男性育休推進|育児・介護休業法改正による注意とポイント
法改正の内容と注意点、人事・総務担当者向けの対応のポイントについて解説します。
関連記事:【育休時の会社の手続き】必要書類や期限がやることリストで一目瞭然
育児休業とは? 育児休暇との違いは?
育児休業とは、原則1歳未満の子どもを養育するための休業です。育児・介護休業法に定められた労働者の権利で、たとえ会社の就業規則に定めがなくても取得できます。子どもが実子か養子かを問わず取得可能です。
似た意味の言葉に、「育児休暇」があります。育児休業が法律で定められた制度であるのに対し、育児休暇は会社が独自に定めた育児のための休暇を指します。
つまり、育児休業は日本の労働者が平等に利用できる休業制度、育児休暇はそれに加えて会社の規定によって利用できる休暇です。
「産後パパ育休」とは? 男性の育休推進のための法改正
2022年度から順次適用されている育児・介護休業法の改正では、「男性の産休」とも呼ばれる「産後パパ育休」制度をはじめ、育休を取りやすくするための変更が複数加えられています。変更内容についてそれぞれ解説します。
「産後パパ育休」の新設
産後パパ育休(出生時育児休業)とは、男性が、原則として子の出生後8週間以内の期間内に通算4週間(28 日)まで、最大2回に分割して休業できる制度です。
通常(子が1歳になるまで)の育休とは別に取得できます。取得ニーズの高い時期に、従前よりも柔軟な取得を可能とするために創設されました。これにより、出生時にまとめて取得したり、配偶者が里帰り出産から戻ってくる時期に合わせて取得したり、あるいは出生直後と少し後に分配したり、といった、多様な取得のしかたが可能となりました。
また、通常の育休と異なり、労使協定を締結していれば、労働者が合意した範囲内で休業中にも就業できます。
育児休業を取得しやすい環境整備の義務付け
企業側には、育児休業や産後パパ育休の申し出や取得をしやすくするための雇用環境の整備が義務付けられました。短期の休業はもちろん、1カ月以上などの長期の休業についても、従業員が希望通りに取得できるよう配慮する必要があります。
具体的には、以下のいずれかを実施することが義務となります。
- 育児休業・産後パパ育休に関する研修
- 育児休業・産後パパ育休に関する相談体制の整備
- 自社の育児休業・産後パパ育休取得事例の収集と提供
- 従業員への育児休業・産後パパ育休の制度と育休取得促進に関する自社の方針の周知
なお、もちろん従業員が育休をとりにくくなるような不利益な取り扱い(育休の取得を理由とした解雇や降格など)や、パタハラが横行する職場風土の放置などは禁止されています。もし、自社に育休を利用しにくい雰囲気がある場合は、ハラスメント研修や制度の周知を積極的に行い、改善する必要があるでしょう。
個別の周知・意向確認の義務付け
本人または配偶者の妊娠・出産を申し出た従業員に対して、個別に育休などの関連制度の周知と、休業の取得意向を確認することが義務付けられています。周知しなければならない事項と時期、方法は以下の通りです。
周知事項 |
|
---|---|
周知する時期 | 申し出が出産予定日の1カ月半以上前:出産予定日の1カ月前まで 申し出が出産予定日の1カ月半前から1カ月前の間:申し出から2週間以内など、できる限り早い時期 申し出が出産予定日の1カ月前から2週間前の間:申し出から1週間以内など、できる限り早い時期 申し出が出産予定日の2週間前以降や出産後:できる限り速やかに |
周知方法 | 面談(オンライン可)または書面交付 労働者が希望した場合のみFAX、電子メールなども可 |
なお、この周知と確認は、あくまで従業員が制度を利用しやすくするためのものです。そのため、取得を控えさせるような形で周知や意向確認を行った場合、義務付けられている措置を実施したとは認められません。 例えば、「このような制度がありますが、もちろん取得せず働きますよね?」のような言い方をしたり、あるいは「制度上はこうなっていますが、実際は、ねえ」などと無言のうちに取得を勧めない意思を伝えたりした場合は、法律上の義務を果たしていないと見なされる可能性があります。
育児休業の分割取得が可能に
男女ともに、育休を最大2回に分割して取得できるようになっています。また、同時に、保育園に入れなかった場合など1歳以降に育休を延長する場合の育休開始日を、配偶者の休業の終了予定日の翌日からに設定することも可能となりました。これにより、父母が交代して育休を取得するなど、より柔軟な取得ができるようになりました。
※厚生労働省「育児・介護休業法改正のポイント」に基づいて@人事編集部が作成
育児休業の取得状況公表の義務付け(大企業向け)
常時雇用する従業員が1,000人を超える企業は、育児休業等の取得状況を年1回公表しなければなりません。
具体的には、以下のいずれかの割合を、自社のWebサイトや厚生労働省が運営する「両立支援のひろば」など、一般の人が閲覧できる方法で公表する必要があります。
- 育児休業等の取得割合
=公表前事業年度において育児休業等をした男性従業員の数/公表前事業年度において配偶者が出産した男性従業員の数 - 育児休業等と育児目的休暇の取得割合
