毎年のように改正・拡充するキャリアップ助成金・正社員化コース申請のポイント
「キャリアアップ助成金」の申請を予定している経営者や人事担当者に向けて、助成金のうちの「正社員化コース」を中心に2019年~2020年の改正ポイント、対象条件や申請方法、従来との違いを分かりやすくまとめました。
<目次>
- キャリアアップ助成金は毎年のように改正・拡充。令和のポイントは?
- 「正社員化コース」の申請条件や受給額は?
- 申請までの流れと必要書類まとめ
- 不支給にならないための留意点。社員が退職したらどうなる?
- 2021年度の助成金はどうなる?
- まとめ
キャリアアップ助成金は毎年のように改正・拡充。令和のポイントは?
キャリアアップ助成金は、毎年改正や拡充が行われるため、どのように変わったのかしっかり確認することが重要です。2019年4月に新たに拡充されたポイントも含めて紹介します。
キャリアアップ助成金とは
キャリアアップ助成金とは、有期契約労働者や派遣労働者、アルバイトといった非正規雇用労働者の企業内でのキャリアアップを促進するための制度です。非正規雇用労働者の正社員化や処遇改善といった取り組みを実施した事業主に助成金が支払われます。労働者の意欲向上に伴う事業の生産性向上、雇用の安定化が期待できます。
コースは7つに拡充(2019年改正)
キャリアアップ助成金のコースは毎年改正が行われており、2019年4月には「短時間労働者時間延長コース」が拡充されて全部で以下の7コースになりました。
- (1)正社員化コース
- (2)賃金規定等改定コース
- (3)健康診断制度コース
- (4)賃金規定等共通化コース
- (5)諸手当制度共通化コース
- (6)選択的適用拡大導入時処遇改善コース
- (7)短時間労働者労働時間延長コース
Point
2019年4月の改正では、「選択的適用拡大導入時処遇改善コース」「短時間労働者労働時間延長コース」で、それぞれ「1人当たりの支給額の引き上げ」「1適用事業所における1年度の申請上限人数を45人に拡充」の2点が改正。また、「賃金規定等共通化コース」で、「職務評価加算の支給を1事業所当たり1回限りに変更」という改正が行われました。
参考:厚生労働省キャリアアップ助成金
2020年の正社員コースにおける改定ポイント
2020年4月(令和2年)1日以降、キャリアアップ助成金4つのコースにおいて拡充の変更が行われ、正社員化コースにおいては支給要件が緩和されました。
*現行:正規雇用等へ転換した際、転換前の6カ月と転換後の6カ月の賃金(※)を比較して、5%以上増額していること
※賞与や諸手当を含む賃金の総額。
※転換後の基本給や定額で支給されている諸手当を、転換前と比較して低下
させていないこと
*新要件:正規雇用等へ転換した際、転換前の6カ月と転換後の6カ月の賃金を比較して、以下のアまたはイのいずれかが5%以上増額していること
ア:基本給及び賞与を除き定額で支給されている諸手当を含む賃金の総額
イ:定額で支給されている諸手当及び賞与を含む賃金の総額(転換後の基本給及び定額で支給されている諸手当の合計額を、転換前と比較して低下させていないこと)
Point
1.賃金規定等改定コース
・中小企業において、全てまたは一部の賃金規定等を5%以上増額した場合の加算措置を創設
2.選択的適用拡大導入時処遇改善コース
・労使合意に基づく任意適用に向けて、保険加入と働き方の見直しを進めるための取り組みを行った場合の助成措置を新設(新設)
・被用者保険加入とともに基本給の増額を行う場合の助成メニューについては、複数回支給を可能とし、 2%以上の増額も対象にする(拡充)
・短時間労働者の生産性の向上を図るための取組(研修制度や評価の仕組みの導入)を行った場合の加算措置を新設(新設)
3.短時間労働者労働時間延長コース
・令和元年度限りの時限措置であった以下内容について令和2年度末まで延長(延長)
A.延長する労働時間が1時間以上 5時間未満で、労働者の手取り賃金が減少しない取り組みを行った
場合にも助成対象とすること。
B.支給額の上乗せ(5時間以上延長:9.5万円→22.5万円、等)
C.支給申請上限人数(10人→45人)
参考:厚生労働省|キャリアアップ助成金 制度変更のお知らせ(令和2年4月1日)
「正社員化コース」の申請条件や受給額は?
