国人材採用をされている、または今後される予定の場合はきちんと必要な対応をしていただければと思います。
とはいっても、「外国人材雇用にあたってどんなことを注意しなければいけないのか?」と考えられる方もいらっしゃるかと思います。次章では、雇用時の注意すべきポイントについて5つほどご紹介をしていきます。
外国籍従業員の雇用時~就業中に必要となる主な管理
企業が注意すべき5つのポイント紹介
【図】法務省 「外国人の適正な雇用にご協力ください」資料 をもとに作成
(1) 在留カードの表裏の確認
【図】法務省「外国人の適正な雇用にご協力ください」資料をもとに作成
- 「有効期限」が切れていないかの確認を徹底してください。
- 表面「就労制限の有無」欄の記載がどうなっているか確認してください。
- 裏面「資格外活動許可」欄の記載がどうなっているか確認してください。
【図】法務省 「外国人の適正な雇用にご協力ください」資料 をもとに作成
在留資格ごとに記載される内容が異なるため、例を表にまとめています。在留資格によって、指定書や資格外活動許可証印シールの確認もすることが大事です。
【図】指定書:行政書士提供のサンプルより。資格外活動許可証印シール:出入国在留管理庁「証印シール見本(EXCEL)」をもとに作成
(2) 有効性の確認
有効性チェックの一般的な方法3つ
【写真】法務省 「外国人の適正な雇用にご協力ください」資料 をもとに作成
「目視チェック」:
在留カードの券面のホログラムやカードの透かし文字などを目視でチェックして不正なカードではないかを確認する方法です。ただし、人の目での確認であるため、もし不正な在留カードであったとしても見分けることは難しいと考えられます。
「出入国在留管理庁 在留カード等番号失効情報照会」:
出入国在留管理庁が提供するWebサイト上に「在留カード」に記されている番号を入力し、有効性があるかを確かめることができるサイトです。こちらを利用することで目視での確認は回避できますが、留意点があります。サイト上にも、「在留カード等の有効性を証明するものではありません。」「実在する在留カード等の番号を悪用した偽造在留カード等も存在する」と注釈が記されています。
「在留カード等読取アプリケーション」:
出入国在留管理庁が提供するソフトウェアで、在留カードに埋め込まれているICチップ内に記録された氏名等の情報をもとに真正なものであるかを確認することができるものです。
(3) 在留期限の管理徹底
(1)(2)については、採用前もしくは採用時にチェックをする項目のご紹介でしたが、採用後の注意すべき項目が「在留期限の管理」です。
在留カードには期限が記載されており、在留カードの更新申請をしておらずその期限を過ぎてしまう場合、不法就労に該当します。この管理については、外国人材本人だけではなく雇用責任のある企業担当者側でも行っていただきたいところです。
- 大前提として、外国籍従業員の在留カード情報をもれなく管理できているか
- 本人任せではなく、企業からも在留カードの期限が近づいた際に更新を促しているか
- 伝えただけではなく本人が理解して更新をきちんとしてくれているかの確認も大切です
また、更新された新しい在留カード情報を再度企業側で収集し、管理することが、次回更新の際の対応漏れが発生しないことにつながります。
(4) 外国人雇用状況届出の提出徹底
【写真】厚生労働省 「外国人雇用状況届出書」と「外国人雇用状況届出システム」をもとに作成
- パート・アルバイトの外国人材を雇用している場合にも、「外国人雇用状況届出」の提出が義務化されています。
- 「雇入時」「離職時」それぞれのタイミングで届出が必要です。
- 対応方法としては「紙書類での提出」もしくは「厚生労働省のハローワークシステム」を利用しての提出が求められます。
こちらも提出を怠った場合には30万円以下の罰金対象になりますので、きちんと「入社日」「退職日」を管理し、適切なタイミングでもれなく提出をできる体制づくりをしておくことが大切です。
(5) パート・アルバイト雇用時の就労時間制限の管理
「留学」「家族滞在」については、1週について28時間以内という就労時間制限があります。
ポイントになるのが、どの7日間を区切っても28時間以内であることです。
急なシフト変動で特定の7日間を区切った際に28時間を超過してしまうと、オーバーワークとなり不法就労に該当してしまいます。また、長期休暇期間中の制限は40時間以内となりますが、学校が認めている長期休暇期間である必要があります。学校が発行する「長期休暇証明書」を確認することが大事です。
【図】法務省 「外国人の適正な雇用にご協力ください」資料 をもとに作成
以上、雇用時の主な注意点5つをご紹介してきました。その他にも気をつけなければいけない事項や各社の状況に応じて対策しなければいけないこともあるかと思います。お悩みの点があれば行政書士・弁護士など各専門家へとご相談いただければと思います。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。あらためて、これからの日本企業では外国人材とともに働くことがスタンダードになってくると考えられます。今後、外国人材の雇用をしていこうとされる皆様におきましては、本稿でご紹介したことへも配慮いただくことで、人材採用難を解消し、お互いが安心して働ける環境づくりにつながる一助になればと考えております。
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【監修・協力】
志水 晋介(行政書士 志水法務事務所 代表)
2015年1月行政書士登録。外国人従業員を雇用する企業からの依頼を受け、在留資格関係の業務を中心としている。東京都行政書士会特定行政書士特別委員会副委員長、伊藤塾行政書士試験科主任講師、桐蔭横浜大学非常勤講師。著書には「行政不服審査 答申・裁決事例集」(日本法令 共著)などがある。
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