=(公表前事業年度において育児休業等をした男性従業員+小学校就学までの子を養育し、「事業主が講じる育児を目的とした休暇制度」を利用した男性従業員)/公表前事業年度において配偶者が出産した男性従業員の数
なお、「育児休業等」には産後パパ育休もまとめて算入され、育休を分割して取得した場合なども、同一の子について取得したものは1人分とします。また、「事業主が講じる育児を目的とした休暇制度」には、育児休業等や子の看護休暇は含まれません。
有期雇用労働者の取得条件の緩和
契約社員などの有期雇用労働者の育休取得について、「引き続き雇用された期間が1年以上」という条件が撤廃され、雇用されて1年未満の有期雇用労働者も育休を取得できるようになりました。これにより、育休取得の条件はもう一つの「子が1歳6カ月に達する日までに、労働契約(更新される場合には、更新後の契約)の期間が満了することが明らかでない」ことのみとなります。したがって、子が1歳6カ月に達するまでの間に雇用主から「更新しない」という意思を明示されていない限り、原則としては取得が可能です。
ただし、労使協定の締結により、「雇用されて1年未満の労働者を除外とする」と取り決めることは可能です。
なお、この変更によって就業規則の修正が必要となる場合、修正した就業規則を周知し、また常時10人以上の労働者を使用する事業場では労働基準監督署に届け出る必要があります。
人事担当者の注意点とポイント
ここまで改正の内容を紹介してきましたが、以下では実際に手続きを行う人事担当者がやらなければならないことや注意点をピックアップして解説します。
産後パパ育休の手続き
産後パパ育休は、育休とは別に取得できるため、従業員からの申し出も別途受ける必要があります。申し出を受けて取扱通知書を出す、といった流れは育休とほぼ同じですが、産後パパ育休を分割して取得する場合、最初にまとめて取得時期を申し出なければなりません。この点は、育休の分割取得が取得の際にそれぞれ申し出であるのと異なるため、注意が必要です。申請漏れがないよう、従業員に周知しましょう。
出生時育児休業給付金
併せて、育休同様に出生時育児休業給付金の手続きも発生します。必要書類を揃えてハローワークに提出する必要がありますので、申し出を受けたら準備しておきましょう。申請のタイミングは、子の出生日(出産予定日前に子が出生した場合は出産予定日)から8週間を経過する日の翌日から、その2カ月後の月末までです。
関連ページ:【育休時の会社の手続き】必要書類や期限がやることリストで一目瞭然
参考:ハローワーク「育児休業給付の内容と支給申請手続」
休業中の就業
産後パパ育休の取得中に就業する場合、休業開始予定日の前日までに「就業可能日」、「就業可能時間帯その他の労働条件」を申し出てもらいます。その後、速やかに「就業させることを希望する日(就業可能日の範囲内)」および「時間帯その他の労働条件」を提示します。休業中の就業日数等には以下の条件があります。
- 休業期間中の所定労働日・所定労働時間の半分以下
- 休業開始・終了予定日を就業日とする場合、その日の就業は所定労働時間数未満
なお、就業日数が一定の水準を超えた場合は出産時育児休業給付金の対象外となります。また、休業中の就業で得た賃金額と出産時育児休業給付金の合計が休業前の賃金日額✕休業日数の8割を超えると、出生時育児休業給付金が減額されます。
社会保険料の免除についても、就業した日数は休業日数に含まれませんので、注意が必要です。
育児休業を取得しやすい環境整備
先述の通り、環境整備として、研修、相談体制の整備、自社の育休取得事例の収集・提供、制度と取得促進に関する自社の方針の周知のいずれかを実施するよう求められており、可能な限り複数の措置を行うことが望ましいとされています。注意点や具体的な方法について、厚生労働省から資料や様式例などが公表されていますので、必要に応じて活用すると良いでしょう。
参考:
・厚生労働省「(事業主向け)説明資料『育児・介護休業法の改正について~男性の育児休業取得促進等~』」
・厚生労働省「育児・介護休業等に関する規則の規定例」
研修
全従業員を対象とすることが望ましいが、少なくとも管理職は研修を受けたことがある状態にすることが必要とされています。社内研修用の資料や動画が提供されているため、必要に応じてアレンジして活用しましょう。
参考:イクメンプロジェクト「社内研修資料について」
相談体制の整備
相談窓口や対応者を置き、利用しやすいよう社内に周知します。ただし、形式的に窓口を設置するだけではなく、実質的な対応が可能な窓口を設ける必要があります。制度に詳しい人事担当者が実質的に窓口になる、または兼任するケースも考えられますが、相談者がいても多忙でなかなか応じられないようでは実質的な対応が可能とは言いにくいため、相談に対応できるよう体制を整えましょう。
育休取得事例の収集・提供
自社の従業員の育休取得事例を収集し、書類の配布や社内ネットワークへの掲載などを通して従業員が閲覧できる状態にする必要があります。その際、収集する事例に偏りがないよう注意しましょう。事例が偏っていることにより特定の業種や立場の従業員が育休を申し出にくくなるなどの影響を与えないよう、配慮が必要です。
事例をどのように紹介したら良いかについては、厚生労働省が資料として記載例を公表しています。参考にすると良いでしょう。
