裁量労働制とは?残業代が発生するケース、適用職種を具体的に解説
裁量労働制とは通常の労働時間の定めとは異なり、実際に働いた時間ではなくあらかじめ決められた時間分を働いたとみなす制度です。自分の裁量で仕事を進められる自由度の高い働き方と考えられていますが、残業代が発生するケースもあります。この記事では、裁量労働制の概要や適用職種、残業代が発生するケースなどについて分かりやすく解説します。
<目次>
- 裁量労働制とはどんな制度か
・裁量労働制とは
・自由な働き方と言われる理由と導入するメリット
・フレックス制との違い
・高度プロフェッショナル制度との違い - 裁量労働制の2つの種類と適用職種
・専門業務型裁量労働制
・企画業務型裁量労働制 - 導入・実施に必要な手続き
- 裁量労働制でも残業代を支払わなければならない場合
- 裁量労働制を導入する上での注意点
- まとめ
裁量労働制とはどんな制度か
「自由な働き方」と言われている裁量労働制とは具体的にどのような制度なのでしょうか?制度の内容と類似制度との違いについて簡単に説明します。
裁量労働制とは
裁量労働制とは、使用者と労働者との間であらかじめ定められた労働時間(みなし労働時間)に基づいて、賃金を支払う労働形態です。
みなし時間が1日8時間の場合
裁量労働制を導入している企業で、みなし時間が1日8時間だと、1日に7時間働いても、10時間働いても、8時間働いていたとみなして処理が行われます。
自由な働き方と言われる理由と導入するメリット
裁量労働制が適用された労働者は出勤時間や退勤時間などの時間管理は、個人の裁量に委ねられ勤務時間帯を強制されないことから、裁量労働制は「自由な働き方」と言われています。裁量労働制は労務管理の負担軽減につながる点が大きなメリットとして挙げられます。裁量労働制を導入している企業では、休日出勤や深夜勤務に対する割増賃金は生じますが、時間外手当は生じません。そのため、企業側は毎月発生する人件費を予測しやすくなり、細かな労働時間マネジメントをする必要がなくなります。
フレックス制度とは、必ず就業していなければならない「コアタイム」の時間帯を除き、始業・終業時間を労働者が自由に決められる制度です。裁量労働制との共通点と相違点を解説します。
共通点
● 始業時間と就業時間を自由に決められる
● 自分のライフスタイルに合わせることができる
● ワークライフバランスの充実を図ることができる
● 休日出勤や深夜勤務を行った場合には割増賃金が生じる
相違点
● フレックス制は必ず所定労働時間分は勤務しなければならないが、裁量労働制はしなくてもよい
● フレックス制では所定労働時間を超える時間外労働に対して時間外手当が生じるが、裁量労働制は時間外手当が生じない
● フレックス制にはコアタイムがあるため、「完全に自由」とは言えない
高度プロフェッショナル制度との違い
高度プロフェッショナル制度とは、高収入の一部の専門職を労働時間の規制から外す制度です。裁量労働制との違いは以下の点です。
● 裁量労働制と違い、1日の労働時間が決まっていない(労働時間の制約がない)
● 休日出勤や深夜勤務を行った場合、裁量労働制では割増賃金が生じるが、高度プロフェッショナル制度は生じない
● 1,075万円以上の年収要件が設けられている(裁量労働制には年収要件がない)
高度プロフェッショナル制度の詳細は、こちらの記事をご参照ください。
→高度プロフェッショナル制度とは? メリット・デメリットをわかりやすく解説
裁量労働制の2つの種類と適用職種
裁量労働制を適用できる職種は定められています。裁量労働制は対象職種の業務内容によって「専門業務型裁量労働制」と「企画業務型裁量労働制」の2種類に分けられます。
専門業務型裁量労働制
専門業務型裁量労働制は就業時間を従業員の裁量に委ねた方が効率の良い業種を対象としています。
企画業務型裁量労働制
企画業務型裁量労働制は企業が事業を安定継続させる上で重要な企画立案を担当するホワイトカラーの労働者を対象としています。
企画立案を行う部署は本社や本店にあるケースが多いため、適用される事業所が限られるのが企画業務型裁量労働制の特徴です。専門業務裁量労働制よりも適用の条件が厳しく設定されています。企画業務型裁量労働制を適用する場合は、社内に労使委員会設置し、多数決では5分の4以上の賛成が必要になります。
導入・実施に必要な手続き
裁量労働制を導入・実施する際に必要な手続きの概要を説明します。
裁量労働制のみなし労働時間を決める手続き
裁量労働制のみなし労働時間を決める際には、決議や届出などの手続きが必要です。
必須となる手続き
裁量労働制を導入・実施する上で必須となる手続きは以下の4つです。
● 労使委員会の設置
● 委員全員の合意による決議
● 対象労働者の同意義務
● 労働基準監督署への届出
労使協定
裁量労働制を適用する際は、会社側と労働者側で労使協定を結ぶ必要があります。この場合の労働者は、社内に労働組合がある場合はその代表、ない場合は社内労働者の過半数を代表する労働者代表のことを指します。
36協定の締結が必要な場合
1日8時間(1週間40時間)という法定時間を超えて労働させる場合や法定休日に休日出勤させる場合は、労働組合や過半数を代表する労働者と協定を書面で結ばなければなりません。
