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LGBT理解増進法はすべての企業が対応すべき|理由とすぐできる取り組みを紹介

総務

掲載日時:2024.01.26

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メイン画像:LGBT理解増進法|@人事

LGBT理解増進への取り組みは全社員の働きやすさにつながる

2023年6月にLGBT理解増進法が成立し、企業にも努力義務としてLGBT理解への対応が求められました。しかし担当者の中には「罰則がないなら対応しなくてもいいのでは?」「当事者がいないから今すぐ対応しなくても…」と考えている方も多いのではないでしょうか。

実は、LGBT当事者がいない企業でも、理解増進には前向きに対応した方が良いのです。

なぜなら新法が求めるLGBT対応の本質は、特定の属性の人に特別な配慮をすることではなく、性的指向も含めた多様な背景を持った社員たちそれぞれが働きやすい環境を整えることにあるからです。

現時点で社内に当事者がいない組織であっても、そのような環境整備を進めることで社員たちが能力をより発揮しやすくなり、業績や企業価値の向上にもつながっていきます。

この記事では、新法で企業に求められているLGBT対応の具体的な内容と対応した方が良い理由をわかりやすく解説します。また、他企業の事例と、時間や予算が少なくてもすぐに始められる施策も紹介しています。

LGBT理解のために企業として対応するメリットを知り、当事者を含む誰もが働きやすい職場づくりの実現に向けて具体的な計画を立てましょう。

目次

1.LGBT理解増進法成立で企業に求められる対応内容

2023年6月に施行されたLGBT理解増進法(正式名称:性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律)では、企業にも努力義務としてLGBTへの理解を深める対応が求められています。

具体的にはどのような対応が求められることになっているのでしょうか。
ここでは厚労省が勧める「企業におけるLGBT理解増進への取り組み」について以下の5つを紹介します。

  • 基本方針を策定する
  • 社員に周知啓発する
  • 相談体制を整える
  • 制度や規定を改善する
  • 支援のネットワークを構築する

基本方針を策定する

会社としての基本的な考え方や対応の方針を言語化し、社内で共有する取り組みです。最初に企業としての方針・姿勢を明確にすることで社員も方針を軸にして動けるので、具体的な施策の検討や実行がスムーズに進められます。

<実施例>

  • 企業行動憲章にLGBT理解に関する条文を追加
  • 会社代表がLGBT理解と多様性を認める社会の推進を公に宣言

社員に周知啓発する

社員に対してLGBTに関する知識を周知し、理解を促進させる取り組みです。社員一人ひとりがLGBTに関する知識を身につけ理解することは、社会全体の理解を進めることにつながります。
全社員向けに基本的な知識の研修を実施するほか、管理職向けにマネジメント上の配慮や部下からの相談への対応方法などを教育することも含まれています。

<実施例>

  • LGBT当事者の外部講師を招き、実体験に基づいた研修を実施
  • 毎月、LGBTに関するトピックのメールマガジンを全社員に送信

相談体制を整える

社員が何でも相談しやすい体制を整備する取り組みです。悩みを相談できる場所が明確だと当事者は「何かあればあそこに相談すればいい」と安心感を持ち、より快適に働けます。新しい窓口の設置や、既存の窓口で性的指向や性自認に関する相談を受け付けることを明示するなどの方法がありますが、ポイントはLGBTに関する正しい知識を持つ担当者を配置することです。

<実施例>

  • 性的指向や性自認に関する悩みについて匿名で相談できる窓口を新設
  • 相談窓口業務を外部のLGBT当事者団体に委託

制度や規定を改善する

福利厚生制度、社内規定、職場施設の利用などにおいてLGBT当事者に不利益が起きていないか見直す取り組みです。パートナーが同性であるために制度が利用できなかったり、トランスジェンダーの方が自認する性別と異なる性別で規定に従うことでつらい思いをしているかもしれません。
福利厚生の適用範囲を見直したり、通称名の利用を認めたりするなど個別の対応で工夫できる部分は多くあります。

<実施例>

  • 同性パートナーへの福利厚生制度の適用
  • 健康診断の受診方法を選択可能に(集団受診または別日程)

支援のネットワークを構築する

社内外でLGBT支援のネットワークを作る取り組みです。特に当事者がいない企業においては、当事者の方や積極的に対応する他企業と交流することが、理解の深化や情報交換の機会の増加につながります。地域のLGBT支援活動への協賛や出展などが含まれます。

<実施例>

  • 「work with Prideカンファレンス」などのLGBT理解促進イベントへの参加
  • 社外のアライ※ネットワークへの参加を希望する社員への支援

※アライ:性的マイノリティーについて理解し、積極的に支援することを表明する人

2.LGBT当事者がいなくても企業は理解増進の対応をした方が良い理由

求められる対応が努力義務にとどまることもあり、「当事者がいないうちの会社には関係ない」「当てはまる人が入ってきてから対応を検討すればいい」と考えている担当者も多いのではないでしょうか?