参考:厚生労働省「就業規則への記載はもうお済みですか-育児・介護休業等に関する規則の規定例-[詳細版](令和4年10月作成)」07 参考様式(個別周知・意向確認書記載例、事例紹介、制度・方針周知 ポスター例)
制度と取得促進に関する自社の方針の周知
育児休業に関する制度および育児休業の取得の促進について、企業の方針を記載したものを事業所内に掲示したり、社内ネットワークに掲載したりして従業員に周知する必要があります。こちらについても、厚生労働省が周知用のポスターの様式例を公表しています。
参考:厚生労働省「就業規則への記載はもうお済みですか-育児・介護休業等に関する規則の規定例-[詳細版](令和4年10月作成)」07 参考様式(個別周知・意向確認書記載例、事例紹介、制度・方針周知 ポスター例)
個別の周知・意向確認を適切な時期に行う
本人または配偶者の妊娠・出産を申し出た従業員に対して、個別に育休などの関連制度の周知と、休業の取得意向を確認することが義務付けられており、周知しなければならない内容と時期も上述の通り定められています。なお、実子でない場合は、以下の事実の申し出が妊娠・出産に準ずると認められますので、この場合も制度の周知や意向確認を行う必要があります。
- 特別養子縁組に向けた監護機関にある子を養育している、養育する意思を明示した
- 養子縁組里親として委託されている子を養育している、受託する意思を明示した など
制度の周知と意向確認に使用する書類の記載例を厚生労働省が公表しています。この周知と意向確認は義務として定められていますので、漏れてしまったり時期を逃してしまったりしないよう、確実に行いましょう。
参考:厚生労働省「就業規則への記載はもうお済みですか-育児・介護休業等に関する規則の規定例-[詳細版](令和4年10月作成)」07 参考様式(個別周知・意向確認書記載例、事例紹介、制度・方針周知 ポスター例)
育休の分割取得によって処理が複雑に
育休の分割取得が可能になったことで、人事担当者にとっては、それぞれの開始時に申し出を受けたり、従業員が休業した期間を把握して給付金を申請したりといった業務の回数や手間が増加します。また、パパ・ママ育休プラスの制度を利用すると、両親がともに育休を取得した場合、取得のしかたによって休業可能期間が2カ月延長されます(子が1歳2カ月に達するまでに1年間取得可能)。
従業員本人だけでなく、配偶者が育休をどのように取得するかも条件として関わってきますので、育休を希望する従業員とコミュニケーションを取り、育休の取得状況や予定を把握しておきましょう。
男性の育休取得推進によって助成金もある
「両立支援等助成金」の「出生時両立支援コース(子育てパパ支援助成金)」を申請すると、中小企業を対象として、男性従業員が育休を取得しやすい雇用環境や業務体制を整備して育休の取得を促進した場合に助成金が支給されます。受給できるのは1回限りで、同じ育休を対象として同助成金の「育児休業等支援コース」の支給を受けることはできません。第1種と第2種があり、第2種は第1種を受給した企業が対象となります。
取得条件と支給額は以下の通りです。
主な要件 | 支給額 | |
---|---|---|
第1種 |
|
20万円 |
代替要員加算 | 育児休業中の代替要員を新たに確保した場合 | 20万円(3人以上確保した場合45万円) |
育児休業等に関する情報公表加算 | 自社の育児休業の取得状況を「両立支援のひろば」で公表した場合 | 2万円 |
第2種 |
|
1事業年度以内に30ポイント以上上昇:60万円 2事業年度以内に30ポイント以上上昇(または連続70%以上):40万円 3事業年度以内に30ポイント以上上昇(または連続70%以上):20万円 |
女性従業員の育休に関しても、育休復帰支援や業務代替支援、職場復帰後支援などを行うことで、「両立支援等助成金」の「育児休業等支援コース」を申請できます。
要件や支給額は年度によって変更される場合がありますので、最新の情報は本社等(人事労務管理機能を有する部署が属する雇用保険適用事業所)の所在地を管轄する都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)に確認しましょう。
参考:厚生労働省「事業主の方への給付金のご案内」
男性の育休取得の推進は働き方改革にも
従業員が育休を取りやすいようにすることは企業の義務でもありますが、企業にとってのメリットも多くあります。助成金を受けられるなどの直接的なメリットのみならず、従業員のエンゲージメントや、対外的な企業イメージの向上といった間接的なメリットも得られます。
さらに、人手不足が深刻化する現在、男性が育休を取得し子育てに主体的に関わる環境をつくり、女性の働きやすさや仕事の続けやすさを支援することで、中長期的には人手不足の緩和、それによる働き方改革の推進可能性にもつながります。
育児休業制度や支援制度を理解し、従業員の積極的な取得を支援しましょう。
※本記事は掲載時点の情報であり、最新のものとは異なる場合があります。予めご了承ください。
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