この労働基準法第36条に基づく協定を「36協定」と呼びます。裁量労働制を適用する際に、みなし労働時間を9時間に設定すると、1週間の労働時間が法定時間を超えるため、労使間で36協定を結ばなければなりません。
専門業務型裁量労働制 | 企画業務型裁量労働制 |
---|---|
以下の19業務。 |
事業の運営に関する事項についての企画、立案、調査、分析の業務。
業務の性質上、その遂行の方法を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要があるため、業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し具体的な指示をしない業務 |
裁量労働制でも残業代を支払わなければならない場合
裁量労働制を適用している企業では時間外労働に対する時間外手当は発生しません。しかし、休日や深夜に働いた場合には、割増賃金が発生します。具体的な賃金の計算方法について説明します。
休日労働をした場合
日曜日や祝日といった法定休日に労働した場合は、35%以上の割増賃金を支払わなくてはなりません。1時間あたりの賃金3,000円、割増賃金率40%の企業で5時間休日労働すると、
「3,000円×5時間×1.4=21,000円」
の割増賃金を支払うことになります。
深夜労働をした場合
22時~5時までの深夜時間に労働した場合には、25%以上の割増賃金を支払わなくてはなりません。1時間あたりの賃金3,000円、割増賃金率30%の企業で5時間深夜労働すると、
「3,000円×5時間×1.3=19,500円」
の割増賃金を支払うことになります。
みなし労働時間を8時間超に設定した場合
みなし労働時間を8時間を超えて設定している場合は、超過時間は25%以上の割増賃金を支払わなくてはなりません。
- 1時間あたりの賃金3,000円、割増賃金率30%、みなし労働時間9時間の企業では、
「3,000円×(9時間-8時間)×1.3=3,900円」
の割増賃金を支払うことになります。
【みなし労働時間を8時間超に設定した場合】
引用:厚労省 「労働基準法等の一部を改正する法律案」について
● みなし労働時間は9時間
● Aさんは7時間、Bさんは10時間働いた場合
● AさんBさんとも時間外割増賃金が1時間発生
裁量労働制を導入する上での注意点
裁量労働制を導入する際の手続きや導入後の対応を誤ると、労使間でトラブルに発展する可能性があります。また、違法適用をした場合には労働基準局によって社名が公表される場合もあります。裁量労働制を導入する上での注意点を詳しく解説します。
長時間労働が常態化する懸念がある
裁量労働制は出退勤や労働時間が労働者の裁量に委ねられているため、早く作業を終えた場合は労働時間が少なくなりますが、対象労働者に業務が集中するような状態が続けば、長時間労働が常態化する可能性があります。8時間を超えた場合にも残業代が発生しないことから、「厳密な労働時間管理をしなくても良い」と管理側が長時間労働対策を怠れば、対象労働者の健康が危ぶまれる懸念もあります。
導入時の手続きや要件が極めて厳格
裁量労働制の導入には多くの要件に加え、新たな労使協定の締結や労働基準局の届け出などの厳格な手続きが必要になります。労使委員会の設置や残業代未払いのリスク回避をはじめとする専門知識が必要なほか、企業側は長時間労働による労働者の健康悪化に気を配る必要もあるため、上記の点をクリアできるかどうかの見極めも必要でしょう。
違法な適用をしていた場合のリスクが高い
裁量労働制を違法適用していた場合は、労働者への時間外手当の支払いが発生し、労働基準局によって指導の対象となり社名が公表される恐れもあります。
労基署の特別指導の対象となるケースも
野村不動産では裁量労働制を違法適用していたことが発覚し、2017年12月に東京労働局が特別指導を実施しました。裁量労働制を適用されていた東京本社の社員が2016年9月に自殺、遺族が2017年春に労災申請をしたことをきっかけに労働基準監督署が調査を行ったところ全社的に違法適用していたことが判明。2018年3月には同社は社内の裁量労働制を廃止しました。
裁量労働制が無効と判断されれば残業代を支払わなければならない
裁量労働制を適用するにあたり、正しい手順で労使協定の締結が行わなかった、または労使協定の内容が社員にとって不利で無効と判断された場合は、それまでの契約が無効とされ、企業側は残業代を支払わなくてはなりません。
厳格な条件をクリアして適切な運用ができるかどうか導入前に確認を!
裁量労働制は適切な形で運用されていれば専門職の労働者が自由度の高い働き方を実現できるメリットがあります。しかし適用するには厳格な条件と手続きが求められるため、自社で厳しいハードルをクリアできるかどうかの見極めも必要になります。トラブルを防ぐためにも、裁量労働制を適用した場合の残業時間の扱いを導入前に正確に把握しておきましょう。
編集部おすすめ! 裁量労働制導入の検討に役立つ記事
裁量労働制導入の検討時におすすめできる記事を紹介します。
→労働基準監督署と社会保険労務士に聞く、裁量労働制の「無効」判断 企業が取るべき対応は?
→裁量労働制の問題点とは? 知っておきたい、2つの制度の正しい運用法
※本記事は掲載時点の情報であり、最新のものとは異なる場合があります。予めご了承ください。
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