「くるみん」「えるぼし」違いと申請方法まとめ。活用ポイントとメリット
ダイバーシティを推進する企業の証として認定される「くるみん」「えるぼし」マーク。マークの付与によって得られる効果は類似しており、どちらも職場での女性の活躍を後押しするものと捉えられがちですが、関連する法律や申請フローには違いがあります。この記事では2つのマークの違いや、それぞれの申請から認定までのステップと活用方法をご紹介します。
※内容は2019年10月現在のものです。
- 「くるみん」と「えるぼし」の違い
- 「くるみん」認定までのフロー
- 「えるぼし」認定までのフロー
- 「くるみん」「えるぼし」付与のメリットと活用法
- 認定が取り消しされる法令違反とは? 再取得はできる?
- まとめ
「くるみん」と「えるぼし」の違い
「くるみん」と「えるぼし」。これら2つのマークは、どちらも厚生労働大臣が女性の労働環境に関して企業を認定する制度です。女性の活躍を後押ししているという点で似通っているため、同時に2つのマーク認定を目指し、行動計画の策定を並行して進めていこうとする企業も多いでしょう。しかし実は、これらのマークは根拠となる制度を異にするものです。それぞれのマークの持つ意味合いや、制度上の違いを解説します。
「くるみん」は子育てサポート企業の認可マーク
くるみん認可制度は、2007年からスタートした子育て支援企業の証となる認定です。従業員の子育て支援のための行動計画に定めた目標が達成され、一定の基準を満たす場合に、厚生労働大臣が認可を行います。
根拠となる法律
2005年4月施行の「次世代育成支援対策推進法(以下、次世代法)」が根拠となっています。
「くるみん」取得のために不可欠な企業の義務とは?
「次世代法」においては、以下の事項が義務として定められています。
対象:常時雇用する労働者が101人以上の企業
義務内容:労働者の仕事と子育ての両立支援に関する取り組みを記載した行動計画を策定し、これを厚生労働大臣に届け出ること
(100人以下の企業については努力義務)
「くるみん」マークは、この法律義務を達成し、かつ計画の目標を達成した企業が申請によって得られます。
「くるみん」誕生の背景と目的
「次世代法」は、急激な少子化の進行が国家経済に深刻な影響を与えることが懸念されている社会状況を背景として制定された法律です。国や公共団体のみならず、企業も一体となって働き方の見直しによるワーク・ライフ・バランスの実現に取り組むことにより、少子化の流れを食い止めることを目的としています。くるみんマークは、当該企業がその取り組みに積極的であることを対外的に示すことを可能とします。
「えるぼし」は女性活躍を推進している企業の認可マーク
えるぼし認可制度は、2016年からスタートした女性活躍推進の証となる認定です。職場での女性活躍推進のための行動計画の策定及び届出を行った企業のうち、一定の基準を満たし、女性の活躍推進に関する状況等が優良な場合に、厚生労働大臣が認可を行います。
根拠となる法律
2016年に施行され、2019年5月に改正された「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律(以下、女性活躍推進法)」が根拠となっています。
「えるぼし」取得のために不可欠な企業の義務とは?