「正社員化コース」は、6カ月以上の雇用実績のある有期契約労働者等を正規雇用労働者等に転換または直接雇用し、さらに6カ月継続雇用することで、該当者1人につき最大72万円の助成金が支給されるコースです。対象となる事業主や社員、受給額について説明します。
対象となる事業主は? 賃金5%アップも条件に
支給対象事業主(全コース共通)の条件は以下の通りです。
- (1)雇用保険適用事業所の事業主
- (2)各雇用保険適用事業所にキャリアアップ管理者を置いている事業主
- (3)各雇用保険適用事業所にキャリアアップ計画を作成し、管轄労働局長の受給資格の認定を受けた事業主
- (4)該当コースの対象労働者の賃金支払い状況等を明らかにする書類を整備している事業主
- (5)キャリアアップ計画期間内にキャリアアップに取り組んだ事業主
参考:厚生労働省キャリアアップ助成金のご案内
Point
「正社員化コース」の申請条件には、2018年から新たに「転換後6カ月間の賃金を、転換前6カ月間の賃金より5%以上増額させている事業主であること」が追加。また、「転換後の基本給や定額で支給されている諸手当を、転換前と比較して低下させていない事業主であること」なども追加されているため、条件を満たしているか細かくチェックする必要があります。
参考:厚生労働省キャリアアップ助成金のご案内(P16)
受給額は要件によって加算される
キャリアアップ助成金を活用することで得られる受給額は一定ではありません。生産性の向上に取り組んでいて、一定の成果を出している企業は、受給額が加算されます。また、派遣労働者や母(父)子家庭の母(父)を転換させた場合にも受給額が加算されるなど、要件によっては下記よりもさらに加算されるケースもあります。
中小企業 | 大企業 | |||
---|---|---|---|---|
転換の種類 | 通常 | 生産性の向上が認められる場合 | 通常 | 生産性の向上が認められる場合 |
①有期→正規 | 57万円 | 72万円 | 42万7,500円 | 54万円 |
②有期→無期 | 28万5,000円 | 36万円 | 21万3,750円 | 27万円 |
③無期→正規 | 28万5,000円 | 36万円 | 21万3,750円 | 27万円 |
※①~③合わせて、1年度1事業所当たりの支給申請上限人数は20人まで
満たすと受給額がアップする「生産性向上」の基準と計算式は以下の通りです。
①生産性向上の基準:直近の会計年度における生産性が3年度前に比べて6%以上伸びている、または3年度前に比べて1%以上(6%未満)伸びている
※後者の場合は、金融機関から一定の事業性評価を得ていることが条件
②生産性の計算式:付加価値(※)÷雇用保険被保険者数(日雇労働被保険者や短期雇用特例被保険者を除く)
※付加価値とは、営業利益+人件費+減価償却費+動産・不動産賃借料+租税公課の式で算定
参考:厚生労働省キャリアアップ助成金のご案内
対象となる労働者
対象となる労働者の主な要件を見ていきましょう。申請時にはその他のすべての要件に該当するかチェックする必要があります。
・正規雇用労働者としての雇用を約束された上で雇用された有期契約労働者でないこと
・下記4つのいずれかに該当すること
(1)雇用期間が通算6カ月以上の有期雇用労働者
(2)雇用期間が6カ月以上の無期雇用労働者
(3)6カ月以上継続して同一の業務に従事している派遣労働者
(4)有期実習型訓練を受講し、それを修了した有期契約労働者等
・以下の条件に該当しないこと
(1)当該の転換日、直接雇用日の前日から過去3年以内に当該事業所(もしくは密接な関係のある事業所)において、正規雇用労働者または無期雇用労働者として雇用されたことがある
(2)転換、直接雇用を行った当該事業所の事業主または取締役の3親等以内の親族以外であること
参考:厚生労働省キャリアアップ助成金のご案内
申請・受給までの流れと必要書類まとめ
続いて、キャリアアップ助成金を受給するまでの流れと必要書類について説明します。
申請までの流れ
キャリアアップ助成金を利用する際は、事業主がまずは事前に労働組合などから意見を聞きながら、今後の大まかなイメージ(対象者や目標、期間、行う取り組みなど)を記載したキャリアアップ計画書を作成して提出します。就業規則に記載がない場合には、就業規則の修正も行います。
- (1)キャリアアップ計画の作成・提出
- (2)就業規則などの改定(正社員などへの転換規定がない場合)
- (3)就業規則などに基づく正社員などへの転換
- (4)転換後、6カ月の賃金の支払い(5%増額している必要がある)
- (5)支給申請
支給申請期間は2カ月間
助成金の支給申請期間は、転換または直接雇用した対象労働者に対し、正規雇用労働者、無期雇用労働者としての賃金を6カ月分支給した日の翌日から起算して2カ月以内です。
(例)賃金支払いが月末締めで翌日15日支払いの企業で4月1日付で正社員等に転換した場合
4/1~9/30=6カ月分の賃金算定期間
10/15=6カ月分の賃金支払い日
10/16~12/15=支給申請期間(2カ月間)
参考:厚生労働省キャリアアップ助成金のご案内
必要書類は多岐にわたる
助成金の支給申請に必要な書類は、雇用契約書や賃金台帳、出勤簿など、最大17種類もあります。また、派遣労働者を正規に雇用する場合には、さらに書類が追加されます。そのため、厚生労働省の「キャリア助成金パンフレット」のチェックシートを使って、漏れがないかどうか確認が必要です。
→チェックシートはこちら(P19)「キャリア助成金パンフレット」
不支給にならないための留意点。社員が退職したらどうなる?