実は現時点で当事者がいない会社にとっても、LGBT理解増進の対応を進めることには大きなメリットがあるのです。本章ではその理由を2つの観点から解説します。

LGBT当事者以外の働きやすさも実現できる

実はLGBT理解増進への対応は、当事者だけでなく社員全員の働きやすさにつながります。当事者が抱える悩みは「相談先がない」「社内制度が適用されない」など、多くがLGBT以外の悩みにも共通する解決策で対応可能です。

例えば、LGBT理解増進の一環として社員の相談窓口に専任の相談員を配置するとします。この結果、LGBT当事者だけでなく、どの社員も悩みがあるときに相談しやすくなるのではないでしょうか。

以下のグラフは、2019年に実施されたLGBT当事者を対象とした「困りごと」に関するアンケート調査の結果です。多くの悩みが同僚や上司の理解、制度の改善、やり方の工夫により解決できるもので、悩みがLGBT特有の内容でなくても解決方法は変わりません。

画像:当事者の困りごとグラフ
引用:「性的マイノリティに関する企業の取り組み事例のご案内」厚生労働省 都道府県労働局

企業価値の向上も期待できる

LGBT理解を深め、働きやすい職場環境を実現することは、企業価値の向上にもつながります。現代社会では、多様性を尊重する姿勢が求められており、LGBT理解に取り組む企業は社会的責任を果たしていると評価される傾向にあります。また、誰もが働きやすい職場は、労働者にとっても魅力的です。

以下のグラフは、すでにLGBT理解への取り組みを行っている企業を対象に調査したアンケート結果です。多くの企業がLGBT理解増進に取り組む理由として「多様な人材が働きやすい職場にするため」「社会的責任のため」と回答しています。


画像:企業が性的マイノリティ配慮に取り組む目的
引用:「性的マイノリティに関する企業の取り組み事例のご案内」厚生労働省 都道府県労働局

すでにできることから取り組み、LGBTの人々を差別せず協力的な姿勢を意味する「LGBTフレンドリー」を宣言している企業は年々増えています。企業の取り組みを評価する「PRIDE指標※」への応募企業数も初回の2016年は82社でしたが、8回目の2023年は398社にまで増えています。

※PRIDE指標:企業などの団体におけるLGBT理解の促進と定着を支援する一般社団法人「work with Pride」が主催

LGBTフレンドリー企業は法律で定められている基準ではありませんが、一部の自治体では登録制度を設けてその促進を図っています。(例:春日井市・福岡市・札幌市など)

PRIDE指標の認定を受けたり自治体にLGBTフレンドリー企業として登録されたりすることは、入社を検討する当事者に安心感を与えるだけでなく、企業の取り組みを社外に広く知らせることで、企業価値の向上につながります。

実際に、電通グループが2023年に行った調査※によると、「LGBTをサポートしている企業で働きたいか」という質問に対し、非当事者の17.6%が「待遇や職種に関わらず働きたい」、41.9%が「待遇や職種が他社と同条件であれば働きたい」と答え、LGBTフレンドリー企業への就業意向は全体の約60%にのぼりました。

この結果からも、LGBT理解への対応が自社のイメージや企業価値の向上に効果があることがわかります。

※参考:「電通LGBTQ+調査2023」(電通グループ)

3.企業による取り組み事例

「LGBT理解増進への対応が結果的に社員全体や会社にとっての利益にもなる」と言っても、具体的にどのようにそれが達成されるのかイメージしにくいかもしれません。 本章ではLGBT理解増進への取り組みがより広範なメリットにつながった取り組みの事例を紹介します。

丸井グループ:法律婚以外にも配偶者制度を適用

ファッションビルのマルイを運営する丸井グループは、福利厚生制度などにおいて同性婚を含む事実婚のカップルにも適用範囲を広げています。従来の「配偶者」という呼び方を「パートナー」に変更し、法律婚を前提としていた休暇取得や手当ての制度を事実婚カップルでも使えるようにしました。

この取り組みは同性パートナーを持つLGBT当事者だけでなく、事実婚の異性カップルの悩みも解決できます。

丸井グループではそのほかにもLGBT当事者を交えた接客ロールプレイングを取り入れた研修の実施や、社外相談窓口の設置などにも取り組んでいます。

参考:『配偶者向け人事制度』を事実婚や同性パートナー婚にも適用拡大(丸井グループ)

ハウスコム:戸籍以外の「ビジネスネーム」の使用を認める

不動産会社のハウスコムでは、社員が仕事上で戸籍以外の氏名「ビジネスネーム」を使うことを認めています。トランスジェンダーの方は自認する性別と本名から想定される性別が異なっている場合、名前を呼ばれるたびにつらい思いをすることがあります。「ビジネスネーム」が使えることでストレスを軽減する取り組みです。

この取り組みは、トランスジェンダーの社員だけでなく、結婚により姓が変わったが旧姓を使用したい社員など、さまざまな事情で本名の使用を望まない他の社員にもメリットをもたらします。