「女性活躍推進法」においては、以下の事項が義務として定められています。
対象:常時雇用する労働者が301人以上の企業
義務内容:①自社の女性の活躍に関する状況把握と課題分析
②課題解決のための数値目標と取り組みを盛り込んだ行動計画の策定・届出・周知・公表、
③自社の女性の活躍に関する情報の公表
「えるぼし」マークは、この法律義務を行った企業のうち、女性の活躍に関する取り組みの実施状況が優良な企業が申請によって得られます。
Point
2019年5月の「女性活躍推進法」改正で、上記の義務実施対象が101人以上に拡大されました。
(なお、施行は公布後3年以内の政令で定める日からとなっており、今後発表されます。現在対象でない企業も、注視しておく必要があるでしょう)
「えるぼし」誕生の背景と目的
安倍政権が成長戦略の柱として「女性活躍推進」に重きをおく中で、企業も女性活躍推進法に積極的に取り組むことが必要とされてきています。「女性活躍推進法」は、女性管理職割合の低さや採用比率の男女格差などの日本社会の問題を改善することで、ワーク・ライフ・バランスの拡充と女性活躍の推進を行うことを目的として制定されました。えるぼしマークは、当該企業がその取り組みに積極的であることを対外的に示すことを可能とします。
「くるみん」認定までのフロー
「次世代法」に基づく行動計画策定から、「くるみん」の認定までの流れを説明します。
策定~実施~認定を受けるまでの4ステップ+α
(1)~(4)までは、法に基づき義務とされている行動計画のプロセスです。「くるみん」の認定を受けたい場合は、(5)以降のステップに進んでください。
(1)自社の現状や従業員のニーズ把握
(2)行動計画を策定
(3)行動計画の公表と社内周知
(4)労働局へ届出・公表
(5)行動計画を実施
(6)くるみん認定の申請
届出を行ったのち、行動計画で策定した目標を達成するなど一定の要件で満たした場合、くるみん認定を受けることができます。
(7)プラチナくるみん認定申請
くるみん認定企業のうち、より高い水準の取り組みを行った企業は、優良子育てサポート企業として「プラチナくるみん」の認定を受けることができます。
「くるみん」と「プラチナくるみん」の認定基準の違い
認定基準項目には、共通のものとして「女性労働者の育児休暇取得率が75%以上」「残業時間の平均が各月45時間以内」「残業時間の月平均60時間以上がいないこと」などがあり、「プラチナくるみん」はさらに以下のようなより髙い水準が求められます。
厚生労働省リーフレット「次世代育成支援対策推進法に基づく一般事業主行動計画の策定とくるみん・プラチナくるみん認定について」より抜粋
「えるぼし」認定までのフロー
「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律(女性活躍推進法)」に基づく行動計画策定から、「くるみん」の認定までの流れを説明します。
認定を受けるまでの3ステップ+α
(1)~(3)までは、法に基づき義務とされている行動計画のプロセスです。「くるみん」の認定を受けたい場合は、(4)以降のステップに進んでください。
(1)自社の女性の活躍状況の把握と分析
(2)行動計画の策定と社内周知
(3)労働局へ届出・公表
(4)効果測定
(5)えるぼし認定の申請
届出を行った事業主のうち一定の要件を満たし女性の活躍推進に関する状況などが優良と認められた事業主は、都道府県労働局への申請により、えるぼし認定を受けることができます。
Point
2019年5月の女性活躍推進法改正で「プラチナえるぼし(仮称)」の創設が決定されました。従来の「えるぼし」よりも水準の高い認定であり、取得企業はこの認定をPRに活用できるのみならず、行動計画の策定義務が免除されることとなります。(施行は公布後1年以内の政令で定める日からとなっており、今後発表されます)
認定は3段階あり、さらに「プラチナえるぼし」が追加された
「えるぼし」には、女性活躍に関する5つの評価項目「採用」「継続就業」「労働時間等の働き方」「管理職比率」「多様なキャリアコース」の一定要件を満たす項目数に応じて3段階のランクがあります。新たに「プラチナえるぼし」が創設されることにより、全4段階での評価が行われることになります。
厚生労働省リーフレット「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」に基づく認定を取得しましょう!」より抜粋
えるぼし認定の5つの評価項目の基準(実績)の中身
(1)採用 |
男女別の採用における競争倍率(応募者数/採用者数)が同程度であること
|
---|---|
(2)継続就業
|
ⅰ)「女性労働者の平均継続勤務年数÷男性労働者の平均継続勤務年数」が |
(3)労働時間等の働き方
|
雇用管理区分ごとの労働者の法定時間外労働及び法定休日労働時間の合計時間数の平均が、
直近の事業年度の各月ごとに全て45時間未満であること |
(4)管理職比率 |
ⅰ)管理職に占める女性労働者の割合が別に定める産業ごとの平均値以上であること |