キャリアアップ助成金は、利用しやすい助成金であるため、不正受給に対して年々厳しくなっています。留意事項が多く、書類に漏れが生じやすいため、漏れによって不支給にならないように内容をしっかり対策を練ることが重要です。ここでは、注意すべきポイントをピックアップしました。
(1)就業規則に記載する条項でミスをしない
助成金の支給申請には「就業規則に基づいて正社員転換を行ったこと」という条件があるため、就業規則を必ず作成しなければなりません。厚生労働省の見本をそのまま記載して就業規則を作成すると不備があるとみなされ不支給になる恐れがあります。転換日の日付など自社の対象者の転換するタイミングに合った条項を記載するように注意しましょう。
(2)提出書類は慎重にチェックする
不正防止の観点から、一度提出した書類は、事業所の都合で訂正や差し替えができません。書類に疑いがあった場合の審査や実地調査に協力しないと不支給の対象となるので必ず協力しましょう。
(3)転換日から前後6カ月、対象社員の退職がないかどうか確認
転換日から前後6カ月以内に対象社員の退職があると、受給されない可能性があります。
原則、「会社都合退職」はNG
転換日の前日から起算して6カ月前の日から1年を経過するまでの間に、事業主の都合によって離職させた場合には不支給となります。会社都合には、リストラや早期退職希望者募集による退職などが含まれます。
解雇を「自己都合退職」に見せて不正受給になることも
従業員に働きかけて、「自己都合退職」として処理するといったように離職理由に虚偽がある場合は、不正受給に該当します。また、不正受給があってから、5年以内に申請した事業所では、助成金を受給できません。
(4)支給決定時の雇用保険被保険者数にも注意
「支給決定時に、雇用保険適用事業所の事業主でない事業主」も、助成金を受給できない条件として挙げられます。これは、支給が決まったときに、雇用保険被保険者数が0人という状況を指しています。
2021年度の助成金はどうなる?
2021年度もキャリアアップ助成金・正社員化コースの申請が可能か、現時点(2021年1月)で正式な発表はありません。しかし、厚生労働省の「令和3年度厚生労働省所管予算概算要求」では、昨年度に比べキャリアアップ助成金に関する予算が大幅に減額され、正社員転換に関する記述も消えています。
2020年度(令和2年)
① 非正規雇用労働者の正社員化・処遇改善に向けた企業支援1,230億円(995億円)
非正規雇用労働者の正社員転換や正社員と共通の賃金規定・諸手当制度を新たに定めるなど処遇改善に取り組んだ事業主に対して、キャリアアップ助成金による支援を行う。
引用:厚生労働省 令和2年度厚生労働省所管予算概算要求関係
2021年度(令和3年)
① 非正規雇用労働者の処遇改善を行う企業への助成金による支援80億円(110億円)
非正規雇用労働者の賃金規定の増額改定を行うなど処遇改善に取り組んだ事業主に対して、キャリアアップ助成金による支援を行う。
引用:厚生労働省 令和3年度厚生労働省所管予算概算要求
このことから、2021年度は従来どおりの正社員化コースの申込みができなくなる可能性もあります。
双方にメリットあり!しっかりとした計画作成&励行で助成金を活用しましょう
毎年20人まで申請できる正社員化コースは、国にコストを援助してもらいながら人材確保・人材育成などに取り組むことができます。労働者側も雇用条件が良くなるため、双方にメリットがあると言えます。一方で不正受給を防ぐために年々審査が厳しくなっているので、計画策定は慎重に進めていきましょう。
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