ハウスコムではそのほかにも研修の実施や、社員証・採用時の応募フォームに性別を記載しないなどの対応を行っています。

参考:ハウスコム、ビジネスネームを導入(ハウスコム)

早稲田大学:性別を問わない個室の更衣室を完備

早稲田大学では、性別を問わず誰でも使えるジェンダーフリーのトイレと更衣室を増設しました。これらの入り口には、「だれでもトイレ」「だれでも更衣室」「All Genders」と表記され、すべて個室で構成されています。

画像:早稲田大学だれでもトイレ・更衣室
【写真】だれでもトイレ・だれでも更衣室の表記

性別を意識することなく自由に使えるため、従来の施設を使用する際に比べてLGBT当事者の心理的な負担を減らせます。

参考:「だれでもトイレ」・「だれでも更衣室」の設置(早稲田大学 ダイバーシティ推進室)

その他の事例

働き方改革強化と多様性を尊重。スーパーフレックスタイム制度と、同性パートナーを配偶者に含める新たな人事制度を開始(株式会社JVCケンウッド)
2024年から事実婚・同性婚者向けの人事制度の拡充を発表。配偶者と同等の手当や赴任、保険、慶弔金などの制度を適用(株式会社電通)
【同性・事実婚のパートナーとその家族も対象】家族の多様性を尊重する「パートナー&ファミリーシップ制度」を導入(横浜ゴム株式会社)

4.すぐにできる! 企業のLGBT理解対応3選

「働きやすい職場の実現」や「企業価値向上」などの利点を理解し、自社で取り入れたいと考えても、他に優先するべき業務が多く、時間や予算の確保が難しい会社も多いのではないでしょうか。
本章では、使える時間や予算が少なくても始められる「すぐにできる取り組み」を3つ紹介します。

差別禁止のポリシーを明文化する

まずは、就業規則や採用方針などに「差別禁止」を明記することから始めてみましょう。差別禁止は当たり前のことですが、明記することで改めて社員の意識を高められます。

LGBT当事者への偏見や差別はもちろん、あらゆる形の差別を禁止することを社員に再認識してもらうことが大切です。

差別禁止の明文化は、既存の就業規則・採用方針・その他のガイドラインなどに文言を追加するだけなので、特別な準備やコストは必要ありません。具体的な施策を打つ前の第一歩として、おすすめの方法です。

服装規定を見直す

制服や服装・髪型などの規定の見直しも検討してみましょう。性別で区別された服装・髪型のルールはトランスジェンダーの方にストレスを与えている可能性があるからです。

また、LGBT当事者でない社員の中にも「制服のスカートが動きにくい」と感じる女性社員や「女性はオフィスカジュアルが認められているのに男性はスーツしか認められていないのはなぜ?」と疑問に感じている社員がいるかもしれません。まずは、社員の意見をアンケートで収集してみてはいかがでしょうか。

調査から再検討、新たな規定内容の調整まで多少の手間はかかりますが、設備投資などの追加コストが不要で始められる取り組みです。

LGBT理解の勉強会を実施する

社内でLGBT理解を深める勉強会を開いてみましょう。講師を招いて研修を実施するのはハードルが高いと感じる場合は、まず社員同士で意見交換をしたり、インターネットなどで情報を集めたりする勉強会から始めても構いません。

勉強会を通じて自社に足りない点や学ぶべきことを明らかにした後、外部研修を利用することで、さらに理解を深められます。現在はさまざまな企業がLGBTに関する集合研修や講義を提供しているので、予算や知りたい内容に合わせて形式や講師を選んで実施しましょう。

▼LGBT研修を提供する企業の一例

企業名 形式 特徴
インソース ・eラーニング動画
・講師を派遣した研修
など
・LGBTの基礎知識や管理職向けの研修などを実施
・研修内容はLGBT当事者の社員が開発している
アウト・ジャパン ・eラーニング動画
・講師を派遣した研修
・オンライン研修
など
・LGBTの基礎知識や相談窓口の対応方法の研修などを実施
・当事者、アライ両視点から作成した講義を提供する
リスキル ・eラーニング動画
・講師を派遣した研修
・オンライン研修
など
・LGBTの基礎知識やセクハラ防止研修などを実施
・座学だけでなくワークを交えた講義を行う

LGBT理解に対応して誰もが働きやすい職場へ

LGBT理解のための対応は、決してLGBT当事者のためだけに行うものではありません。
性的指向に限らず、少数派の人たちが働きやすい職場を作ることは、すなわち大多数が働きやすい職場の実現につながるからです。

企業に求められている対応内容は一見難しく感じるかもしれませんが、中にはすぐに始められる取り組みやちょっとした工夫で解決できるものもあります。
まずは、自社で取り組めそうなものからできる範囲で始めて、徐々に範囲を広げながら、誰もが働きやすい職場を実現しましょう。

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※本記事は掲載時点の情報であり、最新のものとは異なる場合があります。予めご了承ください。

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