(5)多様なキャリアコース |
直近の3事業年度に、以下について大企業については2項目以上(非正社員がいる場合は必ずAを含むこ と)、 |
厚生労働省リーフレット「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」に基づく認定を取得しましょう!」より抜粋
「くるみん」「えるぼし」付与のメリットと活用法
認定マークを取得するメリットとその活用法について紹介します。
企業側のメリットは大きく2点ある
企業がくるみん認定マークやえるぼし認定マークを付与されることで得られる効果は大きく分けて2点あり、両マークに共通していると言えます。
(1)企業イメージの向上
自社が女性の活躍を推進している企業だとアピールできることで、優秀人材の確保、採用力強化につながります。また、取り組んでいることを社内に向けて周知させることもでき、社員の組織への信頼や安心感を高める効果も期待できるでしょう。
(2)公共調達などにおいて優遇措置が受けられる
総合評価落札方式や企画競争によって公共調達を実施する場合、くるみん認定企業、えるぼし認定企業は加点評価する仕組みがあります。また、プラチナくるみん認定企業はくるみん認定企業よりさらに髙い加点があります。
詳しくは公共調達情報ページ(厚生労働省)へ
メリットを最大に生かす活用術
取得した認定マークによって期待する効果を得るためのポイントを解説します。
PR力がないとメリットは生かされない
認定企業はデータベースで公表されていますが、求職者など情報を求める側から検索をする必要があるため、これだけでは十分な周知効果が期待できないでしょう。マークが使用可能になる最大の利点は、一目で優良企業だということを伝える事ができるということにあります。最大限メリットを生かしていくためには、人目に付きやすい部分でマークを活用していき、積極的にPRしていくことが大切です。
〈マークを付与できる対象の例〉
●商品
●ホームページ
●名刺
●採用サイト
「プラチナ」で差別化を図る
認定制度のスタートから10年が経過した「くるみん」は、現在では大企業の多くが取得。2015年から「プラチナくるみん」認定がスタートしました。
「えるぼし」も、2019年の改正により「プラチナえるぼし」の認定制度が始まります。子育て支援や女性活躍推進に力を入れている企業にとっては、今後は最新の基準として「プラチナ」マーク取得が差別化のポイントになるでしょう。
認定が取り消しされる法令違反は? 再取得は可能?
2017年に「くるみん」「プラチナくるみん」「えるぼし」を含む認定制度の基準が見直されました。実態に伴わない企業が認定を受けている現状を踏まえた見直しであり、以下のような制度変更が行われました。
不認定や認定取り消しの対象が拡大された
従来、労働基準法等違反については書類送検が不認定や認定取消の対象とされてきましたが、その範囲を拡大することが決定されました。是正勧告を受け、是正していない場合も不認定や認定取消の対象となるよう制度の変更が行われました。
具体的な見直し事項は以下のように定められています。
認定取り消し対象となる重大な法令違反(各制度共通)
①基準法等に違反して送検公表
②均等法等で勧告
③障促法で勧告公表
④労働保険料未納
⑤高齢法で勧告公表
⑥派遣法で勧告公表
⑦長時間労働等に関する 重大な労働法令に違反し、 是正意思なし
⑧労働基準関係法令の同一条項に複数回違反
⑨違法な長時間労働を繰り返し行う企業の経営トップに対する都道府県労働局長による是正指導の実施に基づき企業名が公表
実際に取り消しされるケースも
2017年には従業員に長時間労働をさせた疑いで書類送検された大企業が、プラチナくるみん認定を取り消されたことが大きく報道されました。
基準を満たさなくなった場合は辞退できる
各認定について、認定基準を満たさなくなった場合は所轄都道府県労働局に申し出ることで、自主的に辞退できる制度が創設されました。
取り消し後の再取得はできる
各認定について、基準を再度満たした場合には再取得が可能です。取り消しを受けた場合は3年経過するまで再取得できませんが、自主的に辞退した企業については随時行うことができます。
認定マークは、企業が前向きに行動しようとしている証です。
くるみん認定制度は開始から10年以上が経過し、多くの大企業がすでに取得しているため差別化のメリットが失われつつある上に、認定企業の育休サポートの実態が問題視される事態が騒動になるなど、認定マークの意味を問う声も高まってきています。とはいえ、認定マークはその企業が取り組みに関心を示し、前向きに行動しようと努力していることの証です。
政府からデータの公表が行われているため、今後取得していない企業はマイナスイメージを持たれる可能性を免れません。これから認定の申請に向かって動こうとしている中小企業はただ認定されることだけを目標とせず、女性が活躍しやすい環境づくりに努め、行動計画が形骸化しないよう心がけることが重要